VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
宮内匡ちゃんのデビューから、早一ヵ月が流れた。
最初はアンチライブオンと自分から名乗るその姿から活動内容を不安視されていた部分もあったが、なんだかんだうまくやっているようだ。
相変わらずアンチライブオンとしてライバーの説得に挑んでは負ける。そしてソロ配信でファンであるリスナーさんに励まされて自信を回復してはまた説得に挑み負けるという、通称クソザコスパイラルが活動の軸だ。
ただ、彼女なりに色々と考えているところもあるようで、ライブオンを批判するのは相変わらずだが、その中で今一度自分を見つめ直している点も見受けられる。きっと晴先輩との討論の影響だろう(私は酔って寝てたからアーカイブで確認した部分だけど……ごめんなさい、自分の枠じゃないから油断してました……)。
それにしても戦いの中で敗北を知りながらも成長していくって、あの子なんか主人公感出てない? 相手にする組織を間違え過ぎな気はするけど……。
まぁそれはいいや。今日の本題は一ヵ月が経ったこと! 五期生は一ヵ月おきにデビューだから、つまりは二人目の五期生のデビュー日がやってきたのだ!
「新ライバー、楽しみね。ネコマ先輩はどんなライバーが来るかの予想とかありますか?」
「ネコマは五期生に五期にちなんでゴキブリ系ライバーを予想しているぞ!」
「コメント欄で殺虫スプレーまかれてそうなライバーですね……」
「ゴクッゴクッぶはああああ!」
今日一緒に見学するのはちゃみちゃんとネコマ先輩、お悩み相談からの縁で少しづつ仲良くなっている2人ですな!
「それにしても……早速飲んでいるのね、シュワちゃん。いいの? 一応配信外よ?」
「今日は見学の為にシュワモードでの配信予定をお休みにしたから、これはいーの! 大体さぁ! こんなの酔っ払ってないとやってらんないんだよぉ!!」
「ど、どうしたのシュワちゃん? 今日はやけに荒れているわね?」
ううぅ……だって! だってぇ!!
「もう変な奴くるって分かってんだもん! これまでの経験上開幕からぶっ飛ばす人は論外として、それ以外も結局クレイジーよ! ライブオンである以上純粋にかわいい後輩が来る望みなんてないんだから! 飲みながら見るくらいが丁度いいんだどー!」
「ネコマはもう一周回ってどこまでぶっ飛んでるやつが来るのか楽しみになってるぞ! 汚物シンパシーを感じてきたんだ!」
「この先輩たち、新人に失礼過ぎるわ……」
どうせそのうち今から入るこの新人にもジャイアントスイングが如く振り回されるんだから! この流れももう何番煎じかすら分からないんだよ!
シラフだと動揺させられることが分かっているのなら、いっそのこと酔ってそれを笑って流す方が私も楽しいってもんよ!
五期生でワンチャン流れ変わるかなーとか思ってたけど、一人目が匡ちゃんの時点でもうダメ! ライブオン! ライブオン! どうせどこまでもライブオン! クレイジーにはクレイジーをもって対抗せねばならぬのだ!
「あっ! 画面変わった! 始まるわよ!」
「にゃにゃーん! さてさて! どんなヤベーやつが来るのか楽しみだぞ!」
「もう顔が股間についてるやつでもなんでも来いやオラアアーーー!!」
暗転した画面が黒い霧がはけていくような演出と共に開ける。そこに居たのは――
……んん?
「え、この子……よね?」
「多分そうだと思う……ぞ?」
「でも顔が……」
いや、顔がって言ってもさっき言ったみたいに股間に付いているわけではないんだけど――
ただ……見えないんよ、顔が。
どうやら体に大きな黒いマントみたいなものを羽織っているみたいで、それは頭ごとスポッと覆い隠してしまっていた。顔面は流石にマントで覆われてはいなかったが、頭を覆ったマントから落ちる黒い影で結局隠れてしまっている。
コメント
:キタ……のか?
:??
:おー?
:嫌な予感しかしない
:それはいつものことだろ
かつてない風貌に私たち、そしてコメント欄がどう反応していいのか困惑していると、やがてその体が少し左右に揺れ、息を吸った音の後に可憐な女の子の声が聞こえてきた。
『やぁリスナーさんとやら。自己紹介の一つでもできるといいんだが、生憎それができる程自分自身を知っているわけじゃないんだ。俺は記憶の旅人。過去から否定された者。自らが誰なのか知らず、誰も俺のことを知らない、世界の異端者。この星の忘れ物。強いて言うならきっとそれが俺だ』
「あら……なるほど、なんとなくだけどどういう子か察したわ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!! 古傷、古傷があぁぁああぁぁーー!?!?」
「ど、どうしたのシュワちゃん!?」
「気にしてやんなちゃみちゃん。特定の過去を持つ者にはこの黒装束娘の言動は強烈な精神攻撃になるんだ」
「??」
コメント
:おぉ、痛い痛い……
:俺っ娘だ! 声もかわいい!
:あ、もしもし葬儀屋さんですか? 僕の過去を埋葬してもらうことってできます?
:小さな声のはずなのに信じられないほど耳が痛い、いや心が痛い
:一部のリスナーが大ダメージを負ってて草
はぁ……はぁ……不意打ちを受けて開きかけた古傷がやっと治まってきた。落ち着いてきたぞ……。
まさかストゼロバリアを貫通されるとは……。危険だ、この子は色んな意味で危険だ……。
なんかこの子さっき過去から否定された者とか言ってたけどそれは違う、この子は未来の自分から否定される者が正しい。
このかっこいいが行き過ぎて一周回っており、おしゃれと言うよりオサレな言葉選び――
それも光ちゃんみたいに微笑ましいものではなく、ガチで痛いタイプのやつ――
要はきっとこの子は――勘違いを極めたタイプの厨二病だ――