VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
「あれ?」
クリアへの道筋が見えてきて一安心したのも束の間、キュンちゃんからのチャットには続きがあった。
チャット
<キュン>:うーん……でも今のタイミングでお酒ってなんか違わないー? まだデビューしたばっかりだよ?
「これは……なんだ? 乗り気じゃないってことなのかな? あ、チュートリアル出てきた」
【話題に出た配信ネタにキュンちゃんが乗り気じゃない場合、その配信ネタの成功率が下がります。配信がうまくいかないとフォロワー数も伸びません。どの配信ネタに乗り気になるかはキュンちゃんのパラメータ、経験、イベントなど様々な要因によって決まるので、その時々のキュンちゃんに合わせた配信内容を選んであげるとよいでしょう】
「成功率、そんなのもあるのか……いやまぁなんでもうまくいったらその方が不自然かー」
コメント
:これは乗り気には見えませんねぇ
:冷静に考えて初配信で飲酒って中々だからな
:名前とやってることが合ってない……
:下がるってことはやってもらうこと自体は出来るのか
:どうする?
「うーん、一旦説得してみようか。それによって乗り気に変わるかもしれないし! 私のストゼロ布教スキルもう一度見せてやるぜ!」
チャット
<マネちゃん>:ストゼロだから大丈夫なんだよ。宇宙がストゼロの爆発から発生したように、時間がストゼロの雫から流れ始めたように、生命がストゼロの海から誕生したように――あぁ、世界は美しい――
<キュン>:?? だからよく分かんないってー!
「おいちょっとこのAIバグってんよー」
コメント
:バグってんのはお前の頭だよ
:どうしてそれで説得出来ると思ったのか
:例えシュワちゃんだけだとしても、ここまで積み上げてきた人類の叡智がストゼロに完全敗北したとか俺信じたくないよ
:当時地動説を提唱したガリレオを見ていた人ってこんな気分やったんかなって
:普通に違うと思うぞ
:地球は太陽の中心にあるストゼロを中心に回っているからな
:もう人類はダメかもしれない
「あぁそういうことか! つまりは根拠を示せばいいと! こういうことだな!」
チャット
<マネちゃん>:私を見ろ
<キュン>:いきなりどうしたの!?
「なんでだよ! この計画の成功例たる私の姿を見れば、納得し過ぎて納豆食うレベルだろごめん今の発言忘れて無し無し無し無し!!」
コメント
:これが成功例の姿ですか?
:スベリ芸人の成功例かな?
:君は成功例の失敗作もしくは失敗作の成功例だから ¥2200
:なに恥ずかしくなってんだよ笑
:誤魔化しの勢いで草、もう説得力皆無や
チャット
<キュン>:さっきから私の事バカにしてるの!? 今日はもういいもん!
「ああ!?」
強制的にチャット画面が閉じられ、再度開くことが出来なくなってしまった。どうやらキュンちゃんの機嫌を損ねてしまったようだ。
「やってしまった……くぅ、なんでストゼロの魅力を分かってくれないんだ……こうなったら強制的に配信ネタに選んじゃうか? いやでも、乗り気じゃないことをやらせるのは良くないのかなぁ……うーんどうすれば……」
??「おい淡雪! やっちまえって!」
「はっ!? この声は……淡雪の悪魔!?」
淡雪の悪魔「そう、俺だよ俺。いいかよく聞け、ここは絶対飲ませるべきだ。だってよく考えろ? ストゼロが失敗するわけがないだろ?」
「……それは確かに」
淡雪の悪魔「大体さ、この女の目標は人気配信者になることなんだろ? ならマネージャーであるお前はその為の行動を最も優先してとるべきだろ。なぁに大丈夫、今は分かっていないだけで、目標達成への最適な手段がストゼロだって気が付いたらこの女もすぐ乗り気になるさ」
「……そうかも……じゃあ」
??「淡雪ちゃん! 私の意見も聞いて!」
「え!? こ、この声はまさか!?」
ストゼロの天使「ストゼロ以外の選択肢は無いと思うわ」
「うぃーっすてなわけで飲ませまーっす」
コメント
:草
:なんだこのクソ茶番
:あほくさ
:こういうのって天使と悪魔が対立しているものなんじゃないの……?
:いつもの面倒見の良さはどうした……
「いやそれはそうなんだけどさぁ……実のところ皆も見たいでしょ? ストゼロルート」
コメント
:それはそう
:まぁ、うん
:普通のお酒好きルートならまだしもそんな変人ルートは開発者も想定してないぞでも見たい
「だよねだよね! 普通はしないことをあえてやるのもゲームの醍醐味でしょ! ゲームは楽しんだもの勝ちなんだよ! まぁそもそもクリアするって視点から見たらストゼロが負けるわけないからこれが完璧なんだけどねー! このゲームの最適解なんだよなーこれが! すまないキュンちゃん、今回は私のことを信じてくれ!」
その言葉と共に、いざ私は飲酒配信のコマンドを選んだ――