心が弱くても勝てます   作:七件

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平田が中学の頃一つの学年を実質掌握してたって事実意外とヤバくない?と思い始めた今日この頃。



他クラス偵察:前編

 

 

 

 無人島生活二日目は波乱の幕開けだった。

 元々わがままな生徒が多いクラスだ。表面上は仲良くしていても、そうそうチームワークは形成されるものではない。

 

「平田!どういうことだよ!」

「一旦落ち着いて」

「落ち着いてられるか!あいつらは12ポイントも勝手に浪費したんだぞ!!」

 

 男子たちは平田を囲い、女子テントの有り様を指差し非難していた。

 

 寝るスペース以外取っていないため空っぽな男子テントと違い、女子テントの中はまるで景色が違っていた。ビニールだけでは硬かったらしく、和らげるためのフロアマット、空気を入れて膨らませたと思わせる枕が数個。更には乾電池式のコードレス扇風機が置かれてある。

 

 男子は半数が野宿を強いられていた中での、この有り様だ。ルール上誰でも申請できるため、軽井沢たちが勝手にポイントを使ったらしい。彼氏である平田には申請後に報告し、黙ってもらえるよう頼んだとか。無闇に揉め事を起こしたくない平田はそれを了承した。だが、もちろん堀北が黙っていられない。早朝、こっそり平田に確認を取ろうとしたところ、同じく朝早くに目覚めていた池が聞いてしまい、事が露わになってしまったのだ。

 

 女子は気まずげに固まっており、チクるとかあり得ない、とボヤいている。

 

「別に高円寺くんが食料問題解決してくれたわけだし、ちょっと使ったってよくない?」

 

 一切悪びれもせず、そんな態度の軽井沢と篠原たちに、男子は目を剥いた。

 

「こうなることが分かっていたから、僕は先に方針を決めようと言ったんだ!120ポイントだけを残そうなんて言えば、ああいう奴等は先のことを考えないで調子に乗る」

「あんたら男子と違って女子は色々気を使うわけ。わかる?」

「俺たちだって我慢してたんだぞ!差別だろこんなの!」

「あんたらが勝手にテントは要らないって言い張ったんじゃん」

「お前らのためにテントを我慢したわけじゃねえって話だよ!」

「それこそ知らないし!元々必要なものは買うって話だったじゃん。なにが悪いわけ?」

「悪いと思ってたからこそ、黙って使っていたとしか僕には思えないけどね。常識的に考えてみれば分かる話だろ」

「男子のアホくさい常識とか知らないって。そんなに羨ましいならあんたらも買えばいいじゃん」

 

 ポイントをなるべく節約したい男子と、自分の行いを正当化したい女子。

 明らかに悪いのは軽井沢たちだったが、彼女たちは折れることはない。それに何を言っても、返品してポイントが返ってくることはないため、不毛な争いに違いなかった。

 

 堀北はこめかみを抑える。

 こういった状況で論理的に物事を進めようにも、衆愚というのは中々罪深い。感情論で踏み倒されて、余計な火種を生みかねない。池に聞かれてしまったのは、迂闊としか言いようがないだろう。

 

 それらを遠目で眺めながら、オレは伊吹が座っている木の横に腰を下ろす。

 

「な?バカばっかりだろ」

「……かもな」

 

 こういった時、櫛田が仲を取り持つことで鎮静化される場面も多いが、今回は彼女もまた、黙っていた一人。出しゃばり過ぎれば嫌われる可能性もあるので、影役に徹するために、効果は正直ないだろう。

 

「こんな事ばかり立て続けに起これば、失望するには充分だ」

「須藤とかいう生徒が暴力事件を起こしたとかあったな、そういえば」

「停学とは言わずに、Eクラスにバイバイ。さっさと退学にすれば良かった。審議に勝ったとか言ってたが、大方黄金のハッピーターンでも渡したんだろ」

「Dクラスにそんなポイントあるのか?」

「さあ。もし貯蔵してるとしても、オレはグループチャットにも入れて貰えてないからな。知らない話だ」

「徴収されない立場なら羨ましい限りだけど」

「龍園もそういうタイプなのか?」

「まあね。反対するような奴は暴力で黙らす。そんな奴だよ」

 

 伊吹は忌々しげに吐き捨てた。

 

「勝手にAクラスに上がることも許さないんだな。徹底している」

「……もしかして、2000万ポイント狙ってたりするわけ」

「そのためだったらクラスを売っても構わないかもしれないな。……ま、冗談だ。そんな大金手に入るわけがないし。これ以上クラスメイトに嫌われるのは不本意だ」

「あっそ」

 

 伊吹は心底どうでも良い、という風に草を毟っている。

 そんな話をしている中でも、クラスメイトたちの鬱憤が溢れ出て、双方ともにヒートアップし収まる気配がない。

 

 

 

 しかし、それは唐突に落とされる。

 

 ペットボトルがグシャリと潰れる音。

 一人の男から、波紋のように広がった。

 

「煩いな……」

 

 平田から発されたとは思えないほど、低い声。

 

 場を完全に支配する空気。

 彼の一挙一動に、誰も目を離せない。

 

 

「……皆、一旦落ち着いて」

 

 

 平田は、ハッと顔を上げた。

 

 そして普段通りの笑顔を取り繕う。

 その笑顔は、さっきの言葉は聞き間違いだったのかもしれない、そう強引に皆の思考を転換させる。

 張り詰めていた空気は少しだけ緩む。

 

「取り敢えず、黙っていたことを謝らせてほしい。皆、ごめん」

 

 だが、緊張の跡は残ったままで、誰も彼に口出しすることはできなかった。

 

「夜も遅かったし、昨日は皆も疲れていたから、朝になってから色々考えていくつもりだったんだ。ポイントを使ってしまったことはもう取り戻せないからね」

「そう、だったのか」

 

 男子は平田を最初に責め立てたことを少しだけ反省する。

 

「まず、男子用のテントを一つ購入しようか。扇風機とラグマットは男女で分けよう。枕については男子も遠慮しないで欲しかったら僕に言って」

「でもよ、」

「今後のことを考えれば、寝床環境は改善した方が良いと思う。体力を回復するのに、睡眠は大事だからね」

 

 寝るのに一苦労していた男子も中にはいたようで、節約の流れが緩和されることにホッと息を吐いている。

 平田の案に女子は抗議しようとしていたが、冷静になってみて罪悪感が湧いてきたのか、結局何も言わなかった。

 

「だが、またこうやって勝手に不必要なものが購入されて妥協案を出す流れが定例化すれば、ポイントは尽きるはずだ。やはり僕は納得できないな」

 

 幸村が苦い顔でそう反対する。

 もっともな意見だろう。

 数名が同意を示す。

 

 そこで傍観していた堀北が、手を挙げた。

 平田のおかげで冷水を浴びせられた空気になったことで、漸く建設的な話を始められる。

 

 

「マニュアルを燃やせば良いのよ」

 

 

 彼女が出した案は突飛なものだった。

 確かにさっきの雰囲気でそんな事を言っても無視されるか、バカにされるのが関の山だろう。

 

「はあ?」

 

 と、軽井沢は顔を歪めた。

 

「マニュアルが無ければ、新しいものを買うことはないでしょう?」

「後々必要なものが出るかもしれないじゃん!」

「必要なものってなにかしら?」

「それは、例えば……」

 

 男子も流石にマニュアルをなくすことを渋る。

 皆を言いくるめるために、堀北は冷静に論を展開していく。

 

「釣用具や調理器具などの欄は今の内に切り取ってリストアップして、それ以外は燃やしてなかったものとする。今日一日過ごしてみて、足りないと感じるようなものは注文する。燃やすのは明日の朝。そんなに悪い案かしら」

「足りないと感じるようなものをあいつらは拡大解釈する可能性もあるだろ」

 

 幸村は親の仇を見るような目で、女子を睨んだ。

 

「リストアップするものは今日の夜話し合いましょう。それに、彼女たちだって出来る限りポイントを残したいと考えているわ。本当に必要のないものをポンポン提案はしないと思うし、その際はあなたが反論していけば良い。決めるのは私たちなのだから」

 

 その後も彼女は全員の疑問に答えていき、結果的に、堀北の案が採用されることになった。

 

 

 

 

 

「おまえらのクラス、意外としっかりしてんじゃん」

「……どうだかな」

 

 伊吹は鼻で笑う。

 オレはプライドを捨てきれないチャチな男みたいに、不満げにそう零した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の点呼を終えたオレたちは、平田の指示で動くことになった。

 食料調達班が大半を占めており、高円寺が書き残した地図を模写し、実際あるかどうかを確認したり、川や海で釣りを、池の主導のもと自然に生えて食べられるものなどを採取する。

 他には焚き火の枝を集め、拠点の整理、調理班、など。

 日置で交代し、一日丸々休める生徒もいる。

 平田は体調の悪い堀北とオレに気を遣って、釣用具を渡してくれた。

 

 行動を開始しようとすると、Cクラスの小宮と近藤がオレたちを挑発するついでに拠点の場所を教えてくれたので、ありがたくポテチを貰い、みんなに分け与えてから浜辺へ向かった。

 

 

 森を抜ける直前の茂みから見えた浜辺には、Cクラスの大勢の生徒が見える。

 オレと堀北が見たCクラスの状況は想像の遥か斜め上を行っていた。

 

「……どういうこと、かしら」

 

 その光景を目にしながらも、信じられないのか、堀北は何か考える素振りを見せる。

 オレも少し面を喰らってしまった。

 仮設トイレやシャワー室は当たり前として、日光対策のターフ、バーベキューセット、チェアーにパラソル。スナック菓子にドリンク。娯楽に必要なありとあらゆる設備が備えられていた。肉を焦がす煙と笑い声。沖合では水上バイクが駆け抜け、海を満喫する生徒が悲鳴を上げながら楽しんでいる。

 ざっと本当に不要なものを目に見える範囲で計算したところ、100ポイント近くは吐き出しているようだ。

 

「あなたは、どう思う」

「水上バイク楽しそうだな」

「ふざけないで」

 

 堀北はオレの脇腹を肘で突く。

 すると、訝しげにオレの顔を見上げた。

 

「……痩せた?」

 

 普段は制服を着ているし、この無人島生活が始まってからは長袖ジャージで誤魔化しているが、そろそろ隠しきれなさそうだ。

 

「ほら。猫とかって夏になると痩せたように見えたりするだろ。あれだ」

「夏と冬で毛が生え変わるだけよ」

「同じ理屈だ」

「通りで。同じ人間とは思えなかったもの」

「ま、これで伊吹を追い出してもCクラスは痛くも痒くもなかったってことが分かったな」

「ええそうね。試験を放棄した……のかしら。あの男は何を考えているの」

「会ってみれば分かるんじゃないか?」

 

 堀北はどうやら一度龍園と接触したことがあるようだ。

 暴力事件の審議が終わった後、宣戦布告を言い渡されたらしい。

 茂みから二人で浜辺へと足を踏み入れ、砂を踏み締めていく。

 男子生徒が一人こちらに気付き、傍に居た男子に声をかける。相手はチェアーに体を預けているようで、ここから顔はよく見えない。

 

「あの、龍園さんが呼んでます……」

 

 どこか怯えた様子でそう声をかけてきた男子生徒。

 

「まるで王様ね」

「豪遊できるならオレもCクラスが良かった」

「あなたは精々下僕Fがお似合いよ。散々コキ使われるでしょうね」

「なら今と変わらないな」

 

 ここは既に敵地だ。

 軽口を叩き合いつつ、男子生徒についていく。

 そしてこの豪遊を指示したと思われる男の傍へと近付いた。

 

「よう。こそこそ動き回ってる羽虫がいるなと思ったが、お前だったか」

 

 水着姿でチェアーに寝そべり肌を焼く龍園が白い歯を零した。

 

「なんだ、金魚の糞もくっついてるらしいな」

「彼は荷物持ちよ。気にしないで」

「労ってやろうか?おい石崎。キンキンに冷えた水を持ってこい」

 

 傍でバレーをしていた石崎が慌ててテントの中へと水を取りに行く。

 テント内には食料と水と思われる段ボールが無造作に沢山積み上げられていた。

 石崎はクーラーボックスを開けて、中を覗き込む。

 

 ……この豪遊振りを考えるに、明日には全員リタイアする算段だろう。

 あの大量のダンボールをどう考えても一日で消費できるとは思えないな。

 Bクラスはあり得ない。

 つまり龍園は、昨日オレたちが話し合っていたものと似たような作戦を考え、そして実行に移した。

 

 龍園は石崎が持ってきたペットボトルをオレの顔面へと投げつける。

 オレは慌てたように、咄嗟にキャッチした。

 

「ちょっと。危ないじゃない」

「悪い悪い。手が滑ったんだ」

 

 キャップを開けて水を半分ほど飲み干すと、堀北からため息が漏れ聞こえた。

 

「毒が入ってるかもしれない。無闇に他クラスから貰ったものを飲まないで」

「匂いも味も別に普通だったぞ」

「そういう問題ではないわよ」

 

 オレたちの噛み合わない会話に、龍園はククク、と笑う。

 

「まさか素直に飲むとはな。水こじきか」

「それで?あなたは一体どういうつもりなの?」

 

 堀北は強気な態度で龍園に問う。

 龍園は呆れたように、そして見下すようにオレたちを鼻で笑った。

 

「こんなクソ暑い無人島でサバイバルだ?冗談じゃないな。最底辺どもが暑さと虚しさに耐えながらあくせくと小銭を集めていると思うと、笑えてくる」

「100、200が小銭とは思えないわ」

「お前らDクラスはそうなんだろうな」

 

 龍園は堀北の言葉に耳も貸さない。

 現状クラスポイントは

 

 Aクラス…1004

 Bクラス…713

 Cクラス…540

 Dクラス…87

 

 となっている。

 Bクラスとの差を詰めるチャンスだというのに、簡単に投げ捨てるとは考え難い話だ。

 

「呆れてものも言えないわ」

「フ、俺は努力が嫌いなんだ。我慢?節約?冗談じゃないな」

「勝手に自滅してくれるなら好都合よ。ところで、伊吹さんを知っているわね?」

「ああ。うちのクラスの人間だ」

「彼女、顔を腫らしていたわ。どういうつもり?」

「はっ。威勢よく飛び出したかと思えば、結局他クラスのところに泣きついたのか。情けない女だ」

 

 龍園はテーブルの上に置いてあるコーラを煽る。

 

「世の中どうしようもないバカもいるもんだ。支配者の命令に背くことに躍起になって、物事の本質を理解しちゃいねえ。俺がクラスのポイントを好き勝手使うと決めた以上、それが決定事項なのさ」

「……つまり伊吹さんはポイントの使い方についてあなたとぶつかり合ったのね」

「だから軽くお仕置きしてやったら、チビって逃げ出したんだよ」

 

 そう言って手で頬を叩くような動作を見せる。

 堀北は侮蔑の目を向けた。

 

「もう一人逆らった男がいたが、そういやそいつもいねえな。ま、死んだって報告も聞いてねえから、どっかで草でも虫でも食って生き延びてるんだろうさ」

 

 仲間に向けた発言には思えないが、恐らくもう一人のスパイは別クラスに潜入したのだろう。

 堀北は額を抑え、眉間にシワを寄せた。

 

「たくさん俺に質問したんだ。お前たちも俺の質問に答える義務があるとは思わないか?」

 

 すると突然、龍園がそんなことを言い出した。

 

「それを真面目に答えるかどうかは別よ」

「ああ。構わないぜ」

 

 龍園の鋭い瞳は、蛇を連想させる。

 堀北は固唾を飲む。

 

「暴力事件の首謀者は、誰だ?」

 

 七月初めに須藤が起こした暴力事件の話を今更蒸し返す龍園に、堀北は困惑を隠し切れなかった。

 

「何を言ってるの?それはあなたでしょう」

「確かに俺が吹っ掛けた。だがな、俺たちは須藤に暴力を振るっていない。石崎に散々口酸っぱく言ったからな。一方的にやられろ、と」

「統制が取り切れていなかったんでしょ。あなたのミスよ」

「おいおい、つまらない事を言ってくれるなよ。俺はお前らの実力を買っているのさ」

 

 龍園はオーバーに両手を上げて、そのまま再び横になる。

 

「お前ら……?」

「須藤に怪我を加えた奴だよ。鈴音、いかにも優等生然としているお前が考えるにしちゃあ、ひん曲がった策だからな」

「勝手に名前を呼ばないでくれる?それに、あなたは私の何を知っているの?」

「ああ。色々調べさせて貰った。例えば、生徒会長の妹、とかな。コネであの審議を有利に動かしたのかとも考えたが、それもどうやら違うらしいしな」

「勝手に勘繰って自滅してくれる分には構わないわ。行きましょう、綾小路くん」

「お、おう」

 

 堀北はオレの名を呼び、踵を返した。

 一瞬、しまった、という顔をしていたがもう遅い。

 すぐに取り繕い、先へ行ってしまう。

 オレも水上バイクに後ろ髪を引かれながら、彼女についていく。

 

 

 砂浜を歩いていると、ひよりがチラチラとこちらを気にしていたようだったが、オレは決死の思いで耐え忍んだ。オレたちの関係が龍園にバレれば、オレの人物像が特定されかねない。カマかけの可能性が高くとも、龍園はもう一人堀北の他に策士がいることを考慮に入れている。

 

 でもめっちゃ見てくる。

 堀北が、彼女は誰?と小声で聞いてくるレベルでバレバレだ。

 これもう龍園にバレたな……。

 

「堀北、先に行っててくれ。すぐ追いつく」

「他クラスにガールフレンドを作るなんて、随分アグレッシブね」

「ただの、とも、……読書仲間だ」

 

 

 オレは小走りでビーチパラソルの下で体育座りをしているひよりに近付いた。

 

「お久しぶりです」

 

 彼女はパッと顔を輝かせ、隣をどうぞ、とオレに座るよう促す。

 居心地の悪さを感じつつ、オレも体育座りで座った。

 

「どうだ、楽しいか?」

「本を持ってくることができれば、もっと楽しかったかもですね」

「確かに丁度良い環境かもな」

「でもよく小説に出てくるような絶海の孤島はこんな感じだったのかと思うと、胸が躍ります」

「ペンションがあれば、殺人事件も起こりそうな雰囲気だ」

「いいですね!猟奇殺人にうってつけです。凶器とトリックはどうしましょう」

「あー、斧とか?」

「猟奇的です!」

「あとは、毒針」

「意外と繊細ですね」

「嵐の海に突き落としてドン」

「……そして誰もいなくなるんですね」

「おお、よく分かったな」

「模倣じゃ面白くないですよ」

 

 ひよりはプクッと頬を膨らませた。

 というか、こんな話をしたかったわけじゃない。

 どうも彼女の前だと押されがちになってしまうな。

 

「あーその、ひより」

 

 オレは早速本題に入ろうとする。

 

「分かってますよ」

 

 すると、ひよりは真っ直ぐ前を見据えて言う。

 

「試験で私たちの交友関係を利用するようなことはしません。もし龍園くんに綾小路くんがどんな人か聞かれても、知らぬ存ぜぬで返します。知りたかったら友達になってあげて下さいって言いますから」

「龍園とは間違っても友達にはなりたくないな……」

「意外と波長が合うかもしれませんよ?」

 

 ……それは、どうなんだ?

 もしかして人として貶されているのかもしれない。

 

「分かった。オレも利用することはない」

「約束ですね」

「ああ」

 

 しっかり契約が結べたことに満足したオレは、帰ろうと立ち上がる。

 

「たとえどんな結果になったとしても、私たちの関係は変わりませんよ」

 

 少し名残惜しげに、ひよりはまるで言い聞かせるみたいに、そう微笑んだ。

 

 

 

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