VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた   作:七斗七

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あの心音淡雪が色んなお酒飲んでみた5

「ましろんどうしたんですか!? 顔が真っ青ですよ!? 体調悪いのなら無視しなくても」

「ううん、体調不良じゃないよ。でも僕は恐ろしいことに気付いてしまったかもしれない」

「恐ろしいこと?」

 

コメント

:なんだなんだ?

:アクシデントか?

:ましろん声震えてね?

:心配だ……

:まさか……ましろんも同じ考えなのか……?

 

「あわちゃん。君はビールを飲んで中年になり、日本酒を飲んで清楚になり、シャンパンを飲んでセレブになった。ここまでは間違いないね?」

「ここまで意味不明な推理パートも珍しいですね……」

「でも実際そうなってたじゃん」

「まぁ……やっぱりお酒によって酔い方って変わるんでしょうね、確かに不思議な体験ではありました」

「僕も最初はそうだと思った、でもさ、明らかにおかしくなかった?」

「何がですか?」

「酔い方が変わるのにも限度があるよ。同じアルコール酔いなんだから、普通ならシュワちゃんの面が少なからず出てくるはず」

「それは……確かに……」

 

 お酒ごとに、かなりタイプの違う自分になっていたことを思い出す。

 言われてみれば、どれもシュワちゃんと呼ぶには違和感があるものだった。

 

「特にありえなかったのは日本酒の時。あわちゃんが清楚になるなんてありえない」

「ましろん。デビューから一緒にやってきて知らなかったのは衝撃なんですけど、私清楚系VTuberって肩書で活動させてもらってるんですよ」

「あわちゃんのことを誰よりも知ってるから言ってるんだよ」

「私もう明日から清楚系じゃなくてましろんの嫁系VTuberになりましょうかね」

「なにキュンと来てるのさ」

 

 いけないいけない、自称清楚すら手放すところだった。

 

コメント

:こんな時まで漫才するなw

:謎しかないからどこに違和感持って推理すればいいのか分からないの草

:ましろん声が元気になってきちゃったよ

:嫁を元気にする嫁

:ごめんなんの話してたんだっけ?

 

「脱線しちゃったので話を戻しますけど、ましろんはずばり何が言いたいんですか?」

「うん……これらのことから、僕はとんでもない真実に辿り着いてしまったかもしれないんだ……」

 

 話を戻すと、途端に回復しつつあったましろんの血の気が再び引いてしまう。しかも発表が近づくにつれて興奮状態になりつつあるのか、青い顔とは対照的に目が据わっていくのが分かった。

 ましろんがここまで動揺しているのは珍しい……一体何に気付いてしまったというんだ……?

 ここまでのことから、気付きが私に関することなのは明白だ。自分のこととなればいよいよ私も気になって仕方がなくなり、固唾を呑んで続く言葉に構えた。

 

「あわちゃん、君は――」

「ごくりっ」

「君は――ッ! お酒を飲むことでフォームチェンジすることが出来る体質なんじゃないかな!?!?」

「何を言っているんですか?」

 

 ハイテンションで発表したましろんに、私はそう返すことしか出来なかった。

 フォームチェンジて……。

 だが、ましろんは構わず話を続けてくる。

 

「あわちゃん、たとえばビールを飲んだ時、君は中年っぽくなっていたよね? あれはつまり、未来の自分になるフォームになっていたんじゃないかなって思うんだ」

「ふむふむ」

「同じように日本酒の時は銘柄も相まって清楚が活性化するフォーム、シャンパンの時はセレブが活性化するフォームになっていたんじゃないかな」

「うーんこれはL5かもしれないですね、重症だ」

 

コメント

:ましろんがおかしくなってしまった……

:L5(LiveOn5)はまずいですよ!

:ビールでラ〇ボみたいなこと出来るわけないだろ!

:ましろん、そこまでライブオンが進行していたなんて……

:こんなハコで理性保ってられる方が不思議だもんな

:あわちゃん責任とって結婚しろ

:ましろちゃんまでそんなこと言い始めたらもうバトルモノに路線変更なんよ

:また異能の話してる……

:異能バトルはVTuber系のなかで

:とある仮想の絶対零度(ストロングゼロ)

:くっそかっこよくて草

:ニチアサかな?

:仮面ラ〇ダー(変身要素)と戦隊モノ(ハコの仲間)とプリキ〇ア(かわいい)を兼ね備えた最強のニチアサです

:偏向報道やめろ

 

「本気で言ってるんだって!」

「じゃあストゼロ飲んだ時はどうなっていたって言うんです? 言っちゃなんですけどあんなの素の私そのものですよ?」

「それがストゼロフォームの力なんだよ。全てを打ち消して素――つまり0の姿にしてしまうんだ」

「だれうまですかwww」

「笑わないで! 僕の言うこと信じてよ!」

「信じてあげたいですけど……そんな非現実的なことあるわけないでしょう……」

「非現実的だからライブオンなんだよ!」

 

 明らかにおかしなことを言っているのに、全く引く気配のないましろん。

 いよいよ本当に心配に心配になってきた時――

 

コメント

:ましろんもやっぱそう思うよな!

<相馬有素>:今回はましろ殿に加担するのであります!

:どうか真相を暴いてください。それだけが私の望みです。

 

 コメント欄に、全体から見れば少数ではあるが、ましろんの発言を支持している人達が一定数いることに気付いた。

 

「なんで信じてる方がこんなにいるんですか……そんな変身ベルトみたいなこと出来るわけないでしょ……」

「……分かった、もう最後のお酒行っちゃおう。それで決着がつくから」

「なんでそう言い切れるんですか?」

「次のお酒、ウイスキーだけど、これを選んだ理由、覚えてるよね?」

「ええ、ウイスキーと言えば()()()がいるから、ですよね?」

「そう、あわちゃんがウイスキーを飲んだら、シュワちゃんじゃなく()()()みたいになったら面白いねってことで選んだんだ」

 

 …………そういうことか。

 

「ましろん、本当に言ってるんですか? あんなのオチ用の一発ネタみたいなものですよ?」

「うん。僕はネタじゃなく、本気でなると思ってる」

「はぁ……分かりました。どちらにしろウイスキーを飲むのは決まってましたからね。ただし、ヤラセとかは勿論なしですからね?」

「当然」

 

コメント

:もう最後かー

:ウイスキー!

:きっつい酒来たな

:なんで最後にウイスキー? 度数が高いから?

:あの人……?

 

 ウイスキーをグラスに注ぎ、目の前で翳してみる。一見お茶のようにも見えるが、凄まじい攻撃力を秘めていることくらいは私も理解済みだ。

 

「絶対に一気に飲んだらダメだよ。最初は舌に一滴くらいね」

「はい……それでは……いただきます」

 

 ましろんに言われた通り、慎重にグラスを傾けていく。

 もう少し――

 

「ん!?」

 

 ほんの一滴飲み込んだだけで、口から喉にかけて痺れる程の強烈な熱気が広がった。

 口を開け呼吸をし、外気で熱を冷まそうとする。

 

「大丈夫? ストレートがきつかったらロックとか出来るし、水割りにするのも手だからね?」

「い、いえ、驚いたのは事実ですが、飲めないわけではないです」

 

 感想は、きついが嫌ではないといったところだった。

 一気飲みしろと言われたら絶対に断るけど、複雑な香りと体が温まる感覚は独特の魅力を私でも享受できる。

 

「もう一回……んーー!! はー!! はー!!」

「きつそうだけど目は楽しそうだね。とりあえずよかった」

 

コメント

:冷ましてる冷ましてるw

:餌ねだる雛鳥みたいでかわいい

:フェラ顔みたいでかわいい

:大きなお友達は少し静かにしようねー

:子供と大きなお友達が混在している、やはりニチアサなのでは?

 

 ちょっと怖いけどもう一回チャレンジしたくなる、なんだか絶叫マシンのようだ。

 ただ、今回は私がウイスキーを好きかどうかはさほど重要ではない。問題は酔い方だ。

 

「どう? 歌いたくなってきた?」

「ないない……」

 

 ましろんが言うには、私は()()()のようになる予想らしい。そんなことがあるわけがないでしょ……。

 チビチビとウイスキーを体に馴染ませながら、私は決意を固める。

 きっとましろんがこうなってしまったのは私の責任もある。

 だからここで――私が責任を持って、親友の常識を取り戻してみせる!!!!

 

「ウイスキ~~が、お好きでしょ♪」

「確定だーーーーーーーー!!!!」

 

 私は()()()こと石川さ〇りさんみたいになっていた。

 

コメント

:????????

:朝草

:フォームチェンジ確定の瞬間である

:もう訳分からんwwwwww

:人間卒業おめでとう

:!? …………????

:ましろんのこんな絶叫初めて聴いたわ

:おいおい、これとんでもないことなんじゃ?

:全ての酒ごとにフォームがあるってこと!?

:ここに来てライブオン勢力図を一気に書き換える可能性がある異能が発覚するとは……

:ポテンシャルの鬼

:噛んでも噛んでも味がする女

<相馬有素>:学会に発表しなければ!!!!

 

「すごいよあわちゃん! やっぱりフォームチェンジ出来るんだよ!」

「ライブ会場・草景色~~♪」

 

 ダメだ、歌っちゃだめって分かってるのに、体内の石川さ〇りさんが活性化して歌いたくなってしまう。

 …………あれ?

 大興奮状態のましろん……だけどその声がやけに……遠くに聞こえるような……。

 あれれ? というか、私ってどんな喋り方してたっけ?

 

「ましろんチャン! どうして何人もいるんですか?」

「え? いや、何人もいるのはあわちゃんの方でしょ」

 

 目の前がぐにゃぐにゃと歪んでいく。

 

「うふふ、境界のなくなった世界でも、貴方は変わらずかわいいのね」

「あわちゃん? なんか色々おかしいような……」

 

 ああヤバ、これは――

 

「タ~スク~~~~越おぉぉ~~ぇぇえ~~~~♪」

「あわちゃん!?!?」

 

 全てが混ざり合う世界に自分を支えきれなくなり、バタリと倒れこむ。

 段々と暗くなっていく視界の中、私に駆け寄り必死に名前を呼ぶましろんと、大騒ぎになっているスタッフさん達の声が、意識がなくなるまで聞こえ続けていた――

 

 

 

「誠に申し訳ありませんでした!」

 

 いつかの切り忘れ後のように、マネージャーさんの鈴木さんに謝り倒す。

 

「いえ、何度も言いますがタレントの体調面の保護を誤った私共の責任ですので、どうか謝らないでください」

「そんな、私が立案した企画で運営さんは協力してくれただけなのに、こんな騒ぎになってしまって……」

「いいんです。許可したのはこちらですから」

 

 もう直近で何度も謝り倒しており、その度にそう言っていただけるのだが、それでも申し訳なくて仕方がない。

 聞いた話によると、ウイスキーを飲んだ後私は気を失って倒れてしまったようで、あの後即病院に搬送となったらしい。

 幸いすぐに目が覚め、体調も問題なかったのだが……配信中、つまりはリアルタイムで人が気絶した映像が世間に流れたことは、ネット界隈にとどまらない程の大ニュースになってしまった。

 私が病院から帰宅出来た今でも話題は燻っており、ライブオンには多大なご迷惑をおかけしているのは想像に難くない……。

 ライバー達にもめちゃくちゃ心配かけてしまったし、もうほんと、何をやっているんだろうね私は……。

 

「それよりご体調は……?」

「はい……」

 

 今回の電話は、病院の検査結果の報告要請を受けてのものだった。

 

「隅々まで検査してもらったみたいなんですけど、特に異常は見当たらないとのことで……」

「そうですか……」

「あの、自分では原因が分かっているんです。色々なフォームに短いスパンでチェンジしたことで、タスクオーバーを引き起こしたんだろうなって。ただ、そう言っても取り合ってもらえずで……結局酔い過ぎたのだろうってことになりました」

「お医者さんがそんな診断結果出すわけにもいかないでしょうからね……ちなみに今、世界中の研究機関から雪さんに研究のお誘いが届いていますよ。お渡ししますか?」

「行ったら本当に将来教科書載れそうで草……でも流石に遠慮します……」

 

 素人が独断で判断するのは良くないけど、あの感覚はタスクオーバーで間違いないと思う。

 でも、とりあえず明らかな異常は見つからなかったのは安心した。

 ……安心したんだけど……。

 

「ただ、あの……」

「はい?」

「そのですね、普段の飲酒についても色々聞かれてですね、答えたら……そのですね……」

「はい」

「今回の件もあるし、しばらくの間お酒を控えようと言われまして……」

「雪さん」

「いや多分大丈夫なんですよ! 一度に多種類飲まなければ異常は出ないと思うので! ストゼロだけ飲んでいればそれで! お医者さんも絶対やめろよって言い方でもなくて、だからあの」

「禁酒しましょう」

「ですよねえええええぇぇぇぇーーーー!!!!!!!!」

 

 こうして、一ヵ月の禁酒期間を設けることが決まってしまったのだった……。

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