VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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有素ちゃん家にお泊り8

有素ちゃん家にお泊り二日目、朝食を食べた私と有素ちゃんは早速程よく涼しい風が吹く外を歩いていた。

今日はお待ちかねの観光をする日だ! このまま遊んだ後、直で新幹線に乗る予定なので、もうご両親にお世話になりましたとお礼も済ませてある。

 

「それではついてきてください! ……でも、本当に行き先を私が決めてしまってよかったんですか?」

「はい、現地の人が一番お勧めするものを私は触れたいんですよ」

「なるほど、承知いたしました。それでは精いっぱいエスコートしますね!」

「ありがとうございます。それでは、はい!」

「……ん?」

 

私が差し出した片手を不思議そうな目で見つめる有素ちゃん。ふふっ、自分の予想外なことに関してはニブいんだな、この子は。

 

「エスコートしてくれるんでしょう? それなら手くらい繋いでもらわないと、私はぐれてしまうかもしれませんね」

「ッ!? し、失礼しました! もう全力で握ります! 一生握り続けます! いっそのこと縫い合わせて離れられないようにしましょう!」

「もうそれ完全にホラーですからね、普通の人はドン引きですよ……まぁ私は慣れたのでいいですけど」

 

 

 

エスコートを申し出てくれた有素ちゃんに手を引かれながら羽を伸ばして観光を楽しむ。

人目がある以上外では身バレ対策でお互い雪と歩モードだ。様々なおいしい名物料理や観光地を案内してくれる歩ちゃんだが、照れ屋を隠す仮面を全て失っているせいか妙にキョドキョドしいのが少し面白い。

それにしても見たことのないものや食べたことがないものに初めて触れるというのは、歳をとると共に新鮮味が増していくものだな。旅行が趣味とかならそうでもないのかもしれないけど、旅行自体ちゃみちゃんと遊園地に行って以来の私にとっては一つ一つに大きく心が動かされるものがある。

初めて触れるものに溢れていて何も知らなかった子供時代とは明らかに感動の質が違う。旅行、良いものだな、今度は同期か先輩でも誘っていってみようかな。

 

 

お日様が勤務時間の終わりを間近に控え、お腹も膨れて足も程よく疲労感に包まれてきたころ、ふと歩ちゃんがこんなことを提案してきた。

これは完全に自分のわがままで観光とか関係ないのだが、よければ小一時間程私と一緒にカラオケで歌ってみたいとのこと。

更に話を聞くと、歩ちゃんは私と一緒に歌うことに大きな憧れを持ってくれていたみたいで、今は絶好の機会だから誘ってくれたみたいだ。

当然私も断る理由などない。ここまでお世話になった恩もあるし、そもそも私も歩ちゃんと歌ってみたい。個人的に何度も歌動画のリピートが止まらないほど歩ちゃんは歌が上手いのだ、こちらこそ光栄だろう。

二人で一緒に歌える曲をメインにお互い羽目を外して声を張り上げる。

 

「雪先輩はやっぱり私と比べて声に迫力がありますね。声質の違いなのでしょうか? それとも何か発声法とかあったりしますか?」

「ん~どうでしょう? なんというかお腹の……」

「お腹から声を出す感じですか? 私も気を付けているつもりなんですけど、上手くできていないのでしょうか……」

「いや、ちょっと違って、なんというか……お腹の中のストゼロから声を出す感じですかね? プシュって感じで」

「雪先輩、もしかして体内でストゼロが臓器化していませんか? とても常人の発声法とは思えないのですが……」

 

 

 

歌を楽しんでいる間も容赦なく時間は過ぎていく。あっという間にカラオケの時間は終わり、とうとう駅でお別れの時間がきてしまった。

心惜しくて仕方ないが、改札前で歩ちゃんに別れの挨拶を告げる。

 

「突然のお願いだったにもかかわらず、今日は本当にありがとうございました。思い出に残る素敵な二日間でした」

「いえいえ! もう実家だと思ってまたバシバシ来てください! もういっそのこと嫁ぎましょう!」

「ふふっ、魅力的な提案ですね。でも今度はぜひ私の家に足を運んでみてください。一人暮らしなので愉快な家族はいないですけど、歓迎しますよ」

「は、はい! 絶対に行きます! むしろ今から行きます! 私が嫁ぎます!」

「あ、あはは……外に出て口調も違ってもやっぱり中身はいつも通りですね……」

 

本当についてこようとする歩ちゃんをなんとか引き留め、最後に私は深夜にお母様と話した時から気になっていたことを聞くことにした。

 

「歩ちゃんはさ、ご両親のことどう思ってる?」

「お父さんとお母さんですか? どうして急に?」

「いや、えっと……そうだ! あんなに楽しいご家族と毎日暮らしているとどんな風に感じるようになるのかなって少し気になりまして!」

「はぁ、そうですね……たまにおせっかいというか、一人で過ごしたくなる時もなくはないですけど……なんだかんだ居てくれないと困る存在ですかね。あはは、身近な人過ぎてなんかこういうの照れくさいですよね、とても本人には言えないです」

「――――そっか。それじゃあさ、帰ったらお母様に『大丈夫ですよ』って言ってあげてくれませんか?」

「へ? 大丈夫って伝えるだけでいいんですか?」

「はい、お願いします」

 

きっと聡明なあの方ならこれだけで気づいてくれるだろう。

お母様、あなたは子に対する自分の親としてのふるまいを心配していたみたいですけど、きっと大丈夫ですよ。

子から必要とされている、それだけで親として最高に立派なのだと私は思います。

だから大丈夫。あなたの愛は子にしっかり伝わっていますよ。

 

それを最後に改札を抜けて新幹線へと乗り込む。さて、休暇も満喫したし、明日からまた配信がんばりますか!




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