VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
ダガーちゃんがデビューしてからある程度配信をこなし、同期の匡ちゃんとも何回かコラボをこなした頃。いよいよ先輩とのコラボを解禁すると本人から全体チャットで連絡があり、私は真っ先にお誘いをかけた。
デビュー配信の最後にも語ったように、私はこの子がライブオンの新たな良心となってくれるのではないかと大きな期待を寄せているのだ。ぜひ仲良くなっておきたい。
真っ先にコラボに誘ってくれたうえに配信を優しくリードしてくれる先輩に懐かないなんてことはあり得ないって寸法よ! ふへへ、ふへへへへへ!!
……あれ? なんかこう言語化すると完全に邪なやつだな私……まぁ他の意味不明な連中に比べたら手厚くサポートする気があるだけましってことで……。
結果的にお誘いは『やったー!』の言葉と共に了承を貰えた。もうかわいい。
その後はチャットにて配信内容の相談となり――
<心音淡雪>:なにかやりたいことありますか?
<ダガー>:モン狩り!
<心音淡雪>:!! モン狩り好き?
<ダガー>:好き!
<心音淡雪>:そっかそっか! つい最近新作も出ていましたよね! 私もやろうか迷っていたんですよ!
<ダガー>:ぁ……俺もう少しだけ進めちゃった……
<心音淡雪>:どのくらいですか?
<ダガー>:M☆2の2つ目の緊急です……
<心音淡雪>:了解です。配信の日までに私もそこまで進めておくので大丈夫ですよ
<ダガー>:いいの?
<心音淡雪>:お安い御用です。むしろ久しぶりのモン狩りですごく楽しみですよ! あっ、よかったらもう1人くらいライバー誘ってもいいですか?
<ダガー>:ありがとう! どうぞ!
みたいな流れでモン狩りをやることに決まった。
以前は完全初心者だった私も、今では前作をクリア済みだ。ラスボスの見た目というか例の袋に終始噴き出しそうになりながらも討伐したことを今でも覚えている。
還ちゃんを誘って配信でやったりもしながらサクサクっと進めまして――。
「還ちゃん。後日開かれるダガーちゃんとのコラボ、参加してくれてありがとうございます」
「それは全然いいんですけど、ママはどうして還を誘ってくれたんですか? とうとう我が子が恋しくなりましたか?」
「いや、新人ちゃんとなると先輩との初コラボってやっぱり緊張しちゃうと思うんですよ。そこで、あえて隣になにもかもがダメな先輩を用意したら肩の力が抜けるかと思いまして」
「酷いですね。還にだっていいところありますよ」
「どこですか?」
「日々リスナーママを笑顔にしています。ドヤッ」
「笑いものにされてるだけですよ」
「ママも例外じゃないですよ」
そしてゲームも指定した地点まで進み終え、いざ迎えたコラボ当日。当然新人の前でシュワシュワになるなんてことは避けて、まずは挨拶だ。
「皆様こんばんは、今宵もいい淡雪が降っていますね、ライブオン三期生の心音淡雪です。今日はモン狩りの新作が出たということで、プレイしていきたいと思います。前作から要素が追加された形なので正しく言うと拡張なのかもしれないですが、この配信では分かりやすく新作と呼称しますね。そして今回一緒に狩りに出かけるお仲間がこちら」
「うぃ、こんちくこんちくー。ライブオン四期生山谷還です。姫プよろ」
「失礼しました、今のはお仲間じゃなくてお荷物の紹介でしたね。今回のお仲間はこちら!」
さぁ、還ちゃんが期待以上のクソ挨拶を決めて場を整えてくれたところで、いよいよダガーちゃんの登場だ。
「ぁ……ライブオン五期生のダガーです……よろしくどうぞ……」
……え、終わり!? それ挨拶なの!? もっと記憶喪失とか厨二とかを絡めた挨拶してなかったっけ!? てか敬語!?
コメント
:え、だれ?
:仰々しいwww
:分からせるんなら配信内でやってくれや
:そりゃあ新人がいきなり有名配信者と交流しろって言われたらこうもなるよ
:悪名配信者の間違いなんだよなぁ
:緊張じゃなくて身の危険を感じている?
「ぁ、えっと、挨拶ありがとう! というわけでね! ライブオンに舞い降りた待望の新人、ダガーちゃんとのコラボ配信になります! わー!!」
「どうしたんですかダガーちゃん? 元気ないですね?」
「ぃや、あ、そ、そんなことないですよ?」
「大丈夫? ママのおっぱい吸う?」
「私の胸の使用権はいつお前に移ったんだよ」
いいぞ還ちゃん! それこそ私が与えた使命! もっと最低な発言をして『うわ、ライブオンってこの程度のところなんだ』と思わせてリラックスさせるんだ!
……え、よく考えると今の新人にいきなり下ネタを吹っ掛けただけでは? なにか根本的に間違ってない? 最低の職場って思われてないこれ? 私人選ミスった?
と、止めるか?
「ダガーちゃん。還は先輩にはなりますが、そんなの一切無視してため口でいいですからね」
「ぇ? いや、それは申し訳ないというかあの!」
「その代わり還は君のことをダガーママと呼びます。養ってください」
「おいそこの妖怪赤ちゃんBBA」
うん、こいつは今すぐ止めないとだめだ!
「どうしたんですかママ? とても子に対するものとは思えない罵声が聞こえてきたんですが……」
「どうもこうもあるか! いいですか、還ちゃんから見てもダガーちゃんは後輩なんですよ!? もう貴方は立派な先輩なんです! それなのになぜ今までと変わらずママにしようとしているんですか!」
「?? ママだって還より年下なのに最ママやってるじゃないですか?」
「それは勝手にそっちが呼んでるだけだし……」
「いいですかよく聞いてください、ママは多ければ多い方がいいんです」
「なんか怖いこと言うな! 問題はリードすべき先輩がなぜ後輩に甘えようとしているのかってことなんですよ!」
「ママは立場がママから離れれば離れる程ママとしての魅力が増すんですよ」
「え、なんて?」
「要約すると、還は赤ちゃんなので後輩をママにしても全く問題ないということです」
「おいリスナーさんどうすんだよ! お前らが甘やかすせいで還ちゃん本格的に手遅れになっちゃってるぞ!」
コメント
:大草原
:還ちゃんはブレないなぁ
:赤ちゃんを甘やかしてなにが悪いんだよ!!
:還ちゃんガチママ勢が怒ってるぞ
:ガチママ勢なんてやつらがいるのか……
:ダガーちゃん( ゚д゚)やぞ
そ、そうだダガーちゃん! こんな漫才をいきなり見せられたらドン引きものだ。さっきから無言だし、なんとか取り返さねば!
……あれ? なんだこの音? 水音のようなうめき声のような……え、嗚咽?
「ぐすっ……はぁぅ……ぐすんっ……ズビビ……ぐすん……」
「「――――――――」」
やばい、かつてないほどやばい。
新人ちゃんを――泣かせてしまった――。