IS - 女装男子をお母さんに - 改訂版   作:ねをんゆう

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18 鈴ちゃんの勘違い!1つ目☆

side鈴音

 

私、凰鈴音と言えば現在の中国IS界隈において将来を期待される有望な代表候補生である。

恐らく中国のISファンの中では知らないものはいないだろう。

 

ちなみに実際にその影響力は凄まじい。

具体的には想い人がIS適性があると判明するや否や、事前に断って既に他の人間が当てられていたはずのIS学園入学の権利を、直前になって奪い取るなどという暴挙を行なってもお咎めが無いほどにだ。

 

もちろん、この辺りには私が世界唯一の男性操縦者が非常に近しい関係であり、あわよくば私と彼が、その、けけけ結婚?して?中国側に引き込んでくれるんじゃないかという打算もあるのだろう。

 

それでもそこにはたった一年半でここまで上り詰めた自分に対する評価も確かにあり、最新の専用機を与えられただけでなく、援助だって他の候補生の比じゃないレベルで出ている。

そんなこともあって、私は今の自分が間違いなく彼の隣に立つに相応しい人間になれていると自負していた。

 

……ただ、もちろんそんな私のことをよく思わない人間だっている。

例えば私が無理矢理奪った入学の権利、この辺りの処理を行っていた事務の人間にとっては傍迷惑もいいところだろう。

むしろ余計な仕事が増えて恨んでいたって不思議ではない。

そのせいなのか何なのか、私の手元にある指示書は非常に雑なことになっていた。

 

 

 

【事務行け】

 

 

 

「分かるかぁぁぁ!!!!」

 

酷い、酷すぎるにも程がある。

というか純度100%の嫌がらせである。

 

私だって自分の行ったことがただのワガママであり、多くの人に迷惑をかけてしまったことは分かっている。

色々な書類を準備して手渡してくれたあの女性が目の下にクマを作って恨めしそうに私を見ていたのも、目を逸らしていたけど気付いてはいた。

 

だが!だからと言って!大袈裟に作られた指示書の内容が4文字って!もう少し何かあるだろう!

 

例えば「織斑一夏に近づけ」とか!

 

「織斑一夏と仲良くしろ」とか!

 

「織斑一夏と結婚しろ」とか!

 

一応これ任務よね!?

 

夜の8時という絶妙に嫌な時間にIS学園に到着するよう仕組まれた飛行機然り、出国を直前まで知らされなかったこと然り、付き人やガイドすら検討されなかった件然り、こんなことなら素直に最初にIS学園入学を提示された時に従っておけばよかったと心から思う。

何で意地張って1回目断っちゃったかな……

 

「ま、沈んでても仕方ないか」

 

校門を眠そうな警備員さんに通してもらい、当てもなく校内を彷徨い歩く。

『事務室はどこですか?』『あの辺』

という凄く面倒そうに対応してくれた警備員の彼女については後で絶対に学校側に報告してやることとして、とりあえずは教師か生徒を見つけて教えてもらわねばならない。

しかし、時間帯故にか門の周辺から玄関にかけて全く人気を感じない。

人の居ない夜の学校というのは灯りがついていても不気味なものであり、若干キョロキョロしながらも廊下を歩いていく。

 

暫く途方に暮れて歩いていると、前方から2人の女子生徒が歩いてくることに気がついた。

2人とも小さなダンボール箱を抱えており、荷物運びの最中なのだろう。

リボンの色からしてどうやら自分と同じ1年生らしく、不幸中の幸いとはこのことか。

遠目から見ても2人が話しかけやすそうな人達であることも分かり、私は久しぶりに天に感謝した。

捨てるものもあれば拾うものもいるのだと、彼女達に小走りで近付いていく。

 

(……それにしても、2人とも妙に美人過ぎない?)

 

そんな彼女達に近付くにつれて、まず目に留まったのは2人の容姿だった。

どちらも黒髪黒眼の純日本人らしい容姿をしているのだが、その整い具合が半端ではない。

黒髪黒眼の美人と言えば想い人の姉が思い浮かぶが、この2人もそれに負けず劣らずというレベルだ。

もっと言えば片側のポニーテールの少女が纏っている剣のような雰囲気はその女性によく似ている。

だが一方で、もう片方の女性はそれとは対照的に非常に優しげな雰囲気を纏っていた。

彼女は自分と同じ年齢だと思えないほどに落ち着いており、その仕草一つとっても女としての格の違いを見せつけられている様に感じる。

 

……そして問題なのは、そのスタイルだ!

 

なんだその胸は!

なんだその身長は!

私をバカにしているのか!!

 

千冬さん似のポニテの少女は所謂巨乳、というかもう爆乳と言ってぶっ叩いてやりたい。制服の下からでもこれでもかと自分を主張し、ダンボール箱の上で踏ん反り返っているのだ。あれに比べれば微妙にしか存在しない自分の胸など、最早無いも等しいようなものである。

……いや、だれが小さ過ぎるので無視しても良いだ!数学か!!

 

一方で隣の優しげな女性は胸自体はそこまで大きくはない(それでも私の相手ではない!怒)。

しかしその代わりに彼女には身長がある。

恐らく165近くはあるだろう。

モデル体型っていうのはこういうことを言うんですか?

そうなんですか?

ほんとのモデル体型を目指すならその胸くらい私に寄越せよ!!

なんで胸も身長もどっちもあるんだ!

ふざけんな!!

 

容姿という点においては自分だって整っている方だとは思っている。

身長と胸に関してはどう頑張ってもどうにもなってくれないが、それでも肌や髪の手入れは怠らず、いつ彼に顔を見せても恥ずかしくないようにはしている。

どうしようもできない部分もあるが、自分なりに出来る努力は続けてきているつもりだ。

 

……だが!もしもこの学園の女子生徒の平均が彼女達レベルならば、私はこれから一体どうすればいいのか!?IS学園には美人が多いって聞いていたけど、誰もここまでとは思ってなかったんですけど!?

こんな場所で一夏を勝ち取るとか難易度高過ぎない!?

もう心折れそう!

 

「む?見ない顔だな、転入生か?」

 

「どうでしょう、なんらかの事情で遅れて入学してきた方かもしれません。どうやら困っていらっしゃるご様子ですし、お手伝いしましょうか」

 

「ふむ、そうだな。一夏のパーティまではまだ少し時間があるし、問題は無かろう」

 

私の心折係数がどんどん上昇していく。

え?しかもこの2人、一夏の知り合いなの?

それに呼び方からして結構仲の良いレベルの人間じゃない?

どうせ2人もまた一夏が無意識に落としてしまった女性達の1人なのだろうけれど……

え、ちょっと待ってよ。

もしかして私、本当にこれからこいつ等と一夏を争うの?

見知らぬ女にも救いの手を差し伸べてくれるような内外両美人共に?

私の幼馴染アドバンテージ息してる?大丈夫?

 

「ええと、どうかなさいましたか?とても深刻な顔をなさっていますが」

 

「ええ、大丈夫よ……」

 

「本当に大丈夫か?顔が真っ青で少し涙目になっているが」

 

「大丈夫、問題ないわ。少し辛い現実に直面してしまっただけだから……」

 

優しくされるだけで辛い。

初めての経験よ、人に対して汚い部分を求めるのは。

少しくらい腹黒い所を見せなさいよ、希望を見せなさいよ。

美人は性格がブス、みたいな希望のある話を私に頂戴よ。

 

「ええとね。実は私、今日遅れて入学してきたんだけど、事務室がどこにあるか分からないのよ。よかったら教えてくれないかしら?」

 

「なるほど、事務室ですか。う〜ん、ここからだと少し遠いですね。意外と分かりにくい場所にありますし……」

 

「あ!別に忙しいならいいのよ!?他の人に聞けばいいことだし!」

 

「いえ、そういう訳には参りません。困っている方を見過ごすことなんてできませんし、なによりそろそろ事務室が閉まってしまう時間です。……箒さん、私が箒さんの分の荷物も持っていきますので、案内をお願いできないでしょうか?」

 

「いや、荷物は私が持って行こう。かあさ、綾崎は彼女を案内してあげて欲しい。こういうことに関しては私よりも適任だと思うからな、私では会話を広げられる自信が無い」

 

「……分かりました、重い物を押し付けてしまってごめんなさいね」

 

「ふふ、私と綾崎の仲だろう、そうよそよそしくするな。それに、これでも鍛えているんだ、適材適所だと思って行ってくれ」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

なによこのイイコ達っ……!!

ちょっと性格良過ぎるんじゃないの!?

普通は一夏を狙ってる女の子達ってもっとギスギスしてるものじゃん!

表ではニコニコしてても裏で唾吐いてるような奴ばっかじゃん!

なんでこんなキラキラ輝いてるの!?

薄暗い所探してるこっちが辛くなるんだけど!?

 

(はっ!まさか、一夏と触れ合っても一夏に惚れることのない特別種!?いや、でもそんなことありえるの!?けどこの2人の信頼関係は友人同士のそれじゃないし、もしかして同性愛者という可能性も?同性愛者に一夏って効くのかしら?でもそうじゃないと説明がつかないし……)

 

同じ想い人を取り合っているのに、これほどの信頼関係を保てるはずがない。

ならば2人は実はそういう関係で、私のライバルではないのでは?

そんな僅かな期待によって私の思考はあらぬ方向へと飛んでいく

そして、そんな私の思考も、次に放たれたポニーテールの少女の言葉によって、更に銀河の彼方まで吹き飛ばされることとなった。

 

「それでは任せた。私は一足先にパーティ会場で待っているから、あまり遅れないように来るんだぞ?"母さん"」

 

 

 

【母さん】

 

 

 

 

『母さん』

 

 

[母さん]

 

 

「母さん」

 

 

母さん

 

 

かあさん

 

 

 かあさん?

 

 

「…………かっ!?かかっ!?か、か、かぁっ!?」

 

あまりの衝撃に「か」しか言うことができなくなってしまった私を置いて、ポニーテールの少女はどんどんと遠ざかっていく。

何かの間違いではないかと「母さん」と呼ばれた優しげな女性の方を振り向くが、彼女もそう呼ばれるのが当然であるかのように微笑みながらヒラヒラと手を振っていた。

 

(え!?親子!?この2人親子なの!?何歳差の親子なのよ!?というかほんとに親子ならそもそも同じ学年の同じ学校に通ってるって時点で絶対おかしいでしょ!?事情!?そこには深い事情があるの!?もしかして隠してる感じだったの!?)

 

もしそうならば、とんでもない事実である。

仮に本当に母親ならば、常識的に考えて恐らく隣にいるこの女性はせいぜい30代前半くらいなのは間違いない。

きっと極端に若く見えるタイプの女性なのだろう。

 

ポニテの子が時々彼女の名前を呼ぶ時に何故か少し躊躇う姿勢があったのは、親子だということがバレないように、慣れない言葉遣いをしていたから?

 

……はっ!でもそう考えてみれば、この2人の容姿が揃って美人であることも、友人とは違う雰囲気で仲がいいのも当然ではないか!

この人が同年齢の誰と比べても異様なくらいに包容力を醸し出しているのも、一児の母というならば納得できる!

こんな人の下で育ったのなら、あれくらい良い子になるのも必然だ!

 

なんということなの、どんどんパズルのピースが埋まっていくじゃない。

恐らく2人はさっき私の前で『母さん』と呼んでしまったことに気付いていないはず、このことはまだ私しか知らない。

 

私の想像(妄想)だと、ポニテの子は一夏に惚れていて、お母さんの方はそれを応援している立場のはず。そう考えればこの弱みはポニテの子という強力なライバルを引き摺り下ろすのにうってつけだ。

 

(……でも、そんなことできるはずないじゃない)

 

そうだ、きっと身分を隠して学園に通っているのにも相応の理由があるはず。

色々と大変なことがあるのは簡単に想像できるが、それでもこの2人は今現在楽しく生活ができているのだ。先ほどのやりとりを見ていれば彼女達がどれほど今の生活を大切に思い、楽しく思っているのかは私でも分かる。2人の境遇を考えれば、その今を破壊することなど到底できやしない。

 

(それになにより……!)

 

こんな良い人たちを陥れるなんて、私が許しても一夏が許さない!

私は一夏の横に立つ人間になると決めた、だったら彼に対して後ろめたい思いをするようなことは絶対にできない。

彼に報告して、胸を張れるような生活をしなければならないのだ!

 

(だから!)

 

「大丈夫よ、あなた達2人のことは、私がしっかり守るから」

 

「………?」

 

2人の真実をバラすことなんて絶対にしない。

それどころか、見知らぬ私を助けてくれた優しい彼女達を今度は私が助ける番だ。

彼女達の真実が明るみに出ないように、微力ではあるが努力をしよう。

私は言葉と共に、彼女達と想い人である一夏に対して誓った。

 

 

凰鈴音はこうして盛大な勘違いを抱えたままIS学園での生活を送っていくことになる。

真実を知ることになるのは、まだ遠い先の話……

 




おまけ

「遅れてしまって申し訳あ……織斑君が吊るされてる!?」

「ああ、綾崎さん……」

「む、母さんか。すまなかったな、押し付けてしまって」

「言ってる場合ですか!ど、どうしたんですか織斑君!?そんな風に抵抗もせずに吊るされて……恥ずかしくないんですか!?」

「え?これ心配されてるんだよな?俺罵倒されてる訳じゃ無いよな?」

「何を母さんに罵倒されて喜んでいる、一夏」

「最低ですわ、お母様に近付かないで頂けます?」

「いや、近付こうにも吊るされて動けないんだけど」

「あの、これ大丈夫なんですよね?」

「なに、暴力は振るっていない。身体にも負担の掛からない結び方をしている」

「ええ、その点については私が保証いたしますわ。見かけは少々滑稽ですが」

「見ないでくれ綾崎さん……こんな俺を見ないでくれ……」

「ええと……その、どうしてこんなことに?今日は織斑君を祝う日ではなかったんですか?」

「ああ、最初はそのつもりだったのだがな。ここに来て一夏が罪を犯していたことが判明した」

「ああ、可哀想なお母様。誰にも相談する事が出来ず、辛い1日をお過ごしになられていたのですわね」

「心の底からすいませんでした……」

「え?」

「母さん、別に隠さなくてもいい。一夏に着替えを見られたのだろう?わざわざ女子生徒からも見られない様に場所を移したというのに」

「え、あ……!」

「やはり本当の話だったのだな」

「いや、その、ほんと、すいません……」

「で、でもあれは!織斑君も急いでいましたし!偶然みたいなものでしたから!」

「偶然ならば何もかも許されるという訳にはいかないだろう。確認もせずあの場所を勧めたセシリアも悪いが、授業3分前になっても更衣室にすら入っていなかった一夏のフォローは絶対に出来ん」

「いえあの、私はそういう理由も考えて教員用の更衣室の方をお母様に紹介しましたので、そもそも更衣室を間違えて入った一夏さんが悪いですわ。仮に他の先生方が着替えをしていたらどうするつもりだったのか……」

「というか、女子生徒が大半を占めるこの学校において、例え空だと分かっていたとしても、更衣室に入る際に中に誰か居る事を想定しないのは、あまりにも危機感が薄いのではないか?」

「正論過ぎてぐうの音も出ねぇ……」

「いえ、あの、ほんとに!そんなに大袈裟にしなくても大丈夫ですから!もう許してあげましょう?ね?私も気にして無いですし!」

「……母さんがそこまで言うのならば」

「とりあえず一夏さんの記憶を全て消してから解放しましょうか?」

「お願いします……」

「無理ですから!死んじゃいますから!織斑くんもなにされるがままにされてるんですか!少しは抵抗して下さいよ!!」

「駄目だ……普段物覚えの悪いこの頭も、どうしてかあの時の光景だけは鮮明に覚えてるんだ……消してくれ、誰でもいいから消してくれ……」

「誰でもいいから止めて下さいー!誰かー!誰か助けて下さいー!!」

真面目過ぎる人間達が集まると、まあこう言ったこともあるという事を綾崎は学んだ。
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