(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第38話

6月18日金曜日、晴れ

 

かつては持ち主のもとで健やかに息づいていたあらゆる物も、ポリ袋に包まれてここに落とされた途端、光を失い音楽を失い、淋しくて死ぬ。人目につかない雑木林に捨てられた瞬間にあらゆるものはただのゴミと化すのだ。そのゴミは黴菌のようにごちゃごちゃと集団をなしていた。

 

梅雨の時期ということもあり、あらゆるゴミが幾つもころがっていた。時々風に飛ばされたのかアスファルトの上に落ちたゴミは車に潰され続けて、時々私たち人間の顔のようにも見えないことはなかった。

 

軍手とジャージと長靴が清掃活動の基本装備である。1人ひと袋のゴミぶくろはあっというまになくなってしまい、どんどん山が積み上がっていく。お昼になるころには、私はすっかり疲れていた。

 

「自転車とかなにかんがえてんだよ、捨てたやつ!」

 

「家電多すぎだな......」

 

家電のリサイクル法改正の関係で、家電回収の際有料になってしまったからか、例年以上にたくさんのゴミが不法投棄されていたらしい。

 

「信じられないな、ほんとうに。よくぞまあ、ここまで平気な顔して捨てられるもんだ」

 

私の言葉に同感だとばかりに花村も月森もうなずいていた。私も駆り出された重い荷物を総出で運ぶ羽目になっていた月森と花村は同じようにおつかれの様子だ。これはあんまり昼食作りに注意を向けるだけの気力は残ってなさそうである。

 

愚痴りながらも千枝と雪もやってきた。たくさんのゴミ袋をトラックにバケツリレー方式で運んでいたら結構かかったらしい。軍手とかは捨てて、とりあえず調理スタートである。

 

「こっから各自昼食作りとか、わりとうちの林間学校ってハードだよね」

 

千枝がぼやく。まったくだ。

 

まずは野菜を切る工程からだ。ショウガはみじん切り、玉ねぎはうす切りにする。ニンジン、ジャガイモは皮を剥いて、食べやすい大きさに切る。切れてなかろうが歪だろうが私は気にしない。ジャガイモの芽、お前だけはダメだ。というわけで私はジャガイモの芽だけひたすらとっていく。

 

ナスはヘタを切り落とし、縦に4等分に切る。パプリカはヘタをとって半分に切り、ナスと同じくらいの大きさに切る。インゲンは筋を取る。

 

マッシュルームは半分に、トマトはヘタをとり、櫛形に8等分に切る。

 

「これがメインだね、これさえ終わればあとは煮込むだけだよ」

 

「色々あって楽しみだね、千枝」

 

「うーん、でも人参の皮むくのめんどくさいよ......」

 

「食感気にならないならいいよ、省略しても」

 

「そうなの?」

 

「うん、おばあちゃんがいってた。収穫したら洗うし、その時にほとんどはがれちゃうんだ。まあ、見た目は悪くなるから気になるならむいたらいいんじゃないかな。栄養価はあるからあんまりむかない方がいいとは思うけどね」

 

「栄養あるならむかなくてよくない?ゴミも減らせるし」

 

「月森くん、花村くんは気になる?大丈夫?」

 

「俺は食えるならなんでもいいぜ、天城たちが作ってくれるだけでテンションあがるしな!」

 

ただいまご飯を飯盒で炊いている男性陣がそういうので、私たちはなるべく楽する方向でいくことになったのだった。

 

野菜を根菜から先に入れて、肉も一緒に水から煮込んでいくことにする。シーフードミックスの下処理をしながら解凍しつつ、様子をみる。

しばらくして、シーフードミックスを入れてからまぜる。しばらくして火を止めてからルーをいれた。さいわい水の分量はあっていたようである。

 

「やっばい、おいしそうな匂いしてきた!」

 

「味見してみる?」

 

「うん!」

 

味見する気力すらわかないダークマターの生成が事前に防がれたのは実に喜ばしい話である。

 

「うっわ、やらかしたか?」

 

「難しいな、飯盒って」

 

「どうしたの、2人とも」

 

「なになにどしたー?ひっくり返しちゃったとか?それとも焦がした?」

 

「お粥みたいになった」

 

「あー......」

 

「まあ、火が通っただけマシじゃない?中にしんが残ったご飯はほんとに食べるの苦痛だから」

 

花村と月森は若干がっくりしながらカレー皿にご飯をもっていく。

 

「そっちはどうよ?」

 

「ばっちり!味見したけどやっぱルーは偉大だね!ルーは裏切らないんだ、覚えとこ!」

 

私は寸胴の中をみせてやった。

 

「あー美味そ」

 

「じゃあ、私スプーン用意するね」

 

「デザート出すか、そろそろ」

 

「じゃあカレーよそってくか」

 

みんな腹ぺこなので動きははやかった。いただきます、とさっそくカレーに手をつける。

 

カレー自体はとてもおいしい。新鮮な素材を手際よく火を通し、挽きたてのスパイスが油の中で互いにしっくりと馴染んで香りと刺激のハーモニーを奏で始めたらもう食べごろだ。

 

新鮮な素材を手際よく火を通し、挽きたてのスパイスが油の中で互いにしっくりと馴染んで香りと刺激のハーモニーを奏で始めたらもう食べごろだ。

 

カレーは香辛料のオーケストラ、だから飽きない。やっぱりドロリタイプカレー特有のご飯の中にカレーがスーッと染み込んでいかないカレーはいいものだ。キャンプなら特に。

 

暑くて食欲のない時でも、辛いカレーなら食べられる。辛味が消化器の粘膜を刺激して、中枢神経の働きが高まる。消化器へ送られる血液の量は増え、消化液や唾液の分泌も促進し、食欲を増大させる。

 

人間、すき焼きとカレーライスに関しては、親から遺伝的に教わってきた味を最上の美味と心得て、幼児から個人的嗜好を舌へ定着させてしまう結果、他人の味つけはどんな場合にも絶対にうまいと思ってくれない動物である。ただ腹ぺこの場合や自分たちで作った場合を除く。

 

カレーを一口、二口食べては、水をがぶがぶ飲む。じゃがいも、にんじん、玉ねぎの形がハッキリとカレーの中に浮いている。十種類の野菜と果物を20時間煮込み、牛すじのコラーゲンがたっぷり溶け込んだブイヨンを使用しているとパッケージに書いてあるから美味しいに決まっているのだ。

 

ムドオンカレーを回避出来た私の目には、ぴかぴかに光る金色をしているようにさえ見えていた。

 

「んまー!」

 

「外で食べるカレーってなんでこんなにおいしいんだろうね」

 

「味はフツーだけどそのフツーさがいいのかもな」

 

「ご飯がお粥なのが悔やまれるな......」

 

月森はちょっと残念そうである。

 

「まあまあ、もうすぐ夏休みなんだから、1日くらいみんなでする機会もあるだろうし気を落とすなよ月森」

 

「みんなでご飯!いーね」

 

「今度は別の料理やりたいね」

 

「お、やるか?今度はもちよる感じでさ」

 

「それいいな、菜々子が喜びそう」

 

月森の言葉に、今日は1人で遼太郎さんの帰りを待って居るであろう小学生の女の子の事を思い出してしまった花村たちの話が一気に広がっていく。

 

日時は夏休みの誰かで時間調整は後日、会場は月森の家で、今度はそれぞれみんながすきなものをもってくるか、堂島家のキッチンを使わせてもらうか、どちらかに一気に決まってしまう。

 

......どうしよう。

 

......今回、千枝と雪のメシマズが発覚しなかったせいで月森たちの期待値がとんでもないことになってしまった気がする。男性陣は男性陣で参加するみたいだから全体の被害はまあ抑えられるのかもしれないが、どのみち大惨事が目に見えている。どうしよう、どうしたらいい、月森のコミュ攻略の進捗にかけるしかないんだろうか?さいわい雪も千枝もコミュさえ進めばちゃんとした料理はつくれるようになるわけだし。

 

余計なフラグがたってしまっただろうか。私はちょっと顔がひきつるのを我慢するしかなかったのだった。

 

雪子

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