VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ハレルヤ1

「ふーーーー……」

 

用意されていた楽屋の中で、先ほどからずっと私は一人目を瞑り呼吸を落ち着けていた。

本日はとうとう前々から念入りに準備されていた晴先輩ソロライブ決行の日だ。

当然心臓がメロスピバンドのドラマーが如く高速ビートを刻んでいたので、なんとか平常心を保とうと瞑想にふけっていたわけである。

 

コンコンコン!

 

「ん? はーい!」

 

突然ノックされた楽屋のドア、まだライブ開幕までは時間があるのでどうしたのだろうと思いながらドアを開けると、そこには晴先輩が立っていた。

 

「よっ!」

「晴先輩! あれ? ライブの事前確認はもう大丈夫なんですか?」

 

実は楽屋入りする前に真っ先に晴先輩に挨拶しておきたくて駆け込んだのだが、その時は大勢のスタッフさんに囲まれながらライブに備えて細かな確認作業を忙しそうにしていたため、邪魔しないように一言簡単な挨拶だけしてその場を去っていた。

 

「いいや、次はあわっちと一緒のシーンの確認があるから呼びに来たんだよー」

「あ、なるほど、了解です! すぐ準備しますね!」

 

時間は刻一刻とライブの開幕へと近づいていく――

 

 

 

「はい! 淡雪さん一通りOKです!」

「ありがとうございました!」

 

スタッフさんのその言葉にやっと一息つくことが出来た。

ただいま私の登場シーンにおける流れや機材などの確認も終わり、どうやらこれで事前確認は全て終了、大きな問題もなしで後は私たちが頑張るだけとなった。

やることがなくなったので後は開幕まで端の待機スペースで晴先輩と休憩だ。

 

「緊張してるのかい?」

「あ、やっぱり分かりますか?」

「表情が硬いもん、バレバレだよー。まぁ分かるよ、何と言っても今日は累計13億5000万人のエアギタリストを動員する一大ライブの日だからね」

「すごいですねそれ、地球のエアギターの競技人口を考えると異星からもお客さん来てますよね? 会場アラスカとかにしなくて大丈夫ですか?」

「アラスカは今土地をすべて使って全世界ゆで卵選手権をしてるからだめだったんだよ」

「なるほどそうだったんですね。ゆで卵はどう頑張ってもクオリティに大きな差は生まれない気がしますが……」

「まぁ大丈夫! この箱でも縦×横×高さのスペースを使えばきっとお客さんも入りきるよ!」

「高さってことはお客さんの肩の上にもどんどん積んでいくわけですか! 小学校とかで組体操をやるのはこのためだったんですね!」

 

そんな何気ない馬鹿なことを言い合って笑い合っているこの時間は、不思議と私の緊張を解してくれた。

すぐそばではすでに会場入りしたお客さんたちのざわめきが聞こえてくるが、この先輩は笑みを浮かべ、どこまでも普段と変わらない。

それがなんだかすごく心強くて安心する、人の一生で経験することが奇跡のような場だ、一体この人は何を思っているのだろうか?

 

「緊張するねー」

「え?」

 

そんなことを考えていた私にとって、晴先輩の放った今の言葉は驚きのものだった。

 

「緊張……しているんですか?」

「勿論、心臓の音聴いてみる?」

「えと、いいのであればぜひ」

 

邪な考えなど本当になしに、純粋に今の言葉が本当か答えが知りたかった。

首を縦に振ってくれた晴先輩、体をしゃがませその小さな体の胸元に耳を添えると、確かにそこには私と同じくらいの駆け足で心拍数を刻む心臓があった。

 

「本当ですね……ライブ、怖いんですか?」

「んーライブはそうでもないかな、絶対成功させる自信があるよ」

「え、えぇ? いやだって、こんなに心臓暴れてるじゃないですか!」

 

意外やら困惑やら様々な感情に振り回される私だったが、そんな私の目を晴先輩は吸い込まれそうな目で真っすぐ見つめてこう言った。

 

「憧れのあわっちと一緒に舞台に立てる、そのことに緊張してるんだよ」

「……え?」

「晴さーん! そろそろスタンバイお願いしまーす!」

「あ、はーい!」

 

固まってしまった私をおいて、「いっちょやりますかねぇ!」と舞台へと歩いていく晴先輩。

今のは揶揄われた? いや、己惚れかもしれないがそんな雰囲気では無かったと思う。 

晴先輩……前の話が本当なら今まで散々濁してきた本心、今日教えてくれるんですよね?

ライブ会場が暗転し、次に明かりが灯った時には会場が揺れる程の歓声が上がった。

 

朝霧晴ソロライブ【ハレルヤ】開幕だ――

 




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