「チャーターしたのはあの船じゃ、我々の他は乗組員だけ。他に乗客は乗せない」
「財団とも話して乗組員の身元等も明らかになっています」
「……ムッシュ・ジョースター、ものすごく奇妙な質問をさせて頂きたい」
「奇妙な質問?」
「……詮索するようだが、あなたは食事中も手袋を外さない。まさかあなたの『左腕』は『右腕』ではあるまいな?」
「左が右?確かに奇妙な質問じゃ……」
「両方とも右手、ということでしょうか」
「ああそうだ」
「ジョースターさんの左手は右手ではありませんよ」
「一体どういうことかな?」
「妹を殺した男を探している。顔は分からない。だがそいつの腕は両方とも右手なのだ」
ジョセフは手袋をはずし、義手をキリキリと動かす。
「50年前の戦いによる名誉の負傷じゃ」
「…………失礼な詮索であった。許してくれ。もう、三年になる」
――妹は雨の日の下校時、クラスメートと二人で歩いていたらしい。
ポルナレフの故郷、フランスの田舎道でだ。
そして、不思議な男にそのまま嬲り殺されたという。――
なんて胸糞悪い事件だろう。
そして、そんな妹思いのポルナレフを取り込んでしまったDIOも、また許せる存在ではない。
彼は必死に仇を探していたのに。なのに……。
「俺はあんたたちと共にエジプトに行くと決めたぜ、DIOを目指していけば妹の仇に出会える!」
「すみませーん!ちょっとカメラのシャッター押してくれませんかー?」
「お願いしまーす」
いきなりだなぁ、こちらが真面目な話をしているのを空気で読み取れないものか……。いや、承太郎を見ればそうなってしまうのもしょうがのないことだけど。
そんな女性たちにポルナレフが対応する。さっきまでのシリアスキャラはどこへいったのやら。
「なんか、わからぬ性格のようだな」
「随分気分の転換が早いな」
「と言うより頭と下半身がハッキリ分離しているというか」
「……面白い方ですね」
「やれやれだぜ」
何はともあれ、我々はチャーター便に無事乗ることが出来た。
ここからシンガポールまで丸三日は船の上らしい、ゆっくりと英気を養おうとジョセフは言ったが、生憎そうはいかない。
溜息をつきながらただただ広い海を眺める。
「どうしたんだ?」
「あ、ポルナレフさん。いえ、特に何も。疲れたなあ、と思っただけです」
「こんな旅に女性が同行するのは辛かろう。だから気分転換に泳ぐのはどうだい?水着もあるんだってさ」
「御遠慮させていただきます」
「ちぇ、まあそう言うと思ったさ。えーと、名前は」
「まだ名乗っていませんでしたか?私はイザベラ・ポズウェルです。好きに呼んでくれて構いません」
「じゃあジョースターさんも呼んでいたベラ、で」
「ふふ、じゃあ私はあなたの事をなんてお呼びしたらいい?ポルナレフさん?ポルナレフ?それともジャン?」
「任せるぜ」
「じゃあ、ジャンね。それの方が親しくなった気がしていいから」
「親しくなるのなら敬語も外してもらわなくちゃな」
「確かに、対等じゃないもんね」
「離せ、離しやがれ!このボンクラが~~!!」
「何かあったのかな」
「行ってみようぜ」
「うん」
大声のする方へ向かうとそこには船員に捕まっている子供がいた。
じたばたと暴れる子供は船員に「警察に言う」と言われるとすぐに態度を変え、お願いだから船に乗せてくれと頼む。
だが船員は子供の鼻をちょんとつつき嫌だと言った。乗せられない理由があるとはいえ意地悪だな……。
乗せてくれないと分かると子供は船員の腕を噛み勢いよく海に飛び込んだ。
「おほ〜〜飛び込んだぞ!元気だなぁっ」
「陸まで泳ぐ気か?」
「心配ですね……」
「けっ、ほっときな。泳ぎに自信があるから飛び込んだんだろうよ」
「ま、まずいっスよ!この辺はサメが集まっている海域なんだ」
「嘘でしょ」
ああ、あの子の後ろに大きくて黒い背びれが!このままだと食い殺されてしまう。
「じょ、じょうた……」
私では助けられない。
原作であの子が無事に助けられることなんて知っている。
だがそれは『私がいない』原作だ。私が加わることによって何かが変わり、あの子が食い殺されるようなことがあったら私は……。
承太郎はすぐにあの子の元へ向かいサメを殴り飛ばす。
良かったとほっとしたのも一瞬、別の何かが二人の後ろにゆらりと近寄る。
「承太郎!下だ!か、海面下から何かが襲ってくるぞ!サメではない何かが!!」
「間に合わない、典明くん!」
「任せてください、あの距離なら僕のハイエロファントは届きます」
二人をハイエロファントグリーンで引き上げ、全員子供、女の子から一歩、二歩引く。
私以外今この子を疑っている。
だが、トンチンカンなことを言う女の子に一行の警戒は解ける。
「この女の子かね、密航者というのは」
大柄な男、この船の船長が女の子の肩をガシッと掴み、下の船室に連れていこうとする。
「船長、お聞きしたいのですが船員10名の身元は確かなものでしょうな」
「間違いありませんよ。全員が10年以上この船に乗っているベテランです。ところで!」
船長が承太郎の吸っていたタバコを勢いよく取り上げる。
「甲板での喫煙は御遠慮願おう。君はこの吸殻をどこに捨てるつもりだったんだ?まさかこの美しい海に捨てるつもりだったのかね?」
承太郎の帽子で煙草の火を消す船長
ああ、気に入らない。
灰皿を用意して消せばいいじゃないか。
どうしてそんな小さな女の子を力ずくで連れていこうとする?
きっと本物は、こんな人間じゃないのだろう。
「待ちな、口で言うだけで素直に消すんだよ、大物ぶってカッコつけてんじゃあねえ!このタコ!」
「おい承太郎!船長に対して無礼な態度はやめろ!ベラ、お前もなんとか言ってくれ!」
「……すみませんがジョースターさん、私も承太郎さんに加勢したい気分です」
「なんじゃと!?」
「承知の上の無礼だぜ。たった今分かった、スタンド使いはこいつだ!」
「スタ……ンド??」
どうして敵はこうも分かりやすくすっとぼけるのか。
「ベラ!テニール船長はSPW財団の紹介を通じているんじゃあなかったのか!」
「ええ、確かにSPW財団が紹介した人物です。全員の身元もハッキリしています」
「だったら!」
「ですが、この船長が偽物だったとしたら?」
「ッ!!」
「それに、スタンド使いに共通する見分け方を承太郎さんが発見したようです」
「見分け方?」
「スタンド使いはな、煙草の煙を少しでも吸うと鼻の頭に血管が浮きでる」
女の子以外が鼻の頭を触って確認する。
「嘘だろ承太郎!」
「ああ嘘だぜ」
「でも、マヌケは見つかったようだね。ねえ?船長?」
偽物船長はやってしまったと目を丸くして驚いた。