――コンコンコン
人が気持ちよく寝ている時に……この旅でこんなに休まる時はないって言うのにさ……。
そんな風に思いながら自室のドアを開ける。
「あ、承太郎さん」
「JOJO!」
私の後ろからアンちゃんが首を出す。
「ジジイとアヴドゥルに頼まれた。インド行きのバスか列車を手配しろってな」
「わかりました、少し準備するので待っていてください。あと他には?」
「花京院だ、ロビーにいる」
「そう、ですか」
「どうした?」
「いいえなんでも」
洗面台の方へ向かい、軽く寝ぼけている頭を起こすために顔を洗う。
そして髪をいつもの様に緑のリボンで一つに結ぶ。
「よし、準備オッケー」
「終わったか?」
「はい、バッチリです。行きましょうか。アンちゃんも行くんでしょう?」
「ついて行っていいの?」
「行きたくないのなら無理強いはしないけど」
「行くわ!」
そう言って私と承太郎の真ん中に挟まるように歩き出す。
私を承太郎の隣に立たせない、と言うよりも私と承太郎のどっちとも歩きたいから真ん中をとったように見える。
子供らしい欲張りに思わず笑ってしまった。
「……花京院、ぼーっとしてると置いていくよ?」
「ん、ああ。すみません」
やっぱり偽物じゃないか。
親しい人間が偽物に変わっているというのは、かなり頭にくるものである。
今にでも殴り飛ばしてやりたいほどに、だ。
だがそんなことをしてみれば悪者になるのはどう考えても私だ。
ひとまずは何もせず、みんなについて行くことにした。
何でもかんでも早く終わらせればいいってもんじゃない。
「ベラ」
「なんですか?あ、ヤシの実、ジュースですか?」
承太郎は私に渡したものと同じものを飲みながらコクリと頷く。
一口飲んだか飲んでいないかぐらいに原作とは少し違い、財布をスられた花京院がそのスリの顔に一発膝蹴りをかます。
「てめー俺の財布を盗めると思ったのか?このッ」
汚い言葉が花京院の口から出る前に能力を使った。
偽物といえど私の友人から汚い言葉を言わせるわけにはいかない。
盗人を離れたところに置き、流れを戻す。
「ビ、ッ!?」
「どうしたの花京院、青ざめたりなんかして、私の能力は知っているはずでしょう?」
「そ、う、ですが……急に使われると戸惑います」
「それは悪かったわ。ごめんなさい。でも、あなたの財布を盗んだ相手をあんなふうに蹴り飛ばす必要はなかったんじゃないの」
「あいつは僕の財布を盗ったとっても悪い奴なんですよ。懲らしめて当然でしょ!違いますかねぇ、
「……さあ、でもやるにしたって頻度があるんじゃないの?少なくとも私はそう思うけど」
「ベラさん、僕は今日はちょっとばかりイラついていたんだ。旅に疲れはじめてね。機嫌が悪いって日ですよ」
「良さそうに見えたけど?」
「ベラ、行くぞ」
「あ、はい」
……私あのスタンド使い嫌いだ。
少し下を向いて歩いていると承太郎に声をかけられた。
「花京院と何かあったのか?」
「典明くんとは何もないですよ。ただ、あれとは一悶着ありましたね」
「……やっぱりあいつ、花京院じゃねえな?」
「はい、敵スタンド使いでしょう」
「いきなり"承太郎くん"なんて呼んだからどうかしたかと思ったぜ」
「ふふ、もしかしたら本人もそう呼びたがってるかもしれませんよ」
「呼びたきゃそう呼べばいい」
「そうですね」
話しているとアンちゃんがハァハァと息を切らして承太郎にしがみついた。
「どうかしたか?」
「な、なんでもないわ」
また少し歩き、私たちはケーブルカーのある所に来た。
「よお承太郎、そのチェリー食うのかい?食わないならくれよ。腹が空いてしょーがねーぜ!」
そう言って花京院は承太郎を突き飛ばす。
「承太郎さんッ!」
ヴァンスも使って承太郎を引き上げる。
「冗談、冗談ですよぉ」
ふざけた顔でチェリーを食べる偽物
――パンッ!
私はその顔を思い切り平手打ちした。
「……は?」
「もうその顔で喋らないで」
「い、イザベラさん!何も叩くこと……」
「典明くんなら私だって叩きはしないわ!でも、敵スタンド使いとなれば話は別よ」
「敵スタンド使い~~??何言っているんだ、目の前にいるのは正真正銘仲間ですよ?」
「……乗れや、花京院」
「?」
「ケーブルカーが来たから乗れと言っているんだ、この俺のチケットでな。偽物のてめぇはこの拳でブッ飛んで乗りなということだ」
偽物が反応する前に承太郎が思い切り殴り飛ばす。
ぐぱ、と顎が割れるその姿にアンちゃんが悲鳴をあげた。
「いつ……いつ気づいた?俺が偽物だと」
「最初っからよ最初っから、会った瞬間にわかったわ」
「ふざけたことを」
「ふざけてるのはあんたでしょ?典明くんはそんな汚い目をしてないわ。言っておくけど私、かなり頭にキてるのよね」
「何者だ?お前」
「俺は食った肉と同化しているから一般の人間にも見えるし触れもするスタンドだ。"節制"のカード、イエローテンパランス!そしてこれが、俺の本体のハンサム顔だ!」
「ハンサム?あんたハンサムって言葉辞書で引いて赤線引きなさいよタコ」
「ぐッ……貴様……!そんなことを言っている暇か?お前にも、承太郎にも俺の肉片がついている」
ケーブルカーに乗り込む二人、承太郎の名前を呼べばすぐにその手を引っ張ってくれた。
「ありがとうございます、承太郎さん」
「馬鹿が、乗り込んでこなきゃ助かったのによ」
「どうかしら、危ないのはあんたじゃないの?」
「俺が?危ない?俺のスタンドに弱点はない」
「弱点の無いスタンドなんて存在しない」
「ほう?なら俺のスタンドの弱点を言ってみろよ」
「本体よ。スタンドが無敵だろうがなんだろうが本体が死んだらスタンドも死ぬ。分かりきってることでしょ?」
「だからそのスタンドが最強だったら本体を叩けねえっつってんだろうがよ~~!!!!」
「叩けないなんて誰が言ったの。アット・ヴァンス、私と承太郎さん以外の時を遅くさせて」
「流石だな、ベラ」
「ふふ、褒めていただき光栄です。今イエローテンパランスの防御はぱっくりと開いています」
「ああ、これを見逃すバカはいねえだろうさ」
――オラァッ!!
殴った瞬間に流れを戻す。
「は、ハヒ……」
「さっきなんて言ってたっけ、"スタンドが最強だったら本体を叩けない?"」
「確かに言っていたな。だがきっちり叩き込んだぜ」
「まあ、聞いていないと思いますけど」
イエローテンパランスは何も出来ずに無様に下に落ちていく。
「どうします?私達も下に行きますか?」
「あぁ、降りる。聞きてえことがあるからな。ベラ、掴まってろ」
「すみません」
一言言って承太郎の腕に掴まり、一気に下に降りる。
下に着くと、イエローテンパランスは気絶していた。
起きた時に暴れないように縄で縛り、そして頬をベシベシと叩く。
「起きろ」
承太郎の低い声でそう言われた時、イエローテンパランス、本体の名前は……ラバーソールだったかな。
ラバーソールがビクリと飛び起きる。
「っは!はぁ、はぁ……」
「おい、これから来るスタンド使いのことを教えな」
「そ、それだけは、口が裂けても言えねえ。"誇り"がある。殺されたって仲間のことはチクらねぇ」
「なるほど、ご立派だな。ベラ」
「はい」
その辺に置いてあった重そうな石を振りかぶる。
「あ、あーっ!思い出した!『死神』『女帝』『吊られた男』『皇帝』の4人がお前らを追ってるんだ!」
「ふーん、で、どんな能力だ?」
「し、知らねえ。これは本当だ、本当に知らねえんだ!スタンド使いは他人に能力を話したがらねぇ、たとえ味方でも見せることはそうねぇ。ただ、吊られた男、J・ガイル、こいつは両方とも右手だ。ポルナレフの仇だろ?そいつの能力だけは噂で聞いた。鏡を使うらしい」
「鏡か……」
「ありがとう、ラバーソール、なにか企んでいることはお見通しよ。大人しく寝てなさい」
私のその言葉を合図に承太郎が死なない程度にラバーソールの頭を殴る。
「あとは財団に渡せばオッケー、ってとこかな」