メイプルちゃん撃破&実績『枯れ木』獲得RTA 作:東雲 夕凪
エクストリームお待たせ。
今まで"楓から見た理沙"しか書いてないよねっていう。
時系列的には『防御特化と■■■』のすぐ後です。
「は、え?」
人間、本当に凄いものを見ると言葉が出ないんだな。
一周回って冷静になった思考がそう零す。
メリットないじゃん、とゲーマーとしての損得勘定で困惑する。
そもそも出来るんだ、と確認をサボっていたが故に驚愕する。
そして、なんだこの人、と。
機械的と呼べるほど鮮やかに
「かえで」
まさか、
手にあったスマホが床へと落ちた。
それを受け止めることなく、最終的に私はただ呆然としていた。
画面にはスレッドが表示され、ある動画を再生し続けていた。
543名前:名無し
ざまぁwwww
っ【リンク】
544名前:名無しの槍使い
は?
545名前:名無しの大盾使い
え?
546名前:名無しの大剣使い
こマ??
547名前:名無しの魔法使い
草わね
548名前:名無しの槍使い
なにわろてんねん
549名前:名無しの弓使い
いやまって
550名前:名無しの大盾使い
メイプルちゃん倒せんの!?
◇
ぴぴ、ぴぴと鶏の雛に似たアラームが意識を引き上げる。
気持ちよくない音に何度か身を捩らせた後、べしりと時計を叩き目を瞬かせる。日光が視界を焼いて、やっと朝が来たことを理解した。
神絵師、アプデ情報、過激派bot。充電切れ間近のスマホを開いて、ツイートを流し見ながらゆっくりと体を起こす。
「……うるさ」
ピロンと大きな通知音。顔を顰めながら机に散らばるノートを仕舞いLINEを確認すると、爆音の原因は楓だと分かった。体育があるとは昨日話したし、何か他にあったっけな。
「んぇ?」
一緒に、学校に、行かないか。
かなり唐突、というか初めてのお誘いを私は取り敢えず受け入れた。ついでにテストとか無いか聞いとこう。えっ世界史と英単語?私はスマホを投げ捨てた。何も見てないです。
これぞ悪足掻だとばかりにプリントを眺めながら朝食を食べ、着替えたら学校へ。集合場所決めてないけど良いだろう。
どうせ公園か交差点に居るはずだし。そんなことを考えながら、誰も居ない家に挨拶し玄関を出て――
「あっ、その……おはよう!」
「うえぇ?」
――正面には既に楓が立っていた。心底
えっ何があったの?
「―――だから、最後に一緒に、夕陽見に行かない?」
登校しながら、ひどく辛そうに、申し訳なさそうに発された楓の言葉を要約すると、「変なのにまた襲われるのが怖いので引退します、最後にエモいことしないか」だ。
分かった、と二つ返事で受け入れる。受け入れて、咀嚼して、飲み込みきれずに心の中で首を捻った。何か引っかかるんだよね。
至極当然な話だが、ゲームをする上で、起きた出来事をどう感じるかは個人差がある。その中でもゲーム内の出来事で"精神的ダメージ"を受ける人はそれなりにいるわけで、偶々楓はそういうタイプだったんだろう。
昨日撮影されたらしいあの動画は、きっと
大概のゲームがコンシューマ式でなくなった昨今、プレイ中のゲーム的な死による心的外傷問題はよく騒がれている。
ニュースで聞くような話題が楓に発生した。当人の心境は測れないが、隈のある―つまり眠れてない―ということはかなりの恐怖を憶えたに違いない。怖くて引退するのは、自然な反応だ。
私が引っかかっているのは引退云々の後。「一緒に夕陽が見たい」についてだ。
昨日私と別れる直前まであんなに楽しんでいたゲームで、引退を即決するほど心に傷を負った。負った原因も、起きた理由も分かってないようだし怖くてイン出来ない方が自然なはず。
じゃ、なんで。
教室に入って、席で他の友達と喋る間もずっと首を捻ったままだった。
楓の表情から推測するに割と"ガチ"っぽいからね。不味い、けどもう一杯!とかそんな軽いノリではないし、本当になんで行くんだろ。
脳裏に生えてきた宇宙猫を押し戻しながら、結局分からず終いで思考を閉じた。
取り敢えず、ホームルームが始まる。
◇
休み時間になった。
雑に礼をしたら次の授業の用意をしていく。
五賢帝の名前を脳に刷り込みながらふと視界を動かすと、クラスのみんなが立ち歩いている中、一人席でじっとしている楓の姿が目に入った。
「かーえで!」
楓の視線の先には金魚の水槽があって、そこを通った日光と少し繁殖した藻で
朝同様元気が無さそうだから、励ましを込めて後ろから抱きつく。べんきょうしなくていいのかおらー!
と、そうしたら。
がくん、と仰け反った楓の顔が見えた。
ぽかんとしてて、何かを辿るように視線が動いて。
そして、くるりと目が私に向いた。
瞳孔がきゅうと縮んだ。
くしゃくしゃになったその顔を見て、やば、と離れる暇もなく。
「―――い、ひ、やぁあ!!?」
楓が思いっきり飛退いた。
机同士のぶつかり合う、がたんがたんという鈍い音が、教室に響いた。
しん、と騒がしさが途切れる。
クラスの視線が私と楓に集まる。
「あ、え?あ、や、さり、うそ、ちが」
そんなビビる?と皆と同様に困惑した視線を楓に向けると、収束地点たる楓は怯えた様子で固まっていた。
ひゅうひゅうと呼吸を細めて、ぼろぼろと言葉を洩らす様は脅かされたにしては随分大袈裟に見える。
まるで、
「えっ……ちょ、大丈夫?」
「ちがう、さりー、たすけて、どこ、やだ、ひ、あ、やだ、やだ」
やだ、はこっちの台詞なんですけど。
刺さる視線が強まっていく。私なんにもしてないからね?ただ抱きつこうとしただけだからね?睨みつけてくるリーダー格の女子に肩を竦めながら、反応を飲み下しつつ再度目線を楓に合わせた。
「やだ、ひ、っ、まって、来ないで」
拒否られた。何なん楓?といよいよ苛立ちを憶えて、合わせた目線を時計に向ける。ほらこんな事してる間に休み時間終わるんだけど。新手の
「あー、びっくりさせちゃってごめんね」
やばかったら保健室行ってね、と言外に責任を投げ捨ててその場を離れようとする。
「……なに?」
離れようとした、失敗した。楓の両手が私に縋りついてきて、出した足を留めざるを得なくなった。
偉いぞ私の舌。よくぞ舌打ちを止めてくれた。いくら親友相手でもウザく感じることはある。驚かせたのは申し訳ないと心から思ってるけど、それはそうと何時までもダル絡みされて嬉しいわけじゃない。
時間やばいんだ、と再度振り払おうと楓の顔を見て、言葉が詰まる。心配が苛立ちを上回る。
「ごめんなさい、まって、いかないで、ちがう、から」
より細くなった呼吸、涙を流して腫れた目、"必死な"という形容動詞を当てはめたような表情が、私を引き止めていた。
目充血してるし、汗酷いし、息荒いし、なんか自分の喉掴んでるし。
本当になんなんだ。もはや怖いんですけど。
授業開始のチャイムが鳴って皆が席に着いていく。いつの間にか来ていた先生へ授業に遅れる旨を伝え、私は楓を連れて保健室へと向かった。
ゲーム誘わなきゃよかったかな。
廊下を歩きながら、朝みたいに
PKされたせいでこんな風になったんだろうけど、まさかこれ程影響があるとは。
遊ぶ相手は吟味しなさい、そう言っていた母親に、今だけは同意したかった。
◇
人生最高、未来最高、現実最高。
「……現実
流行りの漫画に合わせて言葉を吐いたが、この屑みたいな気分が晴れてくれることはなかった。
あの後楓は早退して、世界史のテストをすっぽかして、英単語は追試になって。
水を混ぜすぎたような色合いの夕暮れの下、私は一人家に帰っている。
いや本当に、今日だけで何回楓にキレたんだろうか。
なんか過呼吸になって倒れるし、絡み方はダルいし。教室に戻ったら頭おかしい奴を見る目で見られるし。
おかしいのは楓の反応で、どちらかといったら私は被害者に位置するだろうに。
ま、倒れる原因は私が作ったんですけど。
「ただいま」
家に着いてドアを開ける。
残念ながら親は帰って来ているようなので足早にシャワーを浴びて仮眠をとることにした。
「ちょっと、帰ってきてたの理沙」
その前に明日の用意をしておこう。
数Ⅱ日本史化学英会話。どれだけ荷物を軽く出来るか挑戦している現在、中々に楽な時間割と言えるだろう。
「ねぇ挨拶聞こえなかったんだけど」
失敗した。学校に弁当箱置いてきてしまった。
私の席は日当たりがいいから、もしかしたら中身が腐るかもしれない。
「ねぇ!満足に挨拶もできないわけ!?」
「……バイト行ってきます」
うるさいな。娘の挨拶一つ聞き取れないそっちに問題があるでしょ。予定変更、舌打ちをぶつけられ汚く顔を歪める母親の横を通り抜けた。シフトまで間があるし、ファミレスで時間をつぶそうか。
「そんなんだからテスト悪かったんじゃないの!?なんとか言いなさいよ!」
母親面しないで欲しい。
◇
バイトを終え、帰ってきた。
テーブルに座っているのは、私、母親、久しぶりに会う父親。
随分と険しい表情で、私を見ている。
「どういうこと?」
知らないよ。そう言われ、ついに溢れた怒りを机を叩いて鎮めた母親が、繰り返すように唸る。
「
衝撃で床へと落下した電話から、録音が再生される。
目の前同様、憤慨した声色のそれ。
皆が言う。
そこまで反応する必要があるのか。
そんな大袈裟にする必要があるのか。
「―――意味わかんない」
付いてけない。
心底、楓と楓をキルした少女を恨んでしまう。
こんな事になるならいっそ。
NWOになんて誘わなければよかった。
あくまでも次話の為の前置きです。
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