ある日、私は強烈な頭痛によってぶっ倒れた。
すぐに病院に運ばれたからか大事には至らず、数時間して目を覚ました。
ぐらつく視界にまだほんの少し痛む頭……気分は最悪だ。
それに加えてよく分からない何かが頭の中にある違和感、自分のものかと疑いたくなる記憶
これは、いわゆる"前世の記憶"というやつだろうか。今さらになって思い出したとでもいうのか。
「ベラ、大丈夫か?わしが誰か分かるか?」
「ジョセフ・ジョースター」
「よかった、記憶喪失ではなさそうじゃな」
「あの、私、何だか頭の中がぐちゃぐちゃになっているみたいで……」
ベッドの横の椅子に座る人物は、私が間違っていなければ漫画の中の登場人物のはず。
なんで、どういうこと?
ああ、訳が分からない。頭の中がさらにこんがらがってしまう。
「さっきも言った通りわしはジョセフ・ジョースター、君と会ったのは数年前の事だ」
ジョセフが小さい子に絵本を読み聞かせるかのような優しい声音で説明してくれる。
数年前私が道端で途方に暮れているのを見たジョセフが耐えかねず私を拾い、あのSPW財団の職員にしてくれたとのこと。
そして数時間前に、仕事中だった私が突然頭痛で倒れて今に至る、らしい。
前世の記憶が強すぎて今世の記憶がふわついている。
「すいません、ジョースター様、断片的に覚えているのですが昔の記憶がサッパリなくて……」
「そうか、わしと出会った時も覚えていないのかね?」
「……すいません」
「謝らなくていい。人の記憶なんてそんなもんじゃよ」
そう言ってジョセフは私の頭を優しく撫でた。
昔の記憶がないと言うのにこの人は、ちと優しすぎるんじゃないか。
「起きたばかりでこんなこと言うのは酷だとは思うんだが、仕事の方は大丈夫そうか?財団での君は色んな人に頼られているような人物だ、でも出来ない状態なら無理をしなくてもいい。君の代わりを務めてくれるような優秀な財団職員はいる。それでも少しは劣るがね」
「いえ、新しい記憶はまだ私の中に残っているので仕事については気にしないでくれて大丈夫です」
「そうか!財団の人もそれを聞いたら安心するだろうな」
「はは、私そんなに頼られるような人物だったんですか?」
「そりゃあなあ、仕事もテキパキこなしてスタンド能力も強い、頼られない方がおかしいと思うぞ」
「じょ、ジョースター様、今なんと」
「うん?『頼られない方がおかしい』と言ったが……」
「そ、その前です」
「スタンド能力も強い」
「スタ、ンド」
嘘だろう嘘だろう待ってくれ。
一番大事な記憶がすっぽり抜け落ちているのは普通に無能なのでは!?
「……ベラ、まさかとは思うが」
じとりとこちらを見てくるジョセフに応えるように私はニコリと笑った。
こういうのなんていうんだっけ……ああ、アルカイックスマイルだ。
それを見たジョセフは大きなため息をついてしまったが、また、忘れた私に優しく説明することになった。
「__と、いうことじゃ。何かわからないところはあったか?」
「だ、大丈夫です。一応理解はしました」
ジョセフの説明によれば私のスタンド能力は時間を遅くする能力らしい。
DIOが一時停止なら私はスロー再生と言ったところか。うん、DIOの劣化版というか下位互換というか……使い方によっては強くも弱くもなれるんだろうけど。
いやいや、仮にも自分の半身だぞ。劣化版だの下位互換だのいうのは可哀想ってもんだ。自虐しているようなもんだろ……。
とにかく私のスタンド、『アット・ヴァンス』はそんな感じの能力らしい。
ちなみにこれは余談だが、私の中の時間を遅くさせることで寿命を長くしているとのこと。
前の私が何を考えてそうしたのかは分からないが、とりあえず常人より老いるスピードが遅くなったということだ。
だからといって能力を解除して即老けるという訳ではない、とジョセフは言っている。
「大体わかりました。本当ありがとうございます」
ジョセフに向かってぺこりと一礼すればジョセフはまた私の頭を撫でた。
「いやいや、わしにとって君は娘のようなものじゃからのう。世話を焼いてしまうのもしょうがないことじゃ」
「そう、ですか」
それだけ伝えてジョセフは帰っていた。
頭痛だけでここに来たので明日には退院できるらしい。
そんなことより、今私が確認すべきは自分のスタンドだ。どんな姿をしているのか見てみたい。
「アット・ヴァンス」
期待しながら私の半身の名前を呼べば、スタンドはすぐに私の目の前に現れた。
真っ白の人形のような、女性的なフォルム、そしてそれと対になるような黒色の長い髪、ロングスカートを履いたようにも見える上品なその見た目に思わず「きれい」と言ってしまった。
それを聞いた私のスタンドは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
話せはしないが自我がある、ということだろうか。
それともただ恥ずかしがって話さないだけなのか……。
まあそれはそのうちわかることだろう。
「何はともあれ、これからよろしくね。アット・ヴァンス」
ヴァンスはニコリと笑った。