(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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コミュ③吊るされた男

吊るされた男③

 

「いいか?ほら、集まったか?」

 

全体練習の時間はまだ早いのに、部長がみんなを呼び出した。

 

「さっき連絡があって、飯田が事故にあったそうだ」

 

部員たちはざわついている。

 

「ほら、まだ話し中!原チャリでコケただけで、大したことないってさ」

 

嫌な想像をしてしまっただけに、月森は息を吐いた。

 

「ただ、腕やったってよ」

 

「え、うそ、マジでおったの?」

 

「折ってはないけど、変な風に捻ったらしくてさ、復帰は未定。んで、発表会のことだけどさ、松永、やれるな?」

 

「は、はいっ!」

 

「え、でも大丈夫なの?今回の曲、トロンボーンのソロあるじゃん」

 

「じゃあお前がやるのか?無理だろ?なら松永のがいい」

 

「え、えっと......」

 

「話は以上ね。じゃあ、パート練習に戻って。おつかれ。松永はソロパート練習頼むな、早いとこみんなに追いつけよ」

 

「は、はいっ、がんばりますっ!!」

 

今日は木曜日、図書委員会の仕事がある神薙は許可を得て全体練習までは遅れてくるためまだきていない。

 

「えっ、飯田先輩がですか!?」

 

部長から話を聞いた神薙はショックを受けているようだった。

 

「ひき逃げ......大丈夫だったんですか?今は病院?」

 

「いや、見てもらって、いまは家だって。命に別状はないってさ。ただ、原チャリでコケたときに、変な風に手を捻ったらしくてさ、左手だから明日から学校にはこれそうだけど復帰時期は未定だそうだ」

 

「そうなんですか......」

 

「代わりに松永が入るから、そのつもりでいてくれ」

 

「わかりました」

 

「というわけで、今日はパートごとに流すことにするから」  

 

「了解です」

 

神薙はうなずいて、ホルンをかかえて先輩たちのところに向かった。

 

ひきにげ。

 

嫌な言葉だ。

 

菜々子のお母さんの命を奪った交通事故と同じではないか。今日はさすがに連続誘拐事件を未然に解決しているおかげでわりとはやく帰ってこれている叔父さんの帰りも遅くなるかもしれないな、と月森は思った。一年前、最愛の人を奪ったひき逃げ犯がまだ捕まっていない現実を前に、叔父さんは市内で交通事故があるたびに犯人につながる手がかりはないかと必死になっているのだと最近、聞いたばかりだった。

 

「月森先輩、すいません。ここのパート、わからないところがあるんですが......」

 

綾音に聞かれた月森は、ソロを任されることになってしまった彼女をフォローすべく練習に付き合うことにしたのだった。部活が終わっても練習したいという綾音に付き合うかたちで、月森は河川敷で練習に勤しむことにしたのだった。

 

「あ、看板。ここですね、飯田先輩がはねられたところ」

 

「ほんとだ、目撃者求む......か」

 

トロンボーンを返却するために学校に引き返していた2人は、よくある警察が設置してある看板をみかけた。

 

「なんか、よく看板があるイメージです、ここ」

 

「そうなんだ。事故が起こりやすい場所みたいだな」

 

「はい、この先がバイパスや高速に続いているので、どうしても車は飛ばしやすくなるそうです。生活道路と繋がってるし、通学路にもなってるのに」

 

「そっか......」

 

見渡してみれば、たしかに事故が起こりそうな視界の悪い立地をしている気がする。

 

「去年は看板にお花が備えてあったんですよ、先輩。だれか亡くなったのかな。可哀想でした」

 

「......そうなのか」

 

奇しくも飯田先輩がひき逃げにあった事故現場は、菜々子のお母さんが幼稚園にいる菜々子を迎えにいく途中で跳ねられた、あの事故現場と同じらしかった。

 

雨の降りしきる中、はやく迎えに行こうと傘を片手に急ぐ女性。いつまでも迎えにこないお母さん。幼稚園から叔父さんにいく連絡。迎えに行く途中でみつけてしまった変わり果てた姿。

 

2人の話をまとめてありありと浮かぶ光景に、月森は手を合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2人とも、図書委員会おつかれ」

 

「あ、月森か。今帰り?」

 

「月森君もお疲れ様だね、部活終わったのに」

 

「綾音の練習に付き合ってたからなあ。神薙は?天城と先に帰ったとばかり思ってた」

 

「ずっといたよ、飯田先輩が心配で電話してたんだ」

 

「連絡先知ってるんだな」

 

「カミナギアキラの携帯に初めから登録されてたからね」

 

「ほっとくのが晃ちゃんらしいよね」

 

「そっか、どうだった?」

 

「うん、元気そうでよかった。発表会前にやらかしたって凹んでたけど無事でよかったよ」

 

「そうだな」

 

「さあ、帰ろうか、2人とも。そろそろ帰らないとおばあちゃんが心配する」

 

「神薙、なんかあったのか?元気なさそうだけど」

 

「ああ、うん、まあ......」

 

神薙はためいきをついた。天城は心配そうな顔をしている。

 

「シャドウの神薙晃は知ってるんだと思うんだよ、飯田先輩の家がどこにあるのか。どっかに書く必要もないくらい、あたりまえだったんだろう、たぶん。おかげでお見舞いに行きたいのに場所がわからなくてショックでさ」

 

「ああ......」

 

「私もお家の場所まではわからなくて......力になれなくてごめんね、晃ちゃん」

 

「謝らないでくれ、雪。こればっかりは仕方ないんだから。小西先輩にさっき聞いたからもうわかるんだけど、もうこんな時間だし、明日会った方がはやくなっちゃった」

 

「それはショックだな」

 

「うん......ふとした瞬間に、記憶喪失だってことを思い出す。飯田先輩がらみの話題になるとあいつ、カードから出てきてくれなくなるんだ。おかげで無駄に時間がかかった」

 

「最近、飯田先輩とうまくいってるな、神薙」

 

「そうみえる?小西先輩に諭されてさ」

 

「小西先輩に」

 

「うん、まあ......家族以外にここまで神薙晃に好意を向けてくれる人間にあったことがなかったから、戸惑ってばっかりだ。恋愛的な意味で」

 

「恋愛的な意味でか......でも、神薙にとっては同性からになるんだよな」

 

「そうなんだよ......私が同性愛もありなら、応えられるんだけどな。こればっかりはどうしようもない」

 

「......でも、晃ちゃん、ちょっとうれしそう」

 

「そう?」

 

「うん。あの時とは違って、ずっとずっといい顔してると思う」

 

「そっか」

 

「うん」

 

天城は少し、寂しそうに神薙を見ている。

 

「......ほんと、今みたいな状況になると、いよいよ出て来なくなるんだよな、こいつ」

 

その視線に神薙は気づいているようで、刑死者のカードをみつめていた。天城には決まってごめんなと曖昧に笑うだけだ。そのたびに天城は首を振る。神薙は一貫して天城に対して抱いているはずの全ての感情に対しての進展を一切自分からかかわらろうとしない姿勢を貫いている。それが一切の記憶を引き継がなかった自分なりの誠意なのだと月森もわかっているだけに歯痒くてしかたないが、どうにもならない。

 

天城も天城で、実家の旅館を継がないと決意してから、これからどうするか模索している最中だと月森は知っている。神薙が高校を卒業したら二度とこの地には帰ってこないと公言している以上、今のあらゆる物事が中途半端な状況で関係性に名前をつけようとしたならば、天城の中では共に出ていくという話も容易にできるはずなのにしていない。天城からは誰にも言わないでくれと約束しているから神薙さえも知らない事情を天城はなんとかしようと足掻いている最中なのだ。

 

だからこそ、今2人に必要なのは現状維持なのだろう、と月森は思うから、なにもいわなかったのだった。

雪子

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