VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
「えと……ん?」
状況が読めず頭がパンクしてしまう。
「ほら淡雪さん、収録しますよ」
「あ、鈴木さん、私の収録は終わったのでは?」
「確かに淡雪さんの収録は終わりましたね。なので次はシュワちゃんの収録なのです」
「は、はぁ!?」
やっとスタッフさんたちの言っていたことを理解して思わず狼狽えてしまう。
まさかこの人たち、淡雪とシュワちゃんを別人カウントで収録するつもりなのか!?
まさかの私だけ2パート収録!? 確かに別人みたいな感じでいつも配信していたが、こうなるとは予想外だった。
「で、でもほら! お酒どうするんです? 流石に私でもこんな仕事の場で飲むのは気が引けるというか……」
「その必要はないわ!」
「え?」
強い声でそう言い放ったのは私の頭を混乱させたもう一つの要因、最上さんだった。
そうだ、なんであの人もライブオンの社員さんのはずなのにマイクの前に立って……
――――ん? ライブオンの社員……私は確かにそう最上さんを紹介された。
だがライブオンの社員だけとは言っていない――
つまりそれは彼女がライブオンの社員でありながら『VTuber』でもある可能性があるということ。そうであれば今彼女がマイクの前に立っていることに問題はない。
そしてそんな経歴を持つライバーがライブオンには一人だけ存在していて――
ま、まさか!?
「ふはは! やっと気づいたか淡雪ちゃん! 私がみんなの心の太陽、朝霧晴なのだ!」
「あれ、ライブオンの諸悪の根源じゃなかったですっけ?」
「こらスズキング! 出鼻をくじくな!」
ああ、なんで今まで気づかなかったのだろう。
この声、奇抜な言動、変わったニックネームで人を呼ぶところ、私が今まであこがれてきた人そのものではないか。
なるほど、やっと全て理解した。つまり私は今から憧れの晴先輩と二人で収録することになるのか。
ああまずい、緊張やら驚きやらで目の前がくらくらしてきた。
あれ? この感じ、前に一度あったような……
そう、確かあれはライブオンの面接のとき……
「我が世の春が来た」
「ああ、懐かしいですねこの感じ」
「そっか、スズキングは面接のとき以来なんだね、極限突破シュワちゃん。私は初めてだから楽しみだよ」
この解放感、頭がストゼロを飲んだ時よりも更にキマッているかもしれない。
「ん゛ん゛ん゛ぎもぢいいいぃぃ!!!」
「全て計画通り」
「楽しそうですね最上さん」
「あたりまえだよスズキング! 私はなんとしても淡雪ちゃんとシュワッチ両方を収録したかった。だがむりやり酒を飲ませるなど人として論外だ。だから面接のときに淡雪ちゃんが酒を飲んでいないのにシュワちゃん化していた前例を参考にし、今回は私の存在を使うことでシュワッチを発現させたというわけだ」
「最上さん淡雪さんのことエヴァン〇リオンかなにかだと思ってません? 暴走的な意味で」
「照れるぜ」
「褒めてませんよ。あと、こんな回りくどいことするくらいなら最初から2パート収録すると淡雪さんに伝えておけばよかったのでは?」
「も~う、そんなこと言ったら全て台無しだよスズキング~、ほら、サプライズって大事じゃ~ん?」
「相変わらずですね」
それにしても晴先輩があんなに小柄なのは意外だった、そのインパクトが強くて全く正体に気が付かなかったよ。
「合法ロリ、それは神が創造した許されたタブーであり生きた奇跡、生命の神秘である」
「ほらシュワッチ、変なこと言ってないで収録始めるよ!」
「はーい! ん? ちょっとまて、声とはすなわち喉の振動、なので広い観点からみれば全ての発声も喉の振動ということになる。つまり歌声と喘ぎ声は同じ……? 今から私は晴先輩と実質S〇Xすることになるのでは?」
「出たな、シュワッチ名物実質理論」
◇その後◇
最上さんが晴先輩だということが明らかになった時点でシュワちゃん化していた私が淡雪に戻った時、私は既に家に着いていた。
一応鈴木さんに連絡したところ、ちゃんと収録は終了したので問題ないとのこと。
詳しく話を聞いたところ、全て晴先輩の手の上で転がされていたようだ。なんというか、本当に予想の範疇を超える人だな。
ぜひまたお会いして話したいけど、また翻弄されそうだなぁ。でもシュワちゃんモードだとそれはそれでカオス空間な混ぜるな危険になりそうだしなぁ。
まぁそれは置いておいて、完成した歌動画がいよいよ配信されることになった。
曲名は『ライブスタート』
サビ前の淡雪の他に、シュワちゃんはCパートの晴先輩との掛け合いを担当したみたいで、そこだけ歌の迫力が違いすぎてコメントで
:なんでこの二人歌でボクシングしてるの?
:声の殴り合いで草
:ここだけレベルが違いすぎるんですが
:シュワちゃんとあわちゃん別々なの草草の草
:流石ライブオン、期待を裏切らない
などツッコみの嵐だったようだが、動画自体は非常に人気であっという間に100万再生を突破する大成功となった。
ちなみに鈴木さんに聞いた話だと、本当に二人とも血眼で歌い合ってて普通に恐怖を感じたとのこと。なんか申し訳ない……
まぁ終わりよければすべてよしと思うことにしよう。