(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4) 作:アズマケイ
「やっぱり、アキラのいうとおり、無理矢理にでもついていった方がよかったクマかね......でもマヨナカテレビから出たら消えちゃうかもしれないし、でもカードになるのは怖いクマし......シャドウだって確定しちゃうのはイヤクマ......」
はあ、と誰もいないステージの真ん中でクマは転がる。センセイたちとの出会いはクマにとって福音だったが同時に終わりのない苦しみの始まりでもあった。
他者と出会ってはじめて自分というものを認識したクマは、過去の記憶が無いことがおかしいこと、クマ自身も自分の正体が分からないこともおかしいのだとセンセイたちとの交流の中で気づいてしまった。それからずっとひとりぼっちになるたびに自分が何者なのかを考えるようになっていた。
シャドウにしたってアキラのように誰かのシャドウだという自覚があるし、記憶があるし、自分の出自も全部わかっているのが普通だとアキラから明言されてしまったからだ。全部は揃ってないにしても、なんの感情から、記憶から生まれた存在なのかくらい、ぼんやりとではあるが覚えているものだと。なら、なら、とクマは思うのだ。クマがもし、もしもだ、シャドウだとするなら誰のシャドウかわからない、記憶がない、自分の出自がわからないクマは普通のシャドウじゃないってことになるではないか。
考えても考えても思い出せない。そもそもなにもないところから生まれたのかもしれない、なんて不安すら覚えてしまう。
ゆえに、クマはアキラという前例がいるにもかかわらず、テレビの世界を住処としているが、実は現実世界にも出ることができるとわかってもテレビから外に出ようとはしなかった。出来なかった。元から出ることはできるようだが、センセイ達と会うまではその発想自体が無かった。今はそのうちに秘めた恐怖ゆえに外に出ることができないでいる。
なのに自ら選んだひとりぼっちを嘆く自分がいることに、クマは驚きがかくせないでいた。
「......クマ、寂しくないクマよ。泣いてないクマよ。みんなクマのこと忘れて楽しそうに......クマ見捨てられた......なにいってるクマ。呼んだらすぐに来てくれるクマ。待ってるだけじゃ来てくれないのは当たり前クマ」
ごしごし涙も出ない目を拭う。
「アキラがいなくなってからほんとタイクツでヒクツしてるクマ......どーせクマは自分がなんなのかも知らんダメな子クマよー。......ダメクマ、まえどうやって寂しんボーイにならないようにしてたか忘れちゃったクマ」
そしてため息をついた。
「答え見つからないしみんなは来ないし......そっちの世界の楽しそうな声まで聞こえた気がして......寂しいから泣いてみようと思ったけどムリだったクマ......ココはクマの現実クマ。クマがココでひっそり暮らしたいっていうから、センセイたちは犯人探しを約束してくれたクマ。考えすぎてつかれたクマかね。ひとりだと色々考えちゃって寂しさ倍増しちゃったクマ......みんながいないと切なくて胸が張り裂けて綿毛が飛び出しそうな気さえしたクマ」
霧が唯一薄いステージの中心にて、積み上げられている中古のブラウン管テレビの前にやってきたクマはぼやくのだ。
「アキちゃんがフォローしてくれるからなんとかなってるけど、最近鼻が鈍ってきた気がするクマ。だんだん鈍ってきてるクマ。このままだとほんとにクマはお荷物になっちゃうクマ。クマはなにをやってもダメなクマちゃんになっちゃうクマ。みんなの役に立たなくなったらきっとみんなに捨てられちゃうんだクマ」
マイナス思考はセンセイたちすら歪めてしまいそうになってしまう。クマはあわてて首を振った。
「ううん、センセイたちはやさしいから、きっと自分のこともできることもゆっくり探せばいいっていってくれるクマ。今だって情報さえあれば調べることはできたんだから。あーもー!ほんとにクマはなんなのかクマねー!!」
そしたら、りせちーが来てないかとヨースケが来てくれたから、クマの不安はどっかいってしまったのである。
その不安が最悪のタイミングでクマにぶり返してきていた。肥大化していく不安は絶望感を煽り、喉からでようと這いあがってくる。
「やっぱり、ダメクマか......やっぱりクマはなんのやくにもたたないクマ......?」
クマの目の前にはマハアナライズを発動してセンセイたちを一瞬にして薙ぎ払ったリセちゃんシャドウがいる。弱点となる属性の特大な球体をぶつけて、あるいは精神攻撃をしかけるための黒い球体の中に幽閉して、解放されたときには4人とも地に倒れ伏していた。
チエちゃんたちが助けにいこうとするが、リセちゃんのシャドウはいっそ無慈悲なほどに強かった。この空間にいる全ての存在を解析し終えていると宣言するとおり、チエちゃんが、カンジが、サキちゃんが、球体にやられて倒れていった。気づけば怯えるりせちゃんを守れるのは自分だけになっていた。
「クマは......クマはどうしたら......」
「ごめん......ごめんね......わたしのせいで、みんなが、このままじゃホントに死んじゃ......」
「ダメクマ!死ぬとか絶対ダメクマよ!クマはどうすればいいクマ!!みんな......センセイ......クマにできること......なにか......なにかあるはずクマ......クマはまたひとりぼっちになるの?いや、それだけはいやクマよ!もうひとりぼっちはいやクマ!!」
クマの脳裏に浮かぶぼんやりとした残像はクマを震えあがらせた。いつの記憶なのかはわからない。みたのかもしれないし、聞いたのかもしれないし、クマのきおくなのかもしれない。この世界にはセンセイたちがくるまでクマのことを気にかけてくれる人も存在もなかったはずだ。意思疎通は愚か自我があるかも怪しいやつらばかりなのだから。
ほんとうに?
クマの中の誰かがささやく。
わすれてるだけじゃないか?
今みたいになにもできないまま、誰かが死ぬのを目の前でみているしかなかったのではないか?忘れちゃダメなのに。忘れてはいけなかったのに。誰かが死んだのすらもう思い出せない。大切な人だったかもしれないのに。
「もういやクマ、だれかがしぬのをみるのはいやクマー!!」
クマの叫びがあたりに木霊した。
「なんでクマはなにも出来ないクマか!シャドウだってペルソナだって戦えるのに、なんでクマは、クマはーっ!!」
「あっれー、おかしいな。きみには効かないの攻撃?マグレかな?でも、ま、本物さんを庇い立てするなら一緒にきっつい一撃おみまいしちゃうぞ!」
球体がクマたちのところまで届かなかったのは距離と位置の問題だろうと結論づけたのか、りせちゃんのシャドウは顔部分に展開しているテレビのアンテナの先に光をあつめていく。それはさまざまな色をとりこみ、光を取り込み、ストリップ劇場そのものを揺るがしかねないほどの巨大な球体を成形していくのが見えた。激しい風が吹き荒ぶ。衣服が激しくはためいた。りせちゃんを庇いながら、クマは体から袋を取り出した。
「これでみんなを回復して欲しいクマ」
「く、クマ......な、なにいってるの、ねえ?どうしたの?」
「力が湧いてくるんだクマ、きっと誰かが力を貸してくれたクマね。りせちゃんは危ないからここにいるクマよ。大丈夫、センセイたちはクマが守るクマ!」
「そ、そんな、今から死ににいくみたいないいかたやめてよ、ねえ!」
「泣いちゃイヤクマ!クマの生き様ちゃーんと目に焼き付けるクマよー!!」
「クマっ!」
りせちゃんの伸ばした手は届かなかった。肥大化していく球体を収束しているアンテナ目掛けて、クマは一直線に飛んでいくのがみえた。
アンテナがクマの特攻によって破壊される。本来放たれるはずだったエネルギーを支えられなくなってしまったりせちゃんのシャドウはその衝撃をもろに喰らい、大爆発を起こして自滅したのだった。
「クマー!!」
りせちゃんが叫ぶ。
「そんな......クマ......」
涙が溢れ出す。泣き出してしまったりせちゃんの前になにかがふわりと落ちてきた。ぺったんこになったクマの着ぐるみだった。
「クマ......こんな姿になっちゃって......やだ、やだよ......ううう」
「り、りせチャン泣かないで欲しいクマ......」
「......クマ!?」
「大丈夫、大丈夫、クマ生きてるクマ、勝手に殺さないで欲しいクマ、はやいとこセンセイたちも回復したげて欲しいくまよ」
あまりの驚きに涙も吹き飛んだりせちゃんは、アイテム袋をかかえて、みんなのところに向かったのだった。
雪子
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