ツンデレツインテの君はガールズバンドのキーボード 作:鮫肌伍長
こんな感じで遅いことが多いかと思いますがよろしくお願いします
駅での騒動があった日の週末
俺はというと
「ここ……だよな?」
ある紙切れとハンカチを片手に、普段寄らないある建物を前に
建物の近くでは、開始時間が近いのか、一般人がそれぞれで集まって雑談している
「あの子はまだいないみたいだけど……正直帰りたい」
そう思いながらなんとかここに来たのも、ある目的があるからだ
それはあのグーパンの時に戻る
ツインテのグーパンに見舞われた俺は、しばらく痛みに耐えながら倒れていたものの、駅員が数人やってきてその場で事情聴取されることとなった
他の通行人に呼ばれたのかどうかは知らないけど、とにかく何があったのかしつこく聞かれた
駅員に起こされる中、動揺していてまともに話せるか不安だったけど、出会い頭の衝突であることをひとしきり説明するしかなかった
グーパンのことはややこしくなりそうだったから伏せといたが
女性はというものの、グーパンの後は気が付いたかのようにあたふたしながらも、倒れた俺に申し訳なさそうな顔をしながら声を掛けてくれていた
逃げようともせず、駅員からの問い詰めにも、ないことを言うことはなく、自身の不注意の転倒で起きたことを懸命に説明してくれていた
ナンパ組?駅員に質問される中見回してみたけど、大事に巻き込まれると思ったのだろうか、既に跡形もなく消えていた
それで数十分経ってようやく解放。クドクド厳重注意をしてから、駅員は戻っていった
……とりあえず女性に謝ってから帰らないと
痛みはまだ引いてないものの、自分の非であるのは間違いないし
「あの!……先ほどはすみませんでした」
お辞儀をしながら女性にそう謝ると、女性も
「いえ、そんな……こちらも前を見ずにぶつかってしまいすみませんでした」
深く頭を下げて謝り返してくれた
「で、でもその……胸を、あの、ふ、触れてしまったし。俺、女性にあるまじきことを……!俺、何かお詫びします!」
「……それについても、もう大丈夫ですから」
女性はしかめ面でため息をつきながら続けて
「確かに社会的には、まあ、良くないですけど。私の不注意が発端ですし、予期せずに起きたことですから」
「そ、そうはいっても……」
「ホントに大丈夫ですから、気にしないでください」
それからも食い下がる俺に対し、女性は制止し続けてて、譲ろうとはしなかった
これ以上は何を言っても聞かないのだろう。そう思いながら、俺は帰ることにした
「ホントにすみませんでした……じゃあ、俺はこれで失礼しますね……」
「あ、ちょっと待って」
その場から離れようとした俺は唐突に呼び止められた
「頬、私からしたらそれも申し訳ないので。ここで待っててください」
そう言い、彼女はどこかへ向かっていった
何されるか不安な中、何となく逃げられないまま待つこと数分、ハンカチを片手に戻ってきた
「殴ってしまったとこ、これで冷やして下さい」
「え!何で⁉」
「トイレのお手洗いでハンカチ濡らしてきたんです。さっきから見てましたけど、物凄く腫れてきてますよ」
そんなひどくなってるのだろうか。確かに痛みはまだ和らいでないけど、これは自業自得のようなものでは
「そんな……!お、俺が一番悪いんですし!」
「でも殴ってしまったことに変わりはないですから。正直見ていられないくらい腫れているので、これくらいのことはさせて下さい」
なんか思っていた以上に律儀な人だ
しかしますます逆に、申し訳なささが半端ないのだが
「それこそ、これくらいのは大丈夫ですから!失礼してしまった人からそんなことまで、今日は俺、自分のハンカチ……あ、ない。えっと、持ってないですけどこのくらいは家まで我慢すれば……!」
「良いですから、素直に受け取って下さい」
「う……」
物心ついた頃からの押されの弱さで押しに負けつつ、女性のハンカチを素直に受け入れることにした
こんなシチュエーション生涯ないのが当たり前だと思っていたので未だに信じられない
無茶苦茶緊張している
心臓バクバクしている
同時に、人との関わりが無くなっている俺からすれば、失礼だけどこうやって気にかけてくれることに、非常にありがたみを感じていた
「じゃあ私、これから用事ありますので。そのハンカチそのまま持ち帰って下さい」
「あの、洗ってお返しますよ!」
「いえ、それ、安いお店で買ったものですから」
何故ここまで淑女なんだろうかこの人は。俺はまだ何も返せてないのに。失礼なことをしたのに
俺にしては珍しく、譲れない気持ちができ始めていた
「ここまでしてくれてそれで終わりだなんて、逆にそれこそあなたに、し、失礼ですから!お願いです、何でもしますから!」
「そう言われましても……」
さすがに引かれただろうか……?
女性がしばらく考え込むと、思い出したかのように手提げ鞄の中を漁り始めた
そうして出してきたのは、何かの紙切れ1枚
「これ、差し上げます」
「え、これは……?」
「今週末にあるライブのチケットです」
そう言われながら見ると、チケットには英語で書かれた名前と何かの表題、時間などが書かれていた
「私、その日のライブに行きますので、その時にハンカチを返してくれれば結構です」
「ライブ……ですか?」
「はい……ってやば!もうこんな時間⁉」
「え?」
今、口調が変わってたような?
「あの、今のは」
「それじゃ私はこれで!一応ネット検索すれば、すぐに名前がトップに出てくるはずなので!代金もその日に!」
そう言いながら女性は、「練習に遅刻しちまう~!」と声を上げながら、目的の路線であろうホームに向かって行ってしまった
1人取り残された俺は、女性の走って行った先を見て呆然としながらもう一度チケットを見返した
ライブ会場に聞き覚えは無かったが、バンド名……popin何とかには、聞き覚えがあるような無いような
「というか、こんなリア充が蔓延してそうなとこに、行けと……?」
そう呟く俺に対し、返ってきたのは電車到着のアナウンスが駅内に鳴り響くだけだった
で、今日に至る
「こんな人ごみの中あの人見つけるの、苦労しそうだ……」
あの後アパートの一人暮らしの家に帰って、あの子のハンカチを片手にチケットのライブについて調べた
女性が言っていた通り検索にかけたら、すぐに目についたとこにリンク先が表示された
開いてみると、ライブは名も知れぬ何組かのバンドが出演予定で。ライブハウスの名前はCIRCLE。一応自分ん家からでも行けなくもない距離だ
そこはまだ良いのだが、問題は出演してるバンドの写真を見ていて、その中のPoppin'Partyというバンドの写真だ
5人のメンバーでキーボードを前に立っている人が、どうも駅であったあの女性にそっくりなのである
もし本人なら、あの人バンドマン……というかバンドウーマンだったんだな
そういえば練習に遅刻~とか去り際に言ってた気もする
どの道このハンカチを返すには、このライブ会場に行くべきなんだろう
電話番号でも聞いて待ち合わせして返すのが常識なんだろうが、コミュ障の自分にとっては最難関の一つだし、とても聞くタイミングがあの時は無かったからな
それで諦めて当日。ライブに訪れてみたものの
「多分一人で来てるの俺だけだよな……」
それぞれが同伴者込みで来ている中、交友関係なくて一人でいるのは物凄くきつい
人の密集に対するプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、まだ開場時間前にも関わらずライブ会場の受付前に立ってしまった
「あ、あの……」
「あぁ、こんにちは!」
受付にいたのはセミロングの髪のお姉さんだった
横ボーダーのtシャツに上に黒のジャケット、下にはジーンズをはいていて、しっかりしてそうな人だ
おどおどした自分にもハキハキと挨拶してくれたので、とりあえず警戒はしなくていいのかな
「君、初めて見る顔ですね?ライブ初めて?チケットはあります?無いなら当日券も売っててますよ?」
駅員以来の質問ラッシュにたじろぎつつも、俺はおそるおそるチケットを出す
「こ、これで大丈ば、ですか」
やば、慌てすぎて思い切り噛んだ……!
「あ!前売り券あったんだね!ありがとうございます!じゃあ開場時間まで待っててもらえますか?もうすぐですので!」
「はい……ありがとうございます」
待つといっても果たしてどこで待ったら良いものか……見回してみたけど既に座れそうなとこもなさそうだし、非リア充の俺にとってこのどよめきはつらい、てか女子多い
「ところで前売り券はどこで買ってくれましたか?ネット?」
と、ここで受付の女性から続けて質問が
「いえ、あ、えっと……!も、ラったんです、これ……!」
相変わらず噛む俺、泣きたい
「もらった?お友達に?」
「いや友達じゃなくて、多分ですけど、今日出るバンドの子かと……」
「え?そうなの?」
「め、珍しいんですか」
「というか、今日初めてライブ来るような見知らぬ人に渡すなんて話、私は聞いたことないからね!」
まあ普通はそうか、普通は
「どのバンドの子からもらったの?」
「わからない、んです。その時、い、色々あって名前聞きそびれてしまって。あの、髪がそのこう、ツインテールな子なんですけど」
とりあえず思うままの第一印象を伝えたけどこれ伝わるんだろうか
ツインテールしてる人なんてそこら中にいそう
「あ!それならあの子かも!」
いるの⁉というかこの前の予想合ってたり?
「Poppin'Partyていうバンドのキーボードの子!今日の出演者の中でも、ツインテールしてるの、その子だけだから!」
「まじか……」
どうしよう……俺の中でますます会うことがプレッシャーになってきた……