IS - 女装男子をお母さんに - 改訂版   作:ねをんゆう

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21 一夏くんは強くなりたい

side一夏

 

「っせやぁぁ!!」

 

「よっ……あ、織斑くんそこ危ないです」

 

「へ?ぬぁっ!こ、転けたァァァァァ!?」

 

ズガシャァンッ!!

 

「ふむ、流石に近接戦闘で母さんと戦うにはまだ早かったか」

 

「仕方ありませんわ、理由は分かりませんが受けに関するお母様の技術は各国代表クラス。今の一夏さんでは何時間やっても傷一つ付けられませんわ」

 

なんだか聞きたくない2人の会話が聞こえてきたけれど、俺、織斑一夏は絶賛ISに乗りながらもすっ転んで地面に這いつくばっている最中なので何の否定もできない。

綾崎さんやめて。

手を差し伸べないで。

心が折れそうになる。

 

クラス代表戦2日前。

明日のアリーナの予約は恐らく取れないと見越して今日が最後のつもりで望んだ訓練には、珍しくあの綾崎さんが参加していた。

参加していた、というよりはこれまでの努力と成長度を確かめるためにこちらからお願いしたという方が正しい。

 

綾崎さんは入学してから訓練らしい訓練は必要最低限しか行なっていないため、セシリアとの決闘から実力がほぼ変わっていないはずだった。

それ故に自分があの時と比べてどれくらい彼女と戦えるようになったのかを確かめようと思ったのだが……

 

「結果はこのザマだ」

 

セシリアや箒が言うには、そもそもの実力差が違い過ぎるので、100:1が100:2になったところで違いは実感できないということらしい。

そんなの俺聞いてないんだけど……乙女コーポレーションとかいう大企業から専用機貰ってるだけはあるってことか?それでも代表候補生のセシリアから長期戦で勝ちをもぎ取るのはよく分からない。

……そういえば前に、綾崎さんの入学試験は千冬姉の全力攻撃を15秒耐え切ることだったって話を聞いたような。

 

「な、なあ綾崎さん?入学試験ってどんな感じだった……?」

 

「へ?入学試験ですか?」

 

「ああ、どんな試験だったのかなぁって。千冬姉と戦ったんだろ?」

 

「え、ええ。確かに違う先生との試合中に突然ストップが入りまして、途中からは試験官が千冬さんに変わりましたね」

 

「試合内容はどうだったんだ!?」

 

「あ、あはは。そんなに気になるものですか?少し恥ずかしいのですけれど」

 

いや、誰だってそんなの気になるに決まっている。

その話だけで新聞部は特集記事だって上げるだろう。

いや、別に情報売ったりはしないけど。

 

「試合内容は確かですね……千冬さんが打鉄に乗って攻撃してきたのを必死に堪えてたんですけど、15秒くらい経ったころに千冬さんの打鉄が煙を噴き出しまして。そこで試合続行不可で中止になりました。

きっと機体性能を限界以上に引き出してたんでしょうね、シールドエネルギーも尽きる寸前だったので本当に助かりましたよ。訓練機とは言えISを15秒でお釈迦にしてしまうんですから、千冬さんは恐ろしい人です」

 

「そ、そうなのかぁ……」

 

いや、恐ろしいのは綾崎さんだから!そんなとんでもない使い方してた千冬姉から15秒も生き残るとか実質勝ったも同然だろ!

多分その時の千冬姉、マジのガチだったろ絶対!

俺が試験受けに行った時に異様に嬉しそうな顔をしてたのはそのせいか!そのせいで直後にヘマをやらかした山田先生が大いに睨まれてたのに!

 

「えっと、織斑くん?どうかしましたか?」

 

「いや、先は遠いなぁと思ってさ……」

 

「???」

 

綾崎さんを守れるようなカッコいい男になりたい。

そう思っていたのに彼女自体の防衛能力が高過ぎてむしろ邪魔になりそうという現実。

ぶっちゃけこのままでは逆に守られてしまうまである。

まだまだ道は長い。

 

「案外、カッコいい男になるのって大変なんだな……」

 

オロオロとしている綾崎さんを横目に仰向けになる。

とりあえずは2日後、鈴に勝つこと。

話はそれからだ。

結局自分がどれくらい強くなっていたかは分からなかったけれど、ここまで支えてくれたセシリアと箒のためにも、勝たなければならない。

いつまでもカッコいい女性達に守られているわけにはいかないんだ。

俺もそろそろカッコいい所を見せないと。

 

 

 

 

 

「ということで私達も含めて、少々手詰まりを感じているのです」

 

「はあ、手詰まりですか。ですがお二人はまだしも、織斑くんはまだまだ学ぶべきことは多くあるのでは……?」

 

「うっ……」

 

俺がいろんな意味でボコボコにされた後、話は綾崎さんへの訓練の相談に移った。自分はそんな大層な人間じゃない、なんて彼女は言っていたけれど、ぶっちゃけ綾崎さんの意見を俺も聞きたかったので3人で無理を押し通すことにした。

……なんかまだボコボコにされる予感がする。

 

「ああ、そうだな。一夏の実力はまだまだ未熟、機体の性能で誤魔化せているだけだ。その機体を乗りこなすにしても練度も工夫も足りない」

 

「ぐふっ」

 

「そうですわね、一夏さんはここぞという時には頑張れるのですが、普段の訓練では打鉄に乗った箒さんの足元にも及びませんわ」

 

「ごぼぉっ」

 

あらゆる角度から打ち込まれた直球ストレートによってやはりボコボコにされる俺。いや、確かに模擬戦をやっていても箒には全く勝てないし、セシリアとも武装が元通りになってからは一度も勝てていない。

何の否定もできないのだけれど、もう少しなんかあるじゃん?

 

……は?雪片?

そんなので近接戦闘で箒に勝てると思ってんのか!!

当たらなければ意味は無いんだよ!!(涙目

 

「なるほど、つまり織斑くんが思っていたよりも伸びてこないということですか」

 

「ええ、そういうことですわ。どうしたらよいのでしょう?」

 

「私としては実践を繰り返せばいいと思っていたのだが、何も考えずに突っ込んで来る故に何の成長も見られなくてな。惜しい所までいったとしても直ぐに調子にのる」

 

「その辺りの精神面の問題もどうしたらよいものか」

 

……死にてぇなぁ。

ってかこの話題も今更だよなぁ。

本番2日前に伸びて来ないとか言われる俺のメンタルよ。

もっと早く言って欲しかった。

いや、自分でもなんとなく分かってたから2人を責めるわけではないのだけれど。手遅れ感が否めないこの今よ。

 

「うーん、そうですね。でしたらまず、目標とする自分を明確にしてはどうでしょうか?」

 

「目標とする自分?」

 

「ええ、そうです。具体的な自分の目標の姿を決めて、立ち振る舞いだけでも改善するように意識してみれば、何も考えずに突っ込んでしまうなんてことも無くなると思いますよ?」

 

「死にてぇなぁ」

 

「いや、死なないでください織斑くん。大丈夫ですよ、私も協力しますから」

 

優しい、優し過ぎてむしろ心が痛い。

 

「お母様。ちなみにそれは、具体的にはどういうことなのでしょう?」

 

「そうですね……例えば最初はセシリアさんでやってみましょうか」

 

「わたくしで、ですの?」

 

「ええ、まずは私達の考える最強のセシリアさんというものを創ってみましょう。……こういう時には男の子の想像力が頼りになりますから、期待してますよ?織斑くん?」

 

「……!!あ、ああ!任せてくれ!」

 

先ほどまであれほど死んだ目をしていたのに、『期待している』という一言で飛び起きる俺の体。

自分で言うのもあれだが、少しチョロすぎないだろうか?

でも嬉しくなってしまったんだもの、これは仕方ない。

 

「例えばですが箒さん、セシリアさんと戦う時に最も厄介なものはなんですか?」

 

「それは当然BT兵器だろうな、あれが一つでも残っているだけでこちらの意識を割かねばならない。今はまだセシリアもライフルとの同時使用は出来ないが、その弱点を克服した時のことは考えたくないな。そうでなくともセシリアの射撃精度は一流なのだから」

 

「まあ、それは俺も同意見だ」

 

「改めて褒められると少し気恥ずかしいですわね」

 

とは言うが、セシリアも段々とその弱点を克服しかけている節が見られる。最近は並列思考能力を鍛えるためにとルービックキューブをしながら本を読んでいたり、両指で異なる動作を行うトレーニング等もしているらしい。

その成果は徐々に現れて来ているし、BT兵器とライフルの同時使用も何度かチャレンジしている所を見かけている。

完全に使い熟す様になるのも時間の問題だろう。

……あれ?

というかその訓練方法も綾崎さんに教えてもらったとか言ってたよな?

いつの間にそんなアドバイスを貰ってたんだ?俺は貰って無いのに。

 

「では、そんなセシリアさんのBT兵器。脅威度を増すためにはどうしたらいいでしょう?はい、織斑くん」

 

「へ?そ、そうだな……単純に使用できる個数を増やすだけでもキツイんじゃないか?正直4つ同時に攻撃して来る今でさえもかなりの制圧力だし、一つ増えるだけでも一気に難度が変わってくると思う」

 

「なるほど、では最強のセシリアさんは10機以上のBT兵器を同時使用しながらスターライトで精密射撃して来るということにしましょう」

 

「「「うわぁ……」」」

 

想像しただけでも顔が青ざめる。

戦場が青い光で埋め尽くされる光景なんて見たくない。

消し炭にされるまで焼き尽くされそうだ。

 

「さて、箒さん。ちなみにセシリアさんの一番の弱点はなんですか?」

 

「ふむ……まず間違いなく近接戦闘だろうな。機体自体が射撃用ということに加えて、セシリア自身も武道の心得は無い。母国にいた頃に多少訓練は受けたそうだが、現状での単純な近接戦闘能力はやはり経験のある一夏の方が上手だ」

 

「そうですわね、それはわたくしも痛感しておりますわ……」

 

「ということで、最強のセシリアさんは近接戦闘でも十分に打ち合えるくらいの能力を持っていることにします。当然のように10機のBT兵器を引き連れて切り掛かってきますので、インターセプターを受け止めても次の瞬間には蜂の巣です」

 

「「「うわぁ……」」」

 

絶対に戦いたく無い。

遠距離武器のない白式だと近寄ることも出来ないどころか、向こうから近距離戦を持ち込まれてボコボコにされるレベルだ。

箒もセシリアも自分で想像してドン引きしている。

実際、相手にした時の対処法が思いつかないというのもあるだろう。

正に1人軍隊、これは確かに最強のセシリアだ。

 

「……と、このような感じで最強の自分を作り上げ、そこに向けて努力を重ねるんです。足りないものを一つ一つ埋めていき、そうして目標とした自分を完成させていく。……どうです?そう聞くと出来る気がしてきませんか?」

 

「そうですわね……道は長そうですが、自分の戦闘スタイルの究極は正しくそれだと思いますわ。なるほど、目標が見えると具体的な訓練案も出てきますわね!なんだか急に身体を動かしたくなりましたわ!」

 

グイッと腕を上げて目を輝かせるセシリア。

え?まじ?

これだけでそんなにモチベーション変わるの?

ちょっ!俺もそれやって欲しい!!

 

「か、母さん!次は私!私のだ!」

 

「なっ、箒!俺のための訓練じゃなかったのかよ!?」

 

「はいはい、順番にやっていきますので大丈夫ですよ?箒さんの後に織斑くんのこともちゃんとやりますから、安心してくださいね」

 

「う、うぅ……」

 

セシリアを見て我先にと手を挙げるが、箒に一足越されてしまう。

元々は俺の訓練のためだということを忘れているんじゃないだろうか?

けれどそんな俺の意見も綾崎さんの微笑みによって封殺された。当たり前のように頭を撫でて笑いかけてくるのは普通に反則だと思う、そんなの勝てるわけがないじゃないか。

 

「そうですね、箒さんにはやはり剣の達人という武器があります。加えて同じ流派に千冬さんというIS操縦者としての完成形の1人が居ますから、最強の自分というものを比較的想像しやすいのではないでしょうか?」

 

「ふむ。だが流派が同じとは言え、私と千冬さんではタイプが異なるからな。……ちなみになのだがセシリア。私と模擬戦を行う際、どういった時が一番困る?」

 

「そうですわね……やはり接近戦に持ち込まれた時でしょうか。箒さんの反射神経は普段から常軌を逸しているのですが、接近戦に持ち込まれると最早未来予知のレベルで当たらなくなりますわ。距離を離そうとしても読まれているかのように潜り込んで来ますし、その時点で半分詰みみたいなものですから」

 

「それすげぇ分かる」

 

「正直な話、"零落白夜"を使用している一夏さん以上に接近戦に持ち込まない様に気を遣っていますわ」

 

「なるほど、セシリアの懐になかなか潜り込めないのはそこまで警戒されているからなのだな……ちなみにそれは未来予知ではなく、セシリアの視線や体捌きから次を読んでいるだけだ」

 

「それでも十分に異常ですわ」

 

これが全国大会優勝者、篠ノ之流剣術の正式後継者か……

マジで何も考えずに突っ込んでる自分が恥ずかしくなって来た。

それは箒に勝てないわけだ、だって俺そこまで考えて戦ってないし。

ボコボコにされても仕方ない。

 

「それだけ聞くと、性能の良いISを使用するだけでも箒さんは化けそうな気がしますね」

 

「正直これで適正Cというのが信じられませんわ。この前なんてスターライトの弾をただのブレードで切り捨てたんですのよ?信じられます?お母様」

 

「い、いや!あれは流石に偶然だ……!」

 

「つまり、最強の箒さんは実弾だろうがレーザーだろうが関係なく切り捨てながら、どんな攻撃も物ともせず接近してくるタイプですね。あらゆる武装による戦術を手に持つ剣一本でねじ伏せ、無言で敵を完全封殺しながら、戦況的にも精神的にも敵を追い詰めていく。乗るISは取り敢えず打鉄を想定していますが、それでもこんな感じに、千冬さんとは違うタイプの剣の使い手になることも可能でしょう」

 

「……それを目指す場合、私はどうすればいい?」

 

「あらゆる武装の知識を詰め込んで、その対応策を考える癖を付けましょう。そしてそれを実行できるだけの繊細な操縦技術を身につけましょう。射撃武器持ちとの戦闘経験を増やして、ついでに千冬さんのように人間の限界を超えちゃいましょう♪」

 

「なんか最後にサラッととんでもない言葉が聞こえた気がする」

 

「なるほど。IS知識の蓄積と対応策の考察能力の会得、操縦技術向上に遠距離戦のエキスパートとの戦闘経験、加えて無謀とも言える挑戦をしつつも、千冬さん並みの成長をしろと。……ふふ、母さんは相変わらず優しくも厳しいな」

 

「攻撃を避けたり捌くのは私も得意ですから、偶にでしたら手伝いますよ?」

 

「ああ、そう言われるとなんだか急にやる気が出てきた……!」

 

「ズ、ズルイですわ箒さん!私だってお母様に手伝って欲しいです!」

 

「大丈夫ですよ、セシリアさんのお手伝いだってしますから」

 

「やりましたわ!!」

 

「ちょっと待ってくれ!俺は!?!?」

 

「「あ……」」

 

「いや忘れんなよ!ちょっと寂しかったんだぞ!!」

 

完全に忘れられていた。

俺の特訓のために来てくれていたはずなのに、逆に俺のことが完全に無視されているのはどういうことなのか。

いや!次は俺のを考えてくれるはずなのは分かってるけど!

それとこれとは話は別だ!

マジで寂しかったんだからな!?

 

「そうは言いますが、一夏さんの最終目標は機体の性能から考えても織斑先生しか見えませんし……」

 

「うっ……」

 

「というか一夏自身も千冬さんの戦い方に憧れている節があるだろう?」

 

「うぅっ……」

 

「そう考えると一夏さんは織斑先生の映像を見てイメージを固めた方が早いかもしれませんわね」

 

「ぐううっ……」

 

「だから私は一度くらい千冬さんに直接アドバイスを受けた方が良いと言っていたのだがな」

 

「ぬ"ぅぅっ……!」

 

分かっている、2人の言い分は正しい。

ぶっちゃけ現状の自分ではどう頑張っても千冬姉の劣化版になるしかないだろうし、俺も千冬姉の戦い方に憧れている所はある。故に千冬姉の戦い方を真似することが一番早い上達法だということも普通に間違いない。

 

けど、俺だって!

俺だってさ!?

綾崎さんに色々考えて欲しいし、綾崎さんといっしょに訓練したいんだよ!だってこのままじゃ千冬姉に教わりながら千冬姉とマンツーマンの訓練になる未来しか見えねぇんだぞ!?

嫌だぁぁ!そんなの嫌だぁぁ!!

俺だって綾崎さんに優しく手取り足取り教わりたいぃぃぃ!!

 

そんな必死の形相を綾崎さんに見せると苦笑いをされた。

救いはないんですか!!

 

「ふふ、自分の理想なんてものは常に変わり続けるものですから。セシリアさんも箒さんも今日想像した理想は常に更新し続ける必要があります。織斑くんだってもし第二の千冬さんという将来が嫌なら、今後の努力次第では最強の織斑くんを見つけることだって可能なんですよ。まずはガムシャラに打ち込んで、自分を知ることが大切です」

 

「自分を知ることなぁ……つっても、自分のことって自分が一番よくわかってると思うんだよ」

 

「それはないな」「ないですわね」

「「あり得ないな(ませんわ)」」

 

「2人してそこまで言うかよ!?」

 

俺の自論を速攻で否定されたことはさておき、綾崎さんの言いたいことはなんとなく分かった。俺は確かに千冬姉に憧れているけど、千冬姉に手取り足取り教えられて千冬姉の劣化品になることは御免だ。

俺が求める理想の自分は劣化品なんかじゃない、その先だからだ。

 

けど現状の俺はIS技術において自分の長所短所すら掴めていないし、必要な技術も前提も足りない。

何もかもが中途半端で、セシリアや箒のように突出したものすら無い。

この中で一番速度が速いというものはあるが、それはあくまで白式の特徴だ。

自分のものではない。

 

……しかしこう考えてみると、ISにおける自分の長所が本当に思い浮かばない。

適正が一応Bはあることくらいか?

けど適正を重要視するなと千冬姉は言っていた。

それを他の誰よりも箒が実践している。

そもそも自分は銃火器なんて使ったこともなければ、近接戦闘だって多分この中じゃ素人のセシリアより少し上のレベルだ。

いくら速度が出ようとも飛行技術だってあの有様だし……

あれ?マジで俺、何ができるんだ?

 

「織斑くん」

 

考えているうちに段々と沈んでいく俺の感情を読んだかのようなタイミングで、綾崎さんが声をかけてくる。

 

「今すぐ答えを出す必要はありません。それに、長所が思い浮かばなくても悲観する必要はありません。無ければ作ればいいんですから」

 

「綾崎さん……」

 

首を傾けながら優しく微笑んで彼女はそう言った。

ドクっと心臓が高鳴る。

その顔は本当に卑怯だと何度言えば。

先までの落ち込んだ感情が彼女の笑顔一つで吹き飛んでしまった。

本当に破壊力が高過ぎる。

これだからこの人には敵わないのだ。

また情けないところを見せてしまった事を悔しく思う。

 

「綾崎さん!俺、自分の長所を作りたい!自分の強みが知りたい!だから頼む!俺に力を貸して欲しい!」

 

「織斑くん……分かりました、織斑くんがそこまで言うのでしたら。流石男の子ですね、とってもカッコイイです」

 

「うっ!」

 

突然カッコイイなんて言われてしまって、思わず顔が赤くなってしまう。

ようやく彼女に自分のカッコイイ所を見せられたのだろうか?

その言葉を、その言葉を聞きたくて頑張ってきて……

ようやく聞けたその言葉に、嬉しさのあまり男泣きしそうになる。

 

しかし次の瞬間、そんな俺のトキメキも吹き飛ぶこととなった。

 

「それでは、これから一時間、全力で私に攻撃してきて下さい」

 

「……は?」

 

優しげな微笑みから物騒な言葉が聞こえてきた。

 

「あ、大丈夫ですよ?零落白夜を使われない限りは私は問題ありませんから。箒さん、セシリアさん、お2人は織斑くんがへばってしまった時に気合を入れてあげて下さい」

 

「分かりましたわお母様!」

 

「任せろ母さん!」

 

「え?は?え……?なんで?」

 

「本当の自分は限界を越えた先に居るんです。織斑くんがそれを見つけたいというのならば、気は進みませんが追い詰めるしか方法がありませんから……」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ綾崎さん!いつも優しい君はどこに!?」

 

「私は甘やかす人間ですから。織斑くんが本当に望むことなら、例えそれが自分のポリシーに反していても甘やかして叶えます……!」

 

「流石お母様、慈悲深いですわ……!」

 

「くっ、これが母さんの懐の広さか……!」

 

「いや!絶対おかしいから!俺一度もそんなこと頼んだことないから!!」

 

「さあ!かかってきて下さい織斑くん!私は全力で貴方を限界の彼方まで追い込んでみせます!!そして代表戦までに、必ず貴方の最強を作り出してみせます……!」

 

「は、話を、話を聞いてくれぇぇぇ!!」

 

この後めちゃくちゃ追い込まれた。

その後もアリーナの予約が何故か2日連続で取れたので2日連続で追い込まれた。

死ぬかと思った。

というか途中で3回くらい死んだ気がする。

なお、代表選には間に合った模様。




おまけ

「なあ千冬姉……」

「織斑先生と呼べと……いや、どうした、そんなに落ち込んだ顔をして」

「綾崎さんに勝てないんだよ、色んな意味で」

「ああ……」

「私生活に学業、果てはISから人間性まで、何もかもで勝てる要素が無いんだよ。あの人ほんとに俺と同い年なんだよな?マジで俺、あの人に何をしても勝てる気がしないんだ」

「……まあ、その、なんだ、あまり気にするな。別にあいつも完璧という訳では無い。苦手な事は多々ある」

「そうなのか?あんまり思い浮かばないけどなぁ」

「例えば……ああ、綾崎は熱いものが苦手だ。所謂、猫舌というやつだな」

「いや、それ弱点って言えば弱点だけどさ。なんか違くね?」

「あとはそうだな、虫があまり得意では無いな。洗濯物に大きめの虫が付いていた時には、珍しく取り乱して職員室に居た私の元に助けを求めに来たくらいだ」

「いや、だからなんか違うよな?それただの可愛い所だよな?」

「はぁ、仕方あるまい。これはとっておきの話だが……綾崎は実は納豆が苦手だ」

「だから違うよな!?求めてる方向性が違うよな!?」

「臭いよりも味と食感が苦手らしい。試しに一粒だけ食べさせてみた事があるのだが、涙目になりながらフルフルと震える姿は可愛らしかった」

「ほら!ほら今可愛らしいって言った!」

「……まあ実際のところ、綾崎は勉強も体育も中の上といったところだ。真面目な性格故に自身の弱点は埋めようとするが、そのせいで突出しているものも少ない。お前が何か一つに集中して努力すれば、追い抜く事は簡単だろう」

「ISで追い抜こうとするなら?」

「…………ISでの戦闘力とは、『心』『技』『体』『知』『才』による結晶だ。運についてはさておき、綾崎に勝ちたいのならばその総合力で勝るしかあるまい」

「あー……なんかそれは理解できる気がする」

「数字で表すならば5段階評価で、篠ノ之は12425、オルコットは25143といった所か。そして綾崎は44334となる。身体能力で言えば篠ノ之が、機体操作についてはオルコットが優っているが、総合力では綾崎の方が圧倒的に上だ。……まあ最近の様子を見る限り、2人とも徐々に穴を埋め始めているようだが」

「……あんまり聞きたく無いんだけどさ、今の俺はどんなもんかな」

「11315という所だな」

「合計12かよ!知ってたよちくしょー!」

「オルコットは機体柄、機体操作技術は6以上を目指さなければならない。篠ノ之は身体は完成しているが、まだまだ穴が多い。そして一夏、お前は……まずは真面目に授業を受けろ」

「ごふっ」

「それに綾崎もISに乗るうちに操作技術を取り戻している様にも見える。最近は授業のために積極的に知識を蓄え始めているからな。早めに努力しなければ、どうやっても届かなくなるぞ」

「う、うう……やってやる、やってやるよぉ!絶対にいつか3人に追い付いてやるからなぁ!!」

「補習にはしっかりと参加しておけよ」

「ごふっ」

一夏はまだこのIS坂を登り始めたばかりなのである。
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