(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第42話

6月20日月曜日雨

 

「......以上、当プロ《久慈川りせ》休業に関します本人のコメントでした。えー、時間が押しておりますので質問などは手短に......」

 

切り上げようとする司会者にそうはいかないとゴシップ雑誌の記者が食ってかかる。静養ということは体調が悪いのか、病気か、それとも心の病かと不躾な言葉を投げつけ、言質をとろうとする。りせを怒らせて情報を吐きださせようとするこの手の記者の常套手段だが、見ていて気持ちがいいものではない。

 

横にいるプロデューサーらしき男性がいいかけたりせを制して、退席を促す。焦った記者はこれから親戚の家で静養するらしいがそれは今世間を騒がせている八十稲羽市ではないかと失言をかました。会見会場が一気に凍りつく。

 

殺人事件と連続誘拐で有名なあの、とまで続くともはやあの雑誌記者が敵の陣営にいる工作員じゃないかと疑いたくなるが、アトラスのマスコミはだいたいこんな感じだから困る。トドメに老舗の豆腐屋とまで口走られたら、八十稲羽市で老舗の豆腐屋で久慈川はマル久さんしかいないわけだが。

 

もうこの時点で明日から街は大騒ぎだろう。

 

2011年現在、この国にあるSNSはTwitterとFacebookが2008年から、某大震災がなかったためかまだLINEはなく、当たり前だがInstagramもない。2ちゃんねるが全盛期である。さすがにスレを追うのは時間がいくらあっても足りないからやらないが。

 

りせちーはかけだしとはいえアイドルだからか、情報収集するには事欠かなかった。というか釘宮さんの声帯を持つ美少女が評価されないとしたらそれはそれでおかしいんだけども。急に休みをとることになったからか、余計に世間の注目を浴びていて、マスコミの記事も熱心だ。

 

ちょっと調べてみようと思っただけで、りせちーのプロフィールから活動内容、出身校、これから休養するために引っ越す街、通うであろう高校のことまでわかってしまった。

 

休養の理由についても憶測が飛び交っている。後輩の活躍が著しくキャラ被りが深刻で枠を争うくらい不仲ゆえとか。中学時代に一緒に応募したコンテストで誘ってきた友達が落ちて自分が受かったとか。そもそもいじめてきた相手が勝手に応募したくせに、りせちーが受かったことをやっかまれていじめが激しくなり学校にいられなくなったのを暴露されたとか。中学時代の卒業写真がネットに流出している時点でそのキャラクターが気に食わない人の悪意に晒されているのは透けてみえた。

 

調べてみたらその晒している人間があまりにも詳しいことからいじめていた人間ではないかと逆に炎上して特定されてしまい、案の定だったためにファンや同情した人間に総攻撃を受けてSNSのアカウントを消したり、記事が削除されたりしていた。

 

思ったより世間の反応が良くも悪くも大きくなっているように思う。りせちーが振り回されているのは明らかで、テレビで見るりせちーは私の思っていたよりもだいぶん疲れているようにみえた。

 

よくよく考えてみれば、実家に帰るのではなくなにも言わないで好きにさせてくれるおばあちゃんの家を頼って八十稲羽市に来ることにしたのだ。前の学校には帰りたくないし、実家に帰って家族にも会いたくないんだとしたら、それが記者会見で暴露されるのはかなり可哀想な気がした。事務所も酷なことをする。メールやファックス、あるいはブログの更新くらいですませてあげればよかったのに。スポンサーが納得しなかったんだとしたら、それはそれで芸能界は大変な場所なんだろうなと思う。

 

「そういや、借りっぱなしだったなこれ」

 

クラスメイトから借りたDVDを改めて見ることにする。そこには今の自分から変わりたいと一生懸命足掻いた結果、作り上げたアイドルのりせちーがそこにいた。胸だけ2センチほど盛ってるんだっけか、こうしてみるとまだ2011年の時点では動画も加工できないために、写真集とDVDの違いがわかってしまうのがえぐいな。

 

ひととおり見てからDVDをケースに入れ、明日に備えてテレビの前にいく。外は雨、時計は真夜中を指している。砂嵐がはじまり、やがてテレビの向こう側にはさっきのDVDとよく似た格好のりせちーと思われる女の子がいた。ただ胸のサイズが写真集と同じだ、なおかつポージングが写真集寄りである。これはりせちーじゃないなと私は無駄に気づいてしまうのだった。

 

「神薙、神薙、みたかさっきの!あれ絶対りせちーだよな!?」

 

「りせちーだと思うよ、花村。写真集とポージングが同じだったし」

 

「だよな!っつーことは助けなきゃだよな!へっへっへー!」

 

「でもりせちーじゃないよ、あれ」

 

「わかってるってシャドウなんだろ?」

 

胸が大きかったからといいかけた言葉は花村の口の軽さを考えると私の中にしまわれた。

 

「それより、ネットみた?」

 

「ネット?あー、結構好き勝手いってるみてーだな。ほっといたげればいいのによ」

 

「ほんとは私たちもほっといてあげなくちゃいけないんだけどな」

 

「ぐ、わ、わかってるよ、それくらい!月森みてーなこというなよ」

 

「あはは、あんまり浮かれてると小西先輩に幻滅されるよ、花村」

 

「マジで月森と一緒のこと言わないでくれよ......いえねーから今はっちゃけてんじゃねーかあ」

 

「はいはい」

 

私は笑って花村の惚気話を聞き流したのだった。

 

 

6月21日火曜日雨

 

いつものように私たちはベルベットルームの劇場に足を踏み入れていた。

 

「うーす、俺が最後っすか」

 

「先生に課題してくるって話だったな。おつかれ。最近真面目にきてるじゃないか、感心感心」

 

「出席日数って面倒なもんがなけりゃ、俺もサボるんすけどねえ」

 

「あはは」

 

「ハァ......めんどくせえ。変わってくださいよ誰か」

 

「やなこった」

 

「手伝いはできるけど、こういうのは自分でやらないと力にならないしなあ」

 

「高1の課題とかもう忘れてるわ、俺」

 

「大丈夫、花ちゃん?受験生になるとほんと後悔するよ」

 

「大丈夫大丈夫、まだ二年生なんで俺ら」

 

「ふふ、しーらない」

 

「つーかそうだ、先輩らニュース見ました?」

 

巽の問いかけにみんなうなずいた。ちょうどマヨナカテレビでりせちーらしき姿を見たと話していたところだったのだ。りせちーがどんなアイドルなのかは、ケロリンマジックのポスターを部屋に貼っていると思われる花村が知っているはずなのだが、小西先輩がいる手前大人しいので、代わりに私が昨日調べ上げたことを話してやった。

 

「これでりせちーが狙われたら、いよいよ犯人の狙いはテレビに出ているこの街の有名人てことになるな。最初の事件との関係はほぼなくなる」

 

「んー、でもさ、りせって別に昨日今日でテレビに出たわけじゃないのに、ありえるのかなー。CMよく出てるし」

 

「でも昨日の会見のせいで一躍時のひとになっちゃってるよ、千枝」  

 

「あー、そっか、あの豆腐屋にいったらりせちーに会えるかも!ってファンがおしかけてくるやつ」

 

「なんだか、別の事件が起きちゃいそうだね」

 

「久慈川りせと山野アナの繋がりは山野アナの番組に宣伝で出たことがあるくらいで、あんまり繋がりはないみたいだしな」

 

「なんか思ってたんだけど、晃と月森くんやけに詳しくない?」

 

「気になって調べたんだよ」

 

「私は好きだよ、りせちー。特に声が」

 

「えっ、晃ってあーいう感じが好きなの!?」

 

「そういえばDVDとか借りてたね、晃ちゃん」

 

「なんか意外......」

 

「神薙ってこーいうときずりーよな、月森」

 

「日頃の行いってこういうところで出るんだと思うよ、花村」

 

なにはともあれ、今までのパターンを考えるに犯人たちに目をつけられるのは明らかだ。となればやることはただひとつ。りせちーの動向に要注意というやつだ。

 

「念のため、おばあさんにも注意した方がいいよ」

 

「そっすね、俺ん時みたいにお袋まで狙われるかもしれねえ」

 

「なら、そっちから注意喚起してみる?」

 

「うーん、でも完二くんのときと違って、誰も久慈川さんと知り合いじゃないんだよね?」

 

「そうっすね、いじめがあったから転校してきたみてーだし」

 

「そっかあ......たしかにちょっと会う方法考えないといけないかも。ちゃんと注意してくれなきゃ意味ないわけだし」

 

私たちはちょっと困ってしまったのだった。

雪子

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