愚か者達よ、大志を抱け (改稿予定)   作:Righm

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愚か者は踊る

―――Vtuberの才能とは何か?

 

 Vtuberはその表現の多くの声に頼っている。3Dモデルを用いて全身トラッキングという形を用いれば、身体の動きなどの表現もできるががこの方法は機材、環境などの点からそう簡単に整えることは難しいだろう。このような点から、現在の主流はLive2Dという形式を用いたものである。この形式ならば多少の差はあれど最低限カメラとPCさえあれば可能だ。しかし、この形式の場合、体の動きは事前に設定され腕の動き程度しかできず、表情も多少の顔の向き、目や口の動き程度までになり、当然その情報量は現実の顔を映して配信することと比べるまでもない。

 このように形式の違いはあれど現在の技術においてVtuberは、現実でできることを金や環境を用いてあえて2Dの世界に現実より劣化した状態に落とし込んでいるというのが正しい。

 

 見るものが見れば、これほど無意味なこともないだろう。

 

 まぁそんな風に思うならばそもそもVtuberというコンテンツへの適正がないので他の趣味を見つけることをおすすめするが。

 

 まぁこのように多く制約の下活動しているVtuberではあるが、表現の方法として他のコンテンツとほぼ同等の情報量のものがある。それが”声”だ。声による出力だけは他のコンテンツと出力の方法と差異がない、そのためVtuber由来の制約を受け辛い。

 

 故に、外見の美醜に差がでにくいVtuberにおいて”声”は最も重要なファクターの一つと言える。

 

『まぁ、誰も好んで汚ねェ声聞きに行こうとは思わんわな』

「そそ、んで技術問題は別として声が汚いやつの歌声が綺麗ってことは少ないけど、声が綺麗な奴の歌声は大体綺麗なんだよなぁ」

 

 少なくとも歌うと急に聞くに堪えん声になるやつはそうそういいないだろう。音痴の奴は知らん。というより音痴は訓練次第で治せるのだから問題ないだろう。

 

『やってることはほぼ声優なンだから声がいいに越したことはねェわな。喋ることがコンテンツな以上そこに重きが置かれるのは当然だろ』

「そんでVtuberの主なコンテンツの一つの歌も元々の声が重要なファクターを占めるわけだ。声優と違うのは演じるキャラクターの声と歌声が違ってもギャップとして受け入れられるところかなぁ。声優はあくまでキャラソンを歌わないといけないからな」

『歌が下手糞な奴もいンだろ』

「それなら歌わなきゃいい話なんだよ。あくまでコンテンツを作っているのは配信者本人なんだから自分のできないことはやらなきゃいい。人気が出てきて固定ファンが付けばあえて下手な歌を面白いコンテンツとして出すのもできるだろうしな。人間完璧じゃない方が他人から好かれるらしいぞ」

 

 丁度そんなことを大学の講義で教授が言ってた。

 

『完璧じゃない方が好かれるねェ…』

「お前は完璧な方が好きだもんな」

『完成してねェより完成してる物の方がいいと思うのは当たり前だと思うが?』

「まぁその辺は人それぞれ個人差だろうよ。俺はどっちでもいいし」

 

 完璧な奴を見てるのも、欠点がある奴を見てるのもどっちも違う楽しみがありそうでいいと思うけど。

 

「どんだけ完全でも不完全さが欠けてしまうから完全にはならないらしいけど?」

『そりヤァ漫画の話』

「大正解」

 

 まぁ仮にそんなやることなすこと完璧で欠点がないような奴がいるとするなら、そんな人間の周りにいる奴には同情しか湧かない。

 

 

 明日は休日ということもあり、お互い夜型である俺たちは通話しながらよく遅くまで作業をしている。そうなると基本的には俺の作業が先に終わることが多いのだが今日は珍しく向こうの作業が先に終わったらしい。

 

『描けた』

「お、通話中に完成するなんて珍しいな」

『いつもお前がつまんねェ話するからだろ』

「お前Vtuberに話つまんねぇとかやめろよ傷つくだろ」

『うっせェ底辺さっさと認知されて私の糧になれ』

「とげとげ言葉やめろよ…死にたくなるだろ…俺の精神はそんな強くないんだぞ…」

『私の絵を無駄にして死んだら殺す』

「泣きっ面に蜂ってレベルじゃないんだが?」

 

 そんな軽口を言い合いながら、俺は作業の手を止めてTwitterを開く。自分のVtuberアカウントのプロフ欄に母親という文字と共に載せているユーザー名からTwitterのアカウントへ飛ぶ。プロフィール欄も簡素でただ一文字”(ほむら)”という文字が名前の欄にあるそのアカウント、そのツイートの欄を見るとある少女が教会で祈りを捧げているイラストが上がっていた。

 そのツイートに”いいね”を押し”リツイート”する。

 

「やっぱめっちゃ上手い。普通に感動する」

『私より上手い奴も多く転がってンだろ』

「いや、俺そんなに差とか分かんないって」

『節穴』

「絵の勉強なんてしたことねーからしゃーないだろ」

 

 実際こいつの絵は俺の目から見ると何年も活動しTwitterでフォロワー6桁を獲得しているような人の絵とどちらが上手いかと聞かれても困るレベルの絵である。偏(ひとえ)に本人の宣伝活動の少なさと流行りのキャラを書くなどをしない活動スタイルのせいだろうなぁと思いながらTwitterで「相変わらず母親の絵が上手すぎてやばい」なんてコメントをつけながら引用リツイートでもう一度拡散する。

 

 半年と少しやってきた今でもこいつに”鶴見 飛鳥”を書いて貰えたことが俺のVtuber人生の一番の幸運だと思う。少しでもタイミングが遅ければきっとこいつは手も届かないほどの絵師になっていただろうという確信がある。俺のVtuber活動が無事個人勢としては軌道に乗れているのもアバターイラストの力は大きいと思う。

 二次創作の方面にあまり関心を示さず、自分の作り出したキャラに愛着を持つ彼女のスタンスからか産み出したキャラの絵を何度か書くことも多いため、ありがたいことに”鶴見 飛鳥”のイラストも高いクオリティのものがいくつか描かれていて、動画や配信のサムネイルに使わせて貰うおかげで高いクオリティで仕上がることが多い。

 前に一度、二次創作はしないのかと聞いたことがあった。知名度を上げるならその時流行りのアニメやゲームのイラストを描くのが効率的だと。しかし帰ってきた返事は「私の目標はそうじゃねェ」という返事だった。

 

「寝るなら終わるけどどうする?」

『息抜きして次いく』

「相変わらずモチベが高いなぁ。疲れないの?」

『夜中は静かで捗るし、朝昼は寝てっからな』

 

 相変わらず羨ましい生活してるなぁと思っていると、通話の向こうでは物を動かすような音が聞こえる。少しするとギターの音が聞こえてくる。最初は音を確かめるように弾かれていたそれは、次第にメロディーになっていく。そうしていると口ずさむように歌が聞こえてくる。普段の口の悪さからは信じられないほど綺麗な歌を歌うやつだった。

 

 絵上手くて楽器弾けて歌上手いんだもんなぁこいつ…多彩過ぎんか、俺より配信者向きじゃん。

 

 今までも、こいつはどうしても絵に行き詰まった時や絵を仕上げた時に気分転換と称してギターを弾いたりピアノを弾いたりしていた。それは流行りの曲だったり昔の曲だったり全く知らない曲だったりと様々だが、何も考えずに適当に弾いたり歌っているとインスピレーションが沸くらしい。

 この作業通話をするようになってから暫く経つが、苦手なことというのを聞いたことがない。やることなすことレベルが高く、今まで見たことのないほど多彩な奴だった。正直なぜ引きこもりの人生を送っているのかが不思議でしょうがない。実家と聞いたことがあるがこんな時間にギターを弾いて何も言われない辺り何か圧倒的に普通の家庭と違うものを感じつつ、まぁそこまで踏み込むのは不躾だよなぁと思う。人の生き方にケチをつけるほどいい人生を送ってるつもりはない。

 

 イヤホンから聞こえるギターのメロディーを聞きながら自分の作業を進める手を動かしていった。

 

 

『で、さっきの話は何が言いてェんだよ』

 

 息抜きを終えて帰ってきた焔に聞かれる。

 

「さっきの話って?」

Vtuber(てめェら)にとって声が重要だって話』

「あーそれかぁ…」

 

 そういや話が逸れてたけどそんな話をしていたんだっけな。

 

「まぁ、特に中身のないいつも通りの愚痴だよ。俺ももっとカッコよかったり特徴のある声だったらなぁっていう愚痴」

『あっそ、しょーもねェ』

「すぐ梯子外すじゃん」

 

 あまりにも興味のなさそうな声に思わず笑ってしまう。まぁ実際どうでもいいのだろうなぁと思う。だからこそ次の言葉を理解できなかった。

 

『お前がどう思おうが知らねェけど私はお前の声を聴いて”鶴見 飛鳥”を作り出したんだ。そんな無意味な話してねェで次の配信何するかでも考えてろ』

 

「―――は?」

 

 "鶴見 飛鳥"は声がキャラ負けしている。

 

 よくエゴサしていると見る言葉だ。まだ認知がそこまで多くない現状でそんな風に言われるほど焔が描いた"鶴見 飛鳥"というアバターは出来が良い。だからこそそんなキャラが俺の声を聴いて作ったとなんでもないように言われて頭が理解できなかった。

「いや、声っていつの」

『最初の時に決まってんだろ』

「最初って…」

 

 最初の時とはつまり俺が依頼した時の話か。DMの返事にはDiscordのアカウントが載っていてそこで向こうのチャットの質問に対して通話で答えるということをしたが、あの時の声は緊張していて聞くに堪えないような声になっていた気しかしなかった。

 

「いや、あんな上がりまくった声のどこで」

『上がってようがなんだろうがお前の声から飛鳥は産まれてんだ。だから声がどうこうなんざしょーもねェ話なんだよ』

 

 何言ってンだと話を切り、自分の作業に集中していく焔に対して俺はもう作業に集中するような心境では無かった。

 

 自分は、自分が"鶴見 飛鳥"でよかったのだと言われたようでただ嬉しかった。焔は自分のことを認めてくれていたのだ思えたのが、心から嬉しかった。

 

「なぁ」

『なんだよ』

 

 だから、テンションが上がってたんだろう。前から考えていたことが口から零れた。

 

「"鶴見 飛鳥"に曲を作って欲しい」

 




尊敬する人に認識されてるだけで嬉しくなっちゃう奴もいる
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