VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
「さて、聖様の収益化をなんとしても取り戻すわけですが! 一応事前に確認しておかないといけないところを皆で共有しないとかな」
「りょーかい、言いだしっぺのおしおは何かある?」
「まずはそもそもの収益化が剥奪された原因でしょ。センシティブな点が引っかかったんだよね、聖様?」
「そうだね、ヨーチューブ君にそう言われた。具体的な点は相変わらずさっぱりだけどね」
「まぁそこが違ってたらガンジーですら首から上が吹き飛ぶレベルの『なんでやねん!』のツッコミを入れると思いますしね」
「全く、それにしても思春期のヨーチューブ君には困ったものだよ」
「聖様に」
「ツッコミ入れられるのヨーチューブ君じゃなくて聖様の方かい!? 絶対淡雪君の私恨が入っているだろう!?」
「全盛期の浜〇雅功並みのツッコミ、セイセイは耐えられるかな?」
「息を吐くように嘘をつくのはやめたまえよ晴君。全盛期の浜〇は余りの威力にツッコまれた人の体は直立不動のまま頭だけ吹き飛んで、更にその頭が地面をえぐりながら一周して最終的に元の頭部に戻ってきていたよ」
「芸術点高いツッコミですね、物理的に」
「はいはい、今はヨーチューブの話だからねー!」
今聖様とシオン先輩の発言にも出たが、私たちは『ヨーチューブ』という誰もが知る世界最大の動画配信プラットフォームで配信を行っている。
全世界の大多数が利用しているサイトの為、勿論他のライバルサイトと比べても一流のサービスが整っていて快適なのだが、その分ユーザーが多すぎる故の問題も散見されている。
まず挙げられるのは、今回の聖様の件とも関りが深いのだが、ユーザー個人に対する管理があまりできていないことがあるだろう。
18禁的な要素を含むものや倫理に問題があるものは削除や投稿アカウントに対するペナルティが与えられるのだが、これの裁量がヨーチューブはAIに委ねられている。
人が管理するにはどう考えてもヨーチューブの規模は限界があるため、それが妥当ではあるのだが、正しい判断の他にどうしてもおかしな判断や明らかなミスの判断が急に下されるということが発生してしまう。
まぁ使わせてもらっている以上それもある程度仕方ないと考えるのが礼儀というものだろう。だが問題があるのはここからだ。
じゃあどこが悪くてどこを修正したら治るのか、明らかなミスで消されたのだがどうすれば治るのかなどのAIが弾いた後の対応の部分が、AIでは無理があるため非常に曖昧になってしまっているのだ。
結果的に一部のパターンに泣き寝入りする場合や、自分で修正点を見つけるなどの対応が必要になり、ペナルティが消されるまでの期間が人によって長短バラバラなんてことが起きる。
運営の本社がアメリカにある為、英語で問い合わせることが出来る人の方が有利に働くなんてこともあるくらいだ。
まぁこんなことを挙げても、多くの人の生活の一部となり、利用できなくなるとめちゃくちゃ困る程便利で素晴らしいプラットフォームには変わりがないので、そこは勘違いせず感謝を忘れてはいけないところだ。
だが、私たちのように生活の収入までヨーチューブに頼っている人たちは、自分の活動と収入を守るためにどうしても常日頃からシビアに気にしている部分になる。
今回の聖様のように、具体的にどこがアウトなのか明確に分からない場合はめちゃくちゃ困ってしまうのだ。
更に言うとこれがライブオン初の収益化剥奪になるため、対応に全く慣れていないことも大きい。
「少し聞きたいんだが、君たちは聖様のどの部分がヨーチューブ君の性癖に引っかかったと思う?」
「……存在ですかね?」
「酷くないかい淡雪君?」
「あわっち」
「そうだ晴君、君も何か言ってやってくれ」
「それな」
「おいこら」
「実際淡雪ちゃんの答えが正解なのかもしれないね。全く、聖様は少しおませなだけなのにヨーチューブ君は頭が固いんだから!」
「シオン君の言う通り、聖様はおませなんだよ。もうお股がおませしてお待たせになってるだけなんだよ」
「ませてるどころか成熟し過ぎた結果腐敗した感じですね」
「配信プラットフォームをアダルトサイトに変更するのはどうよセイセイ?」
「AVtuberってやつかい?」
「それもなんだか違いませんか……」
その後、一旦ネタを抜きにして少しの時間案を出しあっていたのだが、結局のところ過去の動画を遡ってアウトな部分を探し出し、再発しないようにこれから過激な点を今まで以上に気を付けるみたいな漠然とした案しか出てこなかった。
それも聖様の活動期間的に過去動画の数は膨大なものになっているし、過激な点の方もそもそもどこからアウトなのか? と聞かれてしまえばこれまたはっきりしていない。
勿論まだ会議は始まったばかりでこれから細かなところまで話し合うことはできるのだが、なんだかひどく非効率的な気がする。
先輩方も似たようなものを感じているのか、なんだか微妙な雰囲気が漂ってきてしまっていた。
そんなとき、私に直接的な解決策ではないものの、一つのひらめきがあった。
「これ、配信でやった方が良くないですか?」
発言と共に一気に先輩方の視線が私一点に集中する。
「コアなリスナーさんの中には聖様以上に聖様の配信履歴を知っている方もいらっしゃるかも知れませんし、詳しい方がコメント欄で良いアドバイスをくれるかもしれない、それになにより――聖様の望みであるネタにしてほしい意思と事態の解決が両立できるかと」
「なるほど、未だにセイセイのことを心配しているリスナーさんも多いだろうからね。配信でド派手にネタにすれば安心を届けられるだろうし、解決にも近づくかもしれないね。私はいいと思うよ、あわっち!」
「確かに、なんだかこのまま会議を続けると泥沼化して時間だけ無駄にすることになる気がしてきたし、その方が気合も入っていいのかも……聖様はどう思う?」
「それは勿論願ったり叶ったりなんだけど……本当にいいんだね? 聖様と配信して?」
「……なにか問題がありますか?」
謎の確認をする聖様に他のメンツも私と同じく首を傾げる。
「あ、でもその配信の日は私の代わりにネコマーに参加してもらうことになるかも」
「あっ、そうかい……」
「最近は配信に集中させてもらってたけど、今ちょっと私がやらないといけないめっちゃ大切な仕事が入ってね、これから忙しくなるんだ」
「あ、あぁなるほどそういうことか! 了解だよ晴君」
……今の晴先輩との会話の中で、参加できないことを知ったタイミングで明らかに一瞬聖様が悲しそうな表情になった気がする。聖様があそこまで露骨に感情を表に出すのは珍しい。
やっぱり収益化の件でナーバスになっている部分があるのかも知れないな、なんだかんだ世話になっている大切な先輩だ、明るいテンションを維持しながら一刻も早い解決を目指そう。
「それじゃあ今日中にチャットで皆の日程合わせて、後日配信決定ね!」
シオン先輩の声と共に、その日は一旦解散となった。
心音淡雪Twitterアカウント↓
https://twitter.com/kokoroneawayuki
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