VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
今日は鈴木さんとの通話による打ち合わせがあった。
それ自体はいつものことなのだが、どうやら本日の打ち合わせ内容にはとても重要な事項が含まれているらしく、私も心して話を聞いていた。
そのはずなのだが……。
「いやまずいって! それはまずいですって!」
話を聞き終わった後、私はこの有様だった。
「まぁまぁそう言わずに。ほら、雪さんだって星乃マナさんはご存じでしょう?」
「知ってるもなにもつい先日卒業を聞いて放心していましたよ!」
「それではなにも問題ないですね。雪さんが星乃マナさんの卒業ライブに出演ということで」
「いやいやいやいや! 自分で口に出してておかしいなって思わないんですか!?」
そう、話の内容は今鈴木さんの言った通りだった。
より詳しく言うと、先日卒業を発表したV業界の重鎮である星乃マナちゃんは、卒業配信の中で『最後に会いたい人たち』というコーナーを設けているようだった。
内容はコーナー名そのままで、マナちゃんと仲が良かったライバーさんなどに順番に来てもらい、マナちゃんが最後のお話をする流れ。
そして流石はマナちゃん、今参加が予定されているだけでもVに限らない超有名配信者の名前が当然の如くズラーっと並んでいた。
問題はここから、そのリストの中にあるのだ――――ライブオンから唯一私の名前が!!
信じられないことだが、つまりはマナちゃんの卒業配信に、なぜか一切の関わりがなかった私が御呼ばれされているらしい。
「おかしいでしょ!? なんで感動的な卒業配信に初対面の私呼ぼうとしてるの!? 最近流行の卒業式に有名芸能人を呼ぶ流れで、壮大なフラグを立てた末に近所のおもろいことに定評のあるおばさんが来たみたいなものですよ!?」
「雪さんはおもろいおばさんじゃなくて立派なVTuberかと。謙遜し過ぎですよ。でも確かにすごいですよね、この中でマナさんと初対面なのは多分雪さんだけですよ」
「なんでそんなに冷静なんですか……」
実は私がここまで混乱しているのには、今ツッコミを入れた点以外にも理由があった。
それは活動内容の明確な違いである。
マナちゃんはデビューしてから今日に至るまで様々なことをやってきたが、それでも一貫して『アイドル』的活動を通していた。
それに比べて私たちライブオンはライブなどをやることはあってもその活動はかなりバラエティ的というかネタ枠的というか……そこに惹かれる人が居てくれたから活動できているのは理解しているのだが、向いている方向性が正反対なのだ。
その証拠に、マナちゃんは私どころかライブオンの面々とのコラボすら一度もなかった(完全にライブオンが魔境過ぎるのが悪いと思う……)。
前提として、参加するのが嫌なわけではない、むしろあまりに光栄なことだ。でも、卒業配信に私が御呼ばれされる理由があまりにもない為、それが不安というのが正直な感想だ。
「うーん……やっぱり私はまずいですってぇ……」
「んー……あっ、ほら、晴さんのソロライブ参加の依頼があった時と同じですよ」
「でもこれはライブオン外の話ですし……というか、ここはその晴先輩の出番なのでは? ライブオン代表と言えばそっちでしょ!」
「これはマナさんサイドの人選ですから。私にはなんともですね……」
「マナちゃんの運営さんどうした! 最後だからって会社辞める前日の無敵モードみたいになってるんじゃないだろうな!」
「あ、これリストアップしたのマナさん本人らしいですよ?」
「え?」
それって、マナちゃん本人が私に会いたいって言ったってこと……?
勝手にそんなわけがないと思っていたから運営さんがチョイスしたのかと思ってた……。
「この卒業配信自体最後と言うことで、運営サイドも感謝を込めて、マナさん本人の意向が強く配信内容に反映されているみたいなんですよ。個人的にその点があるので雪さんには受けていただきたいんですよね」
「そう……なんですか」
「恐らく今回ライブオンに依頼が届いたのも、そういう事情があってのことなのではないかと私は読んでいます。共演NGは言い過ぎかもしれませんが、まぁコラボしてる光景に違和感はありますよね」
「なるほど……うーん、確かにマナちゃん本人が望んでいるのなら私が出てもいいのかなぁ……」
「……それとですね、雪さん――」
さっきよりは前向きに捉え始めた私の背中を押すように、鈴木さんはこう言った。
「選ばれたということは、そこに意味があるんですよ」
「意味?」
「はい。他の誰でもないマナさん本人が卒業配信で雪さんを選んだ。どんな思惑があってかまでは分かりませんが、そこには初対面だとか方向性の違いとかは関係なく、選ばれたことだけで意味があるんです。自分が相応しくないなんて考える必要は全くないんですよ。マナさんが選んだのなら、選ばれなかった誰よりも貴方はふさわしいんです」
「…………」
「マナさんの為にも、引き受けていただけませんか?」
「……分かりました。でもですよ! 引き受ける以上私は全力で挑みますけど、もしヘンなことが起きても知りませんからね!」
「ふふっ、はい。ありがとうございます」
最終的にその鈴木さんの言葉が引き金となり、私は首を縦に振ったのだった。