IS - 女装男子をお母さんに - 改訂版   作:ねをんゆう

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28.復帰の日

「と言う訳で、今日から綾崎が復帰する事となった。……とは言え、暫くは車椅子生活、とてもではないがISの実習にも参加させる事も出来ない。適時お前達がフォローしてやれ、以上だ」

 

奈桜が検査を受けてから5日後。肉体的に大きな問題はなく精神的な問題も見当たらなかった事から、彼は身体を動かす様な事はしないという条件付きで退院する事となった。

彼の退院が早まった要因として乙女コーポレーションから送られて来た最新鋭の車椅子の存在が大きく、幾つもの機能が備わったコンパクトなそれは、両手足の神経が未だ殆ど回復出来ていない奈桜でも移動を簡単に行う事が出来る代物である。

授業の遅れは大きい、それでもまだ間に合わないという程の話ではない。今日までリハビリと検査だらけであった奈桜としては、この短い間で復帰が可能になったというだけで何より喜ばしい事だったという事は言うまでもない。

 

「うぅ、あやのん良かったよぅ……生きてて良かったよぅ……」

 

「あ、あはは。布仏さん、そんなにくっ付かれると困っちゃいますよぅ」

 

わざわざ教室の前まで来て抱きつきに来た本音を、奈桜も苦笑いながらも抱き留める。

恥ずかしがる彼ではあるが、彼女からしてみれば本当にどれほど心配した事か。せっかく仲良く話せたと思ったらあんな事があって、最後に見た姿は生きている事が不思議なくらいに酷い有様。奈桜が本音を含めた生徒達を守る為に動いていた事を知っていたからこそ、彼女は余計に責任を感じていたのだ。

今日ばかりは千冬もそれを咎める事はしない。

何人かの生徒もよかった良かったと小さく涙を拭いていた。

 

(……おや、もしかしてあの2人が)

 

そうして教室を見渡していた奈桜の目に、見慣れない2人の女子生徒の姿が映りこむ。事前に話は聞いていた、自分が入院していた間に2人の生徒が新たに転入して来たという事は。

長い銀髪と左目に付けた黒の眼帯が特徴的なドイツからの転入生であるラウラ・ボーデヴィッヒ。

一方で金髪の中性的な容姿を持つ、なんと世界で(公式では)2番目の男性IS操縦者だというフランスからの転入生であるシャルル・デュノア。

彼等2人はどちらも専用機を持ち、それなりの実力のある者達であると奈桜は千冬から聞いていた。……そして当然、2番目の男性IS操縦者だと自称するシャルル・デュノアの正体についても、千冬から事前に聞かされている。

 

(うん、まあ、あれは男装……)

 

色々と努力の跡は見えるものの、その全てが結局は独学。素人が個人で出来る限りの事をしようとした形跡はあるが、所詮はそこが限界だ。

常日頃から女装だの男装だのを考えて、それこそ自分でもそれを使用する様な変態開発者達を見てきた奈桜が言うのだから間違いない。それらを常に使用して、新商品が出来るたびに送られて感想を求められている直人が言うのだから間違いない。

そもそもシャルル・デュノアを名乗る女性は、決して男装に向いた体型をしている訳ではないのだ。それを隠す為には普通の努力では足りない、あれでは鋭い人間や同種の変態には1発でバレてしまう。

 

(……あれ、その括りだと私って同種の変態扱いなのでは)

 

心が折れそうになる。

今更の話ではあるのだけれど。

そもそも鋭い人間や同種の変態にしか分からないのなら、変装としては十分なラインに達していると言ってもいい訳で。むしろ彼女の場合は少しくらい粗雑な方が遺伝子的に女性に近いからISに乗れるという無理矢理な言い訳も立ちやすい訳で。そこまで徹底して女装をしている直人の方がおかしいまである。変態としてより高い位置に立っていると言ってもいい。

 

(と、取り敢えず!彼女にも事情はあるでしょうし、今はノータッチで。大体の目的は予想出来ても、彼女の本心までは分からないですから)

 

積極的に助けることはしないが、いつでも助けられる様にはしておきたい。もしかして彼女も自分と同じように無理矢理変態行為を強制されている被害者である可能性もあるから。……同じ変態行為を。

一方で、そんな風に心の中で密かに落ち込んでいる彼を、もう1人の転入生のラウラ・ボーデヴィッヒはジッと見ていた。転入初日に一夏を殴り付けたという彼女は、それは真剣な面持ちで怪我人の奈桜を。

 

 

 

 

「綾崎さん、ちょっといいか?」

 

「はい?どうかしたんですか、一夏くん。」

 

授業終わりの昼食前、教科書を片付けていた奈桜に一夏が声をかけてくる。

挨拶と同時に席を立ったセシリアと箒も丁度集まってきており、布仏も立ち上がったものの突如鳴り響いた電話によって泣く泣くその場を立ち去っていった。彼女も普段はゆるい子ではあるが、意外と私生活は忙しそうでギャップを感じたりもする。

 

「ほら、しようと思ってて出来なかったシャルルの紹介をしておこうと思ってさ。シャル、こっち来いよ」

 

「え?あ、うん!分かったよ一夏……!」

 

「むう……お母様に殿方を紹介するのは気が進みませんわね……」

 

「安心しろセシリア、母さんは少し容姿がいいからと言って簡単に浮つく女性ではない」

 

(まあ、そもそも男性にそういう興味を持つことはあり得ないので、その辺りは心配しなくても大丈夫なんですけどね)

 

そこは心の中でもしっかりと否定しておく、否定しておかないと何か大変なことになる日が来てしまいそうだったから。……それはそうとして、一夏に言われて小走りでやってきた金髪青眼の少年(仮)。

やはり、見れば見るほど女性である。

男装があまりにもわざとらし過ぎる。

果たしてどうなっているのか、この学園の入学審査。

機密情報を多大に扱っているのだから、もう少し厳しくして貰いたい。

もしかしたらこの2人以外にも性別を隠している人間が居ても不思議ではないくらいだ。身分や所属組織を隠している人間はもう普通に居そうなレベルであるというのに。

 

「はじめまして、シャルル・デュノアです。綾崎さんのことは一夏達から色々と聞いてるよ」

 

「こちらこそはじめまして、綾崎奈桜です。ところで一夏くんがどんな色々のことを話していたのか、私とても気になりますね」

 

「い、いや!別に変なことは言ってないからな!?なあシャル!?」

 

「とっても綺麗な人だって言ってたよ?あとは凄く優しくて、家事も上手で、正に理想の女性像だって。結婚するならあんな人がいい、みたいなことも言ってたかな」

 

「「「なっ!?」」」

 

「あらら……一夏くんは私のことをそんな風に思ってくれていたんですね。周りにこんなに可愛い子達を連れているのに、罪な人です」

 

「ちっ、違うんだ綾崎さん!俺は例え話とか、そういうつもりで言ったというか……!おいシャル!そういうことを本人の前で言うなよ!」

 

「おい一夏、貴様本当にそんなことを言ったのか?」

 

「ぐぬぬ、相手がお母様なだけに同意せざるを得ないのが悔しいですわ……」

 

「あはは、綾崎さんは本当にみんなから慕われてるんだね」

 

「ええ、こんな私を気にかけてくれるのですから、優しい友人達に恵まれて幸せものです。シャルルさんも仲良くしていただけると嬉しく思います」

 

「うん、もちろんだよ!」

 

一夏の言葉から現実逃避しながら奈桜はシャルルと会話を続ける。

一見は笑顔を装っているが、その内心の動揺は凄まじい。

 

(え?なに?一夏くん私と結婚したいの?嘘でしょ?ちょっと待って!?女装生活で女性に迷惑をかけることは考えていたけど、男性にも迷惑をかけるパターンがあるなんて聞いてないのだけど!?というか女装してるのに惚れてくる男性が居るとか普通は思わないでしょ!?まさか一夏くんはそういう倒錯した趣味を持っていたんですか!?いやそもそも一夏くんは私が男だって気付いていないからこれも普通の反応!?どうしよう!こんなの千冬さんに顔向けできない!!)

 

そんな表面上には出さないが盛大にパニックを起こして居た奈桜に助け舟を出してくれたのは、件のシャルルくんだった。外見では普段通りでも、今は全く頭が回らない。彼が話題を提供してくれる人間であった事はなによりの助けであった。

 

「……えっと、そういえば綾崎さんはあの乙女コーポレーションの専属なんだよね?噂だとIS部門を作って1年もしないうちに第三世代機の試作機を造ったって聞いたけど、本当なのかな?」

 

「乙女コーポレーションですか?……ああ、そういえばシャルルさんはデュノア社の方でしたね。やはり気になるものなのですか?」

 

「……まあ、そうだね。なにせうちの会社はそれが上手くいかなくて困ってるくらいだから」

 

……その辺りが理由なんだろうなあ、と奈桜は思う。

彼(女)は心情が表情に出やすいタイプらしく、今の一瞬で顔が歪んだのが分かった。第3世代関連でデュノア社の経営状況がよくないことはISに携わっている者ならば誰でも知っている。それほどに第3世代のISの開発というのは困難を極める。デュノア社と言えばあれほどに第2世代IS開発のトップを走っていた会社だと言うのに、世代が一つ上がっただけで資金だけでは追いつかなくなったのだから。つくづくISというものは技術の極みなのだと思わされるし、そうなると簡易的な物とは言え、いとも簡単に第3世代を作り上げた乙女コーポレーションの変態性もよく分かる。

 

「う〜ん……詳しい内情までは言えませんが、あそこには世間一般では決して受け入れられることの無かった変態達が多く収容されていますからね。無理な話ではないと個人的にですが私は思っていますよ」

 

とは言え、奈桜ではシャルルの思惑を判断することはできなかったので、とりあえずできる範囲で事実をぶちまけることにしておいた。

 

「え……変態……?」

 

シャルルが困っている。

そう、その表情が見たかった。

奈桜だってそうだ、最初はそんな顔をしたものだ。

 

「例えばシャルルくん、乙女コーポレーションには1人の天才がいます。彼は有名国立大学を院まで行って卒業し、直後から繊維系等の様々な分野で多くの成果を出していました。そんな彼が研究や所属していた大学を辞めてまで乙女コーポレーションで作りたかったものがあったんです。さて、それは一体なんだと思います?」

 

「へ?え、ええと……繊維系に詳しいってことは、ISスーツとか?いや、でもIS系の仕事なら他の所の方が……」

 

「学生用スクール水着です」

 

「……え?」

 

「学生用スクール水着です」

 

「……え?」

 

2度も聞かれた。

けれど2度とも同じ答えを返した。

ここが何よりも大事なところだから。

 

「彼は所謂ロリコンという方でした。幼・小・中学生前半くらいの女性が大好きだという世間的に見て少しばかり異質な人種です」

 

「え?え?え?」

 

「そんな彼が最も好物としていたのがスクール水着というものだったのです。彼は乙女コーポレーションに入って女子生徒用スクール水着に関連したものを全力で開発し始めました。まるでそれまで抑圧されてきた欲望を解放するかのように」

 

「待って?ねえ待って?僕の頭が追いつかないよ?」

 

「最初は水着のデザインや素材だけだったものの、途中からは専用のパッドや帽子、ゴーグル、果ては子供用の日焼け止めやオイルなど、様々なものに手を出し始めました。それもこれも、全てはスクール水着を着る小さな女の子達のため。彼女達がスクール水着を着る際に最も輝くことができる様、あらゆる分野を勉強して取り組んだのです」

 

「え?なに?感動系の話だったの?これそういう話だったの?」

 

「その結果、乙女コーポレーションはスクール水着シェアの最大手となりました。そして子供用の日焼け止めやオイルは未曾有の大ヒットを記録し、そのコストと安全性、手入れのし易さから海やプールでもスクール水着を着る少女が増えたそうです。今では引きこもりがちだった彼も積極的に外に出て日焼けをする様になりました。めでたしめでたし」

 

「めでたしかどうかは賛否両論だよね!?」

 

「ちなみに現在はビート板事業に手を出してます。海水浴でもビート板を使って泳いでいるスク水少女達が見たいそうです。ライフガードの資格にも挑戦していましたね」

 

「それだけのために!?元々繊維関係の人じゃなかったの!?人の欲望って怖い!!」

 

私だって怖い、奈桜は心の底からそう思う。

今話したのは乙女コーポレーションのほんの一部、こんな人達が大半を占めているのが乙女コーポレーションだ。つまり何が言いたいかというと、あの会社は社長を含めて変態しか居ないということだ。

そして昔から言われている通り、変態と天才は紙一重なのである。

どちらが先かは分からなくとも、間違いなくその2つには関連性がある。

 

「……まあ、変態云々はさておき、母さんの言いたいことはなんとなくわかった」

 

「え?」

 

「ふふ、箒ちゃんは流石ですね。皆さんに説明して貰ってもいいですか?」

 

「……気は進まないが。要は乙女コーポレーションにいる社員達は特定の欲望が強く、その欲を満たすためならばどんな努力でも行い、会社にもそれを可能にするだけの環境があるということだろう?しかも社員達も才能ある人間達だということが更に拍車をかける」

 

「加えて彼等自身が今までその欲を抑圧されてきた、またはその欲によって迫害され続けてきたということもあります。その爆発力と連帯感は私も怖くなるほどでしたから」

 

それが乙女コーポレーションの原動力。

それが乙女コーポレーションの技術力。

そしてその根本となるのが乙女コーポレーションの社長の眼力。

乙女コーポレーションの新作は考えるより先に使ってみろ、そう言われる所以がそれだ。

 

IS部門が急成長しているのも、1年という歳月で第3世代の試作である"恋涙"をつくることができたのもそんな理由からだろう。

もちろん、恋涙の性能が変態的な方向に偏っていた理由も……

 

「ですから私がデュノア社のためにお伝えすることができるのはこういった会社の特徴くらいですね。参考にはならないと思います」

 

「い、いや、そんなことはないよ。なんとなく今のデュノア社が行き詰まってる理由も分かったし……なにより、乙女コーポレーションからは企業スパイが帰ってこないって噂の理由も分かったから」

 

「そんな噂があったんですね……」

 

ちなみに現在進行形で奈桜の頭を悩ます問題もある。

千冬から聞いた話では、奈桜が乗ることになるであろう次のISも既に製造の段階に入っているそうだ。破損してからまだ1月も経っていないというのに、既にもうその段階。

自分の知らないところで自分に関係あることに何十億というお金が動いていると考えると、奈桜もなんだか怖くなってくる。何処からそのお金が出てくるのか、それに見合う働きを出来るのか、なかなかに緊張感は強い。

 

「なんかよく分かんねぇけど、シャルも綾崎さんも仲良くなれそうでよかったぜ」

 

「わたくしとしては微妙な気持ちですが……」

 

「ふふ、そうですね。もしかしたら一夏くんよりも仲良くなれるかもしれませんよ?」

 

「なっ!?負けねぇからなシャル!?」

 

「えっ!?えっ!?一夏が訓練の時よりも怖い顔してるんだけど!?誰か助けて!」

 

「くっ、私も早く母さんの様な女性にならなければ……!」

 

加えてあの事件以来、千冬の過保護も増してきていたが、なんだか一夏達も少しずつ過激派になってきているような気が奈桜はしている。

とりあえず自分の両端を囚われた宇宙人の様に取り囲むのはどうにかして欲しいし、それはもう普通に恥ずかしかった。

美人に囲まれて役得ではあるが、今やもう罪悪感の方がずっと強い。




--おまけ--

「どうしても、どうにもなりませんか」

「こちらとしても可能ならば取り止めたい、しかし現状がそれを許してはくれなかった。綾崎くんの存在について野党の一部議員の間で噂話が囁かれている。何処から漏れたかは分からないが、こうなった以上は徹底的に痕跡を消さなければ彼の身も危うくなる」

「既にそこまで……それならば、綾崎の兄妹達が送られる場所については教えていただけますか?」

「申し訳ないが、それも出来ない。しかし彼等を受け入れる施設については、私個人の伝を使って可能な限り信用の出来る場所を用意した。不幸な事は無いと断言してもいい」

「……そうですか」

「……正直な話、彼には酷な事をしてしまったと自覚しているよ。しかし現状ではやはり彼の存在を表に出す訳にはいかない、これだけ世界中で調査が進んでも彼等2人以外に男性操縦者が一向に現れないというのも理由の一つだ。調査が進むほど彼等の重要性は上がり、狙う組織が増え始め、何れは争いの引鉄にもなるだろう」

「しかしそれならば私が……!」

「いくら織斑千冬と言えど、君の名前と力で守れるのは君の弟一人が限度だ。それに今後の世界の動向次第では、我々も彼をカードの一枚として切らざるを得なくなる場合も出て来る。1億の民と1人の少年を天秤に掛けられれば、私達は一切の躊躇なく前者を選ぶだろう。そして一夏くんと綾崎くん、どちらを手離すかと問われれば、世間は間違いなく綾崎くんを選ぶ」

「っ」

「ああ、君の立場は非常に苦しい物だと理解している。しかし私達も可能な限り最善を選んでいるつもりだ、今はただ信じて欲しい。だが同時に、綾崎くんがそうなる可能性も頭に入れておいて欲しい」

「……つまり、あまり深くは関わるなと。そう言いたい訳ですか」

「……頼んだよ」





「……私は、綾崎を一夏より優先する事は出来ない。そして世間も、決して綾崎を積極的に守ろうとはしない。綾崎の家も、帰る場所も、最早この世界の何処にも無い。ならば誰が綾崎を守れる?誰が綾崎の味方になってくれる?己を捨ててまで守ってくれる人間が、何故あの子にだけは存在しない?」

「………」

「私はどうしたらいい、どうしたら綾崎を守れる。なぜ私はあの子を選べない、なぜあの子ばかりがハズレくじを引くんだ。……地獄を見るべきなのは、最初のきっかけに加担した、この私だというのに」
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