メイプルちゃん撃破&実績『枯れ木』獲得RTA   作:東雲 夕凪

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 お納めください。




防御特化と■■■。

「メイプルはどんなスキルにしたの?」

 

 第二回イベントを終え、報酬も受け取って一息ついた後。私、メイプルは親友であるサリーとスキルについて話していた。

 

「ちゃんと使えるか分からないやつかな」

 

「えっ?」

 

 シロップと一緒に空を飛ぶ。

 

 報酬のスキルはそのためだけに取ったから、本当にどんな結果になるか分からない。

 もしかしたら意味がない可能性もある。けどその時はその時だ。新たな使い方を考えるのもいいかもしれない。

 

「またメイプルらしいというか…」

 

「まあね!サリーはこれからどうする?一緒にスキルの確認する?」

 

「あー…いや、一回ログアウトするつもり」

 

「そっか。…明日は学校かぁ。なんだか久しぶりな感じ」

 

 体育の授業もあるし、早く明日の用意をしたほうがいいはず。サリーと別れ、頭に地図を思い浮かべながら立ち上がった。

 目的地は【超加速】が手に入る森。なるべく目立たない場所で確認したいし、イベント直後の今ならあそこが最適だろう。

 

 新たなスキルに胸を踊らせながら、私はシロップを連れて町を出る。

 

「?」

 

 ぷつり、と僅かに視線を感じて振り向いた。けれど私の視界には、イベントを終えた他のプレイヤーやNPC、変わらない青空だけしか映らない。

 ゲーム内とはいえ一週間ベッドで寝ていないし、疲れて勘違いすることもあるだろう。そう考えて特に気にせず歩いていく。

 

「成功するといいね、シロップ!」

 

 鼻歌交じりの私とは対象的に、シロップの顔は不安げだった。

 

 

 

 

「よっ!シロップ、【噛みつき】からの…【毒竜】!!」

 

 巨大な蜘蛛を盾で消し飛ばし、カブトムシへ噛みつきを当てて【毒竜】で突っ込んできた蜻蛉を倒す。

 

「ふふ〜ん!ナイス連携!」

 

 この森の敵はシロップに丁度良いようで、移動しながら効率的に連携の練習ができた。サリーも誘ってまた来ようかな。

 

「ちょっと!?わ、くすぐったい…」

 

 たまに地中から来る根を切払い進んでいくと、ようやく開けた場所に出た。

 直径25m程の円形の広場で、学校の校庭よりは狭いけどスキルの確認には十分な広さだ。

 

 

「よし…いくよシロップ!【巨大化】!!」

 

 広場の中心に立つ私の声と共に、発光したシロップが急速に膨らんでいく。その勢いは私の背丈を超えて尚止まらず、遂には体高がビル一階分にまでなっていた。

 これがシロップがイベント中に手に入れたスキル。的を大きくする代わりにHPをニ倍にするもので、スピードの遅いシロップだと()()()()使い辛いスキルだ。

 

「からの…【念力】!」

 

 なら、別の見方で活かす。賭けに勝つよう祈りながら、カッと目を見開き名を叫ぶ。

 

 その瞬間、僅かに身動ぎをしたシロップが10m程浮かび上がった。

 

 ダンプカーに匹敵する巨体が、重力を無視する光景はまさしく非現実的で(ゲーム的で)。だがしっかりと、私が賭けに勝ったことを証明していた。

 

「は、はは……やっったぁぁぁぁああ!!!!」

 

 成功だ。嬉しさの余り、飛び跳ねながらシロップの首へと抱きついてしまった。しかも

 

「あれ、もしかして…MP減ってない!?」

 

さらなる朗報。【念力】は抵抗確率によって消費するMPが決まるから、私に対し無抵抗な相手へ使えば何も消費しないですむのだ。

 

 これなら思う存分空を飛べる。空を浮くのが怖いのか、不安そうなままのシロップに笑いかけ甲羅に跨がった。

 

「行こっか」

 

 嵩張る盾を仕舞い、いざ空の旅へ―――

 

 

 

 

「あ、あのー!」

「へぁ?」

 

――と、シロップを更に浮かばせようとした瞬間。

 

 泣きそうな顔の女の子が、話しかけて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()と名乗った、年下らしきその子はひどく憔悴していた。濡れ羽色の髪は荒れ、涙の溜まった瞳は不規則に揺れている。

 なんでも、運良く手に入れたスキルを試したらこの森に転移してしまったらしい。始めたばかりで殆どの敵と戦えず、帰り道を探して気付けばここに着いていたそうだ。

 

「そっか…じゃあ、一緒に町に戻らない?私も丁度帰るところなんだ!」

 

 安心させるように笑いかけつつ提案する。【念力】のテストは出来たから、もう町に戻ってもいい頃合いだ。

 

「あ…いいんですか(スタンフィスト)?」

 

 何故か声がダブって聞こえた。

 …バグだろうか。ともかくここで置いていく選択肢なんて無い。どうせだから空を飛んで戻るのもいいだろう。

 小さくしていたシロップを再度【巨大化】させ、ホシモちゃんに向き直り()()を差し出す。

 

「もちろん!」

 

 私の言葉を聞いて、ようやくホシモちゃんが笑顔を見せた。

 

「ありがとうございます」

 

 そのまま、私の手を握って――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――次の瞬間、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「ぁえ?」

 

 突然に、効率化を極めた衝撃が、脳を撹拌する。

 痛みはない。意識の隙間に、全身が落ちていくような感覚だけがある。

 

「【超加速】【コークスクリュー】」

 

 もう一度回転。サリーが使っていたのと同じスキル名が唱えられ、今度は上に九十度。

 

「  っ  」

 

 暗転。

 

 眠るときのような抗えない脱力感が、排水口へと流すみたいに意識を奪い去っていく。

 

 時間にしてはきっと一瞬。

 

 けれどそこで()()が確定した。

 

 

 

 

「――ひ、ぃきゅ!??」

 

 潰れた音が空間へ抜け、視界を起こす。

 

 かくりかくりと、下手な人形劇みたいに振り回されていた景色が、今度は端から白んでいく。

 

 首への圧迫感。

 

 思考が追いつかない。

 

 敵だ。

 

 そういえばスキルが使える敵なんていたっけな。廻りすぎて宙ぶらりんの思考が、場違いな疑問を抱く。

 

 とにかくホシモちゃんを助けなきゃ。

 

【闇夜の写】を構えようと、体

               に    

              力

 

                  を

        込

          

 

            め

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が浮上した。

 

 

『【ウォーターボール】』

 

 

 フィルター越しの、撓んだ声が響く。

 

 

 聴いたことのある響き方。たとえば、そう。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 

―――待って

「…!?」

 

 思わず吸った息が、生温い流動を帯びていた。

 追いつこうと藻掻く思考が鈍痛に止まる。

 

 え、と疑問を発しようとして、口から出たのは似ても似つかないくぐもった音。

 

 世界が滲む。

 気泡が爆ぜる。

 ようやく、理解する。

 

「ぼ、ぁ」

 

 薄緑が目を刺す。沈む。溺れる。

 肺を舐めとる痛みが、脳を再稼働させた。

 

 水だ。

 水が、私の顔を包んでいる。

 

「っ、ぇぼ、う?!」

 

 頭が絞まる。違う、首だ。首も絞まってる。

 

 紐のような圧迫感を払おうと体を動かして、さらに全身を縛られていることに気付いた。

 目線が上がってる。重い、熱い、痛い。

 

 息が足りてない。窒息してるんだ。

 

 吸った、痛い、止めた、痛い、動けない。

 

 訳が分からず、ただ世界が遠ざかっていく。

 でも、痛みだけは、変わらず内から私を殺す。

 

 HPがジワジワ減っている。

 ずっと痛い。嫌だ、分かんない。

 

 空気が欲しいと喉を開け、肺が泣き喚く。

 苦しいと体を動かして、縄がそれを阻害する。

 熱い、痛い、分かんない、死んじゃう。

 

 気泡の破裂が反響し、カウントダウンのように溶けていく。出処は私、止まらない。

 止まって、待って、まって、いたい、こわい、とじて、とまって、とまんない、なんで?

 

 理沙(うそ)耳鳴り(いやだ)きらきら(たすけて)抜けていく(ながれこむ)

 

 ぷつりと、音がする。

 HPが尽きかけ、耐えて、尽きる。

 

 全部消えていく、流れていく。

 

 

 理沙がいない。

 

 

 

 

 

 

     『貴女は死亡しました』

 

     『異常な心拍数を検知』

 

     『緊急ログアウトの実行』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ぁ、あ、れ?」

 

 暗転し、自室の天井が目に映る。

 

 現実への帰還を認識し、欠損が割って入る。

 

 どうして、息が、分からない。

 

 空気を吸おうとして、水が邪魔をする。

 パクパクと口が開閉し、それ以上に進まない。

 動かない。動けない。

 

 水が入る、眩む、絞まる、沈む。

 終わらない。

 

 脳が、無駄なフラッシュバックを起こす。

 

 息が止まる。滲む。

 

「や、たすけ、りさ」

 

 思い出して、怖くなる。

 

 また溺れる。

 

 痛む。

 

 

 

 

 痛いのが、怖くなる。

 

 

 

 

 

 

 




 こっから更に病むってマジ?地獄やん。
 アンケートの選択肢は、三番目を例に挙げると、"PTSDかつ嘔吐かつ幼児退行"という意味合いです。
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