(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第17話

中間テスト最終日を終えた私たちは、ホームルーム終了と同時に教室を出て、その足で商店街に向かった。ペルソナ使いにしか見えない青い蝶に触れるとベルベットルームに入ることができるからだ。

 

イゴールたちが出迎えてくれる。

 

まだ小西先輩は来ていないようだ。私たちは新たな仲間が来るのを待つことにする。ふかふかで上質な劇場用のソファに腰掛けて小西先輩を待っていると後ろのドアがようやく開いた。

 

「お待たせ!小西先輩連れてきたぜ、みんな!」

 

自分が案内するのだと真っ先に手を挙げた純情ボーイが意気揚々と入ってくる。やーっときた、と里中たちが立ち上がるのに釣られて私も立ち上がった。

 

「こっちだよ、小西先輩。みんな待ってっから、はやくはやく」

 

手招きに一生懸命なのに、どさくさに紛れて手をひかないのが花村らしい。月森もそれに気づいたようで笑っている。

 

「待たせてごめんね、みんな。花ちゃんありがとう」

 

案内を買って出ていた花村は離れていく憧れの先輩に残念そうな顔をするが、小西先輩は真っ直ぐ降りてくる。

 

「すごい、ほんとにこんな所があるんだ」

 

ベルベットルームに入れるということは、小西先輩もまたペルソナに目覚めたということだろう。幸先がいいスタートである。ところで小西先輩と相性がいいアルカナはなんだろうか。

 

吊るされた男担当は何故か私になってしまったが、やはり同じく吊るされた男なのだろうか。それともなにかほかのアルカナが当てられているのだろうか。単純に気になる。

 

キョロキョロとあたりを見渡す小西先輩は顔に大きなガーゼを貼っていた。

 

「小西先輩、その傷は?」

 

「まだ治ってないなら、無理してこなくても......」

 

「あ、これ?」

 

小西先輩はさして気にする様子もなく笑う。

 

「これは違うの、名誉の負傷ってやつ」

 

「え?」

 

私たちは顔を見合せた。

 

「お父さんと喧嘩したの。これからは学がないとダメだっていったのはお父さんのくせに、私が経営学部に行くっていったら怒り出すんだもん。やんなっちゃう。酒屋の娘だどーだいう癖に、嫁に行くんだからもっとやりたいことが出来るとこに行けっていうの。むちゃくちゃよね。だからいってやったのよ、私がやりたいことができるのが経営学部だってね」

 

自分のシャドウと向き合うことができた小西先輩にとって、受験が目下の課題だという。小中高と受験らしい受験もなく進学してきた小西先輩にとって生まれて初めて真面目に将来について考え、親に説明しなくてはならない大切な時期だ。センター試験からの受験を考えているという小西先輩は生き生きとしているように見えた。少なくても数少ない出番で山野アナの死体の第1発見者になりナーバスになっていたころよりはずっといい顔をしている、と月森はいう。

 

「はじめましての人もいるから一応自己紹介するね。私は3年の小西早紀。商店街にある小西酒店はうちの実家なの。月森君たちに助けてもらったときに、シャドウと向き合ってペルソナにすることができたわ。ほんとに助けてくれてありがとう」

 

「いーっていーって、小西先輩、ほんと無事でよかったよ。な」

 

「そーよね、花村が1番頑張ってたもんね」

 

「花村がいてくれなかったら、俺達もあそこまで頑張れなかったもんな。下手したら、みんなグリムリーパーにペルソナ剥ぎ取られて死んでたかもしれないし」

 

「ふふ、ありがとう花ちゃん」

 

「へへ」

 

そして、小西先輩はマヨナカテレビに入る前のことを話してくれた。

 

モザイクが意味をなさないニュースが報道されてから、小西酒店にはマスコミや野次馬が殺到し、酒屋の仕事が全く回らなくなってしまった。次第に両親はイライラしはじめ、ささいなことで口喧嘩が絶えなくなっていく。学校でも家庭でも居場所がなくなっていった小西先輩は受験生だというのに勉強できる環境ができていないため、悲惨な状態だった。そしてバイトから帰ってきたらまた父親と口論になり、2階に閉じこもる。しばらくして呼び鈴がした。

 

「誰か来たのか?」

 

「たぶん、そうだと思う。下に降りたら誰もいなかったから、お父さんたちは店に出てたみたいでね。弟は面倒くさがって出てくれないから、仕方なく玄関に出たの。ひどいよね、誰も庇ってくれなかった。玄関の扉を開けたところまでは覚えてるんだけど......どうしてもその先が思い出せないの」

 

「白昼堂々玄関からなんて大胆不敵なやつだな」

 

「玄関からテレビにいれるとかどんだけ怪力だよ......なあ、月森。犯人、ほんとに人間かあ?」

 

「神薙のシャドウが本人しか干渉出来ないことを考えれば、シャドウが霧の日でもないのにこっちに出て来れないのは確かだろ?なあ、神薙」

 

「それは間違いないよ、花村。犯人はペルソナ使いで、人間だ。マヨナカテレビに人をいれられるのは、今のところペルソナ使いだけだから」

 

「だよねえ。うーん、人間なのは間違いなくない?だって明らかにクマみたいなやつだったら、さすがに小西先輩だって玄関開けないですよね?」

 

「そうね......私もさすがに怖くなって弟呼んだと思うから......。鍵開けたのはたしかだから、すりガラス越しの影は人間だったと思う」

 

「玄関かー......どうやってテレビに入れたんだろうな......」

 

みんな考え込んでしまう。

 

「犯人に繋がるようなこと覚えてなくてごめんね」

 

「無理もないって、先輩。あんときは色々大変だっただろうし、眼鏡もないし。眼鏡ないと気分悪くなるんだからさ」

 

「そうですよー。助かったんだから、気にしなーい気にしなーい」

 

「つらいのに思い出させてすいません」

 

小西先輩は気にしてない、と笑った。

 

どうやら私がマヨナカテレビに入った影響は想像以上に大きかったらしい。山野アナはマヨナカテレビにうつったにもかかわらず死に、私は生き残った。普通なら2分の1の確率だから大切な人を守りたかった犯人にとっては博打もいいところだし、マヨナカテレビにうつった人間は死ぬとかんがえるはずだ。でも小西先輩もおそらく雪もマヨナカテレビに入れられているあたり、犯人は私のマヨナカテレビだけみた可能性がある。

 

そうすれば、マヨナカテレビにうつった人間は助かる、と勘違いする。こうなればもう確固たる法則が確立する。予告が流れ、放置すれば山野アナのように死ぬ。だからマヨナカテレビの中に入れる。だから助かる。実際はマヨナカテレビにいれられた人を助けるために私たちがタイムリミットまでに必死で救出しているだけなのだが。

 

双方を陽動している愉快犯は笑いが止まらないだろうな、と思うのだ。実際の犯行は1度だけ、しかも唯一の目撃者であるはずの私は中庭ごしのすりガラスにうつった黒い男としか証言できない。完全犯罪1歩手前である。

 

「私も、小西先輩とほとんど同じなの......」

 

「え、マジ?」

 

「雪子も?」

 

ずっと考え込んでいた雪がようやく口を開いた。

 

「月森君、覚えてる?私、着物で傘さしてた日のこと」

 

「あー、うん。川近くの公園だったよな」

 

「あれ、お母さんが心労で倒れてから、代わりにお使いにでかけた帰りだったの。あのあと、着替える間もなくチャイムがなってね、」

 

「あ、だから着物姿だったんだ、雪子」

 

「うん。小西先輩のいうとおり、なんの疑問も浮かばないまま玄関にでてたから、変なお客様じゃなかったんだと思うよ。むしろ、待たせちゃいけない。早く出なきゃって焦ってた覚えがあるから」

 

「えええっ!?」

 

「待たせちゃいけないってどんな姿に変装してたんだよ、その犯人」

 

「やばいな、小西先輩も天城さんも覚えてないなんて。記憶にも残らないほど違和感がなかったってことだもんな......。これは現行犯抑えるしかなさそうだ」

 

「あれ、晃ちゃんは?」

 

雪が不思議そうにいう。

 

「晃ちゃん......?」

 

小西先輩が私を見る。

 

「もしかして、飯田君のいってた晃ちゃんて、神薙さんのこと?」

 

「ああ、はい、そうですよ。はじめまして、小西先輩。私は神薙晃といいます。神薙農園は私の祖父母がやってまして、祖父が体を悪くしたのでその手伝いに帰ってきたんです」

 

「ああ、やっぱり......なら、すれ違いだね、神薙さん。飯田君、今日部活に顔出すつもりみたいだったから」

 

「あー、今日から部活は解禁日でしたっけ。個人練習の日だからサボっても大丈夫かと思ってました」

 

「まあ、こっちの方が大事だし、仕方ないよね」

 

「そうですね」

 

「そっか......神薙さんがここにいるってことは、噂になってるマヨナカテレビ、シャドウだったんだ」

 

「見ました?」

 

「私は見てないんだけどね......私のこと心配してくれたはいいんだけど、好奇心に負けて見ちゃったクラスメイトが沢山いて......噂になっちゃってるの。なんかごめんね」

 

「まあ、仕方ないですよね」

 

「神薙さんて大人だね、すごいや。私だったら二度と学校行けないかも」

 

「今はわかってくれる友達がいますから」

 

「ふふ、そうだね。わかる」

 

小西先輩は笑った。

 

「ねえ、晃ちゃん......晃ちゃんの話は聞かなくてもいいの?」

 

「ノイズになるからいらないと思うな。私は誘拐事件とは関係ないんだよ、雪」

 

「えっ、そうなの!?じゃああのマヨナカテレビはいったい......」

 

「私がマヨナカテレビに入ったのは、自室のテレビからシャドウに引きずり込まれたからなんだ。無理やりテレビに入れられたのは事実だけど、人間に突き落とされた訳じゃないよ」

 

「え、え、待って?どうして?シャドウってマヨナカテレビに入ったら、でてくるはずじゃ......?」

 

「それはね、雪。私がマヨナカテレビに入るのは2回目だからなんだよ」

 

「えっ」

 

「とはいっても今の私は4月より前の記憶がない。知ってるのは、2回目の時にシャドウが付きっきりで教えてくれたからなんだよ、なんで忘れてるんだってね。私のシャドウは私のアイデンティティに直結する問題から端を発してる。だから、シャドウがぜんぶもってっちゃったらしいんだ。だからね、雪。申し訳ないんだけど、私よりシャドウのほうが私だと思う」

 

私の言葉にマヨナカテレビに入るのが2回目なんて初耳だと月森がいう。

 

「なんだかんだで1週間ほど監禁されてたからな、死にかけてたんだ。思ってた以上に頭が回ってなかったらしい。ごめん、月森」

 

「いや、責めてるわけじゃないよ。ごめん。一応聞くけど、その時はどうやって入ったんだ?」

 

「シャドウがいうには月森の時みたいに、テレビの前で声がして、テレビに近づいていったら吸い込まれたパターンらしい」

 

「ってことは、本来なら俺と同じ......神薙は初めからペルソナもちってことか......?なんでシャドウなんかに?」

 

「さあ......?でも、シャドウはシャドウで、ペルソナだったことは1度もないらしいけど」

 

「じゃあ誰がテレビから呼びかけたんだ?」

 

「さあ......?」

 

「うーん、謎だらけだな。ちなみにいつ入ったっていってるんだ、シャドウは?」

 

「今年の一月、ブラバンの大会で飯田先輩に復縁を求められて、なにもいえなくて逃げ出して、不登校気味になってから、らしい。月森みたいにマヨナカテレビから落ちて、シャドウが生まれて、でもあんなやつだから上手いこと死なずに済んだ。だからまた外に出たはずらしい。だから、3ヶ月ほどこの体の持ち主が誰かわからない時期があるんだ」

 

「そんな......晃ちゃん......」

 

今にも泣きそうな雪がなにを思うのか、私にはわからない。だから首を振るのだ。

 

「雪、その先はシャドウにいってあげて。私はなんて答えたらいいか、わからないんだ。その言葉を欲してるのはシャドウのはずだから」

 

「......でも、晃ちゃんは、晃ちゃんだよ。どっちも......大切な、私の......」

 

「ありがとう、雪」

 

これ以上は言わないでくれと私は促した。なにかいおうとするたびに私は無言の圧力をかける。首を振る。私が聞くべき言葉ではない。雪はしばらくの沈黙ののち、しぶしぶうなずいた。

 

「月森と土曜日に話したんだけど、私のシャドウがペルソナにならないのは、記憶喪失のせいかもしれない。あるいはなにか大切なものが足りないのかもしれない。どうやら、私が目覚める前、この体の持ち主と戦ったことがある人がここにいるんだ。話をきこうと思うんだけどどうだろう?」

 

スポットライトが不意に観客席の一角に当たる。月森たちは振り向いた。

 

そこにはいつぞやの赤毛の男が座っていたのだった。

雪子

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