IS - 女装男子をお母さんに - 改訂版   作:ねをんゆう

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09 変わらない幼馴染

side一夏

 

オルコットの数々の発言によるフラストレーションが爆発し決闘の約束を取り付けた後、俺は放課後まで一人居残って復習と予習を行なった。

……が、特に目立った成果は得られなかった。

むしろ、何の成果も得られませんでした。

俺が無能なばかりに、ただいたずらに時間を浪費し、奴等(訳の分からないIS用語達)の正体を突きとめることができませんでした。

悲しいね。

 

……いや実際、綾崎さんに勉強を教えてもらうという手もあったのだが、今回の決闘には彼女も入っている。

各々やるべきことがあるはずだと思ってやめておいたのだ。

まあ、オルコットに『男を証明する』なんて言ったのに、その直後に女性の手を借りるというのも違うだろう。

そこは決闘とは別のプライドの問題だ。

 

その後は山田先生と千冬姉から寮の鍵と着替えを受け取り、部屋に入った瞬間に風呂上がりの箒を目撃してしまい、ボッコボコにされるという珍事が起きた。

偶然にも千冬姉が俺と箒が同部屋だということを発言せず、箒にそのことを伝えるはずだった山田先生がポンコツをやらかしてしまい、俺が部屋に入った時間帯が丁度箒の入浴時間だったというところに神のピタゴラスイッチ的な悪意を感じる。

どれだけ偶然が重なればそんなことになってしまうのか、確率とか考えたら普通あり得ないだろう。

……実際にそうなっとるやろがい!

 

そして現在、俺と箒は一連のやり取りで破壊してしまった部屋のドアについて報告を行うために寮長室までやってきている。 

後でバレるより自首をする、怒られる時の常套手段だ。

寮長が誰かは知らないが、今日は入ってきて初日。

印象は悪くなるだろうが、そう怒られる事もないだろう。

 

「………」

 

というか、箒も本当に強くなったものである。

木製とはいえ、分厚いドアを木刀の突きだけで、さながらウエハース相手のように軽々と破壊するのだから。

ぶっちゃけ本気で死を覚悟した。

久々に会えば前に見た時よりもずっと綺麗になっているし、あの時からの自分の成長具合と比較すればあまりにも眩しく感じてしまう。

 

「ところで一夏、この寮の長が誰かは知っているか?」

 

「え、いや。知らないけど」

 

「お前が一番よく知っている人物だ」

 

「……もしかして、千冬姉?」

 

「そうだ、そしてこれがつまりどういうことを意味しているかは言うまでもないな?」

 

「ああ、夕飯先に食ってくればよかった」

 

「私はここで自炊するつもりは無かったのでな、部屋に小さめのキッチンはあっても材料がない。ちなみに食堂はあと1時間で終わる」

 

「そうか、今日は夕飯抜きか」

 

「ああ」

 

「そうか」

 

「「………」」

 

「……なあ箒、これ夕飯の後じゃ駄目なのか?」

 

「一夏よ、この世には空腹よりも辛い事があるのだ」

 

「前例は?」

 

「5日前、テレビ破壊隠蔽、グラウンド10周(20km)×5日間」

 

「よし謝ろう」

 

「ノックは任せた」

 

コンコン

 

半ばヤケクソになりながら寮長室のドアをノックする。

夕飯抜きと5日間連続のハーフマラソン、比べるまでもない。

いくら特訓をするとは言え、俺も流石にそこまで頑張るつもりはない。

だがこれから起きる惨劇に俺の体は血の気が引くほど恐怖に震える。

そんな風に悪い意味で胸を高鳴らせながら鬼のような顔の千冬姉を幻視しつつ待っていると、中からパタパタと誰かが走る音が聞こえてきた。

それを聞いて俺と箒はまた顔を合わせる。

 

「……?千冬姉じゃないな」

 

「ああ、あの人はこう慌ただしく走るタイプでは無い。それに足音もどこか軽い」

 

ガチャリと静かにドアが開く。

この時点で中にいる相手は間違いなく世界最強では無い。

ブリュンヒルデならばもっと威圧感を持って現れる筈だからだ。

そうして中から現れたのは……

 

「申し訳ありません、お待たせしてしまいました。……あれ?どうかなさいましたか?お二人とも」

 

登校初日にして既に1組の母と名高い綾崎奈桜さんだった。

 

 

「え?綾崎さん、だよな?どうして寮長室に?」

 

「どうして、と言われましても……私がここに住んでいるから、でしょうか?」

 

「なに?綾崎は織斑先生と同部屋だったのか?」

 

「ええ、そうですよ。あまり知られて居ないようですが……あ、立ち話もなんですし、お二人とも入って下さい。丁度お夕飯を作っているところですし、よろしければご一緒にいかがですか?」

 

「え?いいのか?」

 

「もちろんです。篠ノ之さんも食べていきますよね?」

 

「あ、ああ……それと、私のことは箒でいい。名字で呼ばれるのは好きではないのでな」

 

「分かりました、箒さん。ではこちらに」

 

寮長室に住んでいるというだけでも驚きなのに、なんと彼女は自炊をしているらしい。

流れるように部屋へと案内された俺達は正方形の机に案内される。

キッチンからはカレーの良い香りが漂ってくるのが分かり、放課後にまで頭を使っていたせいか、活発な腹の虫がいつもより大きな主張を始めた。

 

「ふっ。夕食にありつけて良かったな、一夏」

 

「うぐ、仕方ないだろ。あんな宣言しちまったんだ、結構気合い入れて取り組んでるんだよ」

 

「そうか、それは喜ばしいことだ。

……だ、だがな一夏よ。お前はISに関する知識は殆ど無いのだから、少しくらい他人に頼ってもいいと思うのだ。たっ、例えばその、目の前にいる、幼馴染とか、な?」

 

「え、いいのか?箒」

 

「いいも悪いも。何を意地になっているかは知らないが、本気で挑むのなら誰にでも頼るべきだ。私だって、その、大切な幼馴染の願いなら叶えてやらないことはないというか、むしろ叶えてやりたいというか……」

 

「そっか。サンキューな、箒」

 

「……お前と私の仲だ。今更そのような遠慮など不要だ」

 

再会してからずっとしかめっ面をしていた箒の表情が、この時になってようやく緩んだ気がした。

その表情が昔の彼女に重なって、ここに来てやっと改めて再会できたという実感が湧いてくる。

そしてそんな俺の気持ちを、箒も察してくれたらしい。

 

「……むぅ、この厳つい表情はどうにも直らんのだ。ここ数年、こうして気を許せる相手が殆ど周りに居なかったというのも理由の1つなのだが。どうしても取れん」

 

「重要人物保護プログラムだっけか。こうして俺がIS学園に来なければ、もしかしたら一生会えないなんてこともあり得たんだよな。そう考えるとIS動かせて良かったって思えるけど」

 

「私と再会出来たその代わりに、今度は一夏が自由を奪われる羽目になったのだがな……なんだったらこのまま2人で高飛びするか?本当の自由を求めて、なんてな」

 

「はは、まるで映画みたいだな。……けど、まあ、もし本当にどうしようもなくなったらそうするか。旅費は今までの迷惑料ってことで束さんにでも取立てよう」

 

「くふふっ、それはいいな。今までの迷惑料に利息分まで含めて思いっきりふんだくってやらんといかん。むしろ簀巻きにして他国に引き渡した方がスッキリするかもしれん」

 

「はは、その時は千冬姉に引き渡した方が良さそうだ」

 

「違いないな」

 

あることないことを空想して、笑い合う。

もう何年も会っていなかったのに、それでも互いの間に壁なんて無かった。

きっと昔のままなんてことはない、箒にだって色々とあったはずだし、変わったことだってあるだろう。

けれど、

 

「……ああ、やはり一夏と話すのは楽しいな。いつもは思い出すだけでも嫌な姉さんの話ですらこうして笑えるとは」

 

「そうか、そう言ってくれるなら俺も嬉しいよ」

 

こうして見せる彼女の笑みは変わっていなかった。

ならば、それでいいのだ。

それだけでいいのだと、俺は思う。

 

 

 

「ええっと、ごめんなさい。机の上にお皿を並べてもよろしいですか?」

 

 

 

「え?」「……あ!」

 

箒の様子を微笑ましく見ていると、そんな言葉と共に現実へと引き戻される。そして、この部屋には自分達以外にももう1人の人物がいたのを思い出した。

というか、この部屋に招き入れてくれたのは他でも無いこの人だ。

話に夢中になり過ぎていた。

 

「あ、あー!いや、悪い綾崎さん!全部やらしちまって!皿並べるのくらい手伝うべきだった!」

 

「ふふ、構いませんよ。私もお二人のいじらしい様子をバッチリ楽しませてもらいましたから。良かったですね、箒さん♪」

 

「な、な、な!待て、綾崎!これは違うんだ!いや、違うことはないんだが私は別に……!」

 

「はいはい、今日のお二人の様子はしっかりと千冬さんと共有しますから、安心してください」

 

「なにも安心できない!本当にやめてくれ!!」

 

ガチャリ

 

「いま帰っ……ん?なんだ、お前達も居たのか」

 

「あ、千冬さん、お疲れ様です。それより聞いてくださいよ、織斑くんと箒さんがですね?」

 

「ほうほう……」

 

「待て待て待て待て!それ以上はダメだ!」

「待ってくれ綾崎さん!なんか嫌な予感がするからやめよう!」

 

必死の説得も虚しく、結局全て千冬姉にバラされた俺達はめちゃくちゃ弄られた。

綾崎さん、意外と茶目っ気があるというか、ノリが良いというか。

とりあえず、エプロン姿が似合ってたなぁ……と思っていたら箒に叩かれた。

節操なしって何の話だ。

解せぬ。

 




--お雑談--

「……綾崎、私の上着は何処だ?」

「え……帰ってきたばかりなのに、もうお出かけですか?それとも、部屋が少し寒かったりします?」

「いや、そういう事ではなくてだな……私はいつ上着を脱がされた?自分で脱いだ記憶は無いのだが」

「いつと言われましても……千冬さんが帰って来た時に鞄を頂くのと一緒に、僕が脱がして消臭しておきましたけど」

「そう、問題はそれだ。そこがおかしい」

「………?」

「話を整理するが、私は今の今までお前に上着を脱がされている事に気付いてすらいなかった。いくら疲れているとは言え、私はこれでも人並み以上の感覚を持っていると自負している。……一瞬とは言えそんな私を欺くとは、お前は一体どんな技術を持っているんだ?恐ろしい」

「いえあの、技術と言われましても。帰って来たときの千冬さんは完全に力が抜けきってリラックスしていましたし、仕事が終わったという安心感もあったでしょうし、それになによりも………………………………徹夜明けだからでは?」

「それはそう」

「いや、それはそうなりますよ。なんで徹夜明けの自分の感覚が正常だと思ってるんですか。今も目がしょぼしょぼしてるの、気付いてませんよね?」

「……綾崎、実は明日は私も休みでな」

「前に言いましたよね?お願いする時は遠回しにではなく、しっかりと言葉にして言ってください、って」

「うっ」

「僕も家事は殆ど終わってますし、今なら時間ありますよ?……それで、千冬さんは一体何がお望みなんですか?」

「………して、欲しい」

「何をして欲しいんですか?」

「膝枕をして……寝かせて、欲しい……」

「はい、分かりました。さあ、行きましょう?ここで寝ると体を痛めてしまいそうですからね」

「くっ……まさかここまで辱められることになるとは。責任を取れよ、綾崎」

「むしろ千冬さんが責任を取ってください。基本差し出してる側なのは僕の方なんですからね、もう」

徹夜明けの膝枕がもう習慣化してしまった千冬に、この沼から抜け出すための逃げ道など、もうどこにもないのだ。
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