心が弱くても勝てます   作:七件

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心の声が騒がしいのは原作リスペクト



確信犯二人

 

 

 

 

 オリエンテーションも終わり、本格的に授業が始まった。

 進度は進学校といえど始まったばかりなためゆっくりで、何より、先生方はフレンドリーだった。いや、放任主義、と言った方が正しい。堂々と寝ている生徒、机の下で携帯を弄っている生徒、平気で私語を繰り返す生徒。彼らへの注意は一切ない。授業参加に意欲がない人間にはとても、都合の良い先生方だろう。既に授業の雰囲気は弛緩しきっていた。とても国が運営し、有能な若者を輩出する進学校とは思えない惨状がここにはあった。

 

 昼食休憩になる。

 既にグループはできており、10万ポイントを散財すべく、クラスメイトらは放課後の予定を話し合ったりしながら、教室からいなくなる。残ったのは数名の生徒で、オレはもちろん、取り残された悲しい存在だった。

 

 平田が気を利かせて呼びかけていたが、乗じることはできなかった。

「哀れね」

 と隣人は鼻で笑う。

 

 何か仕返しでもできないだろうか、と窓の外を眺めながら考えてみるが、特に思い浮かばない。

 ちょうどグラウンドに面しているので、多くの生徒が各々体を動かしていているのが見れた。野球ボールが太陽を打ち落とさんばかりに上がり、重力に従い落下していく。そして再び投げ上げられ、キャッチボールはずっと続いていた。それをぼうっと眺めながら、ゼリー飲料をちょっとずつ腹の中に入れていく。空っぽになる頃には、何人かがコンビニなどで買ったらしく、戻ってきていた。

 食べ終わったことだし、居心地も悪いので、寝たフリを決行しようとすると、

 

「……もしかして、今日の昼食はそれだけ?」

 

 なんとツンツン女王堀北に話しかけられた。

 これはもう一緒に昼食を摂ったと言っても過言ではないだろう。

 ……いや、過言も過言だな。

 楽しい会話にはどう足掻いてもなりそうにない。

 

「ダイエット中なんだ」

「普通体型なあなたに必要はなさそうだけど」

「お前、意外とオレに興味があるな?」

「茶化すのはやめて頂戴。私はあなたにこれっぽっちも興味はないわ」

「ならどうでも良くないか」

「それもそうね」

 

 こうしてせっかく生まれた会話は途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「綾小路くん……だよね?」

 

 放課後。

 堀北は光の速さで帰る支度を済ませ、既に教室には居なかった。別にいつも一緒に帰っている訳でもないので、オレもゆるゆると鞄に教科書を詰めていると、

 突然声をかけられ、肩が跳ねる。

 顔を上げれば、そこには天使が立っていた。

 いや、違うな。

 地上に舞い降り、人々を至上の幸福へと導く大天使、

 

「私は櫛田桔梗。自己紹介の時、居なかったよね?」

「あ、ああ」

 

 どうやら大天使の真名は櫛田桔梗というらしい。

 

「私ね、この学校のみんなと仲良くしたいの。だから、綾小路くんの連絡先。知りたいんだ」

 

 こてんと首を傾げる姿は最早芸術だった。

 もしオレがただの陰キャだったなら、こんなオレにも話しかけてくれる大大大天使な彼女に対して恋をしていたかもしれない。

 

 

 だが非常に残念なことに、オレは、彼女の目線全てが“不快”だった。

 

 まるで見定めるような目。何者かを推し量るような目。他者を観察し、それに応じた完璧な振る舞いを組み立てていく。確かにそれは職人技による芸術作品だった。

 これが陽キャか……。

 と、ある意味納得してしまったが、平田の目線はそこまで不躾ではなく不快に感じなかったことを思い出す。つまり、櫛田という女性特有の物の見方なのだろう。

 オレは早々に会話を終わらすため、

 

「アドレスの交換か? わかった」

 

 と端末を操作して用件を終わらす。

 

「ありがとな」

「ううん、私からお願いしたことだよ。これで私たち、ともだち、だね」

 

 さりげなく胸をよせ、上目遣いで優しく微笑む。うーん満点。と、思わず言ってしまいたくなるほど、高校生男児には優しくない光景だった。オレだってその気分を味わえるものなら味わいたい。しかしオレの身体は我儘で、ただただ吐き気が増していく。目の焦点も合わなくなり、視界の隅が段々白くなっていくように感じた。どうしてオレは、こんな可愛い天使に錯誤的な印象を抱いてしまうのだろう、と泣きたくなった。

 

「あ、ああ。よろしくな」

 

 観察する目から逃れるように、うっかり恋に落ち、コミュ障を存分に発揮する陰キャを演じる。

 しかし、吐き気と震える手を抑えながらの演技で、果たして彼女の目を欺けたかどうかの自信は正直なところなかった。

 

「それでさ、」

 

 まだ話を続けるつもりか、と落胆を顔に出しかけ、引き締める。

 

「堀北さんってああいう性格でしょ? みんなを寄せ付けない、というか。でも、ずっと一人じゃ寂しいと思うんだ。だから、何度か話しかけてるんだけど全部無視されちゃって」

 

 そういえば、櫛田からの誘いに、彼女はいつも嫌そうに顔を顰めて断っていた。普段真剣な表情か無表情、ゴミでも見るような目か、もしくはオレをからかい冷笑を浮かべるくらいしかレパートリーがない(改めて考えると酷い並びだ)が、櫛田の前となると、負の方面に偏るものの、結構表情豊かになる。意外な弱点だな、とは思っていたため、二人が仲良くなれば面白い化学反応が見れるかもしれない。

 

「それで、綾小路くんとは普通に話してるみたいだから、」

「仲を取り持って欲しいのか?」

「お願い、できるかな?」

「できる範囲ならな」

 

 二つ返事で了承する。

 

 彼女は恐らくコレクターのような性質を持っているのだろう。そうでなくては、全員と仲良くなるなんて仏陀顔負けの苦行をやるわけがない。つまり、陥落した風を装えば、最早興味の対象は別にいく。堀北GETの道すがら手に入れた屑鉄程度の扱いだ。あれ、なんだか自分で言ってて悲しくなってきたな。

 

 まあ、これで櫛田の興味は完全に堀北の方へ向き、オレへの追及も特になくなるだろう。オレは櫛田のファンであり、彼女を喜ばすために隣人を簡単に売ってしまうほど熱狂的な人間なのだ。

 仲良し大作戦に、オレの全エネルギーを使ってもいい。

 

 とは言ったものの、櫛田と長く話すことで周りからの(主に男子たちからの)視線もさっきより増え、グロッキー状態で綿密で素晴らしい計画が建てられるはずもなく、

 

「これは運命!? くっ、私も結局運命(さだめ)に踊らされる人形でしかないのね、偶然カフェで出会って始まる友情もある作戦で行こう」

「綾小路くんのネーミングセンスに驚きだよ」

 

 とりあえず明日の放課後、決行になった。

 部屋に帰って冷静に考えてみると、もっと良い方法があるし、そもそも何故頑なに櫛田を嫌うのか堀北に聞くのが先なのでは、と思ったが、今更櫛田に連絡を取るのも恥ずかしいので、豆乳を飲みながらテレビをつけて、寝転んだ。

 

 

 

 待ってました次の日の放課後。

 再び光の速さで支度を終えようとする堀北に、音の速さで対抗する。いやそれだと負けるな。まあいい。ともかく、「堀北。お願いがあるんだ」と呼びかけた。

 

「嫌よ」

 

 ノータイムで断られ、競歩で世界新記録がでるのではないか、と思うほどの速さで去っていく。

 

「まっ待ってくれ!」

 

 立ち止まる気配のない堀北を呼び止めるため、つい声を荒げてしまい、クラスメイトの視線が集まった。

 「なんだ? 痴話喧嘩か?」と揶揄う声が上がり、今もし鏡を見ることができたなら、多分真っ青な顔が映っていたことだろう。

 

 堀北は憐れに感じたのか、

「話があるなら歩きながらお願い。私には明日の準備があるの」

 とため息を吐いて了承してくれた。

 

 いや、明日の準備に何時間かかるんだよ、というツッコミは飲み込んでおく。

 

 

 

 

 廊下を歩きながら、オレは用意していた言葉を慎重に並べる。

 

「ほら、ここの下にカフェがあるだろ?女の子がいっぱいいる。あそこにさ、いく勇気がないんだよ。男子禁制な感じがするだろ?」

「確かに女子の比率は高いのは間違いないけれど、男子も利用しているはずよ」

「そりゃな。でも一人で行ってる奴はいないんじゃないか?友達だったり彼氏だったり。その類しか利用してないと思うぞ」

 

 堀北はパレットの様子を思い返しているのか、少しだけ考える仕草を見せた。

 

「確かにそうね。……なら行くのは諦めたらどうかしら。あなたの体質ではたとえ男女で入っても変な噂が立てられて、後日散々な目に遭うのがオチよ」

「オレなりに考えてみたんだが、こういうのはショック療法が効くっていうだろ? それに折角この学校に来たんだ。ずっと家にいるのはさすがに、な」

「……分かったわ。あまり長い時間は無理だけど。それでも構わない?」

「ああ、すぐ終わるよ」

 

 多分、と心の中で付け足しておく。

 オレとしてもすぐ終わらせたいんだが、カフェに初めて行く、というイベントにワクワクしている自分もいる。骨折り損な形で終わるのも不本意なので、さりげなく、先に櫛田のことを聞いとくか。

 ……さりげなく、って意外と難しいな。

 

「なあ、くし……堀北」

 

 完全な失態に、堀北はオレを睨みつける。

 

「嫌な予感がするのだけど」

「多分合ってる」

「帰っていい?」

「そんなことしたらオレはここで土下座して頼み込むぞ」

「自殺なら勝手にやって頂戴」

 

 堀北は完全に立ち止まり、真意を探るようにオレを見据える。

 廊下のど真ん中で立ち止まりやがったので、注目を集めた。

 この女、ここ数日でオレの扱い方を完全に熟知してやがる。

 

「今ここで発狂して消火器を振り回してやる」

「何の脅しよ。それに、今回は完全にあなたに非があるでしょう。正直に話すなら、取り敢えず目立つマネはやめてあげる。まずは話を聞いてから。それから誘いに乗るか乗らないか決めるわ」

「分かった、降参だ」

 

 両手を上げ、服従のポーズを取る。

 すると彼女は足早に歩き出し、少しだけできていたギャラリーも道を開ける。

 

「それで、櫛田さんがどうしたの?」

「仲良くなりたいんだと」

「私が何故最近早く帰っているか知ってる?」

「櫛田を巻くためか」

「ええそうよ。つまり私はこの誘いに乗らない。これで話は終わりね」

 

 堀北はそう言い切り、話を強引に終わらせた。

 だがまだ肝心なところを聞けていない。

 

「どうしてそこまで櫛田を嫌う? 現状彼女は無害だ。適当に連絡先を交換して仲良くなった体を保てば執拗な追及はしないだろ」

「意味を感じないからよ」

 

 彼女はそれ以上は何も言わず、カフェとは反対の方向に歩き出した。櫛田には作戦失敗の旨をメールで伝えなくてはいけないだろう。

 面倒だな、と率直に思った。

 まあ、この人間関係に苦悩する面倒こそ、高校生の日常の1ページなのかもしれない。

 そう思えば、この状況も楽しめそうだ。

 

「……日常生活に意味を求めて何になるんだか」

 

 だからだろうか、それこそ意味のない言葉を、つい、呟いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 メールを送ると、折角だから綾小路くんとお話したい、という実に魅力的で絶望的なお誘いを受けた。だが、変に断って印象付けられては困る。無難な一男子高校生として、喜んで了解のメールを送った。

 

「あ、綾小路くん!」

 

 パレットに入ると、櫛田が手を振ってオレの名前を呼んだ。

 視線が一瞬だけ集まる。

 本気で帰りたいと思った。

 居心地の悪さを感じつつ、とりあえず席に着く。

 

「何か頼まないの?」

「え? あ、ああ」

 

 テーブルには彼女が頼んだゴテゴテの何かの飲み物があった。確か期間限定のなんちゃらフラペチーノ的サムシングだろう。女子力とリア充の塊みたいなやつだ。

 とはいえ何か頼まないと、長居する気はないという意思表示になってしまう。カウンターの近くの席だったため、櫛田もついてきた。

 

 適当にアイスミルクティーでも頼もうとすると、タピオカ入れますか? と訊ねられる。

 

「……タピオカ?」

 

 デンプンの塊みたいなやつだったか。

 

「ここって無料でドリンクにタピオカ入れてくれるんだよ。知らなかった?」

 

 そういう問題じゃないが……まあ最近の流行みたいなものか。

 

「いや、」

「じゃあ、お願いしまーす!」

「え、おい」

「折角だし、ね? 試してみるのも大事だよ」

 

 食べたことがないから怖気付いていると思われたらしい。

 確かに初めてカフェに来たような奴に、タピオカを飲んだ(食べた、が正しいのか?)ことはありますか? と問えば、ほぼ100%否と答えるだろう。

 そんなド隠キャに気配りができる優しい天使、櫛田桔梗。

 

 ……今のオレからすれば、ドリンクに爆弾が仕掛けられたようなものだが。

 改めて、渡されたタピオカミルクティーの底に溜まっている黒い粒々を見てみる。

 大きさ的にアウトだし、意外に量が多い。

 生物兵器と言われても納得のグロさを感じた。

 

 明日からオレはタピオカゲロ野郎という渾名を付けられて生きていくのだろう。

 あれ、おかしいな。目からタピオカが……

 

 

「堀北を誘えなくて悪かった。オレが発案した計画なのに」

 

 

 まあそんな地獄は後回しにして、席に座り、まず誠心誠意謝った。

 さりげなくって本当に難しい、と身に染みて理解した。

 

「ううん、大丈夫。もしかして計画バレちゃった?」

「ああ。大根役者と罵ってくれても構わない」

「あはは、そんなことしないよ。また機会はあると思うし。……その時も、手伝ってくれる?」

 

 櫛田は少し自信なさげに問う。

 庇護欲を掻き立てられる姿だ。

 もしその窺うような視線さえなければ、誤ってコロッと落ちてしまっていただろう。

 

「もちろんだ。ただ、今回みたいのは、難しいだろうな」

「そうだね、堀北さんは鋭いところがあるから」

 

 櫛田は、困ったように、あははと笑う。

 

「別に、諦めてもいいんじゃないか? 櫛田が頑張る必要もないだろ」

「綾小路くんはさ、堀北さんの笑った顔、見たことある?」

 

 嘲笑は笑顔に入らないだろうか。

 

「いや、ないな」

 

「……多分、ずっと一人だったからだと思うんだよね。みんなと一緒に楽しい時間を共有するって、とっても大事なこと。笑顔の作り方も、人はきっと、そこで本当に学べるんだと思う。私は、堀北さんの笑顔が見たい。……これって、お節介なことかな?」

 

 櫛田は尊い精神性を語った。

 彼女の言っていることは概ね正しくて、おそらく善性の主張なのだろう。

 

「堀北にも堀北なりの考えや目的がある、んじゃないか?現状は、多分、どうしようもないと思う」

「……そうだね」

 

 少し暗い雰囲気になってしまった。

 

「ま、まあ。オレからも何か働きかけてみるさ。仕組んだものじゃなくて、何か二人を結び付けるチャンスが、今後くるかもしれないし」

 

 そう慰めると、彼女は、「うんっ」と頷いた。

 

 よし、一件落着。帰るか。

 と、思ったがそうもいかない。

 

 「飲まないの?」という重圧が向けられる。

 プレッシャー+固形物=nice boat

 先ほどから無視を決め込んでいたが、脈が音楽を奏でているのではと錯覚するほど不規則だ。櫛田の視線は毒の割合ダメージがごとく、確実に殺りに来ている。

 

 だが待って欲しい。

 なんと、先延ばしが功を期し、オレはとある素晴らしい方法を発案したのだ。

 多分ノーベル賞を取れる。

 

 簡単な話、ストローを若干浮かしてドリンク部分だけを飲めばいい。

 

「おお、新食感だな!」

「……食べてないよね?」

「いやあ、こんなに美味しい食べ物だったとは。三食これでいいまであるな」

「ストローで丸見えだよ」

 

 なんてこった。

 

「どうやらオレの吸引力は凄まじいらしいな、早すぎて見えなかったんだろう」

 

 ドヤ顔を決め込むと、櫛田は逆にしょんぼりと眉を下げた。

 

「もしかして、本当に苦手だった? ごめん、お節介だったよね……」

 

 その通りだな、とつい言いかけ、慌てて口を塞ぐ。

 明らかに彼女は落ち込んでいた。

 櫛田と距離は置きたいが、何も嫌われたいわけじゃない。

 何をされるか分かったもんじゃ……ではなく、あれだ。可愛い子に睨まれて喜ぶ変態趣味は持ち合わせてないというやつだ。

 気の利いたことを言って、この場を和やかに終わらせよう。

 

「実はだな、オレはカエルが苦手なんだ」

「え?」

「ほら、これってなんかカエルの卵に見えるだろ?」

「あ、あ〜、なるほど」

「正体はどんどん肥大化させたカエルの卵で、噛むと口の中ではじけて大量の小さなオタマジャクシが飛び出てくるんじゃないかって気になるんだ。その種類は酸に強い耐性を持っていて、胃の中で消化されず一つ一つが成長して大きくなり、陸に上がるために、いつか口の中からカエr「ストップ! ストップ!」

 

 櫛田は慌ててオレのウィットに富んだ話を止めた。

 

「ここ、お店の中だから、ね? 飲んでる人もいるから、聞こえたら可哀想だよ……」

「す、すまない……」

 

 至極まともなことで咎められた。

 気付けば周りからは、ものすごい白けた目を向けられていた。

 あれれ〜? おかしいなあ。今頃大爆笑が起こっている筈だったんだがな(すっとぼけ)

 

「もう少し声を落として言うべきだった」

 

 と小声で弁明すると、

 

「そういう問題じゃないと思うな」

 

 と呆れられてしまった。

 

「そんな訳で櫛田は悪くない。持ち帰ってゆっくり飲むとするさ」

「でも、やっぱり気にしちゃうよ。そうだ! 私の飲んでるものと交換する?これだったら飲めるよね?」

 

 そう言って櫛田は、苺なんちゃらフラペチーノを差し出す。一口ほどしかまだ飲んでいないらしい。

 

 これは俗に言う間接キスでは?

 

「え、いや、そっちの方が高そうだし」

「ううん、そもそも私が話を聞かずに強引に頼んじゃったのが悪いんだもん。これくらいは、させて欲しいな」

 

 躊躇うフリをしていると、櫛田は俯きがちに上目遣いで、

 

「ダメ、かな?」

 

 と覗き込む。

 そう迫られて、断れる男子がいるだろうか、いや、いない。

 

「お願いします」

 

 即答である。

 櫛田が飲んでいたフラペチーノの甘ったるさに驚いたが、まあ正直、高カロリーなものは助かった。

 初間接キスは櫛田桔梗という事実は、一生自慢できそうだ。

 

 嫌なこともあれば、それに付随するように良いことも起こるんだなあ、と感慨に耽りつつ、ほぼただのクリームだろ部分を飲み下す。

 その後他愛のない話を交え、解散となった。

 

 

 

 彼女の試すような視線さえなければ、完璧な高校生の一日だった。

 

 

 

 

 

 

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