IS −インフィニット・ストラトス− 蒼の魔神 作:ラナ・テスタメント
いや、だって広域攻撃しかないし。
そしてこれは自慢になりますが、グランゾンのフィギュア買っといて良かった……めっちゃ高かっただけあってリアルなフィギュアなんですが、おかげでIS状態がイメージしやすい事しやすい事。今回のBGMは『ダークプリズン』もしくは『虚空の使者』で。
頭の中で曲をイメージしつつ、ではでは、第九話をどぞー。
どくんっと心音がやけに大きく聞こえる。それは、それだけ世界が静寂である証拠であった。
少なくとも、今この瞬間だけは。
その静寂を世界に齎した存在は、悠々とその場に居る全員に姿を晒す。
『魔神』――『魔神』だ。
そう呼ぶしか無い。他の形容詞を、織斑一夏はその存在に対して抱け無かった。
蒼のISである。少なくとも、見掛けはそうであった。
全身、鈍い蒼紫色。セシリア・オルコットの『ブルー・ティアーズ』を『”青”の雫』と呼ぶが、成る程、あれは青では無い。光る事が無い、ただただ暗い鈍色の存在。”蒼”であった。
下半身は装甲に包まれ、ふくらはぎ部分から飛び出した六枚のブレード・スタピライザーが特徴的である。
装甲は股上まで伸び、途切れて今度は胸の辺りで展開していた。中央に見える黄色い宝玉のようなパーツが見えている。
背面には正面から見て取れる程の大型スラスターが取り付けられていた。
更に特徴的な部位として、両肩の真上に浮遊する巨大な非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が上げられる。シールドでもあるのか、それは真下に伸びていき、パーツ中央に何らかの装置があるのが確認出来る。
腕部装甲も、腕部装甲で若干変わっていた。太いのだ、全体的に。
肉厚の装甲、手甲部分にやはり黄色の宝玉のようなパーツが見て取れる。
最後に頭部。普通はこの部分は露出しているものである。当たり前だ。防御は基本、シールド・エネルギーによって行うのだから。
頭部にヘルメットのようなパーツをつけると言うのは視界性を悪くする事この上ない。だが、このISは何故かヘルメット状のそれを頭に展開していた。
妙に刺々しい感覚を覚えるヘルメットである。そして、目の部分は完全にそれを覆うバイザーで隠されている。
装備らしい装備を一切持たないIS。それが、『魔神』の第一印象であった――だが。
「っ!? な、なんだ!?」
『魔神』を呆然と見ていた一夏であったが、いきなり『白式』が自分の制御を離れて、勝手に後ろに下がった事に驚きの声を上げながら、我に返った。
普通、IS操縦者のコントロールを離れる事は有り得ない。あったとすれば、それは暴走を意味している。その可能性に至り、一夏はぞくりとするが『白式』は制御不能に陥った訳でも無い。
ただ後退を勝手にするだけである。これは、どう言う事なのか?
《り、リヴァイヴ……!?》
《ティアーズ! どうしましたの……!?》
《ちょっとぉ! これ、どう言う事!?》
《く……!》
同時、通信ごしに皆からの悲鳴じみた声を一夏は聞く。どうやらこの現象は、その場に居る全てのISに起こっている現象のようであった。
よく見れば無人ISも後ろに下がったり来たりを繰り返している。その有様に、一夏は一つの答えに至った。有り得ない筈の答えに。
まさか、ISが”恐怖している”のか……!?
確かISの中心たるコアは、世界でたった467個しか無い。篠ノ之束が作り上げた最も重要なそれは、自意識を持つのだと言う。
詳しくはブラックボックス化しているので不明らしいが、ともあれ恐怖しているのだとすれば、それは何に対してなのか、答えはもう出ている。
『魔神』に対してに決まっていた。
則ち、その場に居る全てのISが恐怖しているのだ、ただその場に在るだけの『魔神』に対して!
「…………」
『魔神』の操縦者は、そんな風に恐怖するISを知ってか知らずか、ただこちらを見るだけである。
やがて無人ISの1機がしびれを切らしたかのように両腕を『魔神』に向ける。一夏には、少なくともそう見えた。
それに残り2機の無人ISも追従する形で、両腕を差し向けた。それでも、『魔神』は動かない。ただ黙して無人IS達を見据えるだけ――そして。
無人ISよりビーム砲が、それこそまるで雨のように『魔神』に放たれる!
光砲は全て、迷う事無く『魔神』に迫り。しかし、直撃の寸前で全て逸れて空へと飛んで行った。
全部の光砲がである。そう言えば、千冬に放たれたビームも寸前で逸れていた筈だ。あれは、どう言う事なのか。
《……馬鹿な》
《……冗談でしょ、ちょっと》
すると、その光景を見ていたラウラ・ボーデヴィッヒと凰鈴音が信じられないと言う顔で呆然と呟いた。
彼女達は、それぞれハイパーセンサーに表示された情報を見ている。一夏も二人に倣い、ハイパーセンサーを『魔神』に走らせ、直後に愕然とした。
「な、なんだこりゃ……!?」
二人と同様に驚きのままに声を上げる。それは、『魔神』周辺の空間、その歪み値にあった。
計測不能――そう、ハイパーセンサーには表示されていた。つまり『魔神』は自分の周囲の空間を歪めて、ビームを悉く逸らしている事になる。
これ程とんでも無い話しも無い。言わば空間歪曲フィールドとも呼べるものだが、この歪み値のデータが正しければ、ビームだろうが実弾だろうが、全てあのフィールドには通じない。空間的に遮断されているのだ、通じる筈も無かった。
ラウラと鈴。同じ空間型の兵装を持つが故に、気付けた事であったか。
『魔神』はつまらなそうに攻撃を放つ無人ISを眺める。そして。
「……この程度か」
言うなり、右手を突き出した。すると、その前方に穴がまたもや出現する……そこから現れたのは大剣であった。
酷く無骨な印象を受ける巨大な剣。それを『魔神』は手に取るなり、引きずり出す。完全に出し終えると同時に、穴は消え、『魔神』の背中、スラスターが一斉に開いた。そこから光が吹き出す。
直後、『魔神』はその重そうなフォルムから似合わない速度で突撃を開始。無人ISの一機へと向かう。
だが、それを見ていた一夏は顔を歪めた。あの無人ISは見た目に反した軽快な動きが特徴なのだ。全身に取り付けられたスラスターによる高速機動は捕らえる事も難しい。あのような単調な直線軌道では、簡単に避けられてしまう。
すると案の定、突っ込んだ『魔神』を無人ISは横に回転しながらあっさりと回避した。更に両腕を振り回して、反撃に移ろうとして――『魔神』の姿を見失った。
放たれた拳は何もない地点を通り過ぎる。そこには確かに『魔神』が居た筈なのに!
しかし、一部始終を見ていた一夏達は『魔神』がどうなったのかを知っていた。
消えたのだ。『魔神』は無人ISを通り過ぎて、すぐに。いきなり前方に開いた穴に吸い込まれるようにして、その姿は消失したのである。
どこに行ったのか。答えは、すぐに来た。無人ISの”無防備に晒された背中に開いた穴”によって!
そこから現れるのは突撃し、大剣を振り上げた姿勢の『魔神』。
『魔神』は迷う事無く、無人ISの背中に大剣を叩き付ける!
斬ると言うよりは殴り飛ばすと言う表現がそれは正しかったかもしれない。背中に叩き付けられた大剣は無人ISの背中を砕き、盛大に吹き飛ばした。
しかし、そこは無人機。いきなりの攻撃に戸惑う事も混乱する事も無く反撃に移る。ぐるりと空中で回転しながら、『魔神』へと両腕を再度差し向けた。
そこから『魔神』に最大出力形態からの一撃が放たれる!
だが、それを『魔神』は重たい機体で軽々と避して見せた。ぐるりと高速横回転移動(アーリーロール)から更に手足を大きく開き、慣性制御。
何と軌道がそのまま無人ISへと伸び、次の瞬間には『魔神』は懐に飛び込んでいた。
恐ろしい技量である。あれと同じ真似をしろと言われたら、一夏は即座に『無理』と言える。
そして接近戦武装を持った状態で懐に入ったならば、行う行動はただ一つ。必殺のタイミングでの斬撃であった。
容赦無い一撃が、無人ISの胴体に打ち込まれる。今度は完全にその胴体を両断してのけた。
上半身と下半身を分断され、無人ISはぐらりと傾く。しかし、まだ動く。ここまでの破損を受けておいて、なお動けるのが無人機の利点と言える。だが、一瞬でも姿勢を崩したのが災いした。
『魔神』はぐるりと斬撃を放った慣性を利用して回す。それは無人ISの背中を完全に捉えていた。
スラスター全開。更に振り放った斬撃のままに大剣を振り上げ、一閃。
大剣の一撃は上半身だけとなった無人ISを軽々とふっ飛ばす。
無人ISは、それこそ壊れた人形のように飛んで行き――『魔神』は容赦しなかった。前方に再び穴が開き、『魔神』の姿が吸い込まれる。
そして、穴は飛んで行く無人ISの間近で開いた。現れた『魔神』はスラスター全開のまま、無人ISへと追い付き。
「――デッドエンド・スラッシュ」
横薙ぎに斬撃が放たれた。その斬撃の威力、どれ程のものであったか。無人ISは両断どころか全身をバラバラに砕け散らされて地面に落ちる。
この間、最初に突撃を仕掛けて数秒足らず。あれだけ撃破に手間取った無人ISを『魔神』はそれだけの時間で撃破してのけたのであった。
あまりの事態に一夏達は凍りつく。しかし無人ISはまだ二機あった。その二機は、ようやく自分の役目を思い出したかのように『魔神』にビーム砲を連射する。
撃ち込まれるビームの雨。だが結果は先と同じであった。『魔神』はその光砲を全く身動きすらせずに受け、全て歪曲フィールドに逸らされて消えていく。反則的な防御能力である。あんな代物、どうすれば突破出来ると言うのか。
「……この程度か……奴の台詞では無いが、この程度ならば利用する価値も、利用する意味も無い。攻撃とは、こうするものだ」
そう『魔神』の操縦者は呟いたかと思うと右手を頭上に掲げる。手甲の宝玉を思わせるパーツが輝いた。何をしようと言うのか――。
無人IS二機も危険と判断したのか、その場から飛び出す。しかし、『魔神』は構わず右手を差し向けた。
「グラビトロン・カノン。マキシマム・シュート」
次の瞬間、無人ISは二機共地面に引きずり倒された。まるで、巨人に叩き落とされたが如くにだ。更に地面に陥没して行く――!
「……嘘だろ……」
それを一夏は見て呻く。他の皆に至っては絶句して、誰も何も言わない。
ハイパーセンサーに表示された情報が、あの攻撃が何であるかを教えていた。
−敵機周辺に重力変異を感知。現在、300G、400G、500G、600G、700G−
重力操作。しかも任意の空間をおそらくは指定してのだ。
ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』のAIC、停止結界に似たものがある。違いはただ一つだ。攻撃力の有無である。しかも、あの攻撃の威力は文字通り桁外れであった。
いくらISが宇宙空間での行動を前提として作られたマルチフォーム・スーツが前身であり、当然高重力化での運用も考えられているとは言え、限度と言うものがある。
あの攻撃は、その限度を容易く踏み越えていた――そして。
1000G。既に光が屈折し、空間すらも歪む重力を浴びて、ついに無人ISがぐしゃりと潰れる――!
直後、無人ISは二機揃って爆発。完全に破壊されて、スクラップになったのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
無人ISを全機撃破した『魔神』は、手に持つ大剣を消す。
そのまま今度は一夏達の方へと振り向いた。バイザー越しの視線を感じ、一夏達は凍りつく。
……それはそうだろう。形的には助けられたにしろ、『魔神』が敵かどうか分かったものでは無いのだ。加えて言うと、その異常なまでの性能にIS達だけでは無く、一夏達も恐怖を覚えている。
こんなのと敵対して勝てるのか――否、生き残れるのか。自信は全く無かった。それは、他の者達も同様だろう。
誰しもが黙ったまま、『魔神』を見る事しか出来なくて。
しかし、すぐに動きがあった。当の『魔神』が動いたのである。いきなり機体を振り回すようにして回頭させる。と、例の如く穴を手元に展開し大剣を引き抜いた。スラスターを展開し、飛び出す。その先に居るのは。
「な……!」
一夏は『魔神』が行く先を見て絶句する。そこには織斑千冬がまだ居たのだから。よく考えると、『魔神』が現れてから数分も経っていない。あまりに時間濃度が濃すぎて錯覚してしまったが。
しかし何故一度は守った筈の千冬を『魔神』が襲うのか――考えている暇は無い。一夏は『瞬時加速』を発動し、突っ込む!
その間に『魔神』は千冬の元に到達、大剣を振りかぶった。
「さっせるかぁああぁあ――――――!」
追いついた一夏が、今にも大剣を放たんとした『魔神』に『零落白夜』の光刃を放つ!
例の空間歪曲フィールドが一瞬だけ光刃を受け止め、しかし持たずに、歪曲フィールドは硝子のように砕け散った。
「……なに?」
「うォオォォォォ――――――ッ!」
フィールドを砕かれた事が意外だったのか、『魔神』操縦者は驚きの声を上げる。一夏は構わない。
雪片弐型を翻し、光刃を更に逆袈裟に振り放つ!
『魔神』も振り向きざまに大剣を持ち上げた。
そして大剣と光刃が交差、鍔ぜり合いの形で刃は互いに停止して一夏は『魔神』と至近距離で睨み合うのであった。
『白式』織斑一夏と『魔神』イングラム・プリスケン。
これより、激突を開始する――。
(第九話に続く)
はい、第八話でした。一夏が無謀過ぎですが、若さ溢れる行動と言う事で。
ちなみに零落白夜で歪曲フィールドを切り裂けた理由は、歪曲フィールドはエネルギー系の防御だからです。
うん、実際はどうか分かりませんがね(笑)
さて次回、白式VSグランゾン。お楽しみにー。