ツンデレツインテの君はガールズバンドのキーボード 作:鮫肌伍長
その後も受付のお姉さんから
「君はバンドやったりしない?」
「こういう催しにはいつも一人で来るの?」
「市ヶ谷さんからどんな経緯でハンカチ借りることになったの?」
など、質問攻めという名の雑談が続き、まるで落ち着かせてくれなかった
当然コミュ症なので、ほぼ空返事で済ませていたら、瞬く間にライブの開場時間に
チケット代も特殊ではあるが、前売り値で会計してもらったのでこれでチケット代の件は解決したのだが
「借りたものを返しに来たんだったら、直接渡した方が本人も嬉しいと思うけどなぁ。こうして律儀に返しに来てくれたわけだし。話してみた感じも、君はそんな不埒には見えないしね。ライブ後に本人に話付けとくよ!」
なんてことを言いだした
ライブ前にスタッフへお預けしてそのまま帰るつもりが予想外の展開になってしまった
返す言葉を考えているうちに、開場時間で入場してきた一般客に流されてしまい「楽しんできてね~」という言葉を残され、話はそれっきりに
薄暗い会場で最前列から2、3列目に立っていた俺は、とんとん拍子で進んでしまった話にこの後どうこの面倒事を終わらせようか、ひたすら試行錯誤をしていた
まあ妙なタイミングで馬鹿真面目な自分は、善意と悪意のせめぎ合いでまともに結論を出せるわけがなかったので、とうとう開始時間が回ってきてしまい、ゆっくりと照明がほぼ消灯
俺の周りの一般客はほとんどが常連客のはずだが、待ち望んだライブスタートの気配に湧き上がる歓声が
テレビ越しにしか聞かなかった歓声が間近で、余りにも大きくびくつきながらも沈黙を貫いていた俺はただひたすら待つ
そして複数人がステージに上がってきたのを感じ、一般客のボルテージは急上昇
続けて一気にステージ上の照明が点いてバンドメンバーの姿が露わになった途端、一般客のテンションがMAXとなりまた一段と歓声が、恐らく今日現時点で最大音量でライブ会場に響いた
「皆さんこんにちは……今日のライブ最初のバンド、Afterglowです」
最初にステージ上で声を発したのは真ん中のマイクを前に赤いギターを下げた女性だった。慣れないステージ上の照明と前列の客の頭ではっきり見えない
が、その女性は黒髪の短髪に一筋の赤メッシュ、メンバー全員が黒と白のパーカーの、いかにもロックといった感じの服装、きりっとした目で客側を見据えていた
「早速一曲目行きます。『That Is How I Roll!』!」
その掛け声と共に、再び客席から歓声が上がり、曲がスタートした
(これが生のライブ、なんだ)
何組かのグループの曲が終わり、たった今歌い終えたバンドがステージ外にはけた後、ようやく俺はライブの興奮でボヤけていた思考回路がはっきりしだし、ここまでのバンドたちの曲に高揚感ていうヤツを感じてた
まず最初のAfterglow、軽快なロックサウンドと共に赤メッシュのボーカルがそれに合わせるように歌っていた
時折、他の演奏者が合いの手を入れ、はたまた5人でボーカルに参加しだしたりと、絵に描いたかのようにブレのない息の合わさったバンドだと思った
別のバンドでは、ハロー、ハッピーワールドというマーチングバンドな装いに、メインボーカルの金髪の子がただ歌うだけでなく、バク転したり飴を投げたりと、かなり大胆なサービスを催してくれていた
そのサポートに何故かキグルミでDJというカオスな奏者が、メインボーカルが前に出すぎないよう、絶妙なタイミングでさりげなく抑えていた。
今俺がいる立見席でさえそれなりに熱気を感じているし、ステージはそれ以上の熱さは効いてくるはずなのに、どういう神経をしているのだろうか。熱すぎではないだろうか
その後の2バンドの演奏も終え、あれこれ思考を巡らせていると、再び消灯
今日のライブチケットには、5組のバンドが出演予定だから、次が最後……例のツインテールの子の所属バンド、Poppin'Partyだ
「皆さんこんにちは!」
今日一だったんじゃないかと思う、元気な声が響き、ステージ上が一気に明るくなる
「「「「「Poppin'Partyです!」」」」」
5人が同時にバンド名を名乗り上げ、客席は何度目かの歓声に包まれた。今の名乗りだけでも、Afterglowに怠らない息の合ったものだった
そして
(ハンカチのあの子……!)
ステージの奥で、あのツインテールを下げ、キーボードに手を添えて、笑顔で客席を見ていた
5人の衣装は、シロップのような模様を描いたもので、ハロー、ハッピーワールドのようにお揃いの衣装を着ていた
「皆元気で良いね~!この調子で最後まで楽しんでいってね~!では聞いて下さい!『Happy Happy Party!』!」
ボーカルの子が元気な声のまま客席に呼びかけ、Poppin'Partyの曲がスタート
Poppin'Partyから出される元気ハツラツなポップサウンドは、今までのバンドとはまた違った盛り上げを見せてきた
ツインテールのあの子も含めて、5人がノリノリの気分で客と同時に楽しもうという気持ちが伝わってくる。いや、さっきまでのバンド達も楽しませようとしてくれてたのだけども、このバンドはまた違った盛り上がりがあるというか。うまく言い表せられない
その後に続いた曲も、まさにポップな曲が続き、今日最後のバンド演奏でもあるせいか、最後の曲もここ1番の盛り上がりを感じた
ちなみに俺はというと、各メンバーを目にしつつ、その目はあのキーボードの子に魅かれていた
ボーカルギターやもう一人のギターのはっちゃけたMCにツッコミを入れつつ、途中こっちと目が合ったような気がしつつも、特に変わった素振りは見せず、また時々サブでボーカルに入りつつ演奏をしていた
そして何より満面の、とは言えないが、メンバーに負けないくらい楽しく、ツインテールを揺らしながら笑っていた
そんな彼女の演奏姿は、更に輝いて見えた
「ライブハウスのライブってのも、まぁ、悪くないですね、はい」
「うんうん。その感じだと満足してもらえたようで、何より何より」
ライブ後、会場から遅れがちに退場した俺は、あの受付のスタッフに捕まり、初めてのライブハウスの感想を聞かれていた
周りや外では他の客が、今日のライブの感想をお互い言い合っているのが聞こえてくる
「あの、割りかしぶっきらぼうな感想を言ったんですけど、ホントにそんな風に見えてます?えっと……」
「まりな。月島まりなだよ」
「そう、月島さん」
今更ながら受付さんの名前まだ聞いてなかった
「こんな微塵の興味も示してなかった初心者丸出しの感想なのに、参考にはならないんじゃ」
「初心者、だからよ。むしろライブに初めて参加して、例えお世辞でもいの一番に不評を言わないなら、僅かでも楽しんでもらえたって分かるからね!」
「そんなポジティブに捉えられるもんですかね……」
巷じゃ分かり易い人の方が好まれるってもんな筈だし。俺とは真逆の性格の人とか
「それでどう?これからもライブ見に来てくれる?くれる?」
「……他の予定も重なるかもですが、考えときます」
「もう素直じゃないんだから〜」
「若干、学校や家からも距離もあるのでそう頻繁にはちょっと」
あの子の演奏に惹かれたのはあるが、嘘ではない
まだ一度来ただけでもあるし、これまでの経験上そう簡単に長続きしなさそうにしか思えないのだ
「というかホントに直接渡さなきゃダメですか、ハンカチ」
「何度も言うようだけど、渡さなきゃじゃなくて渡していいの!お客様からのプレゼントは隈なく預かるのが決まりだけど、あんまり見かけない男の子がご足労かけて出会った女の子に物を返しに来るなんて珍しいし。素敵なことじゃない!ポピパの有咲ちゃんも喜ぶよ!」
「CIRCLEに警戒心という概念あります?」
俺がそう返すも、まりなさんはニコニコ笑うだけで膠着状態だ。どちらにせよ預かってもらえないんじゃ、自分で渡すしかないのだろうか、意外と強引だよこの人
ちなみにポピパとはPoppin'Partyの略称で、メジャーな呼び方だとか
「ホントに珍しいんだよ」
「え?」
「君が返そうとしてるハンカチの持ち主、最近は知り合いも増えてるけど、どことなく不器用でね。君みたいな男性が来てくれることなんて、そうそうなかったのよ」
突然落ち着いた言動になり澄んだ顔で、そう呟くように話した
「あんな含みのある感じで急に言われたら帰れなくなるホント」
らしくもない行動してる自分に戸惑いつつ、俺はCIRCLEの椅子で座っていた
端的に言えば、あのPoppin'PartyのメンバーがCIRCLEから出てくるのを待っている最中である
元々ハンカチをスタッフに預けて帰るつもりが、とんだ長丁場になってしまったものだ
ライブ後の周りや外は既に客はいないも同然で、まばらに雑談してる人が数人いるぐらいでただ1人俺は待ちぼうけてる
実際今日は予定があるというわけでも無かったし待ち始めは余裕だったが……こうも律儀に待ってると後片付けを終えたバンドがいつ出てくるかと思うと無駄に緊張してくる
ツインテの子は名前、市ヶ谷有咲さん……だったよな
俺の中でツインテで呼び名が固まりつつあるから、言動には気をつけないと
そう無駄に緊張で思考を巡らせていると
「あ!皆お疲れ様!」
まりなさんのそんな声が聞こえてきて、前屈みに座ってた背筋が一気に伸びた
「お疲れ様ですまりなさん!本日もありがとうございました!」
「ポピパの皆今日も絶好調だったよ〜!大学行ってからも更に成長してたんじゃない?」
「いや〜!それほどでもぉ!」
そんな会話が聞こえる中、俺は未だ勇気が持てずポピパのメンバーがいるであろう場所に目を向けれていない
いかん。長年異性に話しかけるシチュエーションが無かったせいか、その時が近づくとますます動転してくるコレ……!
「それで実は君達にお客さんがね……」
とりあえず何か聞かれたら……ハンカチ持ち主に渡してサッサと帰ろうか?いや今後接点無いようなもんとはいえ、失礼すぎるか?
ぶっきらぼうと丁寧で後味が違うのは人生観でいやというほど味わってるわけだし
でも今日ライブハウスの演奏聴いたぺーぺーが、そんな信用とか考えてもらえる訳ないだろうか
流石に人間不信過ぎ?
けどやっぱこうどうしても初対面と会うと気まずいしなぁ、いやしかし……
「あの……」
「びゃ!あ、はい!」
突然の背後の声で変な声出た、あかんもう帰りたい
よし、大事にせずに帰ろう、そう思いながら声の主へ振り向き、若干声を震わせながら言葉を絞り出す
「あの……こないだはご迷惑をおかけしました」
「あ。もしかして駅の」
声を掛けてきた女性ツインテール 、もとい、市ヶ谷有咲がハッと驚くように声を上げた