VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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シュワちゃんの配信者育成6

 さて、まずやることは今言ったように作戦の練り直しだろう。このままじゃいけない……。

 バズるのに必要な要素……やっぱり個性かな。せめてもっと個性を強くすることが出来ればなぁ……そうだ、今パッと思いついたやつだけど、どうにかしてこんな感じのキャラに出来ないかな?

 

 

名前・パピルス三世(二世って呼んでね!)

職業・メイド喫茶のメイドさん

得意料理・ビーフストロガノフ

口癖・メイド-イン-パピルス

将来の夢・全人類をパピる、もしくはFIRE

一口メモ・オムライスにはケチャップで四世と書く

 

 

 ……いや無いな、もし可能だとしてもこれは無い。狙ってるのが見え見えくらいならまだしも、ここまでくるとガチのヤベーやつ感出てる。ライブオンの新期生みたいになってるじゃん。なんてもんパッと思いついてんだ。

 なるほど、完全にライブオン基準で考えちゃってるんだな私……今まではこれがダメだったのかも知れない……。

 

「次はどんな育成プランでいこうか……」

 

コメント

:きっとストゼロが足らなかったんだ、もっとシュワシュワでいこう

:いや、むしろここぞというタイミングを見極めてストゼロは投与すべきだ!

:ストゼロは-を+に変える作用があるから、与えるなら一番落ちた時かと

:学会ではストゼロは対象に-196をかける効果があるという説が支配的、つまり対象物も-でないと+にならないわけか

:0という概念がストゼロのマイナス効果を完全に中和できる値であることから定義され、ここから数学が生まれたのは有名な話。0をゼロと呼ぶ由縁もストゼロから ¥2200

:お、やべぇここ異世界か?

 

 コメント欄のリスナーさんもリベンジに燃えて色んなストロングアイデアを出してくれている。だけど……。

 

「うーん……心底遺憾ではあるけど、最後はストゼロは無しでやろうかな……」

 

 予想通りではあったが、私の発言にざわつき始めるコメント欄。当然こんなことを言ったのはそれなりの理由があってのことだった。

 

「私はね、キュンちゃんのマネージャーなんだよ。そして言われちゃったんだ、『絶対に大人気配信者になりたい』って。だから何としてもその想いに応えてあげなくっちゃ。二回も失敗した以上更なるストゼロ推しは冒険過ぎる。だから次はキュンちゃんとしっかりなにをするか話し合いながら、二人三脚でやってみるよ」

 

コメント

:ええやん……ええやん……ッ!

:立派になったなぁ(後方腕組号泣父親面)

:かっこよ過ぎ惚れた

:世界一ストゼロなイケメン

:お前のそういうところが好きだったんだよ!!

 

 ふふっ、それじゃあ心機一転、始めていきますか!

 

 こうして、私はキュンちゃんと夢への最後の挑戦へと足を踏み出した。

 ――今度は2人、足並みを揃えて。

 配信ネタを決める時には、必ずチャットでキュンちゃんの体調や気分を確認し、それに最もマッチした配信ネタを提案する。

 

「どうだろう? 今度はキュンちゃんもやる気満々だったけど……」

 

【配信は大成功した・フォロワー数が大幅に増加した】

 

「よっしゃあああああぁぁ!! よくやったぞキュンちゃーん! よーしよしよし!!」

 

 時には気分転換に配信を休み、お出かけに行ったり――

 嫌なことがあってキュンちゃんが病んでしまったときには、もう一度立ち上がるお手伝いをしたり――

 そんな配信者として充実した日々を繰り返す。

 ――その中で、私は段々と、『あること』に気が付いていった。

 そしてそれは――この画面を見た時確信に変わる。

 

【ED・BEST END・キュンちゃんはフォロワー100万人を達成し夢を叶えた】

 

 大喜びでこちらに抱き着いてくるキュンちゃんを最後に、画面にスタッフロールが流れる。

 

コメント

:100万いったああああああ!!

:おめでとおおおおおお!!

:¥8888

:乙!

:クリアできてよかった……

 

 そう、クリアだ。これは文句なしのゲームクリア。

 祝福やクリアの余韻が飛び交うコメント欄。

 だが――そんな喧騒とは裏腹に、私はこれは参ったとばかりに天を仰ぎ、『あの人』のことを思い浮かべていた。

 

「そっか、そういうことだったんだね……あははっ、やっぱりすごいなぁ『ストゼロちゃん』は」

 

コメント

:え?

:はぁ?

:またなんか言い出したぞ

:今回は一回も飲ませてなかったでしょ……

:どっから出てきたww

 

「皆まだ分からないの? はぁ、まだまだだねぇ……。ストゼロちゃんはね、私に『マネージャー』としての在り方を教えてくれていたんだよ」

 

 なぜ二回もストゼロちゃんは力を貸してくれなかったのか? 今なら分かる、それは私の為にならないからだったんだ。

 

「このゲームにおける私の役割はマネージャー。そしてマネージャーたるもの、自分の考えの押し付けは出しゃばりすぎであり、同時に我儘を受け入れてばかりでは成功の道を歩けない。マネジメントとはマネージャーとマネジメント対象との二人三脚、お互いがお互いを信頼してこそ正しく成立するものなんだよ。最初私はそれに気づかずキュンちゃんに自分の意見を押し付けた。だからあの時ストゼロちゃんは負けたんじゃない、わざと力を発揮しないことで私にそれは間違いだと教えてくれていたんだよ!」

 

 伏線を回収するように、全ての点と点が繋がっていく――

 

「ストゼロちゃん、情けない姿見せちゃってごめんね……でもね、貴方の想い伝わったから! だから――だから今はこう言わせて!」

 

 さぁ皆! お手元のストゼロを天高く掲げ、声高々に叫ぼう!

 

「私の完敗に乾杯!!!!」

 

コメント

:あっ、僕お先に失礼しまーす

:もうお前ストゼロだったらなんでもいいだろ

:はぁ……(クソデカため息)

:これって実は洗脳を注意喚起する為の実例配信だったりする?

:久しぶりに頭のおかしいところを見られて嬉しかった

 

「そうだ! この配信でマネージャーの大切さが改めて分かったことだし、最後に私のマネちゃんに電話で感謝を伝えて終わりにしよう! マネちゃん見ててくれたかなー」

 

 そう言って鈴木さんに電話をかけると、僅かワンコールで応答してくれた。

 

「あっ、もしもしマネちゃん? 配信見ててくれたんだね! じゃあ早速。あのね、いつもありがってえ? 私は淡雪さんをこの女めっちゃ孕ませて~なんて思っていません? あっ、いやあれはその、あっ、す、すんませんすんません! あれは違うんです! あれはあの、その~……」

 

 私のマネちゃんの鈴木さんは、クールでたまにお茶目な素敵な人です。


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