VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ワルクラ配信3-7

決まった行き先もなしにぶらぶらと街の中を歩く。気になった建築物があったら観光したいのだが、この道沿いは何があるかな?

 

「ここは養鶏場でその隣がホテル『コウノトリの巣』、その隣が射的場でその隣がホテル『大人の射的場』……そのまた隣は教会でその隣がホテル『マリア様が目を逸らしてる』……ちょっとこの通りから離れましょうか」

 

コメント

:建物一軒ごとに対応したラブホ設置するのやめてもらっていいですか?

:流石あわちゃん察しが早い

:誰がこの通りを作ったのか手に取るように分かる

:目を逸らすだけで許してくれるマリア様まじ聖母

:今すぐあの赤髪を磔にした方がいい

 

ダッシュで通りから離れる。

……うん、若干街の外れに来ちゃったけど、この辺りはおかしな点はなさそうだな。

 

「あっ、なんだか大きくてメルヘンな建物がありますね!」

 

目についたのは壁に可愛くデフォルメされた動物の顔が描かれた建物だった。敷地内には小さめの公園のような場所も付属しており、そこにはプールだったり遊具だったりが並んでいる。

……壁を見て一瞬少し前のエーライ動物園を思い出してひやっとしたが、建物の名前が書かれた看板があったので見てみるとそこには『ライブオン幼稚園』とある。……なら大丈夫そうかな。

 

「ここは私初めて見ますね。このあたりは立地があまり良くなくて、皆建築場所に選ばないんですよ。でもすごく立派な幼稚園ですね! 隠れた名所ってやつでしょうか? 決めました、今度はこの中に入ってみましょう!」

 

癒されるはずの動物園で逆に削られた心を今度こそ癒してもらおうと、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら入り口まで走っていく。

 

「おじゃましまーっす!」

 

そして中には地面に這いつくばる還ちゃんをゼロ距離で監視し続けているシオン先輩!

 

「おじゃましませんでしたー!」

 

建物の中に入っていた時間、推定僅か0.3秒。

うん、正直な話、幼稚園って名前の時点でシオン先輩がいることを警戒してた。この退出スピードも事前の警戒の賜物だ。

還ちゃんにはもしかすると見つかったかもしれないがシオンママは完全に私に背を向けていた。これなら安全に逃げられるだろう。

 

ワルクラチャット

<山谷還>:ママ……たすけて……たすけて……

 

「チッ! あの赤ちゃんBBA私のことチクりやがった!! ひっ!? もう追いかけてきてる!?」

 

コメント

:立地も合わさって完全な隔離施設なんだよなぁ

:赤ちゃんBBAっていう矛盾の塊すこ

:還ちゃんの枠で一人の勇者リスナーが言ってからここまで定着したか

:最近はでんじゃらすばーさんも定着してきたぞ

:草

:チクりやがった(清楚)

:こいついつも追いかけられてんな

 

「私、今日は何もしてないのになんでこんな目にぃ!! ってえ!? 回りこまれた!?」

 

デジャヴを感じながらも必死に追いかけてくるシオンママを振り切ろうとしていたのだが、結構な距離が離れていたはずなのになぜかあっという間に逃げようとしていた先に回り込まれてしまった。

その速さの答えはシオン先輩の姿にあった。あの背中に付けているセミの羽みたいなやつ……つまり空を飛んできやがったな!

 

ワルクラチャット

<神成シオン>:赤ちゃんになれ、さもなければ殺す

<心音淡雪>:怖すぎだろ!? そんな二択初めて聞いたわ!

<神成シオン>:私の愛しの時間を邪魔した罪は重い。私はこの世界で拉致するぐらいしか還ちゃんを可愛がることができないんだぞ!

<心音淡雪>:避けられてる原因は明らかにシオン先輩にあると思うのですが……

<山谷還>:ママになれ、さもなければ殺す

<心音淡雪>:なんたる四面楚歌、これが見捨てて逃げた罰か……

 

「あーもーやってられるかあああぁぁぁー!! 私は観光がしたいだけなんだよーー!!」

 

私は半ばやけくそになって持ってきていたスコップとピッケルを使い、真下の地面を掘った。

どうせ地上ではシオン先輩から逃げられないんだし、もう地下に逃げるしかない! 幸いなことに私の行動に困惑したのかシオン先輩は穴の周りで立ち止まっている。流石にシオン先輩もここまで追いかけてくるほど本気で殺しに来ることはないようだ。

でも一応頭上を塞いで、マグマダイブしないように掘り方を変えて。

……あれ、そういえばここまで掘ればあそこに繋がるんじゃないか?

 

「あっ、やっぱり繋がった」

 

地下を掘り進めていくと、綺麗に直線に掘られた道があちこちに広がっている奇妙な空間に出た。

ここは人と会いたくないがあまり地下に引きこもりプレイをしているちゃみちゃんが作った、街の範囲全ての地下に広がる鉱石集めの為の巨大施設、ブランチマイニング場ってやつである。例の地下帝国から派生してできたものだ。

丁度いい、ここを経由してシオン先輩が居ないところから地上に出よう。

……今更ながらログイン人口が多い時間帯に観光をしようと思ったのは失敗だったかもしれない。少し歩く度に変なことに巻き込まれるよ……。

 

「さて、問題は私は私で場所を把握できてないってことですかね……出口見つけられるかな……というか出口ありますよね……?」

 

日の光を今一度求めて地下通路をあちこち歩き回る。あまりにも見つからなかったら真上を掘って帰ろう。

すると、なにやらひたすら壁の石をほりほりしている人影を見つけた。

 

「あれって、もしかしてちゃみちゃん?」

 

気になり近づいてみると、やはりちゃみちゃんだった。

挨拶でもしようとすぐ傍まで寄ると、ちゃみちゃんも私の存在に気が付き――

 

「え、ちょっ!?」

 

全速力でその場から逃げ出した。

 

「なんで!? ちゃみちゃーん!?」

 

理由が分からずとりあえず跡を追いかけていると、行き止まりに当たったようですぐに捕まえることができた。やはりちゃみちゃんはPONである。

 

ワルクラチャット

<心音淡雪>:ちゃみちゃん! なんで逃げるんですか!

<柳瀬ちゃみ>:ごめんなさい……この広い採掘場で人に会うことなんて滅多にないから驚いて逃げてしまったわ

 

「なるほど、そういうことですか」

 

コメント

:あわちゃんに気が付いたときちゃみちゃまえげつない大絶叫あげてたで

:かわいい

 

「あ、ということはちゃみちゃんも今配信しているんですね! ……あれ」

 

ちゃみちゃんの配信、ワルクラ、地下、そしてブランチマイニング――

このワードからある予感が頭をよぎった。

 

ワルクラチャット

<心音淡雪>:ねぇちゃみちゃん。今日はずっと配信でブランチマイニングしていたんですか?

<柳瀬ちゃみ>:ええ! 鉱石沢山よ!

<心音淡雪>:この前の配信でも確かずっと同じことしてましたよね? というかこの頃ワルクラの配信ずっとこれしていませんか?

<柳瀬ちゃみ>:えっと……そうね、ワルクラの配信だと今回含めて10回連続で鉱石掘っているわね

<心音淡雪>:ずっと? 他に何もせずに?

<柳瀬ちゃみ>:ええ! 一度も地上に出ずに延々と地下で鉱石ほりほりしてるわ! この単純作業と少しづつチェストを埋めていくレアな鉱石を見るのが最高に楽しいのよ!

<心音淡雪>:地上に案内しなさい。そして付いてきなさい

 

そのチャットと共に素手でちゃみちゃんに攻撃した。防具を着込んでいるからダメージはないだろう。

 

ワルクラチャット

<柳瀬ちゃみ>:痛い! 何するの淡雪ちゃん!?

<心音淡雪>:いいから地上に案内する! そして一緒に地上に出ますよ!

<柳瀬ちゃみ>:なんで!? 地上なんて危険なところ行きたくないわ!

<心音淡雪>:だめです! なんで10回も連続でそんな絵面の変わらない配信をしているんですか!! 配信者として一回くらい外に出なさい!

<柳瀬ちゃみ>:い、嫌よ! リスナーさんだって毎回『ちゃみちゃんは働き者だなぁ』って褒めてくれるからこの配信内容でなにも問題ないわ!

<心音淡雪>:どんだけ甘やかされてるんですか!? いやまぁ確かに単調作業しながらの雑談配信もいいのは分かりますけど連続でやりすぎです! 一度日の光を浴びてリフレッシュしましょう!

<柳瀬ちゃみ>:そんなぁ……

 

渋るちゃみちゃんだったが、文句を言うたびに攻撃する私に観念して出口まで案内してくれた。

 

ワルクラチャット

<柳瀬ちゃみ>:この階段を伝って行けば地上よ……

<心音淡雪>:一緒に行きますよ。そして一緒に観光でもしましょう

<柳瀬ちゃみ>:いやぁああああ!! やっぱり外はいやぁああああ!!

 

「あ、こら逃げるな!」

 

ワルクラチャット

<柳瀬ちゃみ>:外は勘弁して! 私外はダメ! 本当に外はダメなの! 中がいいの!

<心音淡雪>:そんなに駄々こねても意地でも外に出してやりますからね!

 

コメント

:避妊ガチ勢のあわちゃん

:誰かは言うと思った

:草

 

多少出口前で暴れたものの、やっと完全に観念したようでおとなしくなったちゃみちゃんと共に地上へと出る。

出たロケーションは私の家のすぐ近くだった。そして私に気が付いた途端全速力で近づいてくる例の変態二人組の姿が――

 

「晴先輩と赤いヤツまだここにいたんかい!? ってちゃみちゃん!? 待ってぇ!!」

 

突然の先輩登場にビビったのか隣にいたはずのちゃみちゃんが地下に向かいとんでもない速度で引き返していってしまう。

そしてそんなことも知らずに私が帰ってきたのが嬉しいのかピョンピョンと私の周囲を跳ねながら盛り上がっている先輩二人……。

 

ワルクラチャット

<朝霧晴>:あわっち帰ってきた! おかえり! 帰ってくると信じてずっと待ってたよ!

<宇月聖>:ねぇコントしていい!? 新しいコントしていい!?

 

ああもう――

 

「観光なんてやってられるかあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ストレス発散とばかりに剣を持って赤いヤツを切りつけ、何事かと逃げていく先輩二人を剣を振り回しながら追いかけまわす。

 

コメント

:ワルクラの遊び方が全員迫真過ぎる

:楽しみすぎなんだよなぁ

:皆ゲームってこと忘れてそう

 

観光というより鬼ごっこになってしまったワルクラ配信なのだった。




ぶいでん3巻の詳しい情報を活動報告に載せました。
3巻は大型新人VTuberまでの範囲に『淡雪初めての案件で暴走』や『有素とましろが淡雪を取り合う?話』などが書き下ろされています。買ってくれぇ……。

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