IS - 女装男子をお母さんに - 改訂版   作:ねをんゆう

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08 チョロい人達

side奈桜

 

(オルコットさん、やっぱり勇樹と同じタイプだったなぁ……)

 

イギリス代表候補生であるセシリア・オルコットさん。

妹の1人が(主に彼女の西洋人形のような美しい容姿に)注目していた為、代わりに番組を録画したり、一緒にそれを見ていたりをよくしていた。

そういった経緯から僕は彼女のことを日本の一般的な人よりかはよく知っていたのだが、やはり映像と実際では受ける印象は違うものである。

 

彼女の行動は側からみれば、高圧的で、自信家で、女尊男卑のこの世界でよく見られるような男性を見下した典型的な過激派の女性だ。

確かに、男性を見下していることに関してはフォローは出来ない。

けれどそれ以外の部分においては、彼女はなんとなく見覚えのある振る舞いをしていた。

 

それこそが今は孤児院にいる弟の1人、勇樹の行動である。

 

彼は6歳の頃、実の両親に捨てられて僕の居た孤児院へとやってきた。その頃の彼は自身の学力を周りに自慢して回り、それこそ先程のオルコットさんの様に、「〜してやるから感謝しろよ」といった恩の押し付けを繰り返していた。

当然、そんな彼を周囲は鬱陶しく思い、彼は日に日に孤立していったのだが……しかしそんな尊大な言動の源となっていたのは至極単純で、とても子供らしいものだった事を僕は知っている。

 

要は彼は、褒められたかったのである。

もっと正しくいうのであれば、自分の努力が認められたい。

そしてそんな自分を頼りにしてもらいたい。

たったそれだけだったのだ。

 

話を聞けば彼は捨てられる以前から両親との不和が続いており、テストで良い点を取って褒められた経験だけを頼りに努力し続け、何とかして認めてもらおうとしていたという。

 

……しかし、その努力は実らなかった。

 

多くの努力をし、結果を出したにも関わらず実を結ばない。

それがどれだけ辛いことか。

彼の場合は両親に捨てられたというマイナスの結果が残ってしまっただけに、認められたいという欲が歪な形で大きくなってしまったのだろう。

 

そしてオルコットさんも同じ目をしていた。

誇らしげに自分の功績を語り、胸を張って誇示すれど、その瞳には認められないことへの恐れが少しだけ混じっている。歪み膨らんだ彼女の承認欲求は一体どういう過程で生まれたのか、僕にはそこまでのことは分からない。

けれど、そんな彼女の内心が分かる数少ない人間が自分ならば、僕は遠慮なく彼女に踏み込んで肯定したいと思った。

 

(ああいう子は素直になるとお節介焼きさんになるから。周囲と溝を作ってしまう前になんとかしてあげれば、きっと皆に好かれるはず)

 

オルコットさんも間違いなくそのタイプだ。

さっきの会話からもその片鱗は見えていた。

大きな不和さえ無ければ、彼女はきっと周りから愛される少女になるに違いない。

 

(それにまあ、見過ごせないから……)

 

自分自身にも余裕がないが、まあ見て見ぬ振りはできない。

これが染み付いてしまったお姉(兄)ちゃん気質というものなのだろうか?

ただ、こんな生き方をしていればきっとこの先の人生も苦労することになるだろうが、実はそんな自分のことが僕は嫌いではない。これから先もずっとこうして、周りにお節介をして回って生きていくつもり満々だ。

 

……それでも、彼女の男性嫌いだけは流石にどうにも出来ないだろう。

これに関しては自分ではなく、織斑一夏くんの方が適任なのではないかと思う。

男性嫌いを治すには、やはり男性を知って貰うしか無いのだ。

その点で言えば彼は善良で漢気のある男性、僕よりもずっとこの役割に適任である。

そう思ったので、とりあえずこれについては彼に投げることにした。

大丈夫大丈夫、彼ならきっとなんやかんやしてくれる。

なんかあれをこうして、上手いことやってくれるだろう。

そう僕は信じている。

 

「信じてますからね、織斑くん」

 

「え、なにを……?」

 

直後に教室に入ってきた千冬さんに流れる様に出席簿でしばかれた彼に、僕はとりあえず笑っておいた。

そろそろ頭のこぶを冷やす準備をしておいた方がいいかもしれない。

 

--

 

「全員、席に着いているな?それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性について説明する。……が、その前に、クラス代表者を決めねばならん。立候補する者、あるいは他者を推薦する者は挙手をしろ」

 

授業が始まると同時にそうまくし立てた千冬さんは、目を細めて周囲を見渡した。

 

クラス代表者、要はクラス長である。

生徒会の会議や委員会への出席などが主な仕事だ。

それと、来月行われるクラス対抗戦。

これは各クラス代表者たちがISで戦うというものだが、クラス代表者はこれに出場することになる。

なかなかにその責任は重い。

……とは言え、僕達はまだISにすら乗ったことの少ない素人集団だ。

それこそ代表候補生でもなければ誰がなっても変わりはしないだろう。

もちろん、オルコットさんは例外として。

 

(まあ、僕は流石に遠慮したいかな。あまり目立つのも良くないし)

 

今のところはそんなに目立っては居ないはずだ。

しっかりと女性らしく振る舞えていると思いたい。

その割に視線をよく感じたりするけれど、これで駄目なら全部乙コーのせいである。

僕は悪くない、僕は悪くない。

 

「はい!私は織斑くんを推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います~」

 

「わたしもわたしも!さんせーい!」

 

「では候補者は織斑一夏か、他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

 

 

「……へ?」

 

僕がそうしてまた現実から逃げていると、いつの間にか流れる様に織斑くんが指名されていた。

なんとなく理由は分かる。

どうせ誰がなっても同じなら、面白そうな人を指名したくなるのは自然の摂理。

言うだけタダなら言わなきゃ損損、というやつだ。

これはあまりにも一夏くんが可哀想過ぎるが、巻き込まれたく無いので僕は黙って見ている事しか出来ない。

本当に申し訳ない。

 

「お、俺!?え、なんで!?」

 

「織斑。席に着け、邪魔だ。……さて、他にはいないのか?いないなら無投票当選だ」

 

「ちょっ、ちょっと待った!なんなんだ、一体何がどうなってるんだ!?」

 

「お前は推薦された、それは期待されているということだ。期待には応える義務がある、よってお前に拒否権はない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

「もちろん、選んだ側にも相応の責任が伴うがな」

 

「「「え?」」」

 

「当然だろう、何のリスクもなく人に役目を押し付けられるとでも思っていたのか?」

 

言うだけタダでは無かったらしい。

やっぱり世の中そんなに甘くない。

妙に理不尽な気もするが、それはまあいいとして。

 

この数秒の間に驚くべき速さで事が進んでいく。

恐らく彼女達は男性という珍しさだけで一夏くんを推薦したのだろうが、こう言われてしまってはまた事態は動くのだろう。

こういう場合は黙って座っているのが吉なのだ。

 

そう、今の僕の様に、黙って、静かに、冷静に……

 

「じゃ、じゃあ私は綾崎さんに推薦を変更します!綾崎さんなら上手くやってくれると思うし!」

 

「……へ?」

 

「わ、私も!」

 

「私は……織斑くんのままでいいかな」

 

「私は別にどっちでも……いえ!2人のどちらかがいいと思います!!」

 

「え、えぇぇぇ!」

 

なんか飛び火した。

なにこれどうしてこうなった。

なんで?どうして?火種が近いから?

そんな僕を見て千冬さんの口角が微妙に持ち上がる。

絶対この人僕の反応見て楽しんでるよ!

それどころじゃないって分かってる癖に!

僕の方の事情だって知ってる癖に!

鬼!悪魔!世界最強!

 

(こうなったら……)

 

だったらこっちにも手はある。

どうせ推薦されたのだから、こっちが推薦したって構わないだろう。

それに推薦しても責任は取れる、取る。

実際、僕や一夏くんより適任な人がいるのだから。

自分がクラス代表になるよりもずっとずっと相応しい人が、むしろここまで名前が出なかったことこそがおかしい。

 

「織斑先生、私はセシリア・オルコットさんを推薦するつもりなのですが」

 

「!!」

 

僕の言葉に反応する様に、後ろの方の席から机の揺れる音がした。

 

「ほう?その心は?」

 

「私も織斑くんもISに関してはまだまだ初心者です。成長を期待して、というのも分かりますが、それよりも代表候補生でもある彼女を据えてクラス全体のレベルUPを図るべきかと。彼女の実力は誰が言わずとも確かですし」

 

「なるほど、上手い言い訳を考えたな」

 

「織斑先生?ご冗談が過ぎます」

 

クラスメイトの前で堂々と言い訳とか言うのは本当にやめて欲しい。

フッと鼻で笑って再びクラスを見渡す千冬さん。

これは助かったのか?助かったのだろうか?僕はそう信じたい。

 

「当のオルコットはどう思う?綾崎はこう言っているが」

 

なんでオルコットさんだけ承認制!?

推薦された人は強制みたいなことを言ってたじゃないですかやだー!!

オルコットさんお願い!引き受けて!!

実際僕はほんとに目立つべきじゃないの!

いや、乙女コーポレーションで女装が完成した瞬間に『……目立たないで生活するのは諦めた方が良いな』って千冬さんに言われたけど!

僕はまだ諦めてないの!!

クラス代表なんて絶対に嫌なんです!

オルコットさん助けて!!

 

ちらっとオルコットさんの方へと振り返って優しく微笑んでみる。

さっきとは違う打算120%の笑みだ。

そんな僕の行動を受けて、オルコットさんは顔を真っ赤にしながら俯き、言葉を紡ぎ出す。

なんか可愛い、けどその反応はおかしい。

え、本当にどうしたの?

さっきまではあんなに元気だったのに、風邪?

女の子の体調不良は普通に心配になってしまうのだけれど。

 

「そ、その、お姉様が推して下さるのであれば……断る理由はございませんから……っ」

 

ん?

待って?

今なんて言った?

 

「お、お姉様?」

 

あ、一夏くん、君もやっぱりそう聞こえた?

これ僕の気のせいじゃないよね?

 

「ほう?この短期間で随分と慕われるようになったな綾崎。初日から他国の代表候補生を誑かすとは、その手の速さは織斑並みだな」

 

「た、誑かすだなんてそんな……お姉様ったら!」

 

「え?なんで俺引き合いに出されたの?」

 

「織斑先生、人聞きが悪過ぎます……」

 

加えて千冬さんからの追い打ち。

これはあれだ、後から根掘り葉掘り聞かれて思いっきり弄られるやつだ。想像するだけで今から頭が痛い。

そして追い打ちはそれだけではなく……

 

「まあ、あんなことされたらオルコットさんもああなるよね」

 

「わかるっ!私も顔を見つめられながら『貴女の笑顔が見たい』とか言われてみたい……!」

 

「あんたらが叱られたいって言ってた意味、あたしもなんとなく分かったわ。あれはオルコットさんが羨ましい」

 

やめて……やめて……!!(懇願

思い返したら凄い恥ずかしくなってきたじゃん!!

あとその意味だけは一生分からないで欲しかった!

これで10人目ですよ!?

あー!あー!こーろーせーよー!!

もいっそ、こーろーせーよーー!!

恥ずかし過ぎて顔も上げられないよぉ!!

 

「さて、綾崎イジリはこの辺にして。取り敢えずは代表者をどう決めるか。多数決でもいいのだが……オルコット、案はあるか?」

 

「それでしたらISで決めるのはどうでしょう?わたくしが有利な条件ではありますが、現状や将来性もハッキリしますし。決定はそれを見て決めるのが良いかと。……それに、個人的にも戦いたい方がいらっしゃいますから。勿論、必要でしたらハンデを差し上げますわ」

 

「……だそうだが織斑、お前はどう思う?」

 

「むっ、ハンデなんて要らねぇよ。ここでそんなの貰ったらオルコットに『男も捨てたもんじゃない』って証明できなくなる。これ以上情けない姿も見せられないからな」

 

「口先だけならなんとでも言えますわ」

 

「ふっ、そうか。ならば勝負は一週間後の月曜日、放課後の第3アリーナで行う。3名はそれぞれ出来うる限りの準備をしておけ、詳細は後日伝える」

 

「さぁ!決闘ですわ!貴方のような無知で愚かな男、その無駄に図太いプライドごとへし折ってさしあげます!」

 

「やってみろ!絶対にお前を見返してやる!男を証明してやる!ここからは誰にも横入りさせねぇ!俺とお前だけの喧嘩だ!」

 

そうして始まった熱血的な決闘の契り。

きっとこれから2人は1週間後のその日に向けて血の滲むような努力を積み重ねるのだろう。

だからこそ言わせてもらいたい。

 

これ僕、要らないよね?

むしろ邪魔だよね?

これ一夏くんとオルコットさんだけの喧嘩でいいよね?

この後めちゃくちゃ授業中に千冬さんへの復讐方法を考えた。




--ある日の雑談--

「綾崎さん、やっぱり聞いていた通り優しい方なんですね」

「え?突然どうしたんですか?山田先生」

「いえいえ、資料運びを手伝って貰って本当に助かったなぁと思っただけです♪」

「いえいえ、これくらいでしたら言ってくださればいつでも手伝いますよ?……ところで、聞いていたというのは千冬さんからでしょうか?」

「ええ、織斑先生から綾崎さんの事はそれはもう色々と聞いてます♪料理がとっても上手いだとか、根っからのお人好しだとか、膝枕が一瞬で寝落ちしてしまうくらい気持ちが良いとか」

「一番最後のに関しては千冬さんただの自爆ですよね」

「綾崎さんは織斑先生とは昔から仲が良かったんですか?膝枕をするだなんて、相当に近しい関係ですよね?」

「ええっと……実は会ったのは本当に数ヶ月前という感じなんですよ。ただ出会ったのが千冬さんが一番大変だった時期だったので、話の流れで私の膝を貸して寝かす事になりまして」

「ああ……あの頃の事は私も思い出すと目が虚になります。織斑先生がしょっちゅう別件でお呼ばれしていたので、その分私も頑張らなきゃで」

「あはは……さ、最近はだいぶ落ち着いて来ましたか?授業準備とかもあるとは思いますが」

「そうですね、以前よりはずっとマシになりました。もう少ししたら自分の時間も取れるようになると思うんですが、今一番怖いのは新しく男性操縦者が現れることでしょうか……」

「あ、あ〜……なる、ほど」

「今回の件で公務員の中で辞職者や休職者がすごく増えているので、人手もどんどん減って来ているんですよ。元々公務員削減とかもあったので、各部署に本当に必要最低限の人員しか居ませんでしたからね……学園の性質上簡単に補充できるものでもありませんし。もし日本から続けて2人目が出てきたりしたら、本当に公共機関が崩壊しかね無いかもしれません」

「そ、そんなになんですか……」

「ええ、それくらい男性操縦者の影響力は大きいんです。あの時はおばあちゃんが"公務員だけは削減したらいかん!"なんて怒ってましたけど、まさかそれを自分が実感する事になるなんてなぁ……」

そんな公務員の事情を聞いてしまうと、ますます自分の性別を公表し難くなるというもので……多分あと10年くらいはかかるだろうなぁと、遠い目をして綾崎は資料を運んで行った。
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