心が弱くても勝てます   作:七件

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とんでもねえ矛盾に気が付いたので、一話を少し訂正しています(6/30,9:09)
後々、気付く人はあ、これかあってなる程度なので、気にしないでください。



起死回生の数手

 

 蒸し暑さの増してきた放課後、オレたちは事件現場である特別棟に足を運んだ。殺人事件が起こったわけでもないので、立ち入り禁止のテープが貼られているわけでもない。ドラマなどで見たことはあるが、不謹慎ではあるものの、ああいうのは一度見てみたい気もするが。

 もしDクラスの奴らで探偵か警察のドラマをやるとしたら、堀北は厳しい上司役あたりが適任だろう。そして犯人はついカッとなってやってしまった須藤……不謹慎が過ぎるな。とりあえず第一話の被害者にオレは名乗りを上げておこう。

 

 「あっつ……」

 

 意味の分からない思考になっていたのも、この暑さが原因だ。

 

 「こんな所で喧嘩とか、……最悪死人が出るぞ」

 「特別棟は授業が終わった放課後には殆ど人は来ない。やましい事をするにはうってつけよ」

 「ああ、でも美術室は部活で生徒が使ってるんじゃないか?」

 「木曜は休みだったらしいわ」

 「物好きな生徒は残ってたり……」

 「加えて美術室は二階。まあ物音くらいは聞こえていそうね。平田くん達が聞き込みなりなんなりしてくれるでしょう」

 「須藤達は喧嘩をしてないんだろ?」

 「あら。それなら物音は聞こえないわね」

 「……平田くらいにはしっかり話しておけよ。混乱に繋がるから」

 「なんの話かしら」

 

 ブレザーを脱いで、第二ボタンまで開けた。

 夏服はあるにはあるが、いかんせんポイントが足りない。

 反対に堀北は涼しい顔をしている。

 

 「堀北は暑くないのか?」

 「私。暑さや寒さには比較的強いから。あなたにも苦手なものがあるのね」

 「ありまくりだよオレは」

 

 手で扇ぎながら、堀北に付いていく。

 検証、といっても、監視カメラがないだけで変わったところはない。

 

 「もし監視カメラあったら証拠になったんだがな」

 「いえ、むしろ無くて助かったわ」

 「……?」

 

 暫くして諦めがついたのか、堀北は「帰りましょう」と言う。

 これ以上の長居は無用、オレたちは引き返し始めた。

 

 「あっ」

 「おっと」

 

 廊下を曲がろうとしたその時、丁度同じように曲がってきた生徒とぶつかってしまう。

 

 「悪い、大丈夫か?」

 

 それほど強い衝撃ではなかったため、互いに転んだりすることはなかった。

 ……昨日も同じことがあったな。

 

 「は、はいすいません。不注意でした」

 「こっちこそ悪い」

 

 そして、その人物が昨日ぶつかった女子生徒だと気付いた。

 そそくさと退散しようとする彼女に、オレは「待ってくれ、佐倉」と呼びかける。

 突然名前を呼ばれたことに驚いたのか、佐倉の肩は大きくビクついた。

 そんなにオレって不審者に見えるのか?

 ……いや、見えるのかもしれない。佐倉がもしオレのことをクラスメイトだと認識してなかったら、面識がないのに名前を知っているストーカーになってしまう。

 影が薄いって、悲しいな。

 

 「もしかして、眼鏡。探してるんじゃないか?」

 「ど、どうしてそれを」

 

 怯え始めた佐倉を宥めつつ、オレは昨日拾った眼鏡を渡す。

 彼女が今身に付けている眼鏡は、若干色が派手だ。今日一日中ずっと居心地悪そうにしていた。

 

 「これ。昨日ぶつかった時に落としてたんだ。今渡せて良かった」

 「あの時の……。え、あ、でも。教室でも良かったんじゃ……」

 

 オレのことを知っていたらしい。

 

 「教室で話しかけたら、その、目立つだろ?」

 「あ、そ、そうだったんだ。あ、あの、ありがとう!」

 

 そう言って佐倉は逃げ出すように走り去って行く。

 堀北はオレたちが話している間、ずっと彼女の手に持つカメラを眺めていた。

 

 「カメラがどうかしたか?」

 

 一応その理由を尋ねてみる。

 

 「目撃者は佐倉さんよ」

 

 すると堀北は平田たちが今必死で探し求めている答えをサラリと言ってのけた。

 

 「へえ、そうだったのか」

 「驚かないのね」

 「昨日ぶつかったと言っただろ?特別棟の近くだったんだよ」

 「あなたね……」

 「お前だって分かってたのに皆には共有しなかっただろ」

 「意味がないからよ。あなたはどうなの」

 

 低い声で脅すように問う堀北。

 

 「目立ちたくないから、だな」

 

 オレは佐倉が走り去った方向へ目を向ける。

 彼女も同じだろうか。

 そんな考えがふと頭をよぎった。

 堀北には見えないように片手で端末を操作する。

 

 「ところで綾小路くん」

 

 堀北はくるりとこちらに背を向けて、窓の外を見つめた。

 彼女があからさまにオレから目を逸らすのは、これから大事な話が始まるという合図だ。

 「なんだ」

 オレは監視カメラがないかソッと確認する。

 

 「私は今からこの状況を打開出来得る策をあなたに披露するわ」

 「それは凄いな」

 「だからもし穴があったら指摘して欲しい」

 「そういう契約だったからな」

 

 そして堀北は話始める。現状のカードを最大限に使った理不尽な審議への攻略法を。

 

 

 「ーーあなたは、どう思う」

 

 彼女はいつも自信が崩れることはない。

 だが、この時だけは、瞳を不安げに揺らしていた。

 蜃気楼のせいだな、と見ないフリをする。

 

 「まあ、良いんじゃないか」

 

 その言葉に堀北は隠そうとしていたらしいが、ホッと安堵の息が漏れ聞こえた。

 

 「ただ、」

 

 オレが言いかけたその時。

 

 「ねえ君たち。そこで何をしてるの?」

 

 突然の声に、オレたちはバッと振り向いた。

 そこにはストロベリーブロンドの美少女がこっちを向いて立っていた。

 長くスラッと伸びたロングウェーブの綺麗な髪とクリッとした大きな瞳。

 その顔には覚えがある。直接会話したことはないが、一之瀬という Bクラスの生徒だ。櫛田が言うには、 Bクラスのマドンナ的存在でもあり、同時にリーダーとしてクラスメイトを引っ張っている。彼女への悪口はあまり聞いたことがない、とのこと。

 平田と櫛田が合わさり最強に見える。というやつか。

 

 「ごめんね、急に呼び止めて。ちょっと時間いいかな?もし甘酸っぱいデート中だったらすぐ退散するけど」

 「太陽が西から昇ってもそれはあり得ないわね」

 

 堀北は即否定した。こういう時だけはキレッキレだ。

 

 「あはは、そうだね。デートスポットにしては暑過ぎるし」

 「むしろ熱を上げるんじゃないか?」

 「黙っててくれる?それで、私たちに何か用かしら」

 

 警戒心剥き出しで問う。

 こんな場所で声をかけられる状況を、堀北は偶然とは捉えていない。

 

 「用って言うか、ここで何してるのかなーって」

 「あなたこそ何のためにここに来たの」

 「ほら君たちって、Dクラスでしょ?」

 

 確か図書館で勉強会を開いた際、Cと揉めている最中に割って入ってきたこともあった。その一件で覚えていたなら納得だ。やはりリーダーを務めるだけあるな。

 堀北は眉間にシワを寄せた。

 

 「ええ。それが?」

 「てっきり喧嘩騒動絡みでここに居るんだと思ったんだけどな。Dクラスの生徒が無実を証明しようとしてるって聞いて。審議は来週の月曜日だし、今日の放課後には居るかなーって」

 「もし私たちがその件に関わる調査をしていたとして、あなたに関係が?」

 「うん、大アリだよ」

 

 一之瀬は胸を張って頷いた。

 

 「私たちもDクラスに協力出来るかもしれない」

 

 その言葉に堀北は、一瞬顔を強張らせる。

 

 「もしかして、さっきの話、聞いてた?」

 「にゃはは〜ちょっとだけ、ね」

 

 確認するように問うと、一之瀬は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

 

 「私のクラスにもバスケ部はいるよ?とっても良い子だし、多分役立つと思う」

 「あなたのメリットは何?疑うようで悪いけど、クラスが違うもの。簡単には信用できないわ」

 「困ってる人の手助けがしたいからって言うのは、」

 「信じられないわね」

 

 一之瀬は罰の悪そうな顔をする。

 

 「分かった。本音だけど……建前にしておく。個人的な理由だもんね。ちゃんとした理由はあるよ。 Bクラスとしての」

 

 本当に善意で行動を起こしたい、といった口ぶりだ。

 櫛田の言っていた“根っからの善人”というのは間違いないのだろうか。

 あの櫛田さえ、彼女には裏がない、と断言していたわけだから。

 

 オレは二人の交渉に距離を置きつつ、一之瀬を観察していた。

 

 「ほら、Cクラスって、結構、横暴じゃない?時々私のクラスメイトにもちょっかいかけに来るんだよね。だからこれも、同じなんじゃないかって思って。この審議でDクラスが勝てば、大人しくなるかもしれない。学校側からも釘を刺されるだろうしね。つまり、対岸の火事じゃないってこと」

 「Dがダメなら次はあなた達に仕掛けてくるかもしれないわよ?」

 

 一之瀬ははにかんだ。

 そして彼女が一瞬、こちらを向いた。

 ほんの気まぐれだろう。

 だが、その一瞬で、体は指一本も動かせなくなる。

 

 「じゃあ、その時は助けて?」

 

 堀北はリスクとメリットを頭の中で天秤にかける。

 そして、頷いた。

 

 「分かった。対Cクラスで同盟関係を結びましょう。もちろん、特別試験では無効、ってことでいいかしら?」

 「そうだね。今後同じようなことが起こったら、お互い協力しよっか。よろしくね、堀北さん」

 

 二人は手と手を取り合う。

 内容的に、どちらのクラスも首を横に振るような生徒はいないだろう。

 

 「では円滑に物事を進めるためにも私と連絡先を交換してくれないかしら」

 

 すると、堀北がそんなことを提案した。

 あの。

 あの、堀北がである。

 普段ちっとも使い物にならない表情筋は、こういう時に限って結構動いた気がする。

 

 「うん、いいよ」

 

 そういや堀北は、既読こそ付けるだけだが、クラスメイトの大半が参加しているチャットグループに入っているそうだ。勉強会メンバーと平田の連絡先も持っているらしい。

 その話を池達から聞かされた時は「嘘だっ!」と叫びそうになった。

 

 オレ?グループに入ってないけど?連絡先も三件だけだけど?何か問題でも?

 大問題だ。

 オレは頭を抱えた。

 

 「そういえば、綾小路くん、だっけ。さっきから顔色悪いけど、大丈夫?」

 

 とんでもない事実に気付いてしまい、意気消沈しているオレに、一之瀬は心配する素振りを見せる。

 彼女の、瞳。

 まただ。

 

 「暑いのが苦手なんだ」

 「え、そうだったの!ごめんね長話しちゃって」

 「大事な話し合いだろ?」

 「ええ、彼のことは気にしなくていいわ。荷物持ちみたいなようなものだから」

 「何を持つんだよオレは。太鼓か?」

 「あははは、君面白いこと言うねえ」

 

 堀北は冷たい視線をオレによこす。

 ほら、笑えよ。

 

 

 こうして、BクラスとDクラスの限定的な同盟は、無事結成された。

 須藤の無罪を勝ち取るための一歩を踏み出せたと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン。

 ドアベルが鳴った。

 本日の来訪者は、なんと人気絶頂の学園アイドル櫛田桔梗さん。

 この番組ならではの、本音トークをお見せしちゃいます。

 

 「まっじなんなの」

 

 第一声がそれは流石にない。

 玄関のドアを閉めた瞬間これだ。

 相当須藤へのヘイトは高いらしい。多分クラス連中の誰よりも嫌っていそうだ。

 オレはとりあえず彼女のためにお茶……甘いものの方がいいか。アイスココアを二人分作る。その間に彼女は家主の許可なくベッドに寝転び、携帯をいじり始めた。

 あれ、オレたち付き合ってる?

 そんな錯覚をしてもおかしくはなさそうだ。

 こんな彼女は願い下げだが。

 どうせ彼女を作るならもっと模範的な教科書がいい。無名私立大学の変に凝った世界史の赤本並みに需要がない。世間一般で言う高望みじゃないはずなんだがな。

 

 「どうぞ」

 

 小さな丸テーブルをベッドに寄せて、その上にココアを置く。ストローを付けると機嫌が良くなるというのを最近知った。

 櫛田がベッドを独占するので、オレはついにカーペットを買った。

 殆ど人は訪れないので、家具なんて虚しいだけだ、と思っていたが、まあ何だかんだ気にいっている。

 オレはカーペットの上に座ってベッドに凭れ掛かり、ノートパソコンを起動した。

 

 「で、どうだった」

 「何が?」

 「今日の放課後に頼んだ件」

 「ほんっとにこれ私のためになるわけ?もし違ったらただじゃおかないから」

 「ま、半々ってとこだ」

 「50%にかけたの?信じらんない」

 「違ったら他の手段を講じるだけだ。それに、お前だって佐倉愛里の秘密を知れてラッキーじゃないのか?かなり彼女には手間取っているらしいし」

 「私のこと便利屋と勘違いしてないよね?」

 

 櫛田は耳元で、普段より何トーンも低い声でオレを脅す。

 

 「で。どうなんだ。佐倉は芸能活動か何かをやっていたか?」

 

 面倒なので適当に流した。

 一々反応していたらキリがないからな。

 

 「雫。グラビアアイドルで調べたら出てくるよ」

 

 櫛田に言われた通りにg◯ogle先生に聞いてみると、ヒットした。

 以前は週刊誌にも載っていたほどの売れっ子だったらしい。数ヶ月前から自粛し、公の場には出なくなったが、ブログは続けているようだ。

 中には際どい写真も何件かある。

 

 「グラビアアイドルだったのか……。櫛田もよく気が付いたな。女子はそういうのはあまり見ないんじゃないか?」

 「池とか山内が今日漫画の週刊誌を読んでたのをたまたま見て思い出したの。私はあんま興味ないけど、ああいうのが好きな人って一定数いるから、話のネタにはなるでしょ?」

 「知ってたか櫛田。意外と漫画って面白いぞ。オレは最近そのことに気付けたんだ」

 「オタク?根暗にはお似合いじゃん。てかさ、あんたこそどうして佐倉が芸能活動やってるって思ったわけ?」

 「その理由を言えばお前はどうせオレにドン引きするだろ。負ける勝負はしない主義なんだ」

 「説明しなくてもドン引いてるけどね」

 「不戦敗……だと」

 

 ブログは二年前からほぼ毎日のように更新されており、ファンからのコメントに全て対応するという徹底ぶり。

 コメント欄を眺めていると、三ヶ月ほど前から続くある書き込みに目を奪われた。

 

 

 『運命って言葉信じる?僕は信じるよ。これからはずっと一緒だね』

 『いつも君を近くに感じるよ』

 『今日は一段と可愛かったね』

 『目が合ったことに気付いた?僕は気付いたよ』

 『今日のワンピース可愛いね。僕の好みの色に合わせてくれたんだ』

 『僕を避けてたけど、恥ずかしがらなくてもいいんだよ』

 『今夜はカレーを作るのかい?僕も雫ちゃんのカレー食べたいな』

 

 

 書き込みは毎日のように続けられ、段々と内容はエスカレートしていっている。

 本人が見れば恐怖を感じるような言葉の羅列。

 

 『雫ちゃん、お手紙読んでくれたかな?』

 

 まるで、彼女が本当に近くにいるような書き込みばかり。他のファンからはただの妄想野郎として無視されているが、実際は分からない。

 生徒、教師、あるいは学校を出入りしている業者の関係者。

 この閉鎖的な学校で、一度見つけてしまえば、郵便受けなどで寮の部屋番号くらいは把握できそうだ。

 

 

 『神様はいるんだよ』

 

 

 今さっき、その言葉は書き込まれた。

 

 「きっも」

 

 櫛田はそのコメントに大きく顔を歪めた。もはや顔面崩壊レベルだ。

 

 「面倒なストーカーに執着されているらしいな」

 「もしかして、あんたストーカーまで勘付いてた?」

 「流石に、それはない。ラッキーだとは思ったがな」

 「でもこれで謎が解けたね。変だと思ったもん。カメラ直しにケヤキモールに行くのに、私だけじゃなくて綾小路くんも連れてって欲しいって。男が一人いるだけで少しは安心できるからか」

 「……待て。なんだそのお願いは」

 「あれ?言ってなかったっけ?いっけない」

 

 櫛田はてへっと自分の頭を軽くグーで叩く仕草を見せた。

 全然可愛くない。

 可愛くないからな!

 

 今日の放課後、堀北の長話に付き合っている間、メールで櫛田に指示したことがある。

まず第一に、佐倉愛里と接触し、よく顔を見ること。そしてカメラの確認をし、壊れているようだったら一緒に直しに行くよう提案、もし壊れてなかったら強引にカメラで何を撮ったかを見る。

 と、だいぶ無茶振りをした。

 返信のメールは空で、怒りが震えるほど伝わった。

 今日は櫛田を思い切り労う日にしないとな。決して彼女の無言の圧力に屈したわけじゃない。

 

 その後のメールで、結局、目撃者なんじゃないかと強引に迫ったために佐倉は逃げ出して、その時男子とぶつかりカメラを落として壊してしまい、お詫びとしてカメラを直しに同行するとかなんとか言いくるめ、約束を取り付けた、と端的に伝えられた。

 櫛田さん半端ないっす。

 だが、何故オレを指名したかは分からない。

 接点は二度ぶつかったことくらいしかないんだがな。

 まあ同族意識は持たれていそうだ。

 

 「少し面倒なことになったな……」

 「何を企んでるのか、そろそろ教えてもらってもいいんじゃない?私これだけ頑張ったんだけど」

 「はいはい櫛田は偉いな」

 「ここって森沢山あるよね。死体一つくらいなら隠せそう」

 

 下手したら埋められるらしい。

 

 「お前のためにやってるんだからな、これ全部」

 「はあ?だからそれが意味わかんないって言ってんの。これ以上勿体ぶったら海に沈めるから」

 

 櫛田のことだからコンクリートにでも詰められそうだ。

 

 

 「櫛田。面白いものを見たくはないか?」

 

 

 オレはとりあえず、今後の動きを説明した。

 そして櫛田にどういったメリットがあるのかも、特にアピールをした。

 

 「へえ」

 「ポイントをどれだけぶんどれるかはお前次第だ。一万でも泣くなよ」

 「でも一万だとマズくない?」

 「その時はその時だ。最終手段を取る。これを使うことはない、って言うとフラグっぽくなるから言わないが」

 「その発言がフラグだよ」

 「……ま、明日どうなるかで全てが決まるな」

 

 オレはストローでココアをかき混ぜ、半分ほど飲み干す。時間を置きすぎたらしい。若干水っぽくなっていた。

 ぼーっと雫のブログを眺めていると、オレはとある天啓を授かった。

 この計画のとんでもない重大な欠陥に気付いてしまったのだ。

 

 「櫛田。お前は可愛い」

 「え」

 「雫もめちゃめちゃ可愛い。可愛い女の子二人を侍らしケヤキモールを歩いてみろ。オレは注目を浴びかねない」

 

 すると何故か櫛田の機嫌が急に悪くなった。

 いったいどうしちゃったんだろうな。

 鈍感なオレにはさっぱり分からん。

 

 「そこで何か良い案はないか?もしくは普段人通りの少ない道とか、お前なら知ってるはずだ」

 「めんどくさ。あんたが来なきゃいいじゃん」

 「そしたら佐倉も断るだろ」

 「へえ、随分好かれてる自信がおありで」

 「オレはそこまで鈍感じゃないからな」

 「どの口が」

 「何か言ったか」

 

 急に難聴になるには男の特権だ。

 しらばっくれていると、中指を立てられた。

 お前はそういう奴だよな櫛田。

 

 「だが割と重要な問題なんだ。充分な実力を出せないと、佐倉に不信感を与えてしまうからな」

 「じゃあ女装でもすれば?」

 「佐倉に不信感を与えてしまうからな」

 「じょ・そ・う。すれば?」

 「佐倉に不信感を与えてしまうからな」

 「聴こえてますかーーー?じょ!そ!う!」

 

 耳元で大声を上げる櫛田。

 耳を塞いでなんとか対抗する。

 

 「無理だ!」

 「女の子三人なら注目浴びないよ?」

 「そのバカな提案にオレはバカ真面目に反論しなきゃいけないのか?勘弁してくれ」

 「私バカだから分かんないな」

 

 さっきのことを根に持っているらしい。

 

 「まず第一に身長175超えの女は目立ちすぎる。体格も声も誤魔化し切れるわけがない」

 

 櫛田は身を乗り出してオレの顔を覗き込んだ。

 

 「あれ?でも綾小路くん意外と顔綺麗だからいけそうだよ?」

 「次に、佐倉にどう説明する。オレはこの一回のためだけに女装癖を持っていると今後一生思われ続けるのか?リスクとリターンが割に合わない」

 「女装するのが嫌なわけじゃないんだね」

 「嫌に決まってるだろ」

 

 「ほんとお?」と櫛田はニヤニヤしながらオレの頰をつつく。

 感情を分けて相手を説得するいつもの手法が裏目に出た気がする。

 

 その後彼女はいくつか女の子の服をピックアップしてオレに見せてきた。「これとか似合うんじゃないかな?」と、化粧品などの名前を羅列して、意味の分からない言語なはずなのに、自分が今とんでもない辱めに合っているという自覚だけはある。途中からオレは呻き声を上げてカーペットの上でのたうち回っていたと思う。このためだけにオレはカーペットを買ったのかもしれない。

 もはや新手の拷問だった。

 

 




一年生編二巻を読んで思ったんですけど
地の文で櫛田のことを可愛い可愛い連呼してて草生えますよ
まさか数巻後には「櫛田は退学にする」しか言わなくなるんだもんな……
悲しい
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