VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた 作:七斗七
「よっしゃ! これで一通り大丈夫なんじゃないかな」
「ありがとうございましたー!」
現在の私は都内某所のスタジオにて、晴先輩から歌のレッスンを二人きりでしてもらっていた。
先日とうとう晴先輩のソロライブにて、ラストに私と歌う新曲が完成したとの連絡が鈴木さんから入った。なので今日は大事な大事な新曲の練習日なのだ。
随時休憩をはさみながら、晴先輩と文字通りへとへとになるまで新曲の歌い方を訓練し通しの一日だったな。
ただ曲を歌うだけでは勿論いけない。多数のお客さんがお金を払って見に来てくれる上に晴先輩の晴れ舞台だ、曲のクオリティを100%引き出す歌唱をしなくてはいけないのだ。
今日一日でハモリパートから歌詞に込める細かな感情まで時間が許す限り徹底的に教えてもらった。おかげでこの曲が持つ意味はしっかり理解して歌えるレベルにまではなれたはずだ。
「いやぁ流石だねぇシュワッチ、その響きの良さが際立った声は天性の才能だよ。特に真っすぐな歌詞を歌わせると力強く心に響いてくる」
「ありがとうございます。でも技術面で言ったらまだまだ晴先輩に及びませんよ」
「歌は聴いた人の心に響いたものが正義だよ、技術はそれをサポートするものに過ぎない。あ、でも負けたとは思ってないからね! 私も歌には自信があるんだから!」
「分かっていますよ。まぁ私も負けたと思ってませんけど」
「ふっふっふ、そうこないとね」
今日明らかになったことなのだが、どうやら晴先輩は私のことをシオンママと聖様とのカラオケコラボの時から歌のライバルと見なしているらしく、度々今のように歌では負けてないぞ発言をはさんでくる。
いや面白くて人望あって歌うまくてかわいいとか最強かよ。
ちなみにその負けないぞ発言に対する私の返答からも分かる通り、今の私ははっきり言って歌に自信を持っている。
今の私は素面の状態だが、ストゼロを飲んで一回気持ちよく歌う感覚を覚えてからはお酒無しでもほぼシュワ状態と変わらぬ歌唱ができるようになった。最近つくづく思うが、自信を持つとそれだけで変わることが色々あるものだ。
まぁだからと言ってシュワだけじゃなくあわまでメンタル強者になったわけではないので、緊張するときは普通にするんだけどね。
「それにしても晴先輩はすごいですね」
「お? 突然なんだいなんだい?」
だがそれは歌唱という部分だけの話。
私は今日の練習で晴先輩の新たな凄まじさを目の当たりにした、それは理解力だ。
今回の新曲はめちゃくちゃ耳に残るメロディーの最高な曲だったのだが、はっきり言って少々歌詞が難解な曲だった。言葉にするのは難しいが、確かな言葉の重さがこの曲の歌詞には込められていたのだ。
なのに晴先輩は一瞬でその歌詞の意図を理解し、ここはこういう思いを乗せるんだよと教えてくれた。
最初に歌詞を見たときと秘められた思いを理解して歌詞を見た時では、同じ曲のはずなのに全く抱く感情が違った。私一人では完全に理解するのにどれほど時間がかかったものか。
なので以上のことを心から称賛する言葉を晴先輩に送ったのだが――
「そんなの分かって当たり前じゃん。だって私が作ったんだし」
――――数秒が完全に停止した。
「ぇ……作ったって……何を?」
「曲を」
「晴先輩が?」
「うん。作曲作詞編曲、全部私」
もう驚きすぎて声すら出すことができなかった。
このクオリティの曲を一人で作っただと? 今の今まで著名な作曲家さんが作ったと信じて疑わなかったぞ。
なるほど、今まで少々気がかりだった練習なのに作曲者さんの影が一切見えなかったのはこれが理由か。実のところ目の前にずっといたわけだ。
一体何なんだこの人、どこまで人の理を突破すれば気が済むんだ……
「ライブスタートの時は私の為の曲じゃないから私は関与しなかったんだけどね、ソロライブの締めくらいいいっしょってことで張り切っちゃった!」
「なるほど、色々思うところはありますが晴先輩だからということで納得することにします。でもそんな大事な曲を私も歌ってしまっていいんですか?」
「うん! この曲はシュワッチと歌うからこそ意味がある曲なんだよ!」
「はぁ」
よくわからないが晴先輩が望むのなら応えるだけだ。
晴先輩が居なかったら私は今ここに居ないかもしれない。恩を返すためにも最高の舞台にするぞ!
「んじゃーそろそろ帰るか~。シュワッチ……あれ?」
「はい? どうしました?」
「いや、すごい今更だけど今の君ってシュワシュワしてないからシュワッチじゃないよね? 正しくはあわっち?」
「あ、そんなことですか。どんな呼び方でも全然大丈夫ですよ」
「おけおけ、それじゃあこれからお酒飲んでないときはあわっちで! それじゃああわっち、そろそろ帰ろう。車で家まで送っていくよ」
「はい! ありがとうございます!」
「ねぇあわっち」
「はい?」
「私になにか聞きたいことあるんじゃない?」
助手席で車に揺られながら帰路を送ってもらっている途中、突然そんなことを言われてしまった。
「……どうしてそう思うんですか?」
「顔が喋っちゃってるよ。私鋭いから分かるんだ」
全く、この人と話しているとまるで心を見透かされているみたいだな。
「……それじゃあ晴先輩、一つ質問してもいいですか?」
「ん、なーんだい?」
本当は聞こうか聞くまいか迷っていたのだが、こうなってしまって逃げるのは情けない。私は前の鈴木さんとの会話からずっと気になっていたことを聞くことにした。
「どうして今回のソロライブを受けたんですか? 前から様々なお誘いはあったと鈴木さんから伺っているのですが」
「ふむふむ、なーるほーどねぇ」
「まさか……これを最後に引退なんてしませんよね?」
鈴木さんからこの話を聞いて、数日間私の少ない脳で考えた結果浮かんできてしまった最悪の理由がこれだった。
最後だから有終の美にライブを受けた、この可能性に気づいた日からまるで心に重しが吊るされたかのような気分がどうしても消えない。
「ははははっ!! ないないないない!!」
だがそんな私の不安を晴先輩は豪快な笑いで消し飛ばしてくれた。
心の重しがストーンと落下していったのが分かる。その答えを聞けて車に乗ってから曇りがちだった私は自然と笑顔になっていた。
「そ、そうですよね! なんかすいません変なこと言って……」
「本当だよ! 私はまだまだこの程度で止まる逸材じゃないぞ!」
「まだまだって、現状の時点でもトップVTuberでしょうに……でも、それならどうしてライブを受けたんです?」
「……ねぇ、あわっちはIQテストって受けたことある?」
「IQですか? 私は経験ないですね」
「そっか、私は受けたことある。結果はIQ160だったよ」
「へー」
正直数値を言われてもそれが高いのか低いのかの基準が私には分からなかったのでそんな気の抜けた返事になってしまった。
「お、家着いたよ! 今日はお疲れ!」
「え、ええ!? 質問の答えは!?」
「今のが答えだよー。ほら、あんまり長時間停めると迷惑になるかもしれないから早く降りる降りる!」
そう言って私を急かした先輩は、本当に「それじゃまた!」の言葉を残して去って行ってしまった。
分からねぇ、さっぱり意味が分からねぇ!
「……え!?」
そして家に入ってからIQのことが気になり調べたとき、私はまたもや驚くことになる。
どうやらIQは130越え辺りが天才と言われるラインらしい。
つまり晴先輩のIQ160は天才の中の天才と言っても過言ではないラインということになるようだ。
「……いやだからなんでこれが質問の答えになるの!?」
だめだ、晴先輩の言動に頭の理解が全く付いていかない……もう疲れたし今日は寝るとしよう。
全く、晴先輩に何回驚かされたかもう数え切れなくなってきたな……
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