IS −インフィニット・ストラトス− 蒼の魔神 作:ラナ・テスタメント
原作沿いクロスオーバーとなりますので、ゆるりとお楽しみ下さい。
暗い、暗い闇。光すら届かぬ闇の中。それは、目覚めの時を待って眠り続ける。
――蒼。
蒼の、ヒトカタだ。
青ではなく蒼。暗い闇より、なお暗い蒼。
その蒼は、ただひたすらに眠る。いつか解き放たれる日を待つように。世界終焉の夢を見るように、世界終演の幕を引く為に。暗い、暗い、蒼の魔神は眠り続ける。そして。
【ここに在ったか、蒼】
声が、闇の中に響いた。無感情に、抑揚と言うものを一切排したかのような声が。声は、段々と蒼に近付いていく。
【未だ眠り続けるか、蒼。だが起きてもらうぞ。お前にはやって貰わなければならない事がある。主を失った身とは言え、お前も”奴”に一矢報いたいだろう? あの世界で主を失ったが故に”奴”は失敗したが、消えて無くなった訳でも無い。奴はこちらの世界を贄としたようだ】
声は、ただ蒼に語り続けながら歩いて来る。だが、蒼は応えない。ただ眠り続けるだけ。
【俺も俺の分身たるアレに全てを譲り渡した。”使者”としての役目から解放された俺に待ち受けるのは消滅だけだが、だからと言って因果を歪める存在を許す訳にもいかない。お前も、”奴”から解放されたとは言え、主を失っている状態では何も出来ないだろう? フフフ……主を失った従と、従を失った主。皮肉だが、利害は一致している】
そう声は告げて、ついに蒼の間近へと来た。ゆっくりと、その身に触れる――次の瞬間。
蒼が、鳴動した。
吠えた、叫んだ。
それは悲鳴だった。”奴”により操り人形とされた、誰よりも自由を望んでいた筈の主を悼む悲鳴。
それは歓喜だった。主の意思を継ぎ、”奴”に復讐出来ると言う喜びの叫び。
声はそれを聞き届け、頷いた。
【来い。蒼の魔神、重力の魔神”グランゾン”よ。この俺、”イングラム・プリスケン”が、その受け皿となろう!】
そうして、蒼は銃の名前を冠する男の力となった。
”奴”を、滅ぼすために――!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
雪が降る。いや、降ると言うのは、この場合正しいとは言えないかもしれない。
雪が吹く。どちらかと言えば、そちらの方が正しい表現だろう。少なくとも、この極寒の地にあるシベリアの山奥においては。
ロシア連邦領内のおよそウラル山脈分水嶺以東のアジア北地域である。
世界最大の国土を持つロシアにおいて、とりわけ緑ロシアなどと呼ばれるこの場所では、北国ならではの凄まじい吹雪が吹き荒れていた。
視界はほぼゼロ。少なくとも、人がこの状態の山奥に入ると言う事は自殺行為のようなものだろう。
それが、何も装備していなければ。
《どう? 何か反応はあった?》
《ううん、何にも。相変わらずの雪があるだけよ》
雪が吹き付ける山を、まるで何の障害ともしていないように一つの飛翔物が飛んで行く。それは、人の形をしていた。
『IS』。正式名称『インフィニット・ストラトス』。世界最強の兵器であり――女性にしか使えない最強の力。
元々は宇宙空間での活動を目的として作られたマルチフォーム・スーツである。
しかしながら、その有り余る性能は『兵器』としての性質を獲得し、今やその数が国の戦力とされている。それを装着した女性が、シベリアの空を飛んでいるのだ。
宇宙空間での活動を前提とされたISである。気温マイナス何十度の世界であろうとも、操縦者を確実に保護する。むしろ操縦者はISを装着している限り体感的には常春だろう。だが一機一機が国の戦力を左右する兵器である。何の理由も無く飛んでいる事など有り得ないのだが。
《それにしても、何でこんな何も無い場所になんか……》
《ぶつくさ言わないの。しょうが無いでしょ? エネルギー反応をレーダーがキャッチしたんだから》
やれやれと愚痴るIS操縦者に、通信回線の向こう側から窘める声が来た。おそらくは友人なのだろう。そうでなくてはここまで気安いやり取りは――特に、軍事行動中には普通は有り得ない。
ともあれIS操縦者の女性は友人からのお説教に再度肩を竦めた。そもそも今回の出撃自体納得などしていないのだ。
謎のエネルギー反応があった。とりあえず調べて来い、だ。いくらISが強靭な兵器で大抵の状況に対応出来るとは言え、これは無いだろう。
小間使いか、私は。そう思うのも無理は無い。
最近噂に上る『機業』とやらが出て来たら、どうするつもりなのか。
だが命令は命令である。従わない訳にも行かなかった。
《本当にもー。レーダー故障してるんじゃないでしょうね?》
《流石にそれは無いわよ。まぁ、エネルギー反応も一瞬だけ――》
そこまで言った、瞬間!
【警告! エネルギー反応感知!】
《っ! これっ!?》
アラート。ISと基地の方で、それが同時に鳴り響いたのだ。
慌てたのはIS操縦者である。慌てて機体を完全停止。ISのハイパーセンサーを使い、エネルギーの発生源を調べようとした、まさにその時。
《フフフ……ブラックホール・クラスター》
そんな。そんな、”低い声”を聞いた、直後――世界が爆裂した。
比喩でもなんでもない。少なくともIS操縦者にとっては、それは紛れも無い事実であった。
彼女が見る先で雪に覆われた山は一瞬にして砕け散る!
それだけでは無い。それらの破片は砕けた端から、爆裂した中心点に向かって飛んだのである。
正確には吸い込まれたが正しいかもしれない。IS操縦者の彼女に出来た事は、必死にPIC――パッシブ・イナーシャル・キャンセラーを働かせ、スラスターをも全開にして巻き込まれないようにするだけであった。
やがて爆裂は収束し、消える。そうして彼女が見たものは、地面に空いた特大のクレーターと、雪を降らせていた雲が消え去った後の青空だった。
後には何も無い。木も雪も山も、何もかもが消えていた。
《なん、だったの? 今の!? え、エネルギー反応は……!》
そう呟き。しかし、彼女のISが示すのはLOSTの文字だけ。
対象消失。見失なったと言う言う事か。ともあれ、一つだけ確定した事がある。それは。
《あ、あれは、IS? だったの?》
呆然としたまま、彼女はそれだけを呟いた。
後に、この事件を起こした存在が、この世界に対してどのような事態を招くのか――。
それをまだ誰も知る事は無かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
公立、IS学園。ISの操縦者育成を目的とした教育機関である。
様々な政治的要素――ぶっちゃけると、某国々による圧力によって生まれた学園だ。基本的に女性にしか使えないIS故に、この学園もまた女子しかいない、筈だった。だが。
「実習の度にダッシュは勘弁して欲しいよな……」
そんな風にぼやきながら、廊下を早足で進む男子が居た。黒髪に整った顔立ちをしている少年である。
名を、織斑一夏。
彼は、ぼやきながらも一切速度を落とさない。と言うのも、彼は実習の度にアリーナ更衣室で着替えねばならいからだ。遅刻をした場合、姉であり、担任でもある織斑千冬の折檻を受けねばならない。
それはそれは過酷なものを。具体的に言うと、人はそれを地獄の特訓と呼ぶ。
その前に、何故男子である彼がIS学園に居るのかと言うと、それには訳がある。
最初から最後まで話すと、とてもとても長い話しが。なので一言で済ますと――。
ISを男子なのに何故か起動出来ました。そらえらいこっちゃ! よし君、IS学園に来なさい!(強制)
と言う訳であった。ちなみに彼が本来受けようとした高校は私立、藍越(あいえつ)学園と言い、IS(あいえす)学園と名前を間違えて受験会場に向かったそうであったとか。閑話休題。
ともあれ既に季節は初夏である。最初は女子校に男子一人と言うそれなんてエロ○? どこに売ってんの? 状態であった一夏ではあったが、なんやかんやとそれにも慣れて来て、いつもツルむ友達――当人達の気持ちはどうあれ、そう呼んで差し支えはあるまい――まぁ、出来。いたって現在、平和であった。
来週には臨海学校が控えているが、それは楽しみの一つであろう。
まぁそんな事はともかく、今は実習時間に間に合うように急がなければならないのだが。
内心焦りながら、しかし走り出す訳にもいかずに一夏は速度を緩めずに曲がり角を曲がって。
「っと」
「わぁっ!」
ちょうど曲がり角の死角に居た人物とぶつかった。小さく悲鳴を上げながら一夏はなんとか体勢を立て直そうと力を込め、その前にひょいと手を掴まれて起こされた。
「あ」
「……大丈夫か? すまなかったな」
呆然とした一夏に、ぶつかった人が謝る。
怜悧(れいり)。そんな表現が良く似合う男性であった。少しだけウェーブが掛かった青い長髪が厭味に見えない。一夏を刀とするならば、彼は銃と言った所か。
重く、鈍く、しかしどこまでも鋭い。そんな男性。
「……君?」
「っと! こちらこそすみません! 急いでいて……」
「いや、構わない。こちらもよそ見をしていたからな」
どこか淡々とした喋りである。例えるならば、クラスメイトのラウラ・ボーデヴィッヒに似ていなくもない。
クラスに転入して来たばかりの彼女はまさしくこんな話し方だった。今は若干暖かみがある気もするが。
「……君の名は?」
「え? 俺ですか? 織斑一夏と言いますけど」
唐突に名前を聞かれる。あまりに唐突だった為に、思わず疑う暇も無く名前を教えてしまったくらいだ。一夏の答えに男性は頷きだけを返して。
――キーンコーンカーンコーン。
同時、昔馴染みの音が辺りに響き渡った。予鈴である。つまりは。
「ち、遅刻だぁ!」
突然一夏は大声を上げた。まだ着替えどころか更衣室に辿り着いてさえいないのに予鈴。
まずい、どう考えてもまずいと、その表情は語る。一夏はすぐさま男性に頭を下げた。
「す、すみません。じゃあ俺はこれで!」
「ああ、前には気をつけてな」
男は返事をしながら注意を促すが、一夏は聞いちゃいなかった。
身体を翻すなり、全力疾走を開始!
男を置き去りにしてアリーナ更衣室へと向かう……その途中で、気付いた。
「あれ? なんで俺以外の男がここに居るんだ?」
一瞬そう思い至るが、すぐに思考を切り替えた。
曲がりなりにもIS学園である。警備も万全だ。それに自分とぶつかっても不審な様子も無かったのである。なら、ただの客か誰かだろう。
そう深く気にせずに一夏はとりあえずアリーナ更衣室へと更に足を速めたのであった。
「……元気のいい少年だったな」
取り残された男は既に消えた一夏の背中にフッと苦笑した。
その脳裏に過ぎるのは、果たして誰であったか――。
少しだけ彼は昔に思いを馳せ、しかし次の瞬間には表情が切り替わる。冷たい銃口のように。
「やはりここだったか。新たな”端末”が現れる場所は」
言うなり男は右手を横に差し出す。すると、指先から肘までが一瞬にして機械へと変貌した。
部分展開。ISを身体の一部分だけ展開する状態にそれは似ていた。
だが、ここで一つの疑問が生まれる。そう、彼は男なのだ。ISが使える筈もない。それなのに、男は右手に装甲を顕現させていたのだ。これはどう言う事か。だが当然男は構わない。その変わりとばかりに、ぽつりと呟いた。
「……グランワーム・ソード」
次の瞬間、男が差し出した右手の先に”穴”が開いた。
直径1m程の、漆黒の穴だ。男は開いた穴に躊躇なく腕を突っ込み――”それ”を引きずり出した。
両刃の大剣である。鍔には赤い宝玉が埋め込まれていた。
……だが、ここでもやはり謎は生まれる。何故、量子変換せずに空間に穴を開けて武装を取り出したのか。どちらがよりエネルギーを食うのかは明白である。
そして何故、武装を取り出したのか――そちら答えは、すぐに来た。
ヴン、と廊下の床に光が走る。それは、カクカクと角度を変えて廊下を走り抜け、一つの形を成した。
幾何学的な模様。見る人次第ではこう呼ぶのかもしれない。魔法陣、と。
そして、そこから何かが溢れ出て来た。ごぶりごぶりと粘液状の液体を吐き出しながら、それは床から迫り出し。
「来て早々だが、虚空の彼方に消えてもらうぞ……貴様達は因果を狂わせる」
男は床を蹴り付けると現れんとしたものへ駆け出す! 大剣を振るい――。
「デッドエンド・スラッシュ!」
一刀の元に、その何かを魔法陣ごと叩き斬った。
その威力、どれほどのものだったのか。魔法陣を叩き斬った大剣は容赦無く廊下をも叩き割る!
斬られた魔法陣はゆっくりと消えていった。
それに男は一つ頷き、大剣と肘まで展開した装甲を消す。
「これでまた一つ。ああ、分かっている。”グランゾン”。大元を叩かなければ意味が無い事くらいは。だが、それでも」
それでもと男は告げて身を翻す。すると、その身はゆっくりと消えて行った。まるで、消しゴムで消すかのように。
やがて男の姿は完全に消え、それに合わせるようにしてIS学園の教員が現れた、が。
そこにあったのは、ただ叩き割られた廊下だけであったと言う。
……なお、これは余談であるが、遅刻した一夏はそれはそれはきっつい折檻を受けたそうな。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
IS学園の地下五十m。そこには隠された施設が存在する。
レベル4権限を持つ関係者しか入れない施設だ。
今年度のはじめに学園を襲撃した無人ISが運び込まれ、解析が進められていた場所でもある。
そこで、難しい顔でモニターを見る二人の女性が居た。
織斑千冬。織斑一夏の姉であり、担任教師、そして世界最強のIS操縦者、ブリュンヒルデの二つ名を戴く女性である。まぁもっとも、当の本人はその字名を好んではいないのだが。
険しい顔で見る先のモニターに映っているのは、縦に割られた廊下であった。亀裂が長く、ずっと続いている。
「やはり間違いありません。この時間帯にお客様は来ていません。それに、これは」
「ああ、分かっている。これはISの仕業だろう」
同じくモニターを見続ける女性教師、山田真耶に険しい顔を崩さずに千冬は頷く。
IS操縦訓練。つまりは実習の際に一夏が珍しくも遅刻をして来た。
そこまではいい――いや一夏的には良くはないのだろうが、地獄を見たとしても死ぬ訳でも無いのだ。問題無い。
だが、この時彼が話した遅刻の理由が問題であった。
曰く、見知らぬ男性にぶつかり、話し込んでしまった、だ。
その現場が、まさに砕かれた廊下だったのである。
一夏と出会った男がこの事態と関係あるかは不明だが、無関係と考える方がおかしいだろう。
はっきりしている事はただ一つ。一夏は知らず、鼻先三寸に危機が迫っていたと言う事であった。
「当時の監視カメラにも何も映ってはいません。その男性がどうやって学園に侵入したのかも……」
「謎のまま、か。全く」
説明を続けた真耶に千冬は嘆息する。これに付け加えて言うと、どうやって学園から抜け出したのかも謎と来ている。
IS学園はその特性上、警戒システムは軍の施設にすら、いや、それを上回るレベルのものとなっている。正直、これを平然と抜けられる侵入者と言うだけでも頭の痛い問題であった。だが、問題は更にもう一つある。一夏の話しが本当だとするならば。
「もし、もしですよ? これがISでの犯行なら……」
「ああ。そう言う事だ。最悪、”二人目”と言う事になるな」
ISは女性しか使えない。その前提を崩したのは彼女の弟である。
だが、これからも彼一人と決まった訳でも無いのだ。ひょっとすれば、更に出て来る可能性は否めない。
もし、その侵入者がそうだとすれば?
千冬は一瞬、懐かしくもほろ苦い顔を思い出し、しかしすぐに首を振った。今はまだ、彼女に連絡するべきでは無い。
「織斑先生?」
「……ああ、いや。なんでも無い。少し、な」
「はぁ」
千冬の様子に訝しげな顔となる真耶に、彼女は咳ばらいを一つ。再びモニターへと目を向ける。真耶もそちらへと再び視線を戻した。
「でも、ここ最近の情勢はおかしいですよ。例の無人ISもですけど、噂に聞く『機業』もですし。それに」
「『魔神』か」
真耶に千冬は頷き、その名を呟く。
――『魔神』
ここ最近、頻繁に目撃されている存在だ。曰く、その正体を探ろうとしたISを撃墜した。曰く、山を消し飛ばした。曰く、巨大な化け物と戦っていた、等々。
突拍子の無い噂ばかりなのだが、若干真実が混ざっている事もあった。山を消し飛ばした何かはあったのだから。
――これも、お前の仕業か? 束?
昔、ISの華々しいデビューのために、十二ヶ国の軍事コンピューターを同時にハッキングと言うとんでもない真似を自作自演してのけた天才の事を千冬は思い出す。
だが、少しおかしい。どうにも『魔神』と彼女との繋がりが見えないのだ。
あるいは、彼女とは全く別の――。
そこまで考えると、千冬は再び首を振った。今考えるのはそれでは無い。とりあえずは。
「一から監視システムの解析をやり直そう。山田先生、頼む。急いでやらなければ、最悪臨海学校は中止だ」
「そ、それは大変です!」
ぎょっと真耶は千冬の言葉に目を見開くと、慌てて事件が起きる数時間前からの監視システムの解析をはじめた。
千冬も苦笑しながら、それに付き合う。今日もまた長い夜になりそうであった。
さて、そんな二人が苦労して探し出している人物はと言うと。
「……これは一般にはホームレスと言う状態ではないのか……? しかし、流石にそろそろ何か食べないと倒れる……」
IS学園近くの橋の下でダンボールを敷いて、使命から解放された我が身を歎いていたとさ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おー、よく晴れたなぁ」
「…………」
そんなやり取りがあった週末の日曜日。晴々とした青空の下、一夏はうーんと伸びをする。
IS学園近くの街である。ある事情があって一夏はある女子と街に繰り出していたのだ。
そんなやけに爽やかな一夏の隣に、仏頂面の女子がいる。
整った顔立ちに、濃い金髪。それを一本にまとめて束ねている少女。
シャルロット・デュノア。色々な事情があり、男子として転入してきた彼女ではあるが、立派な女子である。
様々な要因――偶然と言うか、一夏の性格上、必然と言うか。そう言った事もあり、男子生徒から最近女子生徒へとクラスチェンジを果たしたのであった。
ちなみに男子生徒と女子生徒では階級からして違うので悪しからず。
どちらが上なのかは聞くまでもあるまい。
そんなシャルロットであったが、本日は何故かどんよりとしたオーラを纏っていた。普段は柔らかな印象がある女子だけに、気になってくる。何があったと言うのか。
「……僕は夢が砕け散る音を聞いたよ……」
ぽそりと呟く。これに一夏は不思議そうに首を傾げた。
なんでだろう? と言った顔である。まぁ、当然こうなった原因は一夏にある訳なのだが。
様々な意味で唐変木である彼に分かろう筈も無かった。
一夏は心配そうな顔となり、シャルロットの顔を覗き込む。
「どうしたシャル? 今日はやっぱり調子が悪かったのか?」
そんな事を聞く。当然、シャルロットからすれば面白い筈もなく、すぐに顔をぐぃっと押し返された。
更に彼女は無言で睨んでやる。一夏はとたんに引き攣った顔となり。
「シャル? あの」
「一夏」
「お、おう?」
「乙女の純情を弄ぶ男は馬に蹴られて死ぬといいよ」
とてもとても怖い発言が飛び出して来た。
きょとんとする一夏はやはり何も分かっていない。
しばらくして、うんうんと頷く。やはり、勘違いをしている。
「そうだな、そんな奴は死んでしまえばいい」
「鏡を見なよ」
自分の事とは全く気付いていない一夏は、その発言にも寝癖がついていると勘違いして頭に手をやる。
どこをどうやったらそんな勘違いに至るのか――彼だから仕方ないのかもしれない。そんな様子の一夏に、シャルロットは盛大に嘆息した。
「はぁ……どうせ、どうせね。買い物に付き合ってくれ、だと思ったよ。ああうん、先月もなんか似たようなこと言ってたもんね、一夏。はぁぁ〜〜」
深い。そりゃーもう深すぎるため息がシャルロットから零れる。
流石の一夏もそんなシャルロットの様子に何かを気付いたのか――。
「いや、その、悪い。でもあれだぞ、そんなに無理しなくてもいいぞ? なんだったら帰って休んでてもいいから、体のことを第一に考えてくれ」
……前言撤回。やはり何も気付いていなかった。
ここまでくるとわざととしか思えない程である。まぁ当の本人はわざと所か大真面目なのであろうが。
その言葉に、再びじーっと無言の圧力をシャルロットは放った。既に何やら物理的な力すら感じる。
流石に、そんなシャルロットに一夏は自分が何かマズイ事をしたのかと直感的に――つまり、本質的には何も分かっていない――まぁ、気付き。顔を青に染めた。
しばらく、あーやらうーやら呻いて。
「え、えーと……お礼に駅前の専門店でパフェをおごる」
「パフェだけ?」
「け、ケーキもつけよう。ドリンクも」
「ん。あと、はい」
そこまで聞き届けると、シャルロットは手を差し出す。それに、やはりと言うかまたかと言うか、一夏はきょとんとした顔となった。
差し出された手に、どうするかをしばらく思案。握手でもするのか――と思った瞬間、何やら鋭い視線を向けられた。ハズレだったらしい。
更に思考の迷路に一夏は没入していき。そんな一夏に、シャルロットは小さくしょうがないなぁと呟いた。答えを教えてやる。
「手、繋いでくれたらいいよ」
「ああ、なんだ、そんな事か。ほい」
ようやく合点がいったか……多分、それも勘違いなのだろうが。とにかく一夏はシャルロットの手を取る。
すると、シャルロットの顔が赤く染まった。不思議そうな顔となる一夏と視線を合わせられずに泳がせる。
まぁ、好意を持った男の子に自分から要求したとは言え、手を繋がれれば赤くもなるだろうが。
一夏はと言えば、不思議そうな顔から心配そうな表情へと変わり。
「大丈夫か?」
「ひゃあっ!? な、な、なにがっ!?」
「いや、シャルが。やっぱり帰って休むか?」
「う、ううんっ! いいっ、平気っ、大丈夫っ! い、行こっ!」
そんな事を再び言い出す一夏の手を引いて、シャルロットは歩き出した。
そんな彼女につられて、一夏も駅前へ進む。
一夏本人だけは気付いていないが、それはデートと呼んでおかしくない光景であった。
それを脇の茂みから見ている二人と、更に横から見ている一人にとっては、少なくともそう見えた事だろう――そして。
「街中か……人通りの多い所で戦闘は避けたい所だが」
そんな事を言う男が、同時刻、街に姿を現していた。一夏が廊下でぶつかった男である。彼は、そのまま街中へと足を進め。
ぐぅ〜〜〜〜と、盛大にそのお腹が鳴いた。
男はしばし停止。やがて腹に手を当てて。
「……そろそろ、真剣に栄養補給の事を考えなければ。奴との戦い以前に空腹に負けてしまう……」
元虚空の使者らしからぬ事を呟いて、現在断食二週間に突入中の我が身を心配するのであった。
(第二話に続く)
元虚空の使者ならぬ虚空のホームレスな、フフフ……さんのお話です(笑)
何故グランゾンなのかと言うと、テスタメントの趣味としか言いようがありませぬ。
いや、ダークプリズンのせいじゃありませんともええ(笑)
では、次回もお楽しみー。