神速リメイク   作:インパラス

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瞬が1つ上
双子兄が阿含
双子弟が葦人です。


怪物カクセイ

 

 

 

 

 「エスペリオン?へぇ…行けよ瞬」

 

 一通り話を聞いた阿含は、瞬に向かってそう言った。

 

 「…って、あんた。ただいまは?あと瞬お兄様でしょーが不良息子コラ」

 「は?あ"〜」

 

 瞬の前で、弟と母親がガンを飛ばし合う。見慣れた光景だ。間に挟まれている葦人は気にせず、パンフレットに意識を戻している。

 だが、今日は来客がある。瞬は、目をパチクリとさせている福田に謝罪した。

 

 

 「この辺(の女)にも飽きたから、東京行くか」

 

 瞬が2人を宥め、話が再開したと思えば、阿含がそんなことを言った。

 東京に行くことが決まった、と瞬はすんなりと受け入れた。理由といえば、阿含がそう言ったからだ。流石に引越しの経験は無いが、似たようなことは何度もあったため、慣れていると言うべきか。

 

 「は?なに言ってんのよ、あんた。旅行はまだしも引越しなんてそんな簡単に」

 「うっせ、もう決まりだ。ついでにアフロも来いよ」

 「…」

 「おい、カスアフロ」

 

 阿含はパンフレットに集中している葦人の頭に手を突っ込んだ。

 なんやあ!と悲鳴をあげる葦人だったが、瞬から説明を受けると歓喜で叫んだ。うるせえ、と阿含に蹴り飛ばされた。

 

 「阿含、母さんは…」

 

 不安が過る。母が愛媛に1人になってしまうのは駄目だ。

 

 「あ?行くに決まってんだろ」

 

 誰が飯作るんだよ、と阿含は当然のように言った。

 瞬は沸き上がる嬉しさをそのままに、親愛のハグを阿含へと仕掛けた。しかし、当然のごとく神速の反射神経を持つ阿含は捕まらない。

 それでも瞬は嬉しくて笑い続けた。

 

 

 その後、紀子が働くスナックで。

 深夜、客も姿を消し、店内を四月の夜風が熱を冷ましていた。

 カウンターに、並んで2人。戸締りを任された紀子は、最後まで残っていた福田とグラスを合わせた。

 

 「あの、すみません。なんか俺のせいですかね、これ」

 「いや、気にしなくていーですよ。あの子たちいつもあんなだし。瞬も葦人も自慢の息子だけど、阿含はまんま不良で、んでいわゆる天才って子で」

 「はぁ…」

 「なんかいつのまにか大金持ちになってて、旅行とか突然…ほんと突然やけど!連れてくんで、あたしハワイとか変に詳しくなってんです。あはは。あいつキッチリ自分の分の食費だとか、生まれてからの養育費とか言って大金渡してきて…そりゃキレたわよ!ウチはあんたの親だ!って!そしたらあいつなんて言ったと思うか!ああ!?」

 「はぁ…(酔ってるな)」

 「当たり前だろ。俺と言う天才を生んだんだから、一生誇れよババア。…だってさ!あはは!あはは!そうや!わたしはあのバカな天才を産んだんやぞ!わたしの誇り!わたしの3人息子!」

 「(…やべ、俺も大声で笑いたくなってきた。一気に2人だ。しかも、それだけじゃない。もう1人…)ククッ」

 「あははははは!」 

 「はははははは!」

 

 

 

 

 

 

 「青井葦人です、よろしく。サッカーしに来ました」

 

 中学1年、時期は6月。葦人は神奈川の中学校に転校した。東京ではなく神奈川だ。手続きした阿含には当然尋ねたが、うるせえしか返事が返って来なかった。だが、来年には東京に引っ越すらしいので、葦人はそれから特に気にしなかった。懐かしそうに見えたのは、きっと気のせいだ。

 時期外れの転校である。しかも本人が言うところによればサッカーの為に転校してきたと聞こえてくる。ホワイトボードの前で簡潔に挨拶をする葦人に、教室はざわめいていた。

 

 「じゃあみんなから何か青井に質問あるかー?」

 

 担任の言葉に何人かが反応して手を上げる。

 何処から来ただとか、方言しゃべってだとか、葦人は順に答えた。

 他に質問が出なくなった時、最後尾の席の男子生徒が大きく手を挙げた。周りはシーンとなった。

 その生徒は制服を着崩し、リーゼントヘアで固めていた。

 葦人に怯んだ様子はない。もっと柄が悪くタチの悪いのが身内にいるからだ。

 

 「サッカーで来たって、うまいのかよ?おまえ」

 「…下手だけど」

 「は?意味わかんねー…じゃあ、どこでサッカーすんだよ」

 「来年まではチームには入らん。瞬兄と兄貴とサッカーする。来年は、瞬兄がユースに入るから…あっ、て、えーっと…サッカーやるのか?」

 

 葦人は、頭のリーゼントを見ながら言った。

 

 「おうよ!俺はプロになる男だ。当たり前だろ。アシトだっけ、おまえ下手なら俺がサッカー教えてやろうか?」

 「…えっ?あぁ…いや、そのな…」

 「なんだよ、遠慮すんなって。色々教えてやっーーー」

 

 「うっせーカス。いらねえから」

 

 教室に派手な金髪が入ってきた。葦人と正反対の直毛だ。二卵性にしても顔はまるで似ていない。

 

 「おい、アフロ」

 「兄貴、教室違うぞ。隣やないか?」

 「はあ?あー、何言ってんのかな〜このアフロちゃんはぁ〜…俺のやつ持っててんじゃねえ、この鳥頭」

 

 阿含は葦人の手からスクールバッグを奪い取る。

 そのままクラス(の女子)を期待せずに物色する阿含に、葦人は慌てる。

 

 「おっ俺のは!?兄貴!」

 「はっ、知るかよ」

 「えーっ!?なんで持ってきてくれんかったんや…」

 「…」

 「兄貴ぃ…無視せんでやぁ」

 「あ〜、ブスばっか」

 

 阿含は、泣きそうな顔をする葦人を無視して、さっさと自分のクラスに行こうとする。

 しかし、ドアの前に1人の生徒が立ち塞がった。

 リーゼントの男、冨樫だった。

 

 「おい待とうや金髪。誰がカスだって?」

 「カスカス、カス。聞こえねえのかよカス。消えろ」

 「何度も言ってんじゃねえ…上等だ。表出ろやオラァ!」

 

 阿含は葦人へと振り返った。

 

 「アフロお前代わりに行ってこいよ」

 「嫌やあ!」

 

 こんなことは愛媛でもあった。何度も、何度もだ。

 元凶に至っては、逃げ足速くなっただろ?ほら感謝しろよ、なんていう始末だ。

 もう葦人は、こんなとばっちりを受けるのは勘弁だった。

 と、昔を思い出して目のハイライトを消していると、バタンと音がした。現実に戻った葦人が見たのは、白目を剥いて転がるリーゼントと手刀を定位置に戻す阿含の姿だった。

 葦人は、再度ハイライトを消して、現実から目を背けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 船橋中のFW、トリポネ・ルフインは未だかつて無い敵と相対していた。

 技術が突出している、自分に相当するフィジカルがある、否である。

 意味が、わからない。

 今のトリポネは、3年後、代表で前線を駆ける彼ではなかった。故に自分を封じ込める、自分と比べるまでもなくこの小柄な相手の力が理解できなかった。

 なぜ、そんなにも動ける。

 なぜ、そんな的確な指示ができる。

 なぜ、そんな所にいるんだーー。

 わけが、わからない。

 去年、あの試合から、俺はチームのために。

 そう強く望み、仲間たちと勝つべく力をつけてきた。この中学最後の大会も、全国を制覇するつもりで臨んでいた。

 勝てない。

 このチームには、この敵だけではない。突出した敵が、もう2人。

 勝てない。

 

 「すんません」

 「…俺か?」

 

 残り時間は10分を切っている。倒れた選手の治療で試合が中断した。

 周りに声をかけるべく、見回したところで声がかかった。

 

 「そう、あんたや」

 

 青井、葦人。試合前に何度もそのプレーを繰り返し研究した相手が、自分の頭を見つめている。

 

 「頭、いっしょっすね」

 「……あっ、ああ」

 

 何を言うかと思えば、親しみさえ感じる声色でソイツは笑いかけてくる。

 

 「あっ、と、俺が言うのもアレやけど、トリポネさん。あんたもっと周り使った方がいいんじゃないすか?序盤のほう、守りにくさとか全然違うっすよ。戦ってて」

 

 なぜ。

 そう思ったのは一瞬だった。わかる。今日の俺はおかしかった。練習では、これまでの試合では、できていたというのに。

 そして気づいた。違和感に。

 この相手は、チームをコントロールしていても、あくまでも個だということに。その意識に引き摺られていたからこそわかる、歪さ。使われている、使っている、一方からの信頼はあれど、その逆はない。

 自分が全てケアすること前提に、動いていたのだ。

 

 「そしたら、もっと、もっと」

 

 俺は成長できる。

 トリポネは葦人の表情から、その先続いたはずの言葉を感じ取った。

 そうか、と腑に落ちた。

 やはり俺は中てられていた。この相手の、この狂うほどの熱に。

 勝ちたい。

 だが、そうだ。忘れてはならない。

 俺は、チームのために。俺はこの相手とは、青井葦人とは違う。チームが、俺の為に運んでくれるのだから。

 ここからだ。まだ終わっていない。

 

 試合が終わった。負けた。

 だが、なんだろうか。

 整列をする。

 ああ、同じ気持ちだったのか。誰も涙を見せていない。

 力を出しきり、この残り10分で個人として、チームとして船橋は段階を上げたと実感する。

 味わったことのない一体感と高揚感。それと同量の悔しさが割り込むように刺激してくる。

 ああ、ああ、ああーーすばらしい日だった。

 頭は重く、全身の筋が悲鳴を上げている。

 今にでも、言葉を交わし合いたい。練習がしたい。もう1ゲームを。

 疲労は極限にあるというのに、心は対極を求めている。

 

 「トリポネさん、楽しかったっす」

 

 青井葦人が握手を求めてきた。

 そこで俺は初めて彼の顔を見た。

 

 「ーーッ」

 

 なぜ、そんな顔をしているんだ。今にも、倒れそうじゃないか。なぜ、ゲームを最も支配していた人間が、そんな顔をしているんだ。

 

 「あんたみたいな強さの人は、初めてやった。いつか一緒にプレーしましょう、あんたなら…」

 

 そう言って、青井葦人はその場に崩れ落ちた。

 俺は反応できなかった。隣にいた、リーゼント頭がユニフォームを掴んで、倒れるのを阻止した。

 

 「考え過ぎてフラつくことはあったけど…ここまでかよ。クソッ、おまえ、次は負けねえ!」

 

 それから俺は、弟のサミーに声をかけられるまでその場から動けなかった。

 何を、満足していたーー?

 バカな。

 俺はまだやれた。倒れるほど動いていない。思考していない。

 まだ、まだだ。

 もっと、サッカーを。

 

 

 8月。

 無名の市立中学が中総体を制したというニュースが、少なからず知れ渡った。朝の情報番組にも尺は短いが取り上げられるほど。

 数名のリーゼント、アフロ、金髪というその派手な外見でも目立ったが、異才を放った3人が大きく取り上げられた。

 試合終了間際、対峙したDFは言った。

 ゴーストを見た。

 対峙するチームの戦術は限定された。

 右は攻めるべからず。

 最後尾と中央でプレーする姿に、選手、指導者、観客、誰もが感じた。

 神に、愛されている。

 青井瞬、青井葦人、そして青井阿含。

 1年後、2年後、彼らを手に入れんと、ユースや高校が動き出した。

 しかし、ある事実が知れ渡ってから。そのスカウト合戦は途端に終息した。

 

 

 

 「アシトォ!テメエ、どういうことだよ!」

 「なんが」

 

 10月。この中学校初の快挙を達成したサッカー部は新チームとなり、新人戦へと臨んでいた。

 9月にはUー15の招集があり、瞬と阿含と葦人はそのメンバーに選ばれたが、これを辞退。体力的、時期的なもので断念が長男。私用があったのだから仕方ない、つーか面倒いというのが次男。瞬兄と兄貴行かないならというのは、末っ子。

 新チームのキャプテンは、リーゼントの長、長田である。同年代は勿論、冨樫を初めとした後輩からも人望は厚く、1人をを除いて既にチームをまとめ上げていた。

 葦人に詰め寄る冨樫に、部員の視線が集まる。が、別に珍しいことではない。それは初めの方こそ殺伐としたものがあったが、今では気安い雰囲気だ。各々も練習の準備に戻っていった。

 長田はふと4ヶ月前のこと考える。しかし途端に身体中に鋭い痛みが走ったので、思考を中断した。

 

 「お前が、エスペリオンの福田さんの息子ってマジかよ」

 「オカンと結婚してた。俺も先週聞いた…」

 「はあ?」

 「なんか夏に籍は入れてたらしいんや…」

 「お、おう」

 「オカンに聞いたら、サッカーで忙しそうだったし、あとで言おうと思ってたら忘れていたって…オッチャンよくウチに来るんやなって思ってたんや」

 「…あー、なんつーか」

 「赤ん坊おるらしい。女の子やって」

 「マジかよ!!」

 「あ、兄貴と同じ反応や」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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