初のオリジナル曲である”絶叫”はそれなりに再生回数を伸ばした。コメント欄にはいつも配信を見に来てくれる視聴者だけでなく、初めて見る名前も多くあり、Twitterに上げた焔のイラストや、Vのオリジナル曲ということで興味を持ってきた人もいるのだろう。そのSNSやコメント欄で見られる感想に関しては随分と混沌としていたが。
《曲調と歌詞が合っないと思うのにベストだと感じる》
《この曲って明るいの?暗いの?》
《なんか聴いててテンション上がるのに聞き終わると気持ち悪い》
《イラストめっちゃ上手いけどこれ誰?》
《全く意味が分からんけど俺は好き》
こんな風にSNSでもコメント欄でも好きとか嫌いとか、極の意味を考察してるコメントまで出てきていた。
曲を出した直後の雑談配信ではコメント欄が曲の意図やら裏話とかを気にするコメントも多かった。その話が聞きたかったのか若干ながら、今まで見たことないアイコンの視聴者もちらほら見かけられ、チャンネル登録数もいくらか増えた。
当然否定的な意見もみかけられ、《声がしょぼい》や《単純に歌が下手》といった声もあった。まぁ歌に関しては決して技術があるとは言えないから的確だなぁなんて思いながらすっとスルーした。そんな否定的な意見でも、それがマイナスの方向だとしてもその人にとって自分の動画は何か言葉を吐き出したくなる程度には影響を与えられたのかと考えると嬉しかった。
それでも所詮、登録者が8000と少し程度のVtuberの動画だ。動画を上げてから一週間ほど経った今、バズったなんて言うにはほど遠く、当然最初は伸びてた再生回数の勢いも落ち着いていき、このままネットの海に沈んでいくのだろう。
「まぁ、やっぱこんなもんだよなぁ」
ベッドで横になりながら、Twitterを見ていた。
俺にしては十分な結果だ。
新規も獲得することができた。
曲の評判も決して悪くは無かった。
この調子でこれからもコツコツ積み重ねて行けば…
こんな人たちは世界がどんな風に見えてるのだろうか。
「バズりてぇなぁ…」
時間をかけても、自分がいい物だと思っても、それが人の目に留まるとは限らない。見られなければ無いのと同じ。
分かっていたことで、知ってたつもりのことで、何よりも残酷な真実だった。
*
「じゃあここの教材はファイルアップしてるからそれダウンロードしろよー。じゃあ次は9章だな。この章では…」
教授がそう言いながら講義を続けていく。広く静かな教室で、前の方にはやる気がありそうな生徒が教授の話を聞きながら資料を見つつルーズリーフやノートに纏めている。教室の後ろの方に行くにつれ寝ている者やスマホを触っている者が増えていく。
後ろの方で教授に見えないようにスマホをいじりながら時折重要そうな部分を軽くメモを取りながらもゆっくりと時間が過ぎていく。
つまらないなぁ…
毎日毎日前に立つ人間が変わり、講義を受ける教室が変わり、教えられる中身が変わろうと本質的には同じことの繰り返し。中学、高校から大学に変わろうと本質は変わらずここにいると自分が何者でもない量産品のような気分になっていく。
Vtuberとして活動していても、当然それで食っていけるほどの活動ができている訳でもない。このまま続けても適当に就職して、最初は働きながらも配信を続けて、そうしていずれ少しずつ配信の頻度が減っていきフェードアウトしていくのかと思うと心が冷えていく。こんな考えが意味のないものだと分かっていてもふとした瞬間に考えてしまう。
そんな時だった。LINEの通知が画面に表示される。
《これ、エアちゃんの妹が作ったらしい!!》
そんなメッセージと共に大学で仲良くしている友人数人で作ったグループにとあるツイートが共有される。それは、大手大人気Vtuber事務所
そのツイートを見た瞬間、さっきまで考えていたことなんて全て頭から飛んで行った。
ツイートの内容は先程友人が送ってきたものと大して変わらない。
〔私の妹が作った曲だよ!いい曲だから皆も聴いて感想教えてね!〕
なんてツイート。問題はその文章の下にあるリンク先の動画が表示される場所。そこには見間違うはずもない”絶叫”が、俺と焔が作った曲が"鶴見飛鳥"のオリジナル曲が、ありえないはずの場所に、しかし確かに表示されていた。
昼の2時を少しすぎる時間帯だと言うのにそのツイートは目に見えて拡散されていく。リプライ欄を見れば、今まで影も形もなかった明見エアの妹という存在に沸き立っていく。推しの事を全て知っておきたいというのはオタクであれば大なり小なり持ち合わせている感情だろう。それが親族の、それも同じようにインターネットで活動していると分かればそれはもうどんどん騒ぎになっていく。
そして自分のTwitterにも少しずつ通知が届き始める。”鶴見飛鳥”の固定ツイートとして一番上に置いていた”絶叫”の動画を載せたツイートがどんどん拡散されていく。通知の数字がどんどん大きくなっていく。
あれだけ求めていた”バズる”という現象に、自分の力が全く影響しないところでいとも容易く起きたその現象に、ただ茫然としつくすことしかできなかった。
*
取り合えず、友人達にはバレなかった。家に帰ってきて思わず安心からため息が零れる。ここまで精神的に疲れたのは初めてだった。
歌ってる声だけだったのが大きいのだろう。多少聞き取りやすさを意識して声を高めとハッキリ喋ることは意識していてもそれほど声を変えている訳でもないので配信を見られればバレるかもしれない。正直これに関してはどうしようもないのでほっておく。どうせ何を言われても白を切るしかできないのだから。
それより問題は多少落ち着いたとはいえ未だに広がる”絶叫”の方だった。コメント欄を見てみれば前に見たときとはあまりに違うその様子に取り合えず焔にチャットを送る。内容は明見エアのあの発言について。
《明見エアのツイートマジ?》
返事はすぐだった。
《今起きた、ちょっと待て》
そんな簡素なメッセージが送られてから、3分、5分と時間が経っていく。配信準備をするにしても、とても手に着くような心境ではない。Twitterで何か反応するにしても、なんと言うのが正解なのかが分からない。ただただ焔からの反応を待っていた。どれくらい経ったか。
ピコンというスマホの通知音。
すぐにスマホを見ればそれは焔の返信ではなく、TwitterのDMだった。相手は株式会社
正直もうキャパオーバーだ。
今、自分に何が起きているのか自分で全く分からない。
「あーもう知らねッ!分っかんねッ!」
どうせ焔から話が来なければどうにもならないのだから。
「いいや!飯食お!」
取り敢えず、一旦全部ほっておこう。
知らないところで何かは進む。
自分の考えが及ばないところでただただ話は進んでいく。