(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第49話

どこをみてもピンク、まさしくピンク、ウンザリするほどピンクピンクピンク、ピンク一色だった。ここにいるだけで気分が悪くなってくる。そんな空間だった。しかもピンクないかがわしい声や色をした霧が立ち込めている。ピンクのカーテンの向こう側にりせちーが女豹のポーズをしたシルエットが浮かんでいて、その向こう側からはシャドウが飛び出してきた。

 

「みなさーん!こんにちはー!りせちーでーす!」

 

「みんなー、見てくれてありがとー!」

 

「めんどーなのも、我慢するのも、りせにはムリ!キライ!シンドスギ!」

 

倒す度に私たちが普段テレビのCMで耳にするりせちーの声がする。

 

 

りせちーのダンジョンはその名も特出し劇場丸久座。名前からしてアレな空気を感じるが、実態もストリップ劇場そのものというギリギリアウトなものだ。

 

マヨナカテレビに映った時のように、ダンジョン内部もまたストリップを示唆するような煽り文が浮かび、あちこちから聞こえてくるりせの言動もこれから脱ぐ、と言わんばかりのものだった。

 

りせちーがまだ15にもかかわらずこんなR-18スレスレなダンジョンになったのは、りせの本当の自分を見て欲しいという心境が歪んだ形で具現化したためなのは間違いないようだ。この心境はアイドルとしてのキャラ付けをされながら振る舞い続けているうち、自分本来の在り方が掴めなくなってしまったのが原因だろう。おそらくは芸能活動休止もこの悩みが理由である。

 

アイドルを休業して稲羽市に戻ってきた矢先にマヨナカテレビに映り、テレビの中の世界に閉じ込められてしまったりせちーの心が生み出したシャドウは、様々な役・顔を演じ分けるアイドルを続けている中でりせちーが抱え込むようになった「誰も本当の自分を見てくれない」「アイドルじゃない本当の自分を知って欲しい」というジレンマが顕在化したもので間違いない。

 

露出度の高いビキニ姿で「ビッチ」一歩手前レベルの際どい言動を平気で口にする過激な性格なのは、りせの「本当の自分を見てほしい」という願望からくる。本来ならば影になるはずのないものが、現に影として顕在化した原因は、アイドルとしての自分に対する責任感なのだろうことはマネージャーからの話で私たちはすでに知っているのだ。

 

理由はどうあれ職責を放棄して関係者各位に多大な迷惑をかけ、ファンの期待を裏切った事に変わりはなく、そのことを彼女自身気に病んでいたのならば、この期に及んでなお自分の都合だけを喚く願望は、確かに認めたくない影にもなり得る。

 

もっとも、この時点での彼女がそこまで能動的なプロ意識を確立できていたかには疑問だから、周囲の期待に応える「良い子」のレールから外れてしまった事への負い目と考える方が自然かもしれない。

 

影よりも、ある種自然な願望を影たらしめていた自縛の感情こそが根本の問題であるケースだ。そう考えると、りせの影が殊更に「ビッチ」な言動をしていたのも、自らの願望を「恥知らず」と考える意識の現れ(のテレビによる曲解)かもしれない。

 

相反する感情は1人の人間の中に同時に存在し得る。「本当の自分を見てほしい」のも「アイドルの自分も自分」だと思うのも偽らざる彼女の本心なのだろう。

 

周囲の顔色を窺うあまり「影」として目を逸らしていた己の中の「我」は本音に限りなく近いところにいる。それがなにをもたらすか、本質を拒絶するに等しいわけだからそれは反発もまた大きくなるようだ。

 

ストリップ劇場といいながら実際に見た事があるのは元ラブホテルの某ホテルくらいなのか、細部がわからないようにスモークばかり焚いてあるのはりせちーの想像の限界なのだろうと思う。向こう側は壁だったり、シャドウがいる部屋だったりする。いかがわしい雰囲気がするだけで具体的にどうこうな部屋はないとわかってくると、みんなの挙動不審ぶりはなりを潜めていった。ここにもっと大人の視聴者が増えていたらと思うと空恐ろしくなってくる。

 

「りせチャンはこの向こう側にいるクマ!」

 

「ファンのみんなー!きてくれてありがとぉー!!今日はりせちーの全てをみせちゃうよ!!ええ?どうせ嘘だろ〜って?あはは、おーけーおーけー!ならここで......」

 

りせちーのシャドウがブラに手をかけた。

 

「あ、でも、ここってスモークたきすぎで見えないカナ?じゃあ、もう少し奥で嘘じゃないってちゃあんと証明したげるね!」

 

ウインクひとつ、頭上には番組のアイコンが大々的に表示された。ザワザワ声がいっそう強くなっている。昨日のあまりに過激な予告が一気に広まったせいだろう、マヨナカテレビ内が全体的にざわざわしている。

 

「じゃあ、ファンのみんな!チャンネルはそのままだゾ!ホントの私、ちゃーんとみてね!目を逸らしちゃやだぞ!」

 

カーテンの向う側から声が聞こえる。

 

「来てくれたんだね?りせちー、心の準備は出来てるから......きて......」

 

私たちはその先に進んだ。

 

「うふふっ!ほら、見て、私を見て!」

 

案の定、そこにいたのはりせちーでも、りせちーのシャドウでもなかった。彼女が生み出した配下であるシャドウがいた。いや、違う。私の知るシャドウじゃない。ここにいる中ボスは蛇だけだったはずだ。蛇を纏う女性の姿なんてしていなかったはず。そこにいたのはきわどい所を中ボスであるはずの蛇で覆い隠している長髪の女のシルエットをしたド派手なマーブル模様がうずまくマネキンみたいなシャドウだった。

 

「気をつけるクマー!!このシャドウ、ただものじゃないクマよー!!」

 

ピンク色の霧がシャドウの足元から溢れ出る。

 

「状態異常の付与率が激あがりしたクマー!気をつけれー!!」

 

目に痛い原色のマーブル模様のせいで全くえろさを感じない。念の為月森からもらっていた状態異常に耐性があるペルソナに付け替えておく。

 

女と思しきシルエットは高笑いした。蛇が宙に舞う。裸体が顕になるが強烈な色の暴力が全くえろさを感じさせない。代わりにあたりにさらにピンク色の霧が溢れ出した。視界が霞む。体が動かない。いうことを効かない。私だけではないようで、月森たちだけでなく、雪たちまで困惑しているようだった。男女問わず共通の状態異常にしてくるなんて。

 

「きゃあ!」

 

「雪!」

 

雪の悲鳴がした。

 

「な、なんだ!?どわっ!」

 

花村がふっとばされた。続いて私にも攻撃が飛んでくる。何とかこらえたがカードを掴む手に力が入らない。どうやらこの霧は強制的に封魔をしてくるようだ。それなら攻撃手段を切り替えなくては。私はあわててアイテム袋を探る。

 

ロケット花火を投げつけてやった。やはり蛇は火炎が弱点のようだ。一瞬怯む。

 

「アキちゃんやるー!イケイケどんドーン!」

 

「雪!」

 

私はあわてて雪にアイテムをなげた。これで封魔は解除されたはずだ。

 

「ありがとう、晃ちゃん!おいで、コノハナサクヤ!マハラギオン!!」

 

今度は蛇だけじゃなく、女のシルエットにまで炎で焼き尽くされていく。弱点は共通していたようで、弾き飛ばされたシャドウは地面に倒れ込んでしまった。

 

「みんな、準備はいい?」

 

封魔になっていても通常攻撃は通るのだ。雪の掛け声にうなずいた私たちは、いっせいにシャドウに向かって攻撃をしかけたのだった。手応えはたしかにあった。物理まで硬かったらどうしようかと思ったが、さっきの攻撃はどうやら魔法だったらしい。蛇以外守るものがないシャドウは一斉攻撃を受けてぐらついた。

 

これで上手いことパターン化したいが第2派がやってくる。私は次に備えてアイテム袋を握りしめたのだった。

雪子

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