VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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三期生対抗体力バトル6

「あの……あ、はい」

 

 ここまで来てようやくましろんに紙が渡され、読み上げるように催促された。

 

「えーっと……最後は皆で楽しくライブオン! 老人ビーチフラッグ!」

 

 老人……ビーチフラッグ……?

 私達の立ち位置から対照の位置にある壁際に、一本の小型の旗が立てられる。

 

「ルール説明。三期生の皆には今配信画面にも画像を出している老人体験スーツを着用してもらいました。その状態で約20m先にあるフラッグの入手を競う、つまりビーチフラッグをしてもらいます。旗を手にした人が1位となり、以降の着順は旗に近かった順になります。老人スーツとは、体の動作を設定した年齢になるまで制限する、ご老人の苦労が分かるスーツです。尚……」

 

 困惑しながらもルール説明を読み上げていたましろんだったが、突然顔色が真っ青になった。

 

「……設定年齢は100歳です」

「「「はい???」」」

 

 全員が仲良く同タイミングで運営さんの方を向くと、そこには笑顔のスタッフさんが謎のボタンに指を添えながら、私達にしゃがむよう合図している。

 色々と聞きたいことがあったが、ただならぬ危機感を覚えその指示に従った。

 そしてその指が下ろされると――

 

「「「「ウオアァァァァァァアアアアア!?!?!?!?」」」」」

 

 突然今まで自由自在に動かせていた体に強烈な違和感が発生し、私達はその場で動けなくなった

 

「か、体に力が入らないわ……」

 

 まるで全身の筋肉が無くなり、骨だけになったような不安定感。ちゃみちゃんの言う通り、立ち上がろうとするだけで足がプルプルしてしまう。

 背筋は真っすぐ伸びないし、ほんの少し動こうとするだけでも体が重く、異様に疲れる。

 な、なんだよこれ!?

 運営さんに問いただそうと再び顔を向けると、そこには混乱の私達をよそに、既に部屋を後にしようとしているスタッフさんの背中があった。

 それを目にした瞬間――幸か不幸か混乱まみれの脳内に、一つのゾッとする予測が生まれた――

 

「ま、待ってください!!」

 

 私は慌ててスタッフさん達を大声で制止した。

 

「ビーチフラッグって言ってましたけど、これ時間制限とかありますよね!? まさかこの状況で、誰かが旗を取るまで終わらないなんて言いませんよね!?」

 

 私の考えていることが伝わったのか、同じく目を見開いてスタッフさんに顔を向ける同期。

 そんな私達に対して、運営の方々は――

 

 まるで世界を救った後のような輝かんばかりの満足気な表情を浮かべて、スタジオから出て行ったのだった。

 

「おぃぃぃいいい!! 待て! 待ちやがれこのアドベンチャー企業が!!!!」

「こ、このスーツすっごい! 光でも別人になったみたいに動けない!」

「……はいはい、僕も状況をのみ込めてきたよ。やけに普通の競技が続いていたのは、最後のこれに全投資していたからってことね」

「ここまで盛大なフラグだったのね……ビーチフラッグだけに」

 

 なんでこう毎度意味の分からないことで本気を出すの!! やっぱりライブオンじゃねぇか!!

 

コメント

:待 っ て た

:草草草草

:こういうのがいい

:こういうの(舞うは嵐、奏でるは災禍の調べ)

:閉所でできる限界強度に挑戦してて草

:変な競技では済まなかったね……

:きつくないとは言ってなかったもんなぁw

:これを思いつくのもおかしいし実際に作ったのもおかしい

:どんな仕事してんねん!

:それでも、普通の競技があったのは三期生への信頼あってこそだったのかもしれないね

:バカなことを本気でやることに意味がある

:ライブオンライバー養成ギプスで草 ¥50000

 

 こうしてスタジオには、膝をガクガクさせることしか出来ない私達と、沸き立つ配信画面を映すPC、そしてたった20mと近いはずなのに、遥か遠くに見える旗だけが残されたのだった――

 

 

 

 競技開始から約10分が経過した――その間に私達は立ち上がるコツ、そして歩行するコツをある程度は掴むことが出来た。どうやらクリアは出来そうだ。

 だが、流れる汗と切れる息を犠牲に、私達が得られた成果は――5m程の前進であった。

 もう体はクタクタで皆休憩に入っている、なのにたったの5mである。旗の場所までにあと15mもの距離がある。

ご年配の方って歩くだけでこんなに重労働なんだね……そりゃあ横断歩道渡るのもゆっくりになっちゃうよ……。

 でもさ! 流石に100はやり過ぎなんじゃないかなぁ!! 今までピチピチだったのに急にこれは落差で簡単には動けないって!

 

「あわちゃん、僕疲れちゃったからさ、なんか面白い話とかない?」 

「あー……私がブラック企業戦士だった時に、メンタルがバグり過ぎたのか、お尻の穴に卵入れてそれを産卵することで育休取ろうとした猛者を見ましたね」

「え、大丈夫? お尻痛くなかった?」

「本当に仕事辞められて良かったわね……」

「あの……誰も私とは言ってないんですが……」

 

 体はそんな状態でも、喉だけは自由に動く。

 先の見えない心身の疲弊からか、微かな自由を求めて脈絡不明の謎会話まで始まってしまった。

 そんな時だった――

 

「ふぅぅ……ッ! ワッショイ!! ワァァァッショイ!! 一気に行くぞぉ!!」

「「「!?」」」

 

 私達と同じく休憩していたはずの光ちゃんが、急にトップスピードで歩行を再開し始めたのだ。

 

「は、速い!! 分速3mはありそうです!?」

「信じられないスピードだわ!?」 

「ま、まさか……休憩の『意味』が違った……?」

「ましろちゃん? 意味が違うってどういうことなの?」

「僕たちにとって今の休憩は目先の数mを歩く為のものだったでしょ。でも光ちゃんは違う、光ちゃんはゴールまでの距離を全て歩き切る為の休憩をしていたってことだよ」

「な、なんですって!? 残り15mも歩かないといけないんですよ!?」

 

コメント

:なんですってって言いたいのはこっちだよ

:あまりにも儚い会話に涙が止まらない

:若いって素晴らしいことなんだな……

:確かに信じられないスピードだ!(勘違いもの主人公)

:これからはご老人に優しくしようと思いました

 

「くっ、光ちゃんの優勝だけは阻止しなければ! 私も行くぞぉ!」 

 

 休憩を慌てて打ち切り、私も全速力で歩行を再開するのだが――

 ぜんっぜん追い付けねぇええええーー!!!!

 なんで分速3mなんて速さで動けるの!? おかしいだろ!? 

 背中は遠くなっていくのに体力的には負けている。私は早々に限界がきてしまい、その場にうつ伏せで倒れこんでしまった。というか、そもそも運動神経で負けている光ちゃんに同じ技で勝負しようとする方が間違っていたんだ……。

 それでも光ちゃんに優勝を渡したくない想いを糧に、その背中を這いつくばってでも追いかけようとする。

 

 その時だった――私に舞い降りたのだ――『妙策』が。

 

 でも……本当か? 本当にやるのか私?

 ……いや、やらなければ。私は勝たなければいけないんだ。

 覚悟を決める。

 フゥゥゥゥ――――――――征くぞ。

 

「ええ!?!?」

「あ、あわちゃん!?」

 

 光ちゃんと同じ、いや、それすら超える速さで動き出した私に、後方に残された2人が驚きの声を上げる。

 先へ、先へ、光ちゃんの背中、それすら越えた先にある旗を目指して進み続ける。

 

「あわちゃんが――」

 

 なぜそんなことが可能なのか? 答えは単純、『歩いていない』からだ。

 この状況下で私を動かしているモノーーそれは『全身』だ。

 このような制限がかかっている場合、そもそも立ち上がって歩こうとすることが最速とは限らない!

 

「あわちゃんが――――」

 

 這いつくばって前進するだけでは届かない。私はうつ伏せのまま、腰を重心に体を上下に素早く揺らし、その反動で前に進むことでゴールを目指しているのだ! 

 既に光ちゃんの背中を捉えようとするその姿に迷いはない。

 老人とは思えない――なんと獰猛的で、そして官能的な姿だろうか――

 そう、まるでその姿は、情熱を振りまき観衆を沸かせる手練れのベリーダンサーのよ

 

「あわちゃんが床オナしてる!!」

「床オナ言うなーー!!」

 

 私は思わず体を止めて叫んでいた。

 せっかく目を逸らしていたのにぃぃ!!

 

「なんで最悪な言い方するんですか!! もっと言い方あったでしょ!?」

「いやだって、その体勢で腰へこへこしてたら完全に床オナじゃん。ねぇちゃみちゃん?」

「私は何も見ていないわ」

「おいぃ! 目を逸らすな! 変質者じゃねぇんだぞ!」

 

 くそ、くそう! 恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!!

 でも勝たないと光ちゃんがもっと恥ずかしい姿を世間に晒すことになってしまう、これも同期を守る為!

 うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーー!!!!!!!!(へこへこへこへこ)

 

「まぁ実際めちゃ速いね。ほら、床オナ走法でもうすぐ光ちゃんに追いつきそうだよ」

「私は何も見ていないわ」

 

コメント

:床オナ走法wwwwwww

:なんてかっこいい床オナなんだ!?

:ご老人が高速床オナで前進してると思うと大草原

:ライブオンの清楚は床オナするのかー

:ビーチフラッグがビッチフラッグになっちまったなぁ!!

 

「!? 追いつかれた!?」

 

 よっしゃあ! 旗まで残り5mくらいでとうとう光ちゃんに追いついたぞ!

 あと少し、あと少し耐えろおおおおおぉぉぉ!!!!

 

「こうなったら光も、その床オナってやつやっちゃうぞ!」

「いやあああああああああああああああ!?!?!?!?」

 

 振り向くな! 前だけ見ろ私いいいいいぃぃぃ!!!!

 

「これもう本末転倒なんじゃないかしら……」

「あっ、床オナはあわちゃんの方が速いんだね」

「ほああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 後方からの声をかき消す為に叫び、ただ前だけを見て進む。今の私に後ろという概念は消えた。

 そしてとうとう旗まで残り1m――0.5m――0.1m――

 

「んじゃ僕はこの辺でよっと」

「あっ!?」

 

 旗を手にしたのは――

 

「とったどおおおおおおぉぉぉおおお!!!!!!!!」

 

 この私だ。

 

 

 

「ふいぃぃ……」

「淡雪ちゃんすっごい! 流石光のご主人様!」

「ましろちゃん! あれは卑怯よ!」

「卑怯なんかじゃない、頭脳の勝利さ」

 

 着順が決定した後、運営さんにスーツを外してもらい、自由になった体をいっぱいに動かす。

 結局私は光ちゃんに勝利、ましろんとちゃみちゃんは私が旗を取る寸前まで両者歩行状態で拮抗していたが、そこでましろんが体を前に滑り込むような倒れることでちゃみちゃんを出し抜き、勝利となった。

 ビーチフラッグの順位は、1位・私、2位・光ちゃん、3位・ましろん、4位・ちゃみちゃんとなった。

 これにて全ての競技が終了となる。

 

「さて、それじゃあ総合順位を発表するよ」

 

 ましろんの声に皆の注目があつまる。

 

「まず4位は――8P獲得のちゃみちゃん!」

「はーい……途中いけるかもって思ったんだけどなぁ……」

 

 最下位でへこむちゃみちゃんだったが、運動が苦手ながらも頑張っていたのは事実だ。私達から拍手が送られる。

 

「次に3位は――13P獲得の僕だね。リンボーダンスはアレだったけど、最下位じゃ無かったからおっけ」

 

 ましろんはらしい勝負を出来ていた感じだろう。その冷静さと乳に拍手。

 

「次に2位は――15P獲得の光ちゃん! 惜しかった!」

「くぅぅ、悔しいけど……楽しかったからオッケー!」

 

 清々しい表情だ。やっぱ光ちゃんは運動が似合う子だね! ドMなんかじゃなくてね! 拍手!

 

「そして総合優勝は――――18P獲得のあわちゃん!」

 

 最後に私の名前が呼ばれた時、皆からひと際大きな拍手が送られた。

 

コメント

:88888888!!

:フリフリフリフリ! プシュウウウウウウゥゥゥゥゥ!!

:まさか本当に勝つとは

:頑張ったもんな……

:賞金 ¥50000

 

「それじゃああわちゃん、願いをどうぞ」

「へ?」

「へ? じゃないよ。優勝者には同期になんでも言うこと聞かせる権利を与えるって言ったでしょ?」

「あ、ああ! そうでしたね!」

 

 正直、光ちゃんに勝つことが目標だったから忘れてたな……。

 え、どうしよ……。

 ……………………あ、あったわ、大事なやつが。

 

「コホン、それじゃあ――」

 

 私は咳ばらいをして目を閉じ、表情を引き締めると……数秒後、一転して縋るような表情でこうお願いした。

 

「床オナの件、忘れてください……」

 

 何かを得る為には、何かを捨てる必要がある、そのことを痛感した一日だった……。

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