VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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光ちゃんとデート3

「今日はどんな服が欲しいとかは決めてる?」

「いやー特に決めていないんですよね。基本的に自分のファッションセンスを信じていないもので……」

「なるほど! 外からの意見を取り入れる広い心を持っているわけだね! かっこいいぜ!」

「そんな大層な思いじゃないですよ」

 

この奇跡的シチュエーションを意識し過ぎるとうまく会話すらできなくなる気がしたので、対策として私は逆に萎えることを考えることでなんとか自然体を装うことにした。

落ち着け淡雪、確かに光ちゃんの存在は尊さの塊だが対になっているお前はなんだ? ストゼロが入ってすらいないお前はもはや歩く空き缶だぞ? 配信中ならまだしも外では完全なモブだ、己惚れるな! 

ふぅ、やっぱり私はこういうシーンを眺めている側でいいんだよ。自分が当事者だと考えたら急激に頭がクリアになってきた。

 

「じゃあ普段はどこで服買ってるの? 今着てるのとかは?」

「今日のはどこで買ったのかすらもう忘れてしまいましたね。基本はユニシロ、CU、やまむらとかで安くて無地に近いやつを適当に見繕ってます」

「無駄なものを徹底的に削ぎ落とした一種の境地に達しているわけだね! 最高にクールだぜ!!」

「いや、境地もなにも一歩目すら踏み出せていないだけですから……」

 

全肯定光ちゃんの優しさと寛大さに涙が出そうである。

この日の私の服装はヘンに悪目立ちしない地味な白のTシャツに下は黒一色のワイドパンツ、それだけ、機能性抜群だ。

もし遊〇王のライトアンドダークネスドラゴンみたいだねって言うやつがいたら体のパーツを100個に分解して一生解放されることのないエクゾディアにするから覚悟しろよ。

ドロー! 封印されし者の左手小指! ドロー! 封印されし者のハムストリング! ドロー! 封印されし者の封印されしモノ(下ネタ)! こんな意味不明なカードでどうやって戦えばいいんだ!? 状態にしてやるからな。

いやさぁ、私も昔は服とかに興味がなかったわけじゃないんだよ? 私にも美にあこがれた学生時代だってあったさ。

でもね、卒業後にブラック企業で働いているうちに生きることが最優先になってしまってね、自分を着飾る時間も余裕もお金も無くなり、最終的に意味すら見いだせなくなってしまったわけよ。

だが今の私は生まれ変わったのだ! これからライバーの仲間たちと企画や遊びでオフで会う機会も増えるだろうから、並んでも恥ずかしくないように最低限のおしゃれは身に着けないと!

 

「私と違って光ちゃんはおしゃれですね」

「ほんと? ありがとー! でもまぁその分お金もきつかったりするんだけどね……服って本格的に選ぼうとするとびっくりするくらいお金かかるのが難点だよ」

「ふふっ、多分今の私は全身で一万円もかかっていませんよ」

「本当に!? やっぱりデザインが関わるものは原料が似通った素材でも全然変わるね……光なんて下着だけでとどいちゃいそうだよ……」

「へ、へー、そっ、そうなんですかぁ」

 

突然下着の話をされて思わずキョドってしまう私。

性からかけ離れているイメージの光ちゃんが下着の話をしているのにギャップを感じて正直ドキッとしてしまった。

いけないいけない、これでは完全に童貞の男子学生と何も思考が変わらないではないか。

私だってまだうら若き乙女だ、この程度の話題で動揺しているようでは尚更リスナーさんからバカにされてしまう。

下着なんて余裕ですよ! よーゆーう!

 

「そんな高い下着私買ったことないですね。最近はもう通販でめちゃ安いセットのやつとかに手を出してしまっているくらいです、情けない」

「それじゃあだめだよ淡雪ちゃん! 品格というやつは見えないところから溢れ出すものなのさ! その証拠に燃えるような熱い闘志を今の光からも感じるでしょ?」

「んー……そうかも……知れませんね?」

「あり? 思ったより反応悪い? おっかしいなぁ、お気に入りの着けてるはずなんだけど……ほら!」

「へ?」

 

そう言うと光ちゃんは組んでいた腕を外し、私の後頭部に回してグイっと胸元に引き寄せた。

そして服の胸元の部分を反対の手の人差し指で私だけに中が見えるように引っ張り――

 

「――――――――」

「ね! いいやつ着けてるでしょ! ……って淡雪ちゃん? どうしたの?」

 

意識が遠のいていくのを感じる。でも不思議と頭の中は天上の幸福感に包まれていた。

もう一生童貞でいい――だってこんな感動を味わえるんだから。

さぁ、今こそこの言葉を全世界の同士に送ろう。

――下着は赤かった。byシコーリン――

 

「おーい? へーんーじーしーてー!」

 

――はっ!

 

「ひ、光ちゃん!? なななな何をしておるか!?!?」

 

数秒間天国に旅立っていた意識が光ちゃんの声で現世に呼び戻される。

危うく赤面どころではなく鼻血で顔面を血の赤で染めてしまうところだった。

そう、まるで光ちゃんの真っ赤な下着のような……下着の……よう……な……。

うおおおおおおおお!?!?!?!?

 

「もーなんでそんなにてんぱってるの? おっかしいんだぁ! 女の子同士なんだからこれくらい平気じゃん!」

「そ、そうですよねぇあはははは、こ、これは失礼しましたぁ」

 

本当か? 陽キャの女の子はこれくらいしてしまうのか? 光ちゃんが警戒心がなさすぎるだけではないのか!?

ああ、もう駄目だ、このシチュエーションにヘンに意識しないようにするつもりだったけど、今では自分が陽キャのテンションに心を揺さぶられまくる地味っ娘役にしか思えなくなってしまった。

うぅ、どうしよう、未だに顔から熱が引かないよぉ……。

物語の中だったら大歓迎な展開なのだが、いざ自分が当事者になるとどうすればいいのか分からなくなる私なのだった。

 




心音淡雪Twitterアカウント↓
https://twitter.com/kokoroneawayuki

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