VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた。   作:ななとなな

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ダイヤモンドダスト

「作詞作曲は私、曲名は【自分語り】、今日の為に書いた曲で、恐らくもう歌うことは二度とないね、激レアだよ?」

「え? 何この流れ? 私聞いてない……」

 

今一度大歓声に沸く会場と対照的に、完全に台本になかった流れで何がなんだか分からない私は困惑して木のように立ったまま固まってしまった。

そんな私を晴先輩はまたあの真っすぐな視線で直視する。

 

「サプライズだよサプライズ! まぁ喜んでくれる内容かは微妙だけど……でも、聴いてくれると嬉しい」

 

本当に卑怯だと思う、そんな目で見られたらどんな状況に置かれても首を縦に振ってしまうにきまっている。

全く罪作りな人だ。どれだけ私のことを振り回してくれるのだろうか。

本当に困った人で――私が救われるきっかけをくれた大切な恩人。

喜んでどんなことでも見届けさせてもらおう。

 

「ふぅ……やばい! やっぱり恥ずかしくなってきたかも! あのね、まじでただの自分語りだからこういうの嫌いな人はミュート推奨ね、手を使って人力ミュートよろしく! …………オッケー? 準備できた? それじゃあ……音楽お願いします」

 

バンド隊が奏でるゆったりとしたアコースティックギターの、まるで水滴が緑葉から滴り落ちるような繊細な音色でその曲は始まった。

以降ただひたすらに同じメロディーが繰り返され、それに晴先輩が言の葉を乗せていく。

淡々と進むその歌は、まるで昔話やおとぎ話の類を聴いているようで、歌というより本当に語りという方が相応しいかもしれない。

それは1人の少女の軌跡――

 

 

 

あるどこにでもありふれたごく普通の家庭に一人の太陽の名を持った少女が生まれた。

少女はそれはそれはとても頭が良かった。少女はあらゆるものを一目見ただけで理解し、そして自分の力で発展させていく……その姿から天才の名が広まるのもあっという間のことであった。

 

だが、彼女の特異性は勉学以外の面にも向けられていた。並外れた好奇心を持っていた少女は普通と呼ばれる枠組みの人達が理解できないものに興味を示し、子供心に任せて奇行とも呼べるような行動を繰り返した。少女の知能はあまりにずば抜けており、大多数が形成した普通の枠組みに収まってはいなかったのだ。

 

やがて、その姿を同年代の子供たちや一部の大人が煙たがるようになる現象が起きる。

人は自分と同じ生き物であるにもかかわらず自分の理解が及ばない存在が傍に居ることに大きな不安を感じる生き物だ。結果的に自分の持つ普通の枠組みに収まる人間で結束し、安心できる環境を作った。

少女は孤独になってしまった。

 

だが少女はそれでもとてもとても頭が良かった。

どこか息苦しさを感じながら生活していた少女だが、思春期に入るにつれて自分がなぜ周りの環境に適応できていないかを考え始めた。思考を重ねた結果、見事にその答えにたどり着き、少女は普通の枠組みを学び、理解し、そして自身をその枠組みに無理やり詰め込むことで周囲との適応を図った。

少女は計画通り孤独ではなくなった。真の自分自身を生贄に捧げることによって――

 

そのまま少女は成長を重ね、気づけば大学生になっていた。もう一人前の女性だ、少女ではない。

人並みの生活環境、勉強も勿論できる、でもどこか退屈で心に穴が開いたような日々が繰り返される。

衝突や恋などの青春と呼ばれる類のものは一切経験しなかった。作られた普通を演じ、自分自身を偽って生きている自分に誰かの心を動かすことなど許されないと彼女は考えていた為、人前ではただひたすらその場にいるだけの空気のような存在を心掛けた。

だが大学生活は今まで程虚無に過ぎていったわけではなかった、彼女の退屈は大学で4人の友人と呼べる人間ができたからだ。

その4人ははっきり言えば大学の中では浮いていて、勉強ができなくはないが夢見がちで子供のころを忘れられていない、そんな人たちだった。

でもそんな人たちだったからなのかもしれない、大学でバカをやってははしゃぎ、時には怒られて反省し、でもやりたいことが出来ればまずはやってみる。そんな4人を見ていることが不思議と彼女は好きだった。

彼女は4人の姿に封じてしまった元の自分らしさを見た気がして強く心を動かされていたのだ。勇気を出して話しかけに行った彼女を、4人は温かく迎えてくれた。

 

今まで通り自分を偽ってはいるけど、4人のおかげで今までとはちょっと違う生活、だがそれも大学の卒業が近づいてきたことで終わりの兆しを見せ始めていた。

そんな状況下、4人のうちの1人の女性がこんなことを言い出した。

 

「私は起業して社長になる! だから皆もついてくるがよい!」

 

本当に唐突なことで、流石に困惑した彼女含め4人に女性はなぜそう思ったのかの経緯をまるで武勇伝を語るかのように高らかに説明し始める。

だがその理由も「社長と呼ばれる人生を歩んでみたい!」やら「どうして起業して社長から始められる道があるのに新入社員からの道を皆選ぶのか?」やら「IT! 時代はやっぱりITだから! 若者の最先端知識を活かして時代、獲りに行かない?」やらのまぁお先真っ暗が目に見えているような有様であった。

当然苦笑い状態の彼女であったが他の3人の反応はというと……まさかのノリノリであった。

結果本当に起業を行動に移すことになってしまったので、彼女は悩んだ結果、付いていくことに決めた。

この時の彼女の心境はというと、大学生活を楽しませてくれたのだから少しばかり恩返しがしたい、そしてできることならまだこのおバカな4人を傍で眺めていたい、そういう思いだった。

 

そして新設中小IT企業【ライブオン】の創立メンバーとしての社会人生活が本当に始まってしまう。

肝心の最初はというと……当然の如くそれはもう悲惨なものだった。流石に計画性がなさすぎである、5人は世の中の厳しさを痛感させられていた。

1日が過ぎるごとに後が無くなっていく中、今まであくまでサポートに徹していた彼女はその時流行の兆しをほんの少し見せ始めていた【VTuber】に目を付け、友達を救うために初めて自分から新事業を提案した。

会社の残る資金、そして自分たちの持てる知能と時間をフル活用の背水の陣でなんとか実践可能な形まで進め、そして試運転を行う段階までもっていった。

だが彼女はここからがむしろ本番なことに気づいていた。VTuberのアバターができたところでそれだけで人気にはなれない、インパクトのある人柄が重要な必須条件であると。

彼女は自分の意思で試運転のVTuber朝霧晴となった――

 

頭の良い彼女は自分の個性が強烈なインパクトを持ち人の興味を良くも悪くも引くことに今までの経験上気づいており、特異な人が好まれるインターネット上では恐らくそれが良い方向に傾く、それを活用しようと考えた。

彼女は怖かった。成功する道筋は見えていたが、これを機に友人である4人に気味悪がられ、煙たがられ、また昔のように虚無の生活に戻るのではないかと思ったからだ。

だが彼女はやめなかった。たとえ4人に嫌われて離れることになったとしても、このVTuber事業のノウハウとライブオンの知名度を残し、会社を大きくできるのならそれが恩返しになると考えた。

涙を殺した覚悟の下、彼女は配信を開始した――

 

それから数か月後、彼女はライブオンの事務所で4人と事業の成功を祝い、笑い合っていた。

完全に物事は彼女の計画通りに進んだ。唯一計画外れになったのは4人が本当の彼女をポジティブに受け入れてくれたこと。

「なんで今まで秘密にしてたの!」そういって4人のうち1人は彼女の頭をくしゃくしゃに撫でまわし、1人は背中をバシバシと叩き、1人は配信のアーカイブを会社内で大音量で流し、1人はその様子を見て笑いながら豪勢な出前を頼んだ。

本当の彼女を恩人と呼び、そして親友と呼んだ4人――

彼女はライブオンで子供のころ以来初めて人前で本心を出すようになった――

やがて、後輩のライバーも増えていき、会社の経営も安定した。退屈な彼女はもういない。

 

 

 

「――そして彼女はここで私になる――」

 

その言葉と共に曲は静かに終わりの時を迎えた。

会場は曲の流れを汲んで静まり返っていたが、限界まで膨らんだ風船のような不思議な高揚感に包まれている。

そして1人の観客が拍手を始めたとき、その風船は会場全体の盛大な拍手の音と歓声をあげながら破裂した。

誰も知らなかった朝霧晴の生い立ち、そしてライブオンの誕生秘話までその曲には詰まっていたのだ、その衝撃は私も含め計り知れない。

 

「はい! 以上盛大な自分語りでした! うわぁやっばはっず! これはっず! こんなの黒歴史確定じゃん! ひゃー!!」

 

まぁこの場の元凶である晴先輩はそういいながら体をよじって悶えているのだが……その姿を見てさらに生温かい雰囲気が会場を包み始めたので多分逆効果だろう。

 

「ま、まぁだね、私が自分からこんな公開処刑をしたのにはちゃんと理由があってだね、おい! 誰だ今涙声でよかったねっていったやつ! そんな感傷的になんなくていいから! いやだから生まれてきてくれてありがとうじゃなくてだな……ああもう私の話を聞けぇ!!」

 

晴先輩は今にも会場から逃げたそうに顔を赤く染めて取り乱しながらも、咳ばらいをしながら今度は私に向き直った。

 

「晴先輩、さっき摂取したストゼロが目から溢れそうなんですがどうしたらいいですか?」

「いやしらんがな、せめて出すんならまともな手段で排泄してくんろ」

「心音淡雪、ストゼロゴールデンシャワー、出る!」

「いやごめん私が悪かった、何万人単位の前で漏らすのは自分の配信でお願い。あとなんでガ〇ダムの出撃シーンっぽく言ったの?」

 

向き合ったまま晴先輩と笑い合う、よかった、高揚し過ぎた心がやっと正常に戻ってきたかもしれない。ストゼロ万歳。いやむしろここまでくるとストゼロ万博開いたほうが良くないか? 太陽の塔ならぬストゼロの塔建てて皆で拝もうよ。

 

「はいはいそれじゃあ続きいこうか。というか今までのただの昔話だから、むしろこれからが本題だからね!」

 

その言葉にまたまた大きな盛り上がりを見せ始める会場。なんということだ、これだけ盛り上げておいてどうやらまだこの人は満足していないらしい。

未だに駆け足の心拍を一旦深呼吸で落ち着け、心して聞かせてもらおう。

 

「まぁそんなわけで今私はここに立っているわけだけど、分かってもらえたかな、今までの行動理念が世話になったライブオンの為だったんだよね。だから私ってライブオンのライバーというよりはライブオンの社員っていう自己認識が強いんだよ。社員兼任なのは配信でも言ったことあるから知ってる人も多いと思うけどね」

 

その言葉に会場全体が今一度聞き入り始める、晴先輩の声色が真剣なものに戻っていた。

 

「もともとの経緯もライブオンを救うためだから自分からライバーになりたかったわけではないの。これってさ、なんだか微妙じゃない? そう思わない人もいるかもだけど、私の中ではそう思うの、なんだか曲がっているように感じちゃってさ。だからね――ライバーの後輩が育って、もう私がいなくなっても大丈夫ってなったときにね――身を引くつもりだったの。今度は裏方としてライブオンを支えていけたらなって。身勝手な思いでごめんね、でもこんな気持ちで皆の前に出ることが私はすごく皆に対して負い目に感じていたの、ほんとうにごめんなさい」

 

晴先輩が深く深く頭を下げる、その様子を見た会場は一瞬にして音を忘れてしまった。私を含む誰もが驚きのあまり声を失ってただ茫然と立ち尽くした。

今の言葉の意味――つまりそれは朝霧晴の引退である。

まるで金魚のように音も出せぬまま口をぱくぱくさせることしかできない私をおいて、頭を上げた晴先輩が言葉を続ける。

 

「もうライブオンは大きくなったよね、2期生が頑張って、3期生も頑張って、今では4期生までいる。もう私は朝霧晴のライブオンではなくてライブオンの朝霧晴ってポジションになったと思う。きっともう私1人がいなくなってもライブオンは崩れない」

 

私は……納得がいかなかった。

だってあの時言ったじゃないか、引退はしないって!

確かに聞いた、今でも聞いた時の安心を覚えている、私はこの程度で止まる逸材じゃないとも言った!

ライブ中であることすら忘れそう声を上げようとした、その時だった――

 

「でもね!」

 

今までと一転して晴れやか声が響く。晴先輩は笑っていた、その目は輝いていた、その姿はどこまでも――朝霧晴だった。

 

「もう1つの感情が私の中に生まれたの! 確かきっかけは二期生が有名になり始めたとき、そして確信したのは……今日ここに来てくれた心音淡雪ちゃんが例の配信の切り忘れでバズったとき」

 

晴先輩が私の真正面にまで近づく、あの真っすぐな目は更なる輝きを放ち、気の抜けた私の顔を映し出していた。

 

「なんて楽しそうな人たちなんだろう――天才と呼ばれたこの私が予想すらできない――この人たちのことをもっと知りたい、この人たちともっと仲良くなりたい、この人たちと一緒の舞台に立っていたい……そう思ったの。最初は他のライバーになって立場を気にせずに傍で眺めていたいなんて思ったけど、それだけじゃ満足できない……私という人間が私そのままで皆と一緒にいたい、私はVTuberでいたい、そう思うまで思いが膨らんだ」

 

――あぁ、なるほど、今になってやっとさっき鈴木さんが言ったことの意味が分かった気がするよ。

 

「だからね、少し前に例の親友4人に言ったんだ、ライバー活動にもっと専念したい、でも業務関連で負担を掛けちゃうから無理だったら諦めるって。そしたらね、「やっと自分がやりたいこと言ってくれたね」なんて言うんだよ? 「いつも自分を犠牲にしてまで私たちの為に行動してくれてたから、やりたいことを言ってくれて嬉しい」って「晴に比べたら馬鹿な私たちだけどそれでも成長してるんだぞ」って!「だから心配せずにとことんやってこい」って!!」

 

私とお客さんの方を交互に見ながら涙を流してそう語る晴先輩。

今まで雲の上の人だと思ってた、自分とは住んでいる世界が違うなんて勝手に思ってた。

 

「その後ライブオン社員全員にも話してね、行ってらっしゃいって言って貰えたの。だから、皆、私の我儘を聞いてください! 今の説明で私に失望した人もいるかもしれない、嫌いになった人もいるかもしれない、でも必ずもう一度振り向かせて見せる。だから……私にVTuberをやらせてください!!」

 

でも私は間違っていた、晴先輩は私と同じ。ちょっと人より頭がいいけど曲がったことが出来ない不器用な――1人の女の子なのだ。

晴先輩が2度目の大きく頭を下げたとき、会場がお世辞なしに崩れてしまうんじゃないかと思うほどの大大大歓声が上がった。体全体が一つの心臓になったのかのように芯から跳ね上がってしまいそう。

頭を上げた晴先輩が今度は私に手を差し伸べてくる。

 

「お願いシュワッチ、私の我儘、聞いてくれない? シュワッチが決定打になってわたし今こうなっちゃったんだよ? 上でも下でも左でも右でもない、あなたたちと同じ舞台に立ちたい。新人ライバー朝霧晴を受け入れてくれないかな?」

 

私は不思議と涙がこぼれていた。

ただ私が、あんなちっぽけな人間だった私が恩人だった晴先輩にそんなふうに思っていてもらえていたこと、自分がここまで人に影響を与える存在まで成長できていたことが嬉しくて嬉しくて嬉しくて……

過去を思い返せば自分でも時が経つにつれて意識の違いが生まれていたことに気づいた。

最初は自分すら認められず弱気な発言が多かった。だけどいつしか三期生のエースと呼ばれることに胸を張れるようになり、先輩として還ちゃんを始めとする後輩の力になれるようになっていた。

だめだ、心に吹き荒れる感情の嵐は私の理解をとうに超えている。

 

ただそれでも――私がその手を取ることに迷いはなかった。

 

私と晴先輩、2人の手が固く結ばれたとき、バンド隊による予定していたサプライズ新曲の演奏が始まった。

 

「よっしゃ! それでは聴いてください! 作詞作曲は私!」

「完全初披露のコラボ新曲! 曲名は――」

「「【ダイヤモンドダスト】!!」」

 

晴れた朝の光が雪に反射して、漂う霧さえもダイヤの輝きとなった。

 




今回から元々誰が喋っているのか分かりやすいように導入されていた☀、☆、♥などのマークを、執筆環境の変化と執筆に慣れたことで必要性を感じなくなったので使わないことにしました。
過去のものも時間があるときに修正したいと思います。

活動報告にてマシュマロとリクエスト募集中です!
本編に出てくるライバーに質問したいことなどあれば、活動報告『マシュマロ募集』のコメント欄に、やってもらいたいことや見たいシチュエーションがあれば『リクエスト募集』のコメント欄に書き込んでくだされば、本編にて採用されます!
よろしければ是非書き込んでみて下さい!

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