IS - 女装男子をお母さんに - 改訂版   作:ねをんゆう

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05 大和撫子は絶滅していました

side奈桜

 

(……あれが千冬さんの弟の織斑一夏くんかぁ。それにしても、千冬さんの人気はやっぱり凄いなぁ)

 

2度にわたる方天画戟(出席簿)の攻撃によって一夏くんが沈んだ後、女生徒達のハイパーボイス(威力90)によってダメージを受けた僕は、耳を押さえながらも彼を観察していた。

背後からは「お姉様!私を罵って!」「もっと叱って!」「見下して!」などという理解してはいけない悍ましいナニカが聞こえてくるが、それ等はあえて無視することにした。見たくないものから目を背けて現実逃避をする技術は、ここ数ヶ月でしっかりと身に付けている。

それが嬉しい事なのかどうかはさておき。

 

……あの日、乙女コーポレーションで千冬さんと別れた後、それはもう酷い目にあった。

毎日のように見せつけられる変態衣装。

確かにあの日見たものは特に酷いレベルのものだったけれど、通常時でも一般人のSAN値を削るには十分過ぎる破壊力を持っていた。

 

加えて通常の女生徒として、一般の受験を乗り越えた生徒として入学するためにISの勉強を徹底的に行い、合間合間に女性としての振る舞いを教え込まれる毎日。

勉強はまだしも後者に関しては常にあの決して理解してはいけないナニカが隣に控えていたため、むしろ現実逃避のために熱心にISの勉強を行なっていたと言っても過言ではない。

おかげで基礎程度の知識は十分に身に付いたが、それをアレのおかげと言いたくはないこのジレンマ。

 

そんな2週間に渡る地獄の試練を乗り越えた僕は、そのままIS学園の寮へと逃げ込み、ようやく今日この日を迎えることができたのだった。

……ただ、専用機がギリギリ間に合わなかったため、近いうちに再び"アレ"が直接僕に会いに来るらしい。

ついさっきそう山田先生から聞かされた。

聞いた瞬間、思わず千冬さんに泣き付いた。

可哀想なものを見る目で見られた。

多分実際に可哀想な人間なんだと思う。

 

『変態からは逃げられない』

 

正直に言ってしまえば、もうアレから逃げられるのなら専用機なんて要らないという気持ちもある。

ただ、ここで全てを投げ出せばこれまでの努力が水の泡。

見た目にこそ出してはいないが、僕の心は絶望と恐怖によって既に6割ほど塗り潰されていた。

 

「あの、綾崎さん?自己紹介をして欲しいのだけど……大丈夫ですか?」

 

「ふぇっ?……あ、はい!ごめんなさい、少し気を抜いてしまっていました……もう大丈夫です」

 

「そうですか!それじゃあ、お願いしますね!」

 

絶望へのカウントダウンによって気をやっていた間にどうやら既に自己紹介の時間に入ってしまっていたらしく、突き刺さる千冬さんの視線が痛い。けれど、僕の自己紹介と聞いた途端に突然謎の復活を遂げた一夏くんの方も少し怖い。

なぜかさっきもジッと見られていたし、女装がバレているなんてことは考えたくないけれど、一応ここで念押しをしておくべきなのかもしれない。

 

日本政府と学園の先生達が正常な日々を手に入れるまで、僕はなんとしても自分の正体を隠さないといけないのだ。

なぜなら、今でもあの人達は本当に死にそうな顔をして業務をしているから。

彼等の命のためにも、最低でも3年間は隠し通さなければならない。

例えそれが僕の心を深く削る行いであったとしても……うぅ。

 

「ふぅ」

 

何度も練習した所作でゆっくりと立ち上がり、同じく何度も練習させられた笑顔をクラスメイト達に向ける。

そして主に一夏くんの方へ顔を向けながら、自分にできる限りの精一杯の女性的な自己紹介を頭に浮かべ、アレによって何故か教えられた男を落とす仕草をふんだんに詰め込んでいく。

何事も最初が肝心だ。

ここで中途半端にしていたら、きっとこの先やっていけない。

ここから先はもっと辛い事もあるはずだ。

気合を入れるために心の中に業務で追い詰められる関係者の人達の顔を思い浮かべる。

 

そうして僕はこの日遂にこれまでの僕という概念を捨て、初めて自らの意地で私になったのだった。

 

「皆さんはじめまして、綾崎奈桜(あやさきなお)と申します。趣味は料理と裁縫、家事に関しては一通り自信があります。もし皆さんが生活面で何かお困りのことがあれば、是非お力にならせて下さい。これから1年間、どうぞよろしくお願いいたします」

 

パチパチパチパチ(幻聴

 

そんなものは聞こえない。

 

……え、なんでですか。

 

こんなにも頑張ったのに。

こんなにも心を削ったのに。

少しくらい褒めてくれてもいいじゃないですか。

手を叩く素振りくらい見せてくれてもいいじゃないですか。

 

拍手喝采!とまでは言わなくとも、面倒だけど一応叩いておくか程度のものは期待していたのに。

それなのに今この瞬間、教室は全くの静寂だ。

そして次第に拍手どころかクラス中がどよめきだし……

 

「ちょ、聞いてない、私あんなの聞いてない」

「あの見た目で家事得意とか女として勝てる気がしないズラ」

「いや、流石に嘘でしょ。そんな女が今時居るわけ」

「しかしそれを裏付ける物腰の柔らかさ」

「本物だ、本物の大和撫子だ……!」

「そんな、大和撫子は絶滅した筈じゃ…!」

「母性がやばい、新妻感ヤバい」

「寝取ってみたい」

「綺麗な意味で抱かれたい」

「それよか優しく叱られたい」

 

「わかる」「わかる」「わかる」

 

……どうやら、このクラスは思っていたよりも大分ヤバい所だったようだ。

29人中4人が僕に叱られたいと思っている。

そして29人中1人が寝取りたいと思っている。

いや、寝取りたいって何?どんな思い?

少なくとも、クラスメイトの1/6が変態だ。

というかほんとに何言ってるの?ねぇ、何を言ってるの?

ちょっとその事実を受け入れるのに紅茶3杯分くらいの時間を頂きたいのだけれど。

あと大和撫子と言うな。

その単語が出るたびに千冬さんがニヤニヤしてこっち見てくるから。

新妻とかもっとやめて。

 

「あの、みなさん一度落ち着いて……!」

 

そんな願いが叶うこともなく山田先生が必死に鎮めようとするも、結局千冬さんが動くまで僕は好き放題言われることとなった。

この間、僕に叱られたいと口走った人間が9人に増えた。

クラスの1/3が変態、自分が変態からは逃れられない運命の元に生きているという事実は紅茶何杯飲んでも受け入れられないから……

 




--ちょっとした雑談--

「なんというか、お前は不思議な奴だな」

「部屋に帰ってきて早々、いきなりどうしたんですか?千冬さん」

「いや、お前の様な女は男によくモテるだろうなと思ったんだ。なんだかんだと言っても男が女に抱く理想はここ数年で変わっていないからな。もしかすればお前が男だと知ってもなお構わないと思う者もいるかもしれない」

「……その件については返答を拒否したいです」

「だが一方で、仮にお前が男だと知れ渡れば、今度は女からモテるようになるだろう。この女尊男卑社会における理想の男とは正にお前の様なタイプだ。男性味を全く感じさせないお前の容姿なら、過激派の中でも求める者は間違いなく居る」

「女尊男卑過激派の人に求められたいとは思わないですよ……一体どんなことをされるか想像するだけでも怖過ぎます」

「つまりこの説で言うのであれば、お前は男と女、どちらの性別からも性的対象として見られる事ができるということだ。これは人類にとって革命的な事では無いだろうか」

「分かりました、疲れてるんですね。お風呂沸かして来るので先にご飯だけ食べておいて下さい、今日はもう寝ましょう」

「まあ待て綾崎、私が心配しているのはそういう事じゃ無い。私の心配はもし一夏がお前に惚れてしまった時、どうするべきなのかという話でだな……」

「よし!もう先に寝ちゃいましょうか!ベッドの準備はしてあるので大丈夫ですよ!さあ行きましょう!」

「恋愛は自由だ、私は口出しをするつもりはない。もし世間体という話であれば形だけでも私がお前と籍を入れてだな……」

「分かりましたよ!膝を貸せばいいんですよね!?分かりましたからもうベッドに行きましょう!?そんなにして欲しいなら素直に頼めばいいのに、どうしていつも遠回りな事しかしないんですか!」

「もうここでいい……」

「ああ!もう……!本当にめんどくさ可愛いなこの人は!」
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