VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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ガクガクブルブル3

「まぁ私はこんなもんかな。それで、お姉さんは?」

「はい? 私?」

「ん。どんなお仕事してるの? さっきも会社に行く途中だったんでしょ?」

「あ、あー! そうですね! えっと、私は~……」

 

 ……VTuberやってますと正直に言うのは当然まずいよな。

 でもさっき飛鳥さんが話してくれた以上私だけダンマリは感じ悪いし……。

 うん、飛鳥さんもやってたみたいに、いい感じに濁しながら場をしのごう!

 えっと、それじゃあVやってるってなんて濁せばいいのかな? んー……。

 

「あー……ア、アイドル~みたいな?」

 

 ――やばい――完全に盛りすぎちゃった。

 

「え!? 雪さんアイドルなの!? マジ!? こんなこと言うと失礼に当たっちゃうかもしれないけど意外だね。今日も自己主張控えめなファッションしてるし。あっ、お忍びってことか! わざと地味に見せてバレないようにしてるんだ!」

「あ、あはははー……」

 

 私の言うことを信じて見るからにテンションが上がっている飛鳥さん。

 どう考えてもこれは職業詐称マシマシである。もしライブオンがアイドル扱いだったらそれはきっと夢見り〇むちゃんが超王道清純派アイドルと言われている世界線だ。YBI(ヤバイ)11だからな私たち。それか高低差200mの坂11。

 あーもうどうしよ~!? 一度言っちゃったから通すしかないか!?

 

「なんて名前で活動してるの? 教えてよ!」

「あ、えーっと、顔を隠して活動してて、身バレするとまずいというかー……」

 

 うん。嘘は言ってない。

 

「あ、そうなんだ? まぁ最近は顔を隠すアイドルもいるよね、昔のC〇ariSみたいな? 世界観で魅せるアイドルってやつかな?」

「は、はい! そんな感じですね!」

 

 世界観(笑点)。

 

「ヤバー、知らずに凄い人拾っちゃった。え、グループでやってるの? 有名?」

「そうですね、グループです。有名かどうかは……一部の人には人気かな?」

「というと、地下アイドル的な?」

「ッ! そうそう! そんな感じです!」

 

 というか私たちを無理やりアイドルで例えようとするなら地下より更に深い場所、地層アイドルか地核アイドルだな。

 

「ファンの人達の前で踊ったり歌ったりしてるんだ!」

「……はい」

 

 嘘は言ってない。踊っているかは微妙だけど歌枠とかあるし、晴先輩はライブ会場でライブしてて私もそれには参加したし。

 でも……純粋に信じてくれている飛鳥さんに段々と心が痛くなってきました……。

 

「他には他には?」

「他?」

「なにも歌って踊るだけがアイドルじゃないでしょ? 他にはどんなことしてるの?」

 

 ぇ……。

 

「ファンの人達の前……ライブで……お、お酒飲んだり?」

「お酒飲むの!? アイドルが!? ライブで!?」

 

 しくじったああああぁぁぁーーーー!!!!

 なに罪悪感に駆られて真実寄りなこと言ってんの私!? な、なんとか誤魔化さないと!

 

「ももも勿論それだけじゃないですよ!? 他にもほら、えっと、あっ、コントやったり!」

「アイドルが……コント?」

 

 あかんこれ。セクハラとかゲロとか調教とかが浮かんだ中から、どうにか絞りだしたマシな活動内容でさえ普通のアイドルからすると怪しいみたいだわ。

 

「あ、ゲームやったり!」

「お、それは今どきのアイドルっぽいね。どんなゲームするの?」

「えーっと……ホラーゲームとか?」

「私ホラゲー嫌い」

「へ?」

 

 そう言うとプイっと横を向いて口を尖らせた飛鳥さん。

 めちゃくちゃ意外だ、血を見ることに快感を得てそうな見た目してるのに。

 

「まぁ私のことはいいや。それにしても顔隠しながらファンの前でお酒飲んだりコントしたりするって……変わったアイドルなんだね」

「あは、あははは、そ、そうかもしれませんね!」

「なんか私が思ってたアイドル活動と違ったけど、今どき多様性あってこそか。お酒好きなアイドルも意外性があっていいよね、お酒関連のお仕事とか貰えるかもだし。コントができるアイドルなんてバラエティの道もあるじゃん。すごいことだよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 やばい、こんだけ変人ムーブかましたのに全肯定してくれるこの人。ガチの聖人じゃん。本当に人は見かけによらないものだな、メタル系マリア様だ。

 

「なんかあれだね。お互い苦労してそうだね」

「そうですね……あはは……」

 

 なんともすれ違いがありそうな会話になってしまったが、区切りがついたところで飛鳥さんは残っていたコーヒーを一気に飲み干し、席を立ちあがる。

 

「よしっ、そろそろ行こうか。顔色だいぶ良くなってる」

「あ」

 

 そうだ、もともとは倒れそうになって休憩する為に喫茶店に入ったんだった。

 ……飛鳥さん、会話中も体調のことずっと気にしてくれてたのかな。

 

「大丈夫? 立てる?」

「はい。もう大丈夫だと思います」

 

 そう聞いて「ん」と頷いたが、それでも飛鳥さんはさりげなく隣によってきて、もしふらついた時に支えようとしてくれていることが分かる。

 素敵な人と出会っちゃったな。なにが悪夢じゃいざまーみろ。お前のおかげでいい出会いを楽しめたよーだ。

 

「大丈夫そうだね、よかった。それじゃあ行こうか」

「はい。助けてくださり本当にありがとうございました」

「ん」

 

 大して気にした様子もなさそうにそう頷く素敵なかっこいい人と一緒に、私は確かな足取りで店を後にした。


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