IS −インフィニット・ストラトス− 蒼の魔神 作:ラナ・テスタメント
なので、大分更新遅くなると思われますが、何卒ご容赦を。
では、第二話。どぞー。
「……あのさあ」
「……なんですの?」
駅前へと向かって歩いて行く一夏とシャルロット。
その背中を茂みから見送っていた者達がいた。
一人は優雅なブロンドヘアーをロールに巻いたイギリス籍の美少女、セシリア・オルコット。
そして一人は、黒の髪を躍動的なツインテールにしたこれまた美少女、凰鈴音その人である。
彼女達は、それこそ地獄から響いたが如くの声音で会話する。
「……あれ、手ぇ握ってない?」
「……握ってますわね」
一夏とシャルロットである。よほど目か頭が悪くない限りは誰でもそう見えるであろう。
セシリアは、それはそれは引き攣った笑顔を浮かべ――次の瞬間、持っていたペットボトル(未開封)を完膚なきまでに握り潰した。蓋と中身が音を立てて吹き飛ぶ。どれ程の膂力がそこには込められていたのか、空恐ろしい光景であった。一方、鈴はと言うと。
「そっか、やっぱりそっか。あたしの見間違いでも何でもなく、白昼夢でもなく、やっぱりそっか。よし、殺そう」
とてもとても怖い発言をしながら、拳を握りしめた。既にISアーマーが部分展開されているそれを。
準戦闘モードにまですでに入っている。衝撃砲発射まで後二秒程と言った所か。
周りの迷惑とかそう言ったものは二人とも一切考えていない……げに恐ろしきはオトメゴコロと言う事か。何とも恐ろしい純情である。そして。
「ほう、楽しそうだな。では私も交ぜるがいい」
「「!?」」
突然、背後から声を掛けられて二人はびくりと身体を跳ねさせた。慌てて振り返る。
そこに立っていたのは煌めく長い銀の髪に黒い眼帯が印象的な美少女。一夏は私の嫁と公言して憚らない、ラウラ・ボーデヴィッヒであった。
「なっ!? あんたいつの間に!」
「そう警戒するな。今の所、お前達に危害を加えるつもりはないぞ」
「し、信じられるものですか! 再戦と言うのなら、受けて立ちますわよ!?」
真っ向からラウラを睨むセシリア。つい先日、彼女に敗北を、しかも二対一で喫したことで懐疑心が強くなっているのであろう。今にもISを展開しかねない剣幕である。。
しかし、そんな鈴、セシリア組に、ラウラはしれっとした顔で。
「あのことは、まぁ許せ」
さらりとそんな事を言った。一瞬何を言われたかは分からずに、二人は呆然となる。
それはそうだろう。ついこの前と印象があまりに違い過ぎる。
だが、それでもと二人は顔を強張らせた。その脳裏に浮かんだのは、例のキスシーンであったのは言うまでもない。
「ゆ、許せって、あんたねぇ!」
「はいそうですかと言える訳が!」
「そうか。では私は一夏を追うので、これで失礼しよう」
そう言うなり、ラウラは歩き出してしまう。まぁ、彼女からすればいちいち二人に許してもらう必要も無いのだから当然ではあるのだが。慌てたのは鈴とセシリアである。一体ラウラは何をしようと言うのか。
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!」
「そ、そうですわ! 追ってどうしようと言いますの!?」
「決まっているだろう。私も交ざる。それだけだ」
あっさりと言われ、逆に二人は怯む。普通は羞恥が先に立つものだが、こうまで自分に素直にストレートと言うのは、もう悔しいのか羨ましいのか分からない。
ともあれ、このままラウラを行かせる訳にはいかない。普通に考えればこのまま邪魔に入った方がいいのだろうが、尾行していたと言う事に後ろめたさを感じ、二人は難しい顔となった。
「ま、待ちなさい。待ちなさいよ。未知数の敵と戦うにはまず情報収集が先決。そうでしょう?」
「ふむ、一理あるな。ではどうする?」
「ここは追跡ののち、二人の関係がどのような状態にあるのかを見極めるべきですわね」
「成る程な。では、そうしよう」
素直な娘は騙されやすい――そう言う訳ではあるまいが、二人はラウラを見事説得。
かくして、尾行二人組は晴れて三人組になり。ここにおかしな……しかし見た目は抜群の、追跡トリオが結成されたのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな追跡トリオが結成されている真っ最中。その反対側では人知れず異変が起こっていた。
路地裏である。そこに光が幾何学模様の線を引き、魔法陣を展開する。しかし。
「デッドエンド・スラッシュ!」
裂帛の叫びと共に振り下ろされる大剣!
それは容易くも魔法陣から今にも現れんとした存在を叩き斬った。
魔法陣が消える――そして、それを成し遂げた者はゆらりと立ち上がった。
例の謎の男である。彼は大剣を一振りし、魔法陣があった場所を見下ろす。その表情は硬い。
「……これで三つ。三つだ。どう言う事だ、これは……」
まるで呻くかのように一人ごちる。
先程から魔法陣が展開しては、それを叩き潰しているのだが。それが連続して起こっていたのだ。
既にこれで三つ目である。今までは大小の違いこそあれ、特異点の発生は単体だけであった筈だ。
ここに何かあると言う事か。そうであるならば、三つでは済むまい。最悪、一気にこちら側に現れるやもしれない。
彼はそう認識し、大剣を消しながら歩き出そうとして。
「く……っ」
呻き声を一つ零して、よろりと壁に手をついた。身体に力が入らなくなって来ている。
笑い話しのようだった空腹であるが、今では冗談抜きの危機的状況であった。
こんな状態で、”奴”らと戦える訳がない。
……それでも、やらなければならない、か。
苦笑する。虚空の使者時代には必要無かった生理現象にこうも悩まされるとは、彼自身も露と思っていなかった。
虚空の使者とは、並行世界全ての番人である。
故に因果率の乱れを発生させる元凶があらば、そこがどのような世界であろうとも、それを滅ぼしに向かわなければならなかった。
その世界に食べ物はおろか、水や空気と言ったものすら無いなどと言うのは珍しくも無かったのである。
故に虚空の使者は、そう言った縛りから完全に解放されていたのだ――もはや、生物とは呼べない存在になっていたとも言える。
だが、彼は既に使命から解放された身である。因果率の影響も受けるし、生理現象も当たり前に起こる。
特に、生物は何かを食べない限りは生きられない。ただ単純に代謝の問題であるのだ。さしもの『魔神』もどうにか出来る問題では無い。
……金を稼ぐか、どうにかしなければ……。
だが、やはりここでも問題が起きる。彼は、この世界の住人では無いのだ。当然、戸籍などもある筈が無い。就職なぞ、もっての他であろう。
そもそも働いていて、特異点の発生に出遅れたらどうすると言うのか。
彼はそこまで考えて、やがて頭を振るい、思考を追い出した。
今は考えるべき事では無い。最優先にやらねばならないのは栄養補給だ。
例えゴミを漁ってでも何かを食べねばどうなるか分かったものでは無い。
プライドなど、生死が掛かった状況ではあって無しがものであった。
とりあえずここから出なければと彼は歩き出し、路地裏から出て。
「ぐ……」
再びくらりと目眩がし、共に身体から力が抜けた。何かに捕まろうとするが、既に路地裏から出た後だ。捕まるものなどある筈が無い。抵抗虚しく、彼は前方に倒れ。
「きゃあ!?」
ほにょん、とやけに柔らかな感触を顔に受けて、彼はその悲鳴を聞いた。
クッションか何かか、とんでもなく柔らかいものがある。だが、そう思う間も無く。
「真昼間から痴漢か、大した度胸だな」
脇腹に突然走る激痛! 横合いからいきなり蹴られたのか、彼の身体はクッションから離れて吹き飛んだ。霞む視界の中で、彼が見たものは。
「ん……? おい、どうした?」
そうこちらに尋ねて来る凛々しいスーツ姿の女性と、涙目となって何故か胸を隠す眼鏡の女性であった。
その二人の姿を最後に、彼の意識はぷっつりと鎖されたのである。
……彼は知らない。その女性の名は、織斑千冬。そして、彼が枕にしてしまった女性は山田真耶。
共にIS学園の教師である事など――いや、”この世界の事”を、彼はまだ何も知らなかったのであった。
(第三話に続く)
はい、第二話でした。
ちなみに、一夏ハーレムはまんまとなりますので、フフフ……さんのヒロインはアダルト組ととなります。いや、一部どうしようかなと言うキャラも出るんですが(笑)
では、第三話をお楽しみにー。