(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第43話

久慈川りせが自分のクラスに転校してきた朝から、ずっと小西尚紀はハラハラしていた。姉からりせが次の誘拐のターゲットになる可能性が高いと聞いていたし、マヨナカテレビではりせと思われる女の子がうつっていたからだ。なによりも律儀にファンサービスをしまくるりせは体調が明らかに悪そうだったのである。

 

「先生、久慈川のやつ、調子悪いみたいなんでつれてっていいですか」

 

小西尚紀は有無を言わさず教室から久慈川りせを保健室に連れ出した。

 

「あの......ありがと」

 

「いいんだよ、俺、保健委員だから」

 

「うん......」

 

りせはなにも言わないまま尚紀のあとをついていった。保健室の先生はりせを見るなりすぐに通してくれた。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

「うん......あの、ありがと。その、名前......」

 

「名前?ああ、小西だよ、小西酒店ってあるだろ、近くに」

 

「小西酒店......あ、みたことあるかも」

 

「俺のいえ、そこだから。久慈川さんにはいつもお世話になってるんだ」

 

「そっか......その、ごめんね」

 

「なにが」

 

「......商店街、あたしのせいですっごく騒ぎになっちゃって」

 

「あれはマスコミが悪いんだよ、久慈川のせいじゃない」

 

「でも......」

 

「久慈川はしらないだろうけどさ、うちもついこないだまで似たような状況だったからわかるんだ」

 

「そうなの?」

 

「知ってるだろ、連続誘拐事件。うちの姉ちゃん、二番目の被害者でさ。そもそもマスコミが山野アナの事件の第一発見者の取材、モザイク適当すぎてもろばれだったせいで、今の久慈川みたいな状況だったんだよ。ほんとやんなる」

 

「そう、なんだ。だから、助けてくれたの?」

 

「いや、俺保健委員だから」

 

「ふふ、そっか。ありがとう」

 

りせはためいきをついた。

 

「この街ってさ、ほんと、いい人ばっかりだよね。おばあちゃんが住んでるだけあるなあって思うよ」

 

「あんだけ質問攻めされといてよくいうよ」

 

「でも、みんな、たぶんネットで色々見てるのに聞いてこないもん。優しいよ」

 

「いやそれ普通じゃ?誰が見たって、あんな会見みてたら胸糞悪くなるって」

 

「そう?」

 

「そうだよ」

 

「そっかあ......それが普通なのかな......なんか、わかんなくなってきちゃった」

 

りせはそのまま泣き出してしまった。尚紀はあわててなにかいってしまったのか心配するが、リセはますます泣いてしまう。困ってしまった尚紀は、保健室の先生に助けをもとめたのだった。

 

しばらくして、カーテンの向こう側で寝息が聞こえてきた。保健室の先生が出てきた。

 

「先生、俺、久慈川になにか余計なこといっちゃいましたか......?」

 

「大丈夫よ、心配しないで小西くん。どうやら、久慈川さんは寝不足みたいね。よく寝れてないから色々考えすぎちゃうみたいだわ」

 

「そうなんですか......」

 

朝から晩まで県外ナンバーの車が路上駐車や迷惑運転、不法侵入を試みようとしていることは自治会の役員をしている両親が愚痴っているからなんとなく察してはいた。

 

マル久さんはあの会見のあとはずっと野次馬がいる状態であり、久慈川が店の手伝いをするという情報をもとに張り付いているせいで営業妨害になっていた。警察が交通誘導をするようになってからはさすがに騒ぎは収まりをみせたが、常連さん達は店に近づけないと困っていたはずだ。

 

「二学期から来たらどうかとは話していたんだけど、おばあちゃんに迷惑かけたくないっていうから無理して学校来てるのよ、久慈川さん。マスコミのことは学校がなんとかするから、気にかけてあげてね」

 

「そうだったんですか」

 

「ええ......前の学校では色々、大変だったみたい。あまり話ではくれなかったんだけど、あなたが気にしてるから事情を教えても構わないといってたから。たしかに伝えたわね」

 

わかりました、とうなずいた尚紀は保健室をあとにするのだ。月森先輩たちに伝えなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

りせが泣き疲れて目が覚めたときには、すでに時計は12時を回っていた。どうやら4限目まで爆睡してしまったようである。

 

「......やっちゃったぁ、大事なてんこー初日なのにぃ」

 

嘆いてみても後の祭りだ。

 

「せんせー、います?」

 

カーテンを開けてみる。保健室の明かりは消されていて、体調不良の生徒が寝てるから入ってくるなと貼り紙がしてあった。鍵がかかっているわけではなさそうなのに、誰も入ってこなかった。ここに久慈川りせがいることなんて、きっと誰もが気づいているだろうに。

 

なんとなく、保健室のカーテンを開けてみると、はやりマスコミとおもわれる車が乗り付けてある。りせはカーテンをすぐさま閉めた。

 

「......出たくないなぁ、学校から」

 

そんな言葉が出てくるくらいには、久慈川りせを学校の生徒として守ろうとしている先生たちをりせは実感していた。

 

「あの......失礼します」

 

女の子の声がした。りせはびっくりして振り返る。目の前には女の子としては小柄な方のりせよりもさらに童顔な上に非常に背が小さいために、制服を来ていなければ迷子になった小学生かと思うくらい幼く見える女子生徒がいた。

 

りせに会いに来たのかと思ったが、よくよく考えなくてもここは保健室である。先生に用があると考える方が普通だろう。泣いたまま寝てしまい、ひどい顔をしているのはわかっていたが、りせはあわてて取り繕った。

 

「あ、ごめん、あたしが起きたときにはもうせんせーいなかったよ。どこいったんだろーね、お昼かな?」

 

「そうなんですか。あ、挨拶が遅れてしまいました。私、松永綾音といいます。はじめまして、久慈川さん。私も同じ2組なので、なにかわからないことがあったらなんでも聞いてくださいね。私、となりの席なので」

 

「え、あ、そうなの?」

 

「はい。保健室から戻られないので、心配になって来てしまいました。お昼まだですよね?よかったらどうぞ」

 

「いいの?」

 

「はい。お昼、出られそうですか?」

 

「......うん、なんとか」

 

「よかったです」

 

綾音から渡されたのは寒天ゼリーと牛乳だった。睡眠不足だとは知らなかったとは思うが体調不良だと綾音は思ったということはバレバレだったということだ。やっちゃった、と思いながら、今から教室にお弁当を取りに行く元気はまだないりせはありがたく受け取ることにした。

 

「小西くんが心配していました。でも用事があるみたいで。女の子だから話しやすいだろうっていうんです。変ですよね、久慈川さんみたいな人にはたぶん、私みたいなのって一番微妙だと思うんですけど」

 

「でも、来てくれたんだ。頼まれたから?」

 

「それも、実はあります。先輩から久慈川さんのこと気にかけてやってくれって頼まれました」

 

「うわ......なんか、ごめんね。すっごい女心わかってないじゃん、その人」

 

「え?」

 

「え、違うの?」

 

「先輩は女性ですよ?」

 

「あ、そうなの?ごめん、はやとちりしちゃった」

 

綾音は笑う。りせもつられて笑った。

 

「同い年だし、タメ口でいいよ」

 

「そうで......じゃなかった、それなら、よろしくね、久慈川さん。私は綾音でいいよ」

 

「久慈川さんかー......なんかソワソワするなぁ......いっつも名前呼びだったから」

 

「え、じゃありせさん?」

 

「りせは?」

 

「りせ......ううん、さすがにそれは」

 

「綾音は綾音でいいのにりせさんはバランス悪いって。なーんか他人行儀なかんじ」

 

「な、なら、ちゃんの方が......」

 

「そんなにハードル高いの!?これもってきてくれる方がハードル高くない?」

 

「え、そ、そうかな......りせ......がお腹空いてるかなと思って」

 

「なにそれー、あははっ」

 

久しぶりにりせは笑った気がしたのだった。

雪子

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