(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第36話

「もーいやクマー!また魔人が出たクマよー!そのうち、クマ食べられちゃう!」

 

「俺んとこに逃げ込む余裕があるうちは大丈夫だろうよ」

 

「アキラの意地悪ー!自分はタロットカードの中に逃げ込めるからってー!!」

 

「お前もそうしたらいいんじゃねえのかよ」

 

「んなっ!?クマはクマクマ!シャドウじゃないクマ!!」

 

「じゃあなんだよ」

 

「しらんクマ。覚えてないモン」

 

「まあ別にいいんじゃねえの。俺みたいに人間からシャドウになったやつがいるんだ。よくわからないなにかが人間にならない道理はない」

 

「どうやるクマ?」

 

「しらん、俺に聞くな阿呆」

 

「しどいっ!自分に関係ないからってテキトーなこといってー!!」

 

「なんだかんだで怖がってんのはテメーだろ、なんで出ようとしねーんだよ。んなに怖いなら誰かに憑依でもしてにげりゃいいじゃねえか」

 

「それはアンタにもいえるよ、ヒルコ」

 

「......おっと藪蛇だったか」

 

「飯田先輩といい、雪といい、一番話さなきゃいけないのはアンタだ」

 

「......」

 

シャドウは無言のままカードに戻ってしまった。

 

「逃げてんのはどっちだ、阿呆」

 

私は肩をすくめた。月森が私の肩をたたいてくる。

 

「まあまあ、どっちも神薙なんだ。そう辛く当たるなよ、神薙」

 

「まあ......そうなんだけども。だから余計にイライラするよ、私が代理をしていい問題じゃないだろうに」

 

「だから今みたいな状況に陥ってるわけだし、さ」

 

「......雪、ごめん。我ながら情けないよ」

 

「ううん、誰のせいでもないよ。晃ちゃんのシャドウの半分、取り戻したら、きっと前に進めると思うし。だから、あんまり責めないであげて」

 

雪にそこまで言われてしまうと、私はもうカードに戻ってしまったカミナギアキラになにもいえないのだった。

 

今日は6月5日日曜日、晴れ。巽の母親が退院したことで巽が合流し、初めてジュネスのスタッフルームを陣取って自称特別捜査隊の会議が行われているところだ。クマはテレビからの参加である。

 

というのも、昨夜毎度のことながら、シャドウのカミナギアキラから巽のシャドウから出現した稲羽市立病院によく似た廃病院から、魔人が出現したからなんとかしろと救援要請があったのだ。グリムリーパーをもつ悪魔や敵でこそなかったが、ペルソナやシャドウを喰らう魔人なのはたしかで、なんとか掃討することには成功している。

 

今回は前言われた通り、リヒトさんを呼ぶことができたので前よりは苦戦しなかったが、不穏な言葉を残して《マタドール》を名乗る闘牛士みたいなドクロの魔人は消え去っている。

 

ベルベットルームの悪魔絵師によれば、私たちはまだかの存在をペルソナとして降魔できるほどの領域にはいないそうだから、合体素材はわかってもまだペルソナとしてはつくれない。ゆえにその全貌はわからないままだ。

 

《デイビッド》は人ならざる魔性の者たるヴァイオリン弾きで、ヨーロッパ全土を放浪する旅芸人の中にあり、ヴァイオリンを狂おしく奏で、人々を惑乱と陶酔に誘い、死の舞踏を舞わせたという。

 

《マタドール》は自らの命と引き換えに観客を沸かせる遊戯の支配者。ひとつのミスが死を招く過酷なショーで実際に命を落としてしまった男たちの無念、そして喝采や熱狂への渇望が、魔人となって現世に留まっているのだという。

 

いずれも脅威であることには変わりないから、排除することができてなによりだ。

 

朝一で集まった私たちは、巽を交えて初めて戦ったわけである。落としたアイテムはダイダラボッチに預けたら良さげな美術品(巽専用装備)になりそうだから先が楽しみだ。

 

「お待たせー!いやあ、なかなか隙間時間が見つけらんなくてさ、ごめんなー!」

 

本日バイトリーダーのシフトに直撃してしまい不参加だった花村がやっと合流した。

 

「お疲れ、花村」

 

「大変そうだけど大丈夫、花ちゃん?うちのクラスメイトがバックれちゃったんでしょう?ごめんね」

 

「え?あー、いっす、いーっす、いつものことなんで」

 

「いつもかあ......大変だねえ」

 

「ほんとだぜ、バイトなんかしてる暇ないってのに」

 

あーつかれた、と花村は椅子に座った。

 

「そんで、これ差し入れな。今日から始めました、焼きそば。ほい」

 

山積みの焼きそばのパックである。

 

「まさかとは思うけど売れなかったからとかいう?」

 

「買取ノルマまであるならお金払うよ、花村くん」

 

「え?いやいやいやいいって、ほんとにただの差し入れだからさ!親父がもってけっていうから、いやほんとマジで」

 

花村はびっくりしたようにいうので、財布を探っていた私はありがたく焼きそばをいただくことにした。

 

ソースの香ばしい匂いがする。出来立て間も無いのは間違いない。割り箸で油にまみれた唇に油にまみれた焼きそばをワシワシと大量に押し込む。

 

キャベツの緑とニンジンの赤が鮮やかだ。箸ですすって一口。さらにすすりこもうとすると、麺なのにズルズルとすすりこめない。もちもちの麺たちが抵抗の姿勢を示す。仕方なく一回諦めてからまた食べる。スパゲティ風にグルグルとまとめて口に入れるのは、女の子だからか。私は気にせず食べていた。うどん、蕎麦、そうめん、スパゲティなどの小麦粉系とは明らかに違う口ざわりだ。モサモサ、そしてちょっとザラザラ。いかにも焼きそばだ。

 

麦茶を飲む頃には、みんなだいたい食べ終わっていた。

 

「しっかし、すっげえ、ジュネスのスタッフルームが本拠地なんてマジですごいっすね、先輩方!」

 

巽が目を輝かせている。

 

「まあ、色々あったのよ」

 

「その節はほんとお世話になりました」

 

「花村がいなかったら今頃俺たち、叔父さんに殺されてたかもしれないしな......ほんとお世話になりました」

 

「マジでな、ほんとにな」

 

花村は思い出したくないのかどこか遠い目をしていて、月森も私も当事者として話す気力は微塵もないので流してしまう。巽は不思議そうな顔をしていた。

 

「んで?どこまで進んでんだ?」

 

「んー、誘拐犯は晃のシャドウに取り憑いてるヤバい奴らだねってことがわかったくらい?」

 

「この街の人たちをテレビの中に落として、ペルソナかシャドウを剥がして、シュバルツだっけ。大変そうな機械を動かそうとしてるのがわかったくらいだよね」

 

「その辺はやっぱり、あの人に調べてもらった方がいいのかな?」

 

「それはあると思う。俺たちは、テレビの中のことを少し、調べてみるべきかもしれないな。またテレビの中に八十稲羽市が広がったんだ、このままだと全く同じ世界が広がって、テレビの向こう側の空間も広がるってことだ。このままだと、ほんとうにたくさんの人が一度に誘拐されたら間に合わなくなる可能性がある」

 

「俺ん時はお袋と俺がっすからね、まじで許せねえ」

 

「似たような事件がなかったか調べてみるか」

 

「さんせー、やっぱ図書館とか?」

 

「民族資料館もありかもね」

 

「おじいちゃんに聞いてみようかな」 

 

「リヒトさんがまだ調べてないことを中心、次までにそれぞれ調べてくるってことで。あとはもうマヨナカテレビをみるしかないってことだな」

 

「そうだね」

 

みんな、うなずいた。

 

「さあて、辛気臭い話はここまで!6月17日からは二泊三日の林間学校だよ!気合いいれてこ!」

 

「テンション下がる話題は続いてんじゃねーか、キャンプかと思ったらゴミ掃除じゃねえか」

 

「林間学校?」

 

「あ、そっか。晃ちゃんは初めてだよね。今度、うちの学校、全校生徒で林間学校するんだよ。清掃活動とかして、キャンプみたいにご飯食べて、テント貼って寝るの。楽しみだよね」

 

「アタシらの班どうなんのかなあ?」

 

「それって単位に含まれるやつ?」

 

「ダリィけど単位になるやつっすよ、神薙先輩。サボったら進学させてやらねえって担任に脅されたんで出ますけど。あークソ、めんどくせえ」

 

「あはは、そんなこと言わないでよ、完二くん。尚紀、久しぶりに完二君の料理も食べられるって喜んでたんだから」

 

「ほんとっすか」

 

「うん、ほんと。完二くんサボっちゃうと尚紀落ち込んじゃうからやめたげてね」

 

「完二、裁縫だけじゃなくて料理もできるのか、すごいな。俺も最近やり始めたばっかだから教えて欲しいな」

 

「女子力たかいな、巽」

 

「あんなうまい弁当もってきてるお前がいうのかよ、月森」

 

「あれ、もしかして、うちの男子みんなスペック高くない?」

 

「最近の男の子ってすごいんだね、千枝」

 

「晃はどうなの?」

 

「なんで私に振るのかは知らないけど、カレーとかならできるよ。凝ったやつは無理だけど。パッケージに書いてあるとおりにしかしないから」

 

「そういえば、神薙さんはどうするの?」

 

「なにをですか?」

 

「ほら、テントの組分け。雪子ちゃんたちと?それとも花ちゃんたちと?」

 

「あー、たぶん先生たちと一緒になると思います。事情知ってる先生はいるんで」

 

「そっかあ、残念だけど仕方ないね」

 

「ん、待てよ?ってことはあれか。神薙に先生たちの見回り時間メールしてもらえば、それを見計らって遊べるんじゃね?」

 

「わあ、花村悪い顔してる」

 

「待てよ、花村。それだと私だけ仲間外れになるわけだがどういうつもりだ、お前」

 

「まーまーまー、今度おごるからさ!な!頼むよ!こーでもしねーと二泊三日もすんのにマジやる気湧かねーからさ!神薙頼むよ!」

 

「えー......」

 

「このお礼はかならずすっからさ!な!な!」

 

「楽しそうだけどひくわー、必死すぎてひくわー」

 

まあ、大好きな先輩と過ごせる最初で最後になるかもしれない林間学校だ、花村が必死になるのも無理はないのかもしれない。これは雪と千枝の水着イベントはなくなってしまう予感がする。花村には悪いがそっちのほうがテンション下がりそうだ。

 

不満が顔に出ているのか、花村がいつになくお願いしまくってくるので、私はしぶしぶ頷いたのだった。水遊びイベントのかわりに肝試しイベントか、どうなることやら。

 

「わかったよ、そのかわり今度ステーキハウス奢ること。わかったか?」

 

「ぐっ、大きく出たじゃないか......わかったよ。男と男の約束だ。男に二言はねーからな!......あ、今度のバイト代入るまで待ってくれねーかな?色々入用でさ......」

 

「はいはい、わかったよ。頑張れ」

 

「おう、ありがとうな!」

 

なにをたくらんでいるのやら。私は月森と目があった。ニヤニヤしているのは同じらしい。

 

「花村のやつなに企んでるのやら」

 

「さあ......?でも、楽しそうだよね」

 

「あはは。あたしら、同じグループだといいのにね。今年の組み分けってどんな感じなのかなー、こればっかりは来週次第だよね。モロキンのやり方まじわからん」

 

「そうだね、そしたらきっと楽しい林間学校になると思うよ。ね、晃ちゃん」

 

「そうだな、きっと......うん」

 

脳裏に物体エックスが横ぎってしまった私は悪くないと思うのである。どうしよう、私ひとりの力で止められるものなんだろうか。今からでも胃薬買うか出前頼む準備でもしたほうが......?

 

私だけでも余り物ってことで先生たちと同じグループに入れないかなあ、なんて薄情なことを考えてしまうのだった。

 

雪子

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