(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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コミュ④吊るされた男

 

「もしかして、犯人が見つかったんですか?」

 

昨日の晩、話が聞きたいからとわざわざ電話でアポをとってくれた稲羽署の刑事、たしか堂島と名乗った刑事は、残念そうに首をふった。

 

「少し、話を聞きたくてな」

 

「話......ですか」

 

「ああ、目撃証言がない以上、少しでも情報が欲しいんだ」

 

「そうなんですか......わかりました」

 

「ほんとうにすまない、うちの連中がやらかした不祥事のせいで不信感を抱くのはもっともな話だとは思うんだが......なんでもいいんだ。話してくれないか」

 

やけにへりくだるなあと思ったのを飯田は覚えている。

 

神薙も巻き込まれた連続誘拐事件のことをいっているのか、それともりせちー関連の騒ぎか、不祥事の心当たりがありすぎてわからなかったが、飯田自身は警察にまだ誠実に対応してもらっていた方なので快諾したのだった。どのみち飯田の事故は逃走した相手を見つけてもらわないと話が進まないのである。

 

後方から来た自動車が飯田の通学途中の原付バイクを無理やり追い越そうとして接触事故を起こしたせいで転倒してしまい、なんとかすぐ立ち上がり横に逃げた。後続車の運転手が介抱してくれたおかげでひき逃げはされずにすんだが、肝心の犯人の車両が立ち去ってしまったのだ。介抱してくれた人も飯田を市道から歩道に連れて行くのに必死で見ていないという。おかげで逃走した車両の特徴もナンバーもわからない上に、巻き込まれたくないからかしらないが、今のところ有力な手がかりはなさそうである。

 

気が動転していた飯田の代わりに、介抱してくれた人が警察への通報からなにから全部やってくれてことなきをえたのだ。日時と場所、飯田の負傷の程度、損壊した物、その程度、事故後にどのような措置を講じたか。

 

途中から飯田も警察に事情を説明したが、自ら全て話さずとも、警察官が順番に聞いてくれるので、安心したのを覚えている。聞かれたことに対しては真摯に応えたし、介抱してくれた人が色々証言してくれると連絡先まで教えてくれた。

 

通学路がよく事故のある市道だとは知っていたのだが、まさか自分が巻き込まれることになるとは思わなかったのである。

 

警察の教えてくれたとおり、家に電話して家族に迎えにきてもらい、その足で病院にいって領収書は保存してある。保険会社への連絡は家族がしてくれた。

 

飯田にできたのはここまでだ。

 

相手の氏名や連絡先がわからないと、損害賠償を請求することすらできないため、被害者は大きな損害を被ることになると聞いた。そうならないためにも、事故が起きたら相手の車両やナンバーをスマホなどで撮影しておき、できる限り早い段階で連絡先を聞いておくことが大切だと。

 

とは言え、そんな暇もないまま相手が逃げてしまった以上、警察に捜査を進めてもらうほかない。警察の捜査によって、相手方の連絡先等が判明した段階で損害賠償や補償の話になるわけだから、飯田としてはどうしようもなかった。

 

「ナンバープレートの色とか、車の色とか、ささいなことでいいんだ。なにか思い出したことはないか?」

 

「えーっと、前も話しましたけどナンバープレートはたしか白で、そう、白い車でした。あんまり車詳しくはないんですけど、なんか高そうな車だってことくらいしかわからなくて......白い外車ってことくらいしか」

 

「......また、白い外車か」

 

「また?」

 

「あそこではよく事故が起きるんだ、ほんとうに。きみはちゃんと交通ルールを守っていたようだが、それでも事故はおこる。特にあの市道ではな。無事でよかった」

 

今思えば、交通課じゃなくて刑事課の人が話を聞きに来るなんて普通じゃないのだとこの時飯田は気づかなかったのである。

 

「で、今朝の新聞みたらこれだよ、ほんとびっくりしたんだ。これって月森がお世話になってるっていう叔父さんのことだよな?」

 

飯田から携帯を渡された月森は複数枚とられた写メをみて驚くしかないのである。

 

《八十稲羽市で2010年に××代の女性が死亡した未解決のひき逃げ事件に絡み、稲羽署が証拠品として保管しながら紛失した女性の遺品の結婚指輪に関する捜査書類を破棄するなどしたとして、稲羽交通捜査課の男性元警部補が書類送検された事件で、××地検は公文書毀棄(きき)の罪で、今年3月に定年退職した元警部補の男(60)を地裁に在宅起訴した。虚偽有印公文書作成・同行使容疑については不起訴処分とした。処分はいずれも23日付。地検は裁定主文や処分理由を明らかにしていない》

 

《起訴状などによると、男は死亡ひき逃げ事件の証拠品として稲羽署に保管されていた結婚指輪の紛失が発覚することを免れるため、結婚指輪1個など証拠品21点に関する任意提出書と領置調書をシュレッダーにかけて破棄したとされる》

 

《結婚指輪は事故当時に女性が身に着けていたとみられるもので、稲羽署が証拠品として押収。今年5月ごろ、捜査の過程でなくなっていることが発覚し、稲羽署は今年6月、紛失を認めていた》

 

《その後の調べで、紛失に関して男が書類を作り替えていた疑いが浮上。男は当初、稲羽署の調べに、容疑を否認していた。稲羽署は6月、虚偽有印公文書作成・同行使と公文書毀棄容疑で、男を地検に書類送検した》

 

《ひき逃げ事件は10年×月××日、八十稲羽市の市道で発生。保育所の長女を迎えにいく途中だった堂島千里さん(当時××才)が車にはねられて死亡した》

 

《白い外車がはしりさったという目撃証言はあるものの、当時雨が降っていたため通行人が少なく、稲羽署は情報提供を呼びかけている》

 

《稲羽署はこれまでに、証拠品の紛失や元警部補の行為に対する責任があるとして、当時の上司らを訓戒や注意処分としている》

 

「......たぶん、そうだと思います。新聞は叔父さんのためにいつも机に置きっぱなしにしてるから知らなかったな」

 

「ある意味それでよかったかもな」

 

「はい......まだ従姉妹はひき逃げのこと知らないみたいなんです」

 

月森は飯田に携帯を返した。

 

「やっぱりそうか......月森こないだいってただろ?10歳下の従姉妹の面倒も見てるって。それでさ、もしかしたらと思ったんだよな」

 

「叔父さん......最近帰りが遅いと思ってたら、こんなことが......」

 

飯田も月森もしばし沈黙した。言葉が見つからなかったのだ。堂島さんの最愛の人を奪った犯人と飯田を当て逃げした犯人が同じ白い外車。まさか、そんな偶然ありえるのか?

 

「白い外車なんて目立つしな......市内の人間なら一発でわかると思うんだよ。でもまだわからないってことは市外の人間なんだと思う。なんかこの街に用事があって時々来てるんだろうな」

 

「そうですね」

 

「捕まるといいな、犯人」

 

「そうですね、ほんとうに」

 

うなずく月森に飯田はあたりを気にするような素振りを見せながら、さっきより声のトーンを落としていったのだ。

 

「あのさ、神薙のことなんだけど......」

 

「神薙?あ、俺たち、ほんとにただの友達ですよ」

 

「......ほんとごめんな、月森まで気を使わせちゃって。いや、違うんだよ。また別件でさ」

 

「別件?」

 

「昨日、お前の叔父さんが俺に話を聞きに来たの、それだけじゃなくてさ」

 

「まさか、神薙のことで?」

 

飯田は気まずそうにうなずいた。

 

「ほら、俺のせいで神薙、1月から3月ぐらいまで学校サボり気味だっただろ?そのことについて色々聞かれたんだ。ついでに同年代のよく似た親戚がいないか聞いたことないかとか」

 

「なんでそんなことを?」

 

「なんか、史跡?俺、全然知らなかったんだけど、この辺って熊野信仰ってやつが盛んだったころがあって、そのなごりがあちこちにあるんだってさ。そーいうのが今年の1月ぐらいから壊されまくる事件があったらしくてさ、うちの学校の服を着てたらしい」

 

「普通、そんなことする奴が身元がわかるような服着たままします?それってわざと着たんじゃ?」

 

「だよな、だよな?俺ももちろんそれ言ったよ。神薙はそんなことするやつじゃないって。そしたら、お前の叔父さん、だから似たような人を知らないかっていうんだ。なんか、神薙がちゃんと学校くるようになってからも事件は続いてて、最近の事件はもう他人の空似だろうって話になってるらしいんだよ」

 

「そうなんですか」

 

「さすがに神薙には俺、直接言いにくいからさ......悪いんだけど月森からもうまいこと聞いてくれないか?なんか間違って冤罪とかになったらやだしその、お前らと一緒にいたってなったらたぶんアリバイになると思うし」

 

「他のやつと遊ぶより安心できるし?」

 

「......月森」

 

「わかりました。話してくれてありがとうございます」

 

「よろしくな、晃のこと」

 

「はい」

 

「パート練習に戻るか」

 

「わかりました」

 

月森は飯田と共に音楽室に戻ったのだった。

 

数日後の新聞に、堂島さんの奥さんの結婚指輪を紛失した元警部補が自殺したというニュースが掲載されていたのはほんとうにただの偶然なのだろうか。

 

雪子

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