VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
『キュンばんは! キュンキュンさせたらごめんね? キュンちゃんです!』
OPの時にも聞いたお決まりなのであろう挨拶を済ませた後、キュンちゃんは初配信に来てくれたリスナーさん達に自己紹介を始めた。当然まだごく少人数しか同接は居ないが、10人の前だろうと1万人の前だろうと応援してくれる人の前では自分らしく、とても大事なことだ。
やがて自己紹介も終わり、いざ私の選んだ配信内容に入る。
『今日はお酒を飲んでいこうと思うよ! 酔っちゃったらキュンちゃんの意外な姿も見られるかも!?』
そうしてストゼロ……かは流石に分からないが、見た目的に酎ハイっぽいお酒を飲み始めたキュンちゃん。
「ふふふ、いいぞいいぞ、今この瞬間からキュンちゃんにはストゼロのお導きが授けられた。さぁ! 後は身を任せるだけ! やっちゃえキュンちゃん(某車会社のCM風)」
決め声でそう言い、成功を確信して配信模様を見届ける。
……なのだが――
キュンちゃんのコメント欄
:お酒飲むんだ
:イメージと違った
:ぐびぐびいくね……
「あ、あれ? もしかしてあんまり反応良くない……?」
肯定的なコメントが少ないというか……むしろ少し引き気味な気がするぞ?
「いやいや、今だけだから! ストゼロちゃんはエンターテイナーだから後半に盛り上げてくれるから! 私なんて配信終了したと思った後に盛り上げられたしな! はっはっはっは!」
余裕をかまし、いつ爆発するかなーと期待に胸を膨らませて続きを見届ける。
そして――――最後の最後までその時は来なかった。
【配信はうまくいかなかった為、フォロワー数はほぼ伸びなかった】
「……ぇ?」
画面に表示されている配信結果を告げる文字。それを読めるはずなのに頭が理解できない。今までにない経験に息が詰まりそうになる。体の中心が熱いのに同時に冷たい気もする。このままだとやばい、なんとなくそう分かっていても体が動かず瞼も閉じることを拒否する。
「ぇ? なにこれ? え? うまくいかないって、どう……いうこと? ストゼロちゃん、あれ? え?」
段々と恐怖すら感じ始めたその時、私にはいつもリスナーさんが付いていてくれることを思い出す。
助けを求めて石のように固まった首を意地で捻じ曲げ、コメント欄に視線を向ける。
誰かこの光景を否定して、誰か――
コメント
:あー……
:失敗しちゃった……
:やっちまったキュンちゃん
:嘘だろ……?
:ストゼロ、まさかの敗北……
「――――――――」
そして――信頼しているリスナーさん達がゲーム画面の結果を認めているのを目にしたとき――やっと私はなにが起こったのかを理解した。
「――ぅっぐ」
でも――それは私にとってあまりに、あまりに受け入れがたいことで――
「うわああああぁぁぁぁあああああん!!!!!!!!」
私は大声で泣き叫ばずにはいられなかった――
コメント
:シュワちゃん!?
:どうしたの!?
:お、おおおおおおちけつ!
:ガチ泣き!?
:泣かないで……
「だってぇ! だっでえええぇ!! ストゼロ……ストゼロちゃんがああああぁぁぁ!!!! うはあはああああぁぁぁ…………ぅ、うぐぅ……ストゼロ、ストゼロ……うぎぎゃああああああぁぁぁーー!?!? そんな! そんなぁ!! ストゼロちゃんが負けるなんていやだあああああぁぁぁびええええぇぇぇーー!!!!」
コメント
:うるせええええええぇぇぇ!!!!wwww
:草。いや笑ったらダメなのかもしれんがこんなん笑うやろ
:反応がウ〇トラマンが負けるのを見た時の子供のそれなんよ
:涙を拭いてあげよう ¥50000
:金で泣き止まそうとすんな!
:逆になぜ絶対に勝てると思ったのか分からないし、同じく勝てると思っていた自分のことも分からない
:ここまでガチ泣きする大人初めて見たかもしれんわ
:笑ったけど迫真過ぎてなんか俺まで辛くなってきた……
そのまましばらくの間、決壊したダムのように私は泣き叫び続ける。
そんな時でも時間は平等だった。時に厳しく選択を強いてくる時の流れ、でもそれは今のように優しく私の心を鎮めてくれることもあるのだ。
「ぐすっ、ごめん。冷静になってきた」
泣き疲れ、落ち着いてきた頭でもう一度ゲーム画面に目を向け、なにが起こったのかを考える。
「……あっ」
そして、やっと私は自分の愚かな考えに気が付いた。
「まだ終わってないじゃん」
ゲームの画面を進めた時、そこで待っていたのはゲームオーバーなんかではなく、初配信を行う前と同じ、次の配信への備えだった。
「そうか――そういうことかストゼロちゃん! 初配信は様子見だったってことか!」
そう、冷静に考えればストゼロが負けるはずがないのだ。
「そうだよね! 私の時だってデビューからしばらく経ってからの逆転だったもんね! 苦労があるからこそ成功が輝くってことか! かー! やっぱりストゼロちゃんはエンターテイナーだぜ! 分かってるぅ!」
あぁ、私はなんてバカだったのだろうか。
「リスナーさんもいきなり泣いたりしてごめんね? でもストゼロちゃんの考えが分かったからもう大丈夫! この調子で続き進めていくどー!」
こうして、私はストゼロちゃんの隠された意志を察することで絶望から立ち直り、ゲームへと復帰することができたのだった。
これぞ愛の為せる技である。
コメント
:お、おぅ……
:この子本当に大丈夫か?
:大丈夫だったらライブオンにいない
:ストゼロが言うんだったら問題ないな!
:続きが楽しみだどー!