焔からの返信を待ちつつ、結局いつ来るか分からない返信を待っていてもしょうがないので、いつも通り過ごすしかないかと開き直ることにした。何か自分のあずかり知らぬところで何かしら大きく動いているのだろう。
「登録者100万超えのVuberの妹ねぇ…」
明見エア、配信をする所謂バーチャルライバーと呼ばれるスタイルにおける先駆けであり、その人気は未だ衰えることを知らず国外においてもその名は広がり続けている。登録者の数は100万を超えても未だに伸び続けている。話が上手く、歌が上手く、ゲームが見ていてストレスにならない程度にでき、英語と中国語までも流暢に話し、しかし何よりもその配信の時の楽しんでいることが分かるその姿に心奪われるのだろう。
片や世界的に大人気のVtuber、片や未だ日の目を浴びていない天才イラストレーター。
それは、お互いにどんな気持ちなのだろうか。
そんなことを考えながらも今日の配信の準備を進めていく。どうなるか分からないからいつも通り配信する。まぁ俺がいつも通り配信しても配信の方はいつも通りとはいかないだろう。なんせあの拡散の後で、しかも今日の配信はすでに予定として告知済みだった。
多くの人に知られた。それは望んでいたことだがその形が悪い。言うなれば"鶴見飛鳥"は”明見エア”の妹の曲を歌っただけの奴だ。言ってしまえばたまたまそこにいただけの奴だ。そしてそういうやつにこの世界の目は異常なほど厳しい。それも実力が追い付いてない奴には余計にその気が強いから。
配信の待機画面を見てもすでにいつもの視聴数の数を超えている。
興味本位の銃口が、ナイフの
「まあ、なるようにしかならんよなぁ」
結局人が多くてもやることは変わらないから。いつも通り"鶴見飛鳥"をやっていくしかない。
そして配信を始める。コメントが動いていく。
《ばんわー》
《曲からきました。初見》
《エアちゃんの妹がママってマジ?》
《初見ー》
いつもより多くのコメントが流れていく。やはり初見コメがそれなりの数見え、そしてそれらの中に明見エアのあのツイートの真相だけを求めてくるようなコメントもちらほらと目立つ。少なからずVtuberの配信におけるマナー違反ではあるが、まぁそうなるよなぁ。
真相を知ったところで何かあるわけでもないのにしかし知らずにはいられない、そんな人間がいるのはしょうがないことだろう。
「はーい、こんばんわ~。今、絶賛時の人の鶴見飛鳥でーす。今日は予定通り雑談配信だから、もしかしたらお前らが知りたいこととか話すかもしらんぞー」
まぁせっかくのチャンスだし、少しでもファンが増えるといいなぁ。
*
「じゃあ、今日は切りいいしここまでで終わるか。何か言えることで進展あったら次の雑談で喋るつもりだぞ。定期的に配信してるから今日初見だったお前らはよかったらまた来てくれよな。じゃあおつかれ」
《おつかれー》
《結局まだよく飛鳥もよく分かって無かったんか。おつ》
《おつー》
まぁ多少マナーが悪いコメントもあったが思ったより荒れなかったことに安堵しつつ配信を終える。ただツイートの件について詳しく知りたくてきた奴らには申し訳ないが、こっちも状況理解できてないから許してほしい。Twitterで配信の反応を見てみればいつも配信を見てくれて感想を呟いてくれている人たちの他にも時間の無駄だったというツイートに加え、意外にも話が面白くて次も見てみようかと思ってくれている人達が想像より多くいた。
個人的にはもう少し叩かれると思ってたんだけど。
マイナスな感想の人間がいないとは言わないが想像以上の好印象に驚きながらいい反応をしてくれている人たちのツイートで目についたものにいいねを押していく。そうしていると通知音が一つなる。それはdiscordからの通知音。メッセージの相手は焔。
《待たせた。通話で》
送られてきた簡素なメッセージが焔らしくて少し笑ってしまう。メッセージ欄の上にあるボタンから焔に通話をかけるとコールが鳴るまでもなく通話がつながった。
「もしもし?聞こえるか?」
『聞こえんぞ』
「とりあえず色々聞きたいんだけど」
『ちなめにリアルで姉』
聞く前に答えが返ってきた。
そっかー。事実かぁ。
「じゃあお前の姉ちゃんなんであんなことしたの?」
普通あれだけの影響力を持った配信者、それも企業所属があんな形で目立ってないような配信者を名指しで取り上げるようなことはしない。妹だとしてもその形で取り上げるならもっと別のタイミングがあったはずだ。というか、俺を巻き込む理由が全くない。
『私がやめた音楽をまた作ったからだろォなァ…』
「やめてたっけ?」
あれだけ演奏したり歌ったりしててやめたと言われてもピンとこない。
『作品としてだ。少し前に音楽も作ってたンだよ』
「昔やってた音楽を妹が再開したから姉心に応援した。とかだったりする?」
『あんの姉がそンな良い姉だったら、私は今頃普通に生きてただろォよ』
「ほーん」
『興味ねェな』
「興味なくはないけど複雑そうな家庭の事情の雰囲気を察して突っ込まないようにしてる」
家族間で何かあっても俺に何もできることないし。
「話したいって言うなら聞くけど?」
『別にそんな話すよォなことでも話したいよォなことでもねェなぁ』
「じゃあその辺はいいや」
特に焔が話したがってるようなことでもないのなら、正直今のところ関係のない話だし事実として焔と明見エアが姉妹だというなら、過程については別に聴く必要もないことだった。
というより、他にもっと重要なことがあるんだよなぁ。
そう思いながら、自分のTwitterからDMを開き一番上に残るメッセージをスクショして焔に送る。
「正直、こっちの方がどうするか聞かなきゃいけなくてさ」
送ったメッセージは配信前に来て、一旦目をそらしていた株式会社CLEAからの、ひいてはそこが運営するVtuber事務所VLIYからのメッセージ。
形式張って書かれたその文章は、普段そんな書類をあまり目にすることが無い自分からすれば多少読みにくいが、その内容を要約するならば、焔と二人で一度会ってお話がしたいということだった。
「これ、どうすりゃいいの?」
『あンの姉は…』
通話の向こうから大きなため息が聞こえてくる。
『お前はどうしてェんだよ』
そう聞かれれば、どうなのだろうか。メッセージを見た瞬間から頭のブレーカーが落ちていたから中身については余り考えていなかった。正直俺からすればいい話なんてレベルじゃない。相手はあの天下のVLIYだ。Vtuberブームの金字塔。企業として大きな力を持ちVLIY所属というだけで3~4万人程の登録者が初配信前に得られる。そんな企業から声がかかったのだから、普通に考えてVtuberとして活動するのならあり得ないほどにいい話だ。
問題は焔と二人でというところ。そして、オーディションを開けば尋常でない数の応募者が集まるVLIYが直接声をかけてきたこと。絶叫が話題になった直後だということ。
もうどう考えても明見エアの妹の焔目当てです。本当にありがとうございました。
「まぁ、話聞くだけならタダだしって感じかなぁ。でも二人でだからお前が良いならだけど」
『行くのかよ』
「そりゃぁ折角の機会だし」
『お前に目向けてない奴のとこにわざわざ出向くのかよ』
「馬鹿だと思う?」
『馬鹿だろ』
流石に歯に衣着せないなぁ…
「いやさ、流石に俺の力で話が来たなんて思ってないけど、あのVLIYが話題性があるからってだけで俺みたいなのに声かけると思わないんだよなぁ。焔目当てならそっちにだけ声かければいいし」
焔だけが目当てなら俺にメッセージが来る理由が全く分からない。というか理由がない。
「焔ってVLIYに仕事依頼来たら受けるよな?」
『なんで最大手の仕事断ンだよ』
「だよなぁ…」
向こうの意図が全く読めない。
ーーーもう考えるのめんどくさくね?
「結局よく分からんから行って話聞いてみようと思ったんだけど」
『あっそ』
「…あの、2人でって書いてあるんで一緒に行って頂けます?」
『………』
無言である。
行って話を聞くって言っても焔に断られたらまぁ話自体が流れるんだよなぁ。
「…ほら、向こうの人と一度会っとけば今回と関係ないとこで仕事回ってくるかも?」
『………』
「…こんなこと無いし面白そうじゃない?」
『………』
「…俺を助けると思って一緒に行って頂けないでしょうか」
『チッ…』
舌打ちかぁー
『日付と場所決まったら教えろ』
「ウィッス、助かります!ありやとやーっす!」
『当日行かねェぞ』
「それだけは勘弁してくれ」
最後に怠そうにため息を吐いて挨拶もなしに通話が切れる。まぁ正直頼めば来てくれるんじゃないかなぁとは思っていた。
だって焔めっちゃいい奴だしなぁ。口は悪いけど。
向こうからのメッセージに馬鹿な大学生ができる可能な限り丁寧な文章で返事を書いていく。
まぁ、俺に何もなかったらちょっとした旅行だと考えよう。時期的にももうすぐ夏休みだし。
「旅行なんて久しぶりだなぁ」
メッセージの送信ボタンを押しながらそんな馬鹿みたいな独り言を零していた。
かっこいいと思って後書きそれっぽいこと書いてたけどもう思いつかんわ