心が弱くても勝てます   作:七件

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蛇に目を付けられた不幸な不良少年と、居合わせてしまった不運な目隠し少女


第二章
アンハッピーボーイ・アンラッキーガール


 

 

 

 

 

 

 

 ーー存在するとは知覚されることである。

 

 

 バークリーによれば、世界は神とその他知覚する精神で構成されており、たとえば我々が目の前の机を叩いてその硬さを認識したとしても、“机の固さ”としてではなく、“知覚として”認識しているわけであり、“机自体”を認識していることにはならない。

 その机が物質として存在していることは、誰も確かめようがない。

 唯一、神のみが知覚する精神、つまり我々に作用し、認識を共有させる。

 彼は物質を否定し、知覚する精神と、神のみを実体と認めた。

 

 

 ならば、人々が心の内から描き上げたこれらの絵も。心で感じ取った風景を閉じ込めた写真も。また、神が定めた定義上のものでしかないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 美術の授業。

 本来なら絵を描くなど工作の色が強いが、今日は座学だ。

 ルネサンスやらなんたらのすごい絵の鑑賞のお時間。

 しかも、何かのスイッチが入ったらしく、先生はルネサンス繋がりで西洋近代思想の話を始める。

 殆どの生徒は船を漕いでいた。

 

 特別棟は特別な授業、例えば家庭科室や視聴覚室など頻繁に利用しない施設が揃った校舎であり、教室や職員室がある本校舎から外廊下を通って行くことができる。ここ美術室もそうだ。

 特別教室での授業では席は決まっていない。

 今まではボッチか、席が足りなければ高円寺の隣という悲しい二択しかないオレだったが、今回は池達に誘われて、山内と須藤の四人で一つの机を囲んでいる。

 オレは高校生活の一端に、今触れている。

 感動と頭痛が同時に襲う。

 

 「あれ、お前第二ボタン閉めてんじゃん。いつも開けてんのに」

 

 どうやら授業に飽きたらしい池は小声で須藤に訊いた。

 

 「んだよ、悪いかよ」

 「いや何でかなって」

 

 すると須藤は言い辛そうに口の端を曲げた。

 

 「……堀北がよ、真面目な奴が好みだって言ってたんだよ」

 

 池は耐えられなくなって噴き出す。

 

 「だからってお前第二ボタン閉めるってお前さ。じゃあ全部閉めろよ」

 「息苦しいんだよ」

 

 とうとう池は声を上げて笑った。

 今は授業中だ。

 池はすぐに口に手を当てて抑えたが、先生だけでなく、クラスメイトからも白い目を向けられ、「すみません……」と縮こまる。

 山内も机に伏せて堪えている。

 第二ボタンを閉めるだけでモテるなら、非リアは苦労しないのにな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院はケヤキモールから少し外れたところにある。

 どちらかと言えば学校の特別棟に近いとも言える。

 急患が出ることが多い、学校とケヤキモールの両者に挟まれた方が便利だからだろう。

 

 明日にはクラスポイントが配布されるのもあって、いつもの用事を済ませたオレは、人通りの多いケヤキモールを避けて、学校側から寮へ帰ろうとしていた。

 蒸し暑さも感じ始めた六月の晦。

 空も嫌気がさしたのか雲は散っており、夕焼けに照らされて紫がかっている。

 ぼんやりと空を見上げていると、肩に衝撃を受けた。

 

 「うお」

 「きゃっ!」

 

 誰も通らない道だと思っていたために、驚き振り返る。

 そこには長い髪を二つに縛った少女が倒れていた。

 

 「大丈夫か?」

 

 オレはとりあえず、コンクリートの上に落ちてしまっている眼鏡を拾い上げる。幸い、割れてはいなかった。が、それが伊達眼鏡であることに少し疑問を抱きつつ、しゃがんで少女に差し出す。

 少女は慌てたように立ち上がり、

 

 「ご、ごめんなさい……!」

 

 と、走り去っていった。

 後ろ姿を見届けながら首を傾げる。

 彼女は同じDクラスの佐倉愛里だろう。

 一瞬見えた素顔は、どこか怯えているように見えた。

 何かに追われている、いや、逃げ出したのか。

 彼女が来た道を辿ると、確か特別棟だったはずだ。

 

 

 「……あ、眼鏡」

 

 手元に残った眼鏡に、オレは途方に暮れた。

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり夜もふけ、オレはイヤホンも付けずノート型パソコンを起動する。授業の課題などで使うことがあるため、寮には一台、部屋に備え付けられている。型は少し古いものなので、博士という渾名で呼ばれている外村はガッカリしていたらしいが。

 部屋にいることの方が多いため、最近は読書だけではなく、動画配信サービスに入会して、ランキングやおすすめ一覧から片っ端から観るという趣味を手に入れた。

 今日はゾンビ映画だ。

 主人公の最愛の娘が死に、数年後娘に似た少女を守る依頼を受けゾンビから守る……的なストーリー。主人公が最適な行動をするので、それに対抗して自分はどう動くかシュミレートしながら視聴していたが、結局自分はそもそもその少女を見捨てるかもな、と黒い感情が浮かび、途中から純粋に観ることにした。

 ゾンビが扉をガンガン叩く。逃げ場はない。絶体絶命の大ピンチ!

 

 と、いうところでドアチャイムが鳴った。

 こんな夜遅くに誰だ。

 主人公が次にどんな行動を起こすか予測しながら、もしかして今訪問してきたのはゾンビだったりしないだろうか、と夢想もしつつ、U字ロック越しに確認する。

 

 

 

 「綾小路!助けてくれ!!」

 

 そこには、ゾンビ顔負けの真っ青になった須藤が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七月一日。

 本来真面目とは程遠い連中が多いため、Dクラスの朝はいつも賑やかだ。

 だが今日はいつにも増して浮き足立っていて騒がしい。その理由は言わずもがな。今日は入学以来、公式として、三か月振りのポイント支給日かもしれないからだ。

 

 ただ、支給自体は実はこれで三回目。

 池と山内が騒いだことで、茶柱は生徒を混乱させてしまったケジメとしてクラス全員に2500ポイント支払った。

 現金なもので、太っ腹!と皆は目を輝かせていたが、それはオレのポイントだ。

 ちゃっかり10万ポイント懐に入れやがって。

 まあこれで生徒たちを懐柔できると踏んでの散財だろう。上手い使い方ではある。

 

 「須藤!ポイントもらえる記念に写真撮ろうぜ!」

 

 山内がはしゃいで池と須藤を巻き込み自撮りする。

 池はガッツポーズをして映りこむが、須藤はどこか元気がない。

 

 そうこうしている内にチャイムが鳴り、茶柱が教室に入る。

 一年生はまだ誰にもポイントが配布されていないことから、ホームルーム中に配られると信じている生徒たちは待ってましたと言わんばかりに、茶柱に期待の目を向けた。

 

 そして六月上旬に行われた中間テストは、堀北が考えていた通り、特別試験の一環だった。本来高得点を取りにくいテストを受けさせて、この学校の特異さを理解してもらうという狙いがあったようだ。過去問に辿り着かなくとも、テスト内容のぶっ飛び方で何か他の攻略法があったのではないか、と勘の良い生徒は気付く。今後の特別試験に向けての、学校側の配慮でもあるようだ。

 そしてクラスポイントは全科目の平均点と同じ分だけ増える。

 Dクラスはなんと、87クラスポイント、つまり8700ポイント貰えるのだ。

 

 「じゃ、じゃあ今からポイント増えるのか!」

 

 生徒たちは歓喜する。が、しかし。

 

 「今回、少しトラブルがあってな。本来なら中間テストの説明を行い、ホームルームが終わり次第支給される手筈だったが、一年生のポイント支給が遅れている。お前たちには悪いがもう少し待ってくれ」

 「えー学校側の不備ならおまけにポイントくださいよー」

 

 池が嘆く。

 生徒たちからも同様に不満の声が上がった。

 せっかく中間テストで手に入れたポイントだ。三か月を10万で過ごしてきた金欠な生徒たちからすれば、早急にポイントが欲しいはずだ。

 

 「そう責めるな。学校側の判断だ、私にはどうすることもできん。トラブルが解消次第ポイントは支給されるはずだ。……ポイントが残っていれば、な」

 

 隣人の堀北は、その言葉に眉をひそめた。

 こうして不穏な置き土産を残し、ホームルームは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みに突入すると、生徒たちは各々自由に昼食を取るため行動を起こし始める。オレはと言えば、教室ボッチ飯。沖谷など大人しめの男子が集まっているグループや、池達に誘われることもあったが、丁重に断り続けることで誘われることはなくなった。

 隣人に、「私のマネ?」と笑われたが、堀北よりはマシだと思う。

 いつものゼリー飲料ではなく、今日は趣向を変えて粒々入りのグレープジュース。だが一口飲んで気分が悪くなったので、美味しかったがダメらしい。

 肩を落としてガッカリしていると、茶柱が教室に入ってきた。

 

 「須藤。お前に話がある。職員室まで来てもらおうか」

 

 一緒にコンビニに向かおうとしていた池と山内は顔を見合わせる。

 

 「……お前ら、先にコンビニ行っててくれよ」

 「あ、ああ。カツサンドでいいか?」

 「おう」

 

 特に抵抗することもなく、須藤は何やら思い詰めた表情で茶柱のあとを着いていった。

 

 一部始終を見ていた堀北は、箸を置き、前を見据える。

 堀北がこういう姿勢を取るのは、大概オレに話しかける時だ。

 面倒ごとは嫌いなので速かにこの場を離脱する。

 

 「待ちなさい綾小路くん」

 「オレは地球を救う使命を背負っているんだ。オレの血でゾンビに対抗し得るワクチンを作ることができる。悪いな」

 「あなたにしか救えない地球なんて滅んだ方がマシよ。そんなことより、私の言いたいこと、分かるわね?」

 

 腕を掴まれ、ジッと見上げられる。

 オレは観念して椅子に座ることにした。

 

 「須藤がなんかやらかしたってか?現時点ではまだ分からないだろ」

 「いえ、確信している」

 「それはまたなんで」

 「昨日、須藤くんが私の部屋に訪ねに来たからよ」

 「夜這いか。いつの間にお前らそこまで進展してたんだ。それで、どうだった」

 「どうやら須藤くんはCクラスの男子たちと揉めたようね」

 「ほう、揉まれたのか」

 「はっきり言って自業自得よ。彼は自分が悪いとは思っていなかった。挙句に俺は喧嘩なんかしてねえって逆ギレ。その時だけは、彼を退学から救ったことを心底後悔したわ」

 

 何を言っても無視され、これ以上ふざけたことを抜かせば本気で軽蔑されそうだ。

 ふと、裾の隙間から彼女の細い左手首に貼られている湿布が覗かせているのに気付いた。

 

 「突き飛ばされでもしたか」

 「よく分かったわね」

 「ああ。捻挫、か?」

 

 堀北は少し気まずそうに裾を捲り、それを見せる。

 

 「別にそこまででもないわ。でも、放っておいたら悪化するかもしれないから」

 「痣でも残ったら大変だしな。女の子は特に気を使いそうだ」

 「……いえ、正直に言うわ。ちょっとした嫌がらせよ。自分でも稚拙だとは思っているけれど」

 「で、須藤を助けるのか。お前の推測通りなら、Dクラスはまたポイントを落とすことになるが」

 「だからこそ、私はあなたに相談しているの。須藤くんをどうするべきか。クラスにとってプラスになるか、むしろ足手まといになるか」

 

 おそらく堀北は今、真剣に須藤に向き合おうとしているのだろう。

 喧嘩してしまったことを重く受け止め、自分に助けを求めてきたこと。

 その癖、過失を認めたがらず、反発したこと。

 二つの出来事に、どう折り合いをつけるか。

 

 「お前は今朝の須藤の様子を見て、どう思った」

 「……反省は、していると思う。でも、私に怪我を負わせてしまったことだけを反省しているとしたら、救いようはないわね」

 「ただ、現時点ではまだ分からない。だろ?」

 「ええ」

 「オレもそんな感じだ。まあ、須藤の運動能力に関して言えば、手放すのは少し惜しいかもな。とりあえず今日の帰りのSHRで詳細は話されるだろ」

 「それもそうね」

 

 話も終わり、昨日図書館から借りた西洋哲学書を開こうとすると、「ああそういえば」と堀北が再び口を開いた。

 

 「余ったからこれ、あげる」

 

 そして煮豆腐がぽつりと一つ残った弁当箱を差し出される。

 それを手掴みし、ヒョイっと食べた。

 

 「おお、うまいな」

 「ええ。自信作だもの」

 

 ここ最近、昼食休憩で、堀北に弁当のおかずを自慢されるというコーナーが追加されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日はお前たちに報告がある。先日学校でちょっとしたトラブルが起きた。そこに座ってる須藤とCクラスの生徒との間での騒動。端的に言えば喧嘩だな」

 

 先生のその言葉に、教室中がざわざわと騒がしくなる。

 須藤とCクラスが揉めたこと、責任の度合いによっては須藤の停学。そしてクラスポイントの削減が行われること。

 淡々と、粛々と先生は状況を説明した。

 話す内容は決してどちらか一方に肩入れするようなことはなく、あくまで学校側としての中立的な説明だった。

 

 「その……結論が出ていないのはどうしてなんですか?」

 

 平田から至極当然の質問が飛ぶ。

 

 「訴えはCクラスからだ。どうやら一方的に殴られたらしい。ところが真相を確認したところ、須藤はそれを事実ではないと否定した。彼らに呼び出され、そのあと何もなかったというのが須藤の主張だ」

 

 「俺は喧嘩なんかしてねえ」 

 「だがCクラスの生徒たちは怪我をしていた」

 「あいつらが勝手に転んだだけだろ」

 「証拠はない。違うか?」

 

 茶柱からの指摘に須藤は黙る他なかった。

 

 「今のところ真実は分からない。だから結論が保留になっている。どちらが悪かったのかでその処遇も大きく変わるからな。この中に須藤たちの喧嘩を目撃した者がいれば挙手をしてくれ」

 

 先生はそう問いかけるが、手を上げる生徒は1人もいない。

 

 「残念だが、このクラスには目撃者はいないようだな」 

 「……のようだな」

 

 淡々と話を進める茶柱。

 目撃者はいないという事実に対し、須藤は目を伏せる。 

 

 「学校側も目撃者を探すために各クラスの担任の先生が詳細を話しているはずだ。目撃者の有無や証拠の有無。それらを含め、最終的な判断は来週の月曜日に、生徒会を交えた審議を行う。公平性を保つために須藤は二人の生徒を連れて行くことが許されている」

 

 月曜日という日付に教室はざわつく。

 今日は金曜日。

 つまり、放課後と土、日を挟んですぐにクラスポイントがかかった審議が行われるのだ。あまりに少ない時間に、そもそも納得のいっていない生徒は困惑をあらわにしている。

 

 「学校側は早急に事を決めたいと考えている。加えて生徒会も繁忙期だ。月曜日しか話し合いの場を設けられなかった。須藤。お前は審議が終わるまで部活停止だ。これでホームルームは終了する」

 

 茶柱は特に表情も変えることなく教室を出て行く。

 仮面の裏側は凄いことになっていそうだが。

 

 茶柱もいなくなったことで、教室にしんとした沈黙が下りる。だがこれは嵐の前の静けさに過ぎない。誰かが口火を切れば、あっという間にその流れは広がり、未だ教室に残り続けている須藤に牙を向くだろう。

 そんな中、堀北がスッと立ち上がった。

 

 「須藤くん」

 

 一番後ろの席なため、その声に誰もが振り向いた。

 須藤も、気まずそうにゆっくり堀北の方を見る。

 そして彼女は毅然とした態度で彼の前に立つ。

 

 「あなたは最悪な事をした。それは、分かっているのね」

 「俺はっ、喧嘩してねえ」

 「でも、ここに居る誰もが思っているわ。あなたとCクラスの生徒は喧嘩したと。何故だと思う?」

 「……俺の、普段の、行動。のせいだろ?」

 「ええ、そうよ。あなたの今までの粗暴な振る舞いや不真面目な態度が、今回の事件を招いた。あなたがもし模範的な生徒だったら、ここまで疑われなかったでしょうね。違う?」

 

 耳に痛い話を、堀北は続ける。

 須藤はそれを顔を歪めて黙って受け入れる。

 その空気をクラスメイトも肌で感じ取っただろう。

 

 「反省はしているようね。なら、今すぐにすることがあるんじゃないかしら」

 

 二人の視線が交わった。

 須藤は静かに立ち上がり、そして頭を下げる。

 

 「わりい。俺が軽率な行動を取っちまったから、Cの奴らに目を付けられたんだと思う。信じてもらえないかもしれないけど、これからは気をつけたい、いや、気をつける。だから、頼む。俺の疑いを晴らす手伝いをしてほしい」

 

 今までの須藤からすれば、考えられないような真摯的な態度だろう。

 堀北はその言葉に頷いた。

 決心がついたのだろう。

 

 「分かった。あなたは今回、本当に喧嘩をしていない。だから、私はあなたの疑いを晴らす。その代わり今後は心を入れ替えて生活し、バスケでクラスに貢献してもらう。いい?」

 「あ、ああ!」

 

 張り詰めた糸が緩み、教室内の雰囲気は解れる。

 ヘイトを一身に背負った須藤を全員の前で叱責し、そして謝らせることで、とりあえずクラスメイトの溜飲は下がっただろう。

 これ以上責めれば、それはイジメに繋がる。

 集団の暴力。

 この学校で、好きでイジメの主犯者になりたい奴はいないだろう。

 だから、心の内でどう思っていようとも結局誰も何も言い出せない。

 

 そこで櫛田も便乗する。

 須藤がバスケ部でレギュラーに抜擢されそうなこと。それを嫉妬した同じバスケ部の生徒が須藤を部から追い出そうと呼び出して脅したこと。あくまで推察だという事を濁しつつ須藤が被害者なのだと主張する。須藤もそれに頷いた。クラスで最も信頼されている櫛田の呼びかけだったからこそ、心に響いた生徒もいただろう。

 

 「僕は、須藤君を信じるよ」

 

 そしてクラスのリーダー的ポジションである平田が援護する。

 

 「みんな。もしこのクラスに、友達に、先輩方の中に見たって人がいたら教えてほしい」

 

 堀北と櫛田、平田らを中心に須藤の無実を証明するための場が発足したようだ。

 お役御免だし、オレはさっさと帰るか。

 気配を消してフェードアウトしようとして、オレは硬直する。

 堀北にギロリと睨まれたからだ。

 オレはいつから“だるまさんがころんだ”をやっていたんだろう。

 彼女に睨まれ続けている間、一歩も動けなかった。

 

 

 

 

 

 「綾小路くん。事件現場に行ってみたいのだけど」

 

 三人を中心にした話し合いも終わったらしく、堀北は自分の席に戻ってくる。

 どうやら彼女は目撃者集めに参加するのではなく、証拠集めに注力するようだ。

 まあ人海戦術は得意じゃないからな。

 順当な役割だろう。

 

 「おおいってらっしゃい。気を付けろよ」

 「何を言っているの?あなたも行くのよ」

 「遠慮しておく」

 「ちょっと付き合って貰うだけでいいから」

 

 堀北はやる気になっているようで、まずは特別棟を検証するらしい。

 だがオレが付いていく意味は感じられない。

 無駄な体力は消費したくないしな。

 

 「間取り的に確か西日がもろに当たるところだろ?そんな暑いところに行ってみろ。ただえさえ下がっているオレの判断能力が更に下がる。いいのか?オレが突然コサックダンスを踊り始めても」

 「動画を撮って脅しの材料に使えるじゃない。願ったり叶ったりよ」

 

 成長の成果か、前よりも強かになっているようだ。

 

 「有意義な情報が得られるとは思えないな。第一、監視カメラがあったら審議なんか学校側はしないだろ。事件現場に行かない探偵ってのも流行ってるらしいぞ」

 「フィクションをこちらに持ってこないでくれる?」

 「事実は小説より奇なりってな」

 

 オレはしっしと手を振り、堀北を追い払う。

 すると、バンっと堀北は机を叩く、いや、乱暴に何かを置いたのだ。

 机の上には、プリン。

 いや、正確に言えば、プッチンできないタイプのちょっとお高いプリンだ。

 嫌な予感がした。

 

 「どうした」

 「綾小路くん。そういえばこの前これ、美味しそうに食べていたわよね。気に入って貰えたと思ったのだけど。その様子じゃ嫌いだったようね」

 「堀北。オレは今この瞬間良い汗をかきたくなってきた。良い案はあるか?」

 「特別棟はあったかいわよ」

 「よし行こう今すぐ行こう」

 

 なんか着実に餌付けられている気がするな。

 

 

 

 

 




綾小路がチート過ぎて二週目勢みたいになっていることを先に謝っておきます
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